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中小ならではの強みをいかす、ANTAの「地旅」にヒントあり

 「地旅」とは全国旅行業協会(ANTA)が推進する地域密着型の着地型旅行のこと。大手旅行会社でも着地型の取り組みが行なわれているが、地旅は同じ着地型でも地域の旅行会社が地元住民とともに商品化し、それに興味を持ったANTA会員が同商品を組み込んだ旅行を販売する。受け手の「売りたい商品」のみならず、発地側の「買いたい商品」であるのが特徴だ。地旅はANTAと全旅による会員向けの販売の仕組みが構築されているが、各社の商品化や販売に向けた取り組み自体はどの中小旅行会社にとっても参考になりそうだ。先月開催されたANTAの国内観光活性化フォーラムで発表された3つの地旅の事例から、そのポイントをまとめた。
                              
                              
1社では無理でも数社でバス1台の集客が可能
震災でイベント中止も翌日には代替案を提案


 高知県旅行業協同組合が企画した「土佐のおきゃく2011」は、高知県の名所観光や体験プランを中心に、高知市で開催するイベント「土佐のおきゃく2011」を組み込んだもの。地域のイベントにANTA会員が介在して、集中送客しようという「地旅博覧会」のツアーでもある。

 これに発地側として取り組んだ会社・団体のひとつが、岡山県旅行業協会だ。ツアーでは、高知の隠れた名所、体験プランを中心としたコースに、土佐電鉄の2時間貸切による路面電車車内での大宴会を実現。生ビールのサーバーを設置して飲み放題で提供し、土佐名物の皿鉢料理を振る舞い、カラオケの歌い放題もつけた。「土佐らしいおおらかな企画で満足度が高かった」(岡山県旅行業協会専務理事の松田良治氏)と評価する。

 発地側のメリットとしては「地域行事に参加し、独自の値付けができる。地元ならではの細かい情報のもとに造成されており、大手に対抗できる強い商品である」と説明。特に集客では「零細企業では経費をかけにくい」ため、簡易なパンフレットによるクチコミ主体で展開したが、「1社では大変だが、数社が集まればバス1台分の集客ができた」という。ツアーは3月10日からの1泊2日で、旅行代金は2万9000円。30名を集客し、「そこそこ黒字がでた」(松田氏)と、利益も確保している。

 さらにもう1つ注目したいのが、「土佐のおきゃく2011」が東日本大震災の影響でイベントの多くを中止したことに対する対応だ。同イベントは3月5日から3月13日の開催で、震災翌日の3月12日にはメインイベントを含むほとんどのイベントが中止となってしまった。同日から熊本からのツアーがあったため、着地側の高知県旅行業協同組合ではすぐに代替案を企画し、もてなしたという。これについて、各社の発表後に講評した全旅代表取締役社長の池田孝明氏が「これこそ地域の人々と作る旅行だからできるもので、大手にできない最たる強み」と強調。「万が一何かあっても、地元の人々が対応してくれる。安心安全、消費者保護の観点では、着地型以外にないと思っている」と自信を示す。


地元のコネをいかし、天神祭を商品化
販売後まもなく完売に


 日本三大祭に数えられる大阪の天神祭を地旅として商品化したのは、大阪府旅行業協会(OATA)だ。全旅の池田氏は「地元が主体となる伝統的なイベントは新規参入が難しいが、そこにコネをもち、利用したところが、地域の旅行会社ならでは」と説明する。OATAは2006年、大阪観光コンベンション協会の協力を得て、船渡御船で最大となる定員300名のご神体が乗る金幣船の買取に成功。天神祭に参加する110もの船渡御船のうち、一般の人が乗れるのはこの船だけだという。以降毎年、ANTA会員のために一定の席を乗船券のみで提供していたが、昨年はじめて地旅として取り扱った。

 ツアーでは、大阪城や通天閣などの有名スポット観光のほか、たこ焼きや串カツなどの試食も組み入れ、船渡御船内にはアルコールとソフトドリンクのドリンクバーとうなぎ弁当を用意。船のチャーター代が高額なため、例えば兵庫県支部のHATAでは旅行代金を日帰りで4万9000円で販売した。ただし、OATAでは販売会社に、一般の人が乗れる唯一の船渡御船であることを十分に説明することを求め、販売後まもなくで完売したという。OATA前理事長の徳原昌株氏によると、参加者からは「お金に換えがたい体験だった」と好評。「収益を十分回収している」といい、今後は多くの希望者に対応するため、さらなる増船も視野にいれる。

