現地レポート:仏・アキテーヌ地方−北部と異なる自然や歴史、食の魅力

  • 2011年5月13日
多彩な個性に満ちたフランス、アキテーヌ地方
女性やシニア向けツアーの素材豊富、滞在型商品の可能性も


 フランス南西部のアキテーヌ地方には首府ボルドーを擁するジロンド県、東部のドルドーニュ県、沿岸地域のリゾート地アルカションやスペイン国境に近いバスク地方、ピレネー山脈に近いベアルン地方など、個性的な魅力に満ちた地域がある。日本市場ではボルドーを中心に世界遺産に登録されているサンテミリオンやメドックといったワインの産地としてよく知られているが、ピレネー山脈でのハイキングやバスク地方のチョコレート、欧州最大のピラ砂丘など、幅広い層に訴求できる多彩な素材がある。アキテーヌ地方の魅力を探る。
                              
                             
ワイン中心のボルドーの「グルメ・トレイル」
周辺地域の個性的なワイン産地めぐりも


 アキテーヌ地方の中心地であるボルドーや周辺地域は、日本ではワインの産地として知られる。生産されるワインの量はフランス全土の約55%にのぼり、ボルドーのワインやグルメは主要テーマである。

 その素材の一つとしてボルドー観光局はこのほど、新たな市内観光プラン「ボルドー・グルメ・トレイル」を発表した。これは大鐘楼や大劇場など、街の名所を徒歩で巡りながらワイン、郷土菓子カヌレ、チーズまたは牡蠣を味わう店に立ち寄る3時間ほどのツアーだ。実際に歩き、味わうことでボルドーのライフスタイルを肌で感じることができるので、一風変わった市内観光として、またはリピーター向けとして組み込める。

 また、ボルドー周辺にはメドックやポイヤックといった著名なワイン産地が広がる。なかでも葡萄畑を含む景観と産業が世界遺産となっているサンテミリオンは2000人の人口に対し、年間約100万人もの観光客を集める人気のデスティネーションだ。食事やテイスティングはもちろん、葡萄畑を歩きながらのトレッキングルートも整備されているので、セラーを訪ねながらのんびりと歩くという要素を取り入れるのもいいだろう。

 これらの地域には長い歴史を持つ著名なシャトーのほか、ワインをライフスタイルの一つとして取り入れるなど、独自の工夫や研鑽を積むところも数多くある。「レ・メドカン」はメドックの女性ワイン生産者らによるプロジェクトで、ワインをファッショナブルに生活に取り入れる提案をしている。「アジアにセールスに行ったとき、ファッションとしてワインが考えられているのを見てヒントを得た」とシャトー・パロウミーのオーナー、マルティーヌ・カゼヌーヴ氏。テイスティングのほか、生活シーンに応じたワイン選びなど女性向けの講座もあるので、女性中心のグループに提案してみたい。

 ツアー素材としては、クルーズ会社「クロワジ・ユーロップ」がサンテミリオンやドルドーニュ渓谷へ船で訪れるクルーズを催行している。1週間をかけて川沿いのメドックやサンテミリオンなど、ワイン産地をじっくりと巡るプランは趣向の変わったワインツアーとして利用してみたい。



日本とも縁の深い牡蠣の産地・アルカション
大砂丘はこの地ならではの景観


 ワインと並ぶアキテーヌの重要な味覚がアルカションの牡蠣で、生産シェアはフランスの7割を占める。牡蠣の産地はアルカションの港から船で30分から40分ほどのイル・デ・ゾワゾー(鳥島)が中心。船から牡蠣の養殖場を眺める、ちょっとした大西洋クルーズが楽しめる。

 このアルカションの牡蠣は、先の震災で被害にあった三陸の牡蠣と深い繋がりがある。1993年にこの地域の牡蠣が突如全滅した際、復興のために取り寄せたのが三陸の稚牡蠣だったのだ。日本生まれ、フランス育ちの牡蠣は、日本人には特別な感銘があるだろう。

 またこの地域でぜひ訪れたい場所がピラ砂丘だ。規模は欧州最大で、高さは約115メートル。3キロにおよぶ広さで、頂上からは大西洋とアキテーヌの松林が望める。砂丘は非常に急なので、年輩者が登るには少々きついが、景観を楽しむ価値は十分にある。ツアーの年齢層に応じて時間を取り、ぜひ組み込みたい。



ルイ14世縁の地サン・ジャン・ド・リュス
バスクスイーツは女性層への提案も


 特に女性層に訴える可能性の高いデスティネーションがサン・ジャン・ド・リュスを中心とするバスク地方だ。

 この街はルイ14世が婚礼を挙げた歴史があるが、今ここで最も注目されているのは、チョコレートやマカロンをはじめとするスイーツだ。特にバスク地方は欧州に初めてチョコレートが入って来た地で、サン・ジャン・ド・リュスやバイヨンヌには伝統的な店から、新進気鋭の、あるいは家族経営のチョコレート店が軒を連ねる。フランス土産として人気のマカロンもルイ14世の婚礼菓子として、この地で作られたのが始まりだ。

