訪日旅行復興へ、関係業者が横断的な取り組み始動−AISO臨時総会から

  • 2011年4月13日
 東日本大震災によって大きな打撃を受けたインバウンド市場。観光立国に向けて将来的に3000万人の訪日旅行者をめざす日本にとって、2011年度のスタートは厳しいものとなった。そうした状況の中、アジアインバウンド観光振興会(AISO)では4月7日に臨時総会を開催。震災から約1ヶ月が経ち、福島原子力発電所の事故や計画停電の可能性など、いまだ解決されない問題はあるが、復興そしてインバウンド振興のために、今、何ができるのか、各社の思いと対応策が発表された。
                        
                                   
各国の訪日旅行状況
需要回復期間見込み、正確な情報発信を


 中国では、中国国家旅游局が日本へ渡航する際は注意するよう口頭で伝えているものの、渡航自粛などの勧告はされていない。ただし、中国に4つの拠点を持つアメガジャパンでは、3月11日以降のツアーはキャンセルになり、4月7日時点で4月以降のツアーは「1本も発生しないだろう」と見込んでいる。

 ただし、北京では5月1日出発の北海道ツアー実施を決めた旅行会社があったり、香港では4月16日出発の沖縄ツアーの販売が堅調だという旅行会社もあるという。広東省の旅行会社もこうした商品造成に着目しており、「中国では(日本の商品を)売っていこうよ、という動きが出ている」と話す。上海では、桜を見るツアーが売り切れたという旅行会社もあったことからも、「原発の問題が解決されれば、何かをきっかけに一気に戻ってくるのでは」と見込んでいる。こうしたタイミングを逃さないためにも、数ヶ月の“回復期”がかかると見て現地への情報発信を絶やさないことが重要だ。

 台湾でも訪日ツアーのキャンセルが発生している。太陽トラベルによると、3月12日出発だった福島、いわきへの桜ツアーは全てキャンセルになり、さらに、東京の水道水に放射能物質が検出されたとの報道が発生した直後から、首都圏のツアーのキャンセルが発生。5月、6月出発分も影響したという。

 また、韓国では渡航自粛勧告は出ていないものの、放射能漏れについて大きく報道されており、日本の食べ物などへの心配が日本への旅行自体への萎縮につながっている状況だ。韓国からのインバウンドを手掛ける富国トラベルによると、「やはり放射能問題の解決が再開の鍵。ただし、東北地方に関しては今後数年間の旅行は難しいという声もある」と、韓国の旅行会社の意見を紹介。西日本については、例年と比べ非常に安い旅行代金で商品を造成しているが、4月、5月いずれもほとんど動きがない。しかし、6月以降はインセンティブの予約が入り始めたという。

 タイでは地震発生直後に渡航自粛勧告を発令したが、3月15日には取り下げていた。ただ、タイではマスコミの報道が日本の放射能漏れについて過敏に報道しており、訪日旅行、日本の食品に対する不安感はあるようだ。一方で、航空会社が中心となってタイ国政府観光庁(TAT)に日本への現地視察ツアーを呼びかけている動きもあり、旅行会社とも相談し始めているという。放射能漏れの危険性についての報道が多いが、日本の旅行業界が自ら各地域や施設の対応状況、営業時間などについて正確に情報を発信することが重要だという。


日本各地で広がる旅行キャンセル

 今回の震災の影響は直接的な被害を受けた東北地方だけでなく、首都圏、そして北海道や西日本など日本全国の旅行、観光業界に影響を与えている。日本全国に48のホテルを展開するホテルマネージメントインターナショナル(HMI)は、震災後から5月までインバウンドで1万7000人のキャンセルが発生しており、インバウンドを積極的に取り扱っていたホテルパールシティ神戸で8000人、長崎にっしょうかんで3000人のほか、京都や浜松でも発生している。また、もっとも打撃が大きいのは首都圏で、千葉のホテル南海荘や伊東温泉のホテルラヴィエ川良、山梨のホテルクラウンパレス甲府などが影響を受けた。JRや私鉄各線で特急列車が運休したこともあり、「前年と比べられるレベルではなく、稼働率もほんのわずか」とその被害の大きさを語る。

 一方、西日本エリアはもともと地場の利用客が多かったため、前年よりは減少したが首都圏ほどの打撃ではないという。3月、4月のインバウンドは全てキャンセルになっており、5月以降に入っている予約については様子見の状況だ。一方で、韓国から1件新規予約が入っているほか、香港のEGLツアーがリザンシーパークホテル谷茶ベイを利用する沖縄ツアーを4本設定。1本あたり15人から20人の予約が入っているという。さらに、「香港の旅行会社から中国地方や九州地方へのツアーについて引き合いがきている」と話しており、震災から1ヶ月が経ち少しずつ動きがでてきたようだ。

 また、直接的な被害を受けたとされる北海道の状況について、北海道ツーリストセンターによると、函館市駅前周辺の赤レンガ倉庫や函館朝市、釧路の商業施設などが津波の影響を受けたが、それ以外は直接的な被害はなかった。朝市への被害が道内でもっとも大きかったが、すでに営業を再開している施設もあるという。ただし、函館空港への国際航空便が一時的に運休するなど、インバウンドにとって影響が出ている。実際、3月から5月までキャンセルが相次いでおり、新幹線やフェリーを含め通常運航に戻ることが重要だ。

 一方、西日本の状況について、岡山でインバウンド手配を受けるすぎやまクリエイトでは、「地震の影響ではなく、それによる自粛傾向がでている」と指摘する。岡山県は直接的な被害を受けていないものの、岡山後楽園の桜まつりでの夜のライトアップが中止になるなど、自粛ムードになっている。また、地震直後からキャンセルが発生しており、震災よりも原発問題が直接的な理由だという。一方、東北地方のホテルでインターンとしてホテルの実務研修を受ける予定だった韓国の学生団体から、「西日本で振り替えられるか」という問合せも入っており、西日本は安全に旅行できるという情報を発信していく考えだ。


インバウンド復興へ向けた動き
視察ツアーや商品造成も


 臨時総会では、各地域や施設、旅行会社が現状報告するとともに、正確な情報発信が重要という共通の見解が見られた。「東日本大震災というと北海道も含めた印象を抱くが、実際影響を受けたのは一部。大部分が問題ない」「各地域のホテルや施設について営業時間や対応状況を細かく案内する必要がある」「各ホテルが諸外国へ自ら情報発信できるよう、韓国語、中国語などのいくつかの言語で通常営業している旨を伝えるマニュアルの文章をつくってほしい」「外国の旅行会社や自治体などの代表者を集めて現地視察ツアーを実施してみてはどうか」など多数の意見があがった。

 AISOでは、臨時総会の中で開催した正会員会議で「AISO災害対策委員会」を立ち上げており、このなかの復興商品企画造成チームでは、旅行会社のほか、運輸業者や宿泊施設、飲食業者といったメンバー構成で、旅行可能な地域の商品造成やアピールなど横断的に取り組んでいく。個々の企業、自治体ではできないことも、各分野のサプライヤーが協力することで実現に結びつける。

 また、中部地域では台湾からの現地視察ツアーが予定されており、「日本=今は旅行したら危険」、といったイメージの払拭につながりそうだ。旅行先から日本を削除するのではなく、正確な情報発信によって「日本の○○なら大丈夫」、「日本の△△でこれがしたい」というように選択肢を広げてもらうことがインバウンド復興に向けた第1歩になる。


取材:秦野絵里香