 ただし、徳原氏は注意点としてイベントで船に乗るリスクも指摘する。乗船部分は乗船券を提供することになるが、これはイベント券であるため払戻しに対応できない。祭が翌日に延期になれば、乗船も翌日となる。延期日の乗船が不可となった場合は、取消料が発生することになるため、この点も販売時に十分説明するよう、販売会社に求めた。

 なお、HATA事務局長の佐々野和美氏は、伝統文化を組み込んだ地旅について「地域で伝わって来た文化を残していくには、当事者はもちろん見守る観客も大切な要素。地域の宝である文化を伝えるという点でも、地旅は有効な手段になる」と語る。


発地側と着地側で相互交流
個の旅行会社は行政と利害合致させ、連携へ


 千葉のエアポートトラベルが事例として発表した商品は、昨年の地旅大賞で大賞を受賞した「こころの故郷水辺、海辺の原風景を船とローカル電車で旅をする・・・」だ。送客したのは岩手県旅行業協同組合。「岩手北三陸、暮らしの文化を訪ねて」で優秀賞を受賞しており、受賞した企画同士での相互送客に取り組んだ。

 岩手県旅行業協同組合理事長の佐藤好徳氏は「よい企画をつくっても、実際に売る先がないのは困る。それには地旅での相互交流が一番の解決策」と話す。「地旅は作る側も一生懸命なので行けば必ず喜ばれる。大切なのはお互いの商品を理解すること」と説明する。ただし、双方で多くの協力を得て実現するため、「キャンセルの影響は大きい。キャンセルなしでやることが大切」と、課題も提示する。

 エアポートトラベルが事例として発表した地旅は、地域にある利根川と霞ヶ浦沿いの文化や人の営みに注目し、湖から川を行く船旅で優雅に過ごしてもらう旅行。土浦、潮来、香取、銚子の4つの市を結ぶ80キロの船旅で、途中、地域の無形文化に指定されている「潮来節」や「大漁節」での地元グループと交流したり、地元の生和菓子作りなどの地域の人と触れあう体験も組み込んだ。佐藤氏によると「ツアー内容は細かく、地元の人の歓待ぶりに感激」という感想が多かったという。旅行代金は岩手から新幹線代を含んで7万9000円。22名が参加した。

 なお、先の2つの事例が各県のANTA会員が組織する旅行業協会が主体であったのに対し、今回の地旅はエアポートトラベルが個人の旅行会社として企画している。組織力のないなか、うまく成功させるポイントについて代表取締役の石橋一男氏は「個人の旅行会社には、行政や外郭団体からオファーがないため、自分たちから巻き込んでいく」という。市の商工観光課や観光協会は観光客の訪問で経済効果が出ることを期待しているが、旅行会社も旅行者を取り扱うことで利益が生じるので、相互の利害関係が一致する。そこで、「地域の文化や歴史を深く調べ上げてコースを作り、行政や外郭団体に利点をアピールする」という。「行政側からマスコミなどへのピーアールを働きかけ、同時にANTA会員への販路を広げていく」と、スケールを補うヒントを話した。


第8回国内観光活性化フォーラムは富山県で開催
来年は群馬県が会場に

 今年の国内観光活性化フォーラムは富山県で開催され
た。フォーラム会場の富山市芸術文化ホールには、地元
富山県内の観光地をはじめ、来年開催の群馬県、震災地
の東北など、国内の観光業者がブースを出展し、各地の
観光の魅力をアピール。福島県では同県産の野菜を販売
し、好評を博していた。

 フォーラム翌日には富山の観光の魅力を体験するため、
エクスカーションも実施。人気観光地の「立山・雪の大
谷ウォーク」のほか、「世界遺産の五箇山合掌造りとチ
ューリップフェア」、「越中おわらの町・八尾町散策」
などが企画された。



取材:本誌 山田紀子



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