 さらにバスク地方特産のタオルやナプキンといったバスク・リネンは肌触りや吸水性もよく、伝統的なものからモダンなスタイルまで幅広いデザインの店が並んでいる。街自体がとても分かりやすくコンパクトなので、自由散策にも向く。タラソテラピーが体験できる伝統的なグラン・ドテルやモダンなデザインのザスピ・ホテルなど、女性向けの個性的なホテルもある。スイーツ巡りやのんびりした旅なら2泊でも十分楽しめるだろう。


「山ガール」に勧めたいハイキング
シャトーホテルに滞在し田舎を楽しむ


 ことに最近では「日常から離れる」「癒し」が、旅に強く求めているのではないだろうか。そうした需要に対しては、ピレネー山脈でのハイキングや滞在があげられる。

 そのひとつが、サン・ジャン・ド・リュス近郊のラ・リューヌ山でのハイキングだ。ピレネー山脈に位置するラ・リューヌ山は標高905メートルの山で、平たい岩が敷き詰められた景観はこの地域独特のもの。30分ほどの登山鉄道で山頂に登り、2時間ほどかけて降りてくるのが一番無理のないコースだ。頂上からは南にスペインの街並みを、北に大西洋に面するサン・ジャン・ド・リュス、さらにはビアリッツの街までが一望できる。かわいらしい登山列車はMICEなどで貸し切り利用も可能だ。サン・ジャン・ド・リュスの滞在と併せ、“山ガール”にすすめることのできるデスティネーションだ。

 またベアルン地方の町、オロロン・サントマリーはピレネー山脈のロマネスク教会のあるのどかな地域で、「銃士隊の里」でもある。世界遺産となっているサンチャゴ巡礼道の一部でもあるため、立ち寄るツアーも催行されているが、ピレネー山脈を眺めながら一泊するのも趣があっていい。

 昨年末に開業したばかりのシャトーホテル「シャトー・ドゥ・ラモーテ」はオロロン・サントマリーから3キロメートルほど離れた静かな村にある。全5室という小さなホテルなのでFITまたは8人程度の小グループ向け。オーナーのローラン・ネーデルロフ氏は日本滞在経験もある親日家なので、シャトー風の民宿といったアットホームな滞在を楽しみたい。



「質」が求められる日本市場
 今こそ滞在型の旅の提案も


 アキテーヌ地方は一時英国領だった歴史を持ち、またサッカー中心のフランスにあってラグビーが主要スポーツであるなど、北部フランスとは違った独特の気風も持つ。さらにアキテーヌ内でも地域によって大きく文化が違い、ワイン、グルメ、自然、歴史というテーマを設定しても、この地方だけで多彩な趣を持たせることができる。

 ボルドーや近郊のワイン街道を巡るツアーはこれまでも催行されているが、観光市場がグローバル化し、ことにアジアについては中国やインドといった、大規模市場が参入してきている。そうしたなかで、日本市場の存在とプライオリティを示すには、「数」ではなく「質」であろう。サンテミリオンでは唯一のアジア言語のパンフレットとして、日本語のものが用意されており、「日本人は歴史など文化を熱心に学びたがるため」と現地観光局スタッフは話す。こうした「質」を主眼に据えたイールドの高いツアー造成は、この地域のみならず、今後のツアー造成に非常にますます重要なポイントとなるのは明白だ。

 また、先の震災や事故などで、多かれ少なかれ疲弊を感じている市場に対し、癒しの旅は重要だ。これまで市場に馴染みの薄かったホテルライフを楽しむ、あるいは自然の中でのんびり過ごす滞在型の旅も、今こそ力を発揮するものかもしれない。多彩な素材を活かし、独自の商品造成に繋げたい。







アキテーヌ観光協会、テーマ性の高い素材で滞在型・体験型ツアーをピーアール

 ボルドー観光局は先ごろ開催されたワークショップ「ラ
ンデヴー・アン・フランス2011」で、今後は通過型観光か
ら滞在型観光の促進を重視した開発をしていくと発表。特
にボルドーの象徴でもあり、世界中に知名度のあるワイン
を中心とした体験型ツアーを軸として、プロモーションを
展開する方針だ。

 ボルドー観光局局長で市長補佐のステファン・ドゥルー
氏は、会見の場で、ワインを軸とするなかでも、ことにハ
イキング、ウォーキング、サイクリングといった自然を親
しむ素材との組み合わせを強調。「ボルドーのライフスタ
イルをより強く打ち出し、また恒常的な開発をしていきた
い」と語った。

 また、フレデリック・ルフェーブル観光大臣も、「ワイ
ンはフランスにとって、またボルドーにとっても非常に重
要で、全世界に対する訴求力を持った素材だ。まだまだ開
発は可能なはず。各部署の働きに期待したい」と語ってい
る。