震災からの再起−動き出した旅行業界、需要回復の兆しも−震災から40日

  • 2011年4月20日
 東日本大震災の発生後、停滞していた旅行業界が動き始めた。発生当初は旅行者の把握や旅行予定者のキャンセル対応の業務が中心となり、販売促進や各種プロモーション活動は停止。消費者の旅行やイベントの自粛傾向のあるなか、各社は様子見の対応を余儀なくされていたが、ここにきて積極的な活動が始まっている。被災地やその周辺地域、首都圏エリア、関東以西など、地域で状況は異なるが、震災後の再スタートという点でまとめた。                                    
                                        
                                        
3月末から、個々の動きが顕在化

 震災後、被災を対象にした支援プラン以外で旅行会社の販売に関わる最初の動きといえば、「義援金ツアー」だ。旅行代金の一部を義援金として被災地に寄付するというもので、旅工房ではいち早く3月15日から開始。4月14日までの1ヶ月間、1名あたり1000円を義援金として捻出するもので、合計6753名、675万3000円を集めた。またじゃらんは3月18日から、被災者を対象にした支援宿泊プランを実施。同様のプランはソラーレ・ホテルズ・アンド・リゾーツや楽天トラベルでも設定されたほか、エイチ・アイ・エス(HIS)では、被災者向けの海外長期滞在プランを販売した。

 さらに、寄付以外の復興応援企画も始まった。読売旅行では3月30日、全営業所に国内旅行商品の一部で東北6県の名物をお土産として提供する復興応援企画を通知。被災地域を訪問するツアーではないものの、東北6県の名物を購入することで間接的な経済的支援とするほか、自粛傾向にある消費者に旅行をする気持ちを持ってもらおうというものだ。

 そしてついにクラブツーリズムが4月3日、「東北復興応援ツアー」を発売。弘前・角館の桜鑑賞2日間ツアーと、山形の由良温泉、あつみ温泉を訪れる3日間ツアーを設定し、同日から新聞広告も開始した。同社によると、「消費することで間接的な支援をしたい」という風潮の後押しもあり、弘前・角館の桜鑑賞ツアーはこれまでに300名以上を集客。4月16日には第2弾として津軽・男鹿半島4日間を設定している。

 東北でも、東北への旅行商品の販売を開始した旅行会社がある。岩手県北バスグループの岩手県北観光では4月1日から、「ケッパレ東北!みちのくさくら紀行」として、首都圏発着の東北桜鑑賞バスツアーと盛岡駅発着の日帰りバスツアーの3コースを設定。震災の影響で大規模なプロモーションはできなかったものの、ウェブサイトでの周知や東京のバス会社・取引各社への告知依頼、東京の岩手県人会への周知により、東京を中心に100名を集客したという。これらのツアーへの参加は支援目的もあるが、少しずつ消費者が旅行をし始めており、需要回復への兆しであるといえるだろう。

 また、業界内の団体では、アジアインバウンド観光振興会(AISO)が4月7日、政府や業界団体に向けた復興・広報事業サポートと、消費者向けの旅行振興や商品造成の両面による「AISO災害対策委員会」を発足。インバウンド業界の復興へ向けて、独自の活動を開始している。


待望の観光推進の要請
業界連携の取り組みも


 各社や各団体が需要取り込みへの取り組みをはじめたのに対し、国や地方自治体、旅行業界全体としての需要回復の表だったアクションはなかなか開始されなかった。

 そんななか、栃木県が4月5日に「観光安全宣言」を発出。修学旅行や観光シーズンを前に旅行会社から県の書面があると案内しやすいという要望に対応した形で、被災県の近郊で風評の影響を受けた都道府県が明確に「安心して来て下さい」と謳って訪問を促す宣言を出したのは、これが初めてといえるだろう。

 さらに被災地の福島県は4月1日に、宮城県と岩手県は震災発生から1ヶ月後の4月11日に、復興への宣言を発出。このなかで宮城県は「全国民に過度の自粛を控え、経済活動やイベント開催を積極的に行なって日本全体を盛り上げてほしい」とのメッセージを含めた。これらの動きを受けてようやく観光庁が4月12日に、溝畑宏長官名で「当面の観光に関する取組について」と題し、観光推進の意義を伝える文章を関係各所に発出。さらに、関係省庁に対して観光に携わる中小企業者への支援措置についても働きかけていく考えを示した。

