訪日旅行復興へ、関係業者が横断的な取り組み始動−AISO臨時総会から
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各国の訪日旅行状況
需要回復期間見込み、正確な情報発信を
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ただし、北京では5月1日出発の北海道ツアー実施を決めた旅行会社があったり、香港では4月16日出発の沖縄ツアーの販売が堅調だという旅行会社もあるという。広東省の旅行会社もこうした商品造成に着目しており、「中国では(日本の商品を)売っていこうよ、という動きが出ている」と話す。上海では、桜を見るツアーが売り切れたという旅行会社もあったことからも、「原発の問題が解決されれば、何かをきっかけに一気