東北旅行業の今、地場の旅行会社が求めるもの

「被災地」でも異なる状況

もちろん、ほんの少し移動すれば、津波によって想像もつかないほどの被害を受けた土地があり、多数の住民が依然として避難生活を余儀なくされているのも現実だ。一般的に、メディアや行政では“東北”や“被災地”を一括りにせざるを得ず、今回のような災害時には被害の大きな部分に焦点が当たりがち。しかし実際のところは、このように仙台と福島だけでも、その中でまったく異なる状況が併存していることには留意が必要だろう。
東北発の旅行需要も様々

一方、投稿を寄せていただいた山形E旅代表取締役の金田史生氏は、地震発生後1ヶ月の状況として、仙台空港の再開後も旅行商品には使えないことを報告。ゴールデンウィークの間際申し込みも予約が取れずに断ることも多かったといい、せっかく需要があっても売れない苦悩が伝わる。その意味で、「海外旅行で仙台空港を使用するのは全体の3割で、仙台が使えなくてもある程度は成田、羽田に誘導可能」という斎藤氏の、「売れるものがあるのは幸せ」と語った言葉が心に残る。
さらに、日本旅行業協会(JATA)東北支部事務局長の西山末男氏によると、東北地域の沿岸部ではそもそも営業を再開できていない店舗もまだあるという。津波が直撃した地域では需要も見出しにくく、「SARSなどと違い、他の代替案を提案できるような環境ではない」(西山氏)ことが深刻な課題だ。周囲にお客様がいなければ、その地域のみを基盤とする旅行会社は事業を継続したくても断念せざるを得ない。
行きやすい旅行商品を工夫

ゴールデンウィーク以降の動向は依然として不透明だが、斎藤氏は「うちは明るくやる、というような方法しかない。何か特別なことをするというのではなく、今までと同じスタンスで営業を展開し続けることで、多少なりともお客様が入ってきてくれれば」と語る。中でも、比較的気軽に参加しやすい日帰りバスツアーに可能性を見いだしている。4月末に弘前と角館の桜をテーマにしたツアーを企画したところ、4月13日に1回告知しただけであったが、「合計約140名、バス4台分のお客様が集まった」といい、今後もこうした工夫を続けていきたいとした。
「東北アウトバウンド」復活までの短期的支援策も不可欠

一方で、目の前の危機に対処しなければならない旅行会社からすれば、より直接的な支援が望まれる。斎藤氏は、「(行政などの支援策は)直接的な被害を受けているところが優先され、間接被害を受けている旅行・観光業界は、言葉は悪いが生殺し」と指摘。その上で、「間接被害であれば立ち直るチャンスがあるということ」と語り、融資や行政による地元旅行会社への優先発注などの支援を訴えた。
このジレンマの解決策を見い出すことが、旅行業界全体の喫緊の課題だろう。個々の会社やそこで働く個人の置かれた状況は異なり、必要とされる支援も様々だが、それぞれに合った支援を提供する、あるいは提供可能な主体がないわけではない。それらの声を集めてふさわしい主体に届け、適切な支援が提供されるよう働きかける機能が求められていると考える。
取材:本誌 松本裕一