 日本旅行業協会(JATA)も4月15日に会長の金井耿氏の名前で「東日本大震災からの復興に向けた宣言」を発表。すでにJATAでは3月29日、国内旅行委員会と海外旅行委員会など各部門やビジット・ワールド・キャンペーン(VWC)を含めた横断的な組織として、「復興プロジェクトワーキンググループ」を設置しており、地震の影響による現状把握から復興支援に向けた取り組みを協議していた。今後は「日本を元気に、旅で笑顔に」を合言葉に日本の復興をアピールし、旅行による復興支援や海外旅行の促進、夏の長期休暇取得を支援する旅行スタイルなど節電の取り組みへの対応を進めていく。また、4月19日以降に新聞3紙での広告展開や、海外旅行委員会や部会などを東日本で開催して現地を視察し、正確な情報の発信や商品造成にいかすことも予定。具体策は各業務部とVWCが中心になって海外、国内、訪日の各委員会にはかり、決めていく。


回復に弾み、訪日視察や訪日ツアーも
ディズニーランド再開


 観光庁ではインバウンド需要の減退に対し、海外諸国に対して正確な情報提供を実施し、「安心、安全のイメージ回復」に努める。日本政府観光局(JNTO)のウェブサイトの活用や海外訪問の情報提供を実施。訪日ツアーの参加者にウェルカムメッセージの配布や、国際会議の主催者に長官名での文書送付も実施している。

 各国の日本に対する渡航自粛や延期勧告にも変化が表れている。JNTOによると、現在のところ対象重点15市場では完全解除されていないが、渡航自粛や延期勧告を日本全国から被災地の周辺エリアなど限定的な指定に緩和されてきているという。こうした状況の中、観光庁の4月12日の文書発出と時期を合わせ、訪日旅行が戻ってきた。4月16日には香港のEGLツアーズが4日間の沖縄ツアーを、18日には関西ツアーを実施。北海道へのツアーも予定している。また、日本へのアウトバンドの割合の多い台湾でも、訪日ツアー再開への動きが活発化しており、チャイナエアライン(CI)はセントレア、中部地域と、共同訪日旅客誘致促進事業として台湾の旅行会社とメディアを招聘し、計32名の参加者を集めた。

 もうひとつ、旅行需要に弾みがつきそうな話題が東京ディズニーランドの再開だ。4月15日からの再開にあわせ、ジェイティービー(JTB)や近畿日本ツーリスト(KNT)、日本旅行、JALパックなど、旅行大手をはじめ各社は特別プランを設定し、集客に努めている。各社の再開後の商品への問い合わせは「予想以上」といい、ゴールデンウィーク(GW)に間に合ったことで、さらなる取り込みをねらっていく考えだ。

 JTBが4月18日に発表した、ゴールデンウィークの旅行動向によると、海外旅行は前年比16.8%減の43万1000人、国内旅行は27.8%減の1565万9000人で、震災が大きく影響していることは否めない。しかし、VWC2000万人推進室長の澤邊宏氏は、JATA会員会社の動向として「欧州はキャンセルが少なく影響も少ない。影響があったのは気軽に行けるアジアだが、思い直すのも早いのでこれからの戻りが大きいだろう」と話す。また、カナダ観光局(CTC)副社長のチャールズ・マッキー氏は「カナダは震災後のキャンセル以上の申込みがあり、戻っている」という。

 また、国内旅行ではJTB西日本によると、関西発では九州の35%増、山陰の27%増を筆頭に西日本方面が押し並べて前年よりプラス推移となっており、旅行に行きたいという意欲が保持されている。間際の予約も増加しており、今後の一層の需要回復とそれによる旅行業界の再興を期待したい。


復興への課題、航空座席と旅行業界内の支援

 日本人の需要面での回復がうかがえるなか、復興にはまだ多くの課題が残っている。その
一つが国際線の航空路線だ。欧州系航空会社の東京路線のノンストップ運航は再開されたが、
航空座席量という点では欧州のみならず全方面で機材の小型化や減便、運休傾向が目立つ。
航空路線は双方向の需要に支えられるため、日本人旅客だけの解決はできないかもしれない
が、できるだけ早期に回復できるように努めていきたい。

 もうひとつは、被災地や周辺の旅行会社、関連会社への対応だ。業界全体の復興には、現
在元気な旅行会社や企業が旅行業界を盛り上げると同時に、被災地や周辺の企業が苦難を乗
り越えられるような仕組み、支援が必要となってくるだろう。4月16日に掲載した投稿を寄
せた旅行会社の社長は、「営業するために必要なものはそろっているのに、お客様がいない」
と苦境を説明していた。

 旅行業界・旅行産業の発展を考えれば各地域の旅行会社、関連企業が元気で隆盛すること
が必須だ。こうした旅行会社や旅行関連企業の支援につながるような業界の取り組み、仕組
み作りを検討していくことも必要だろう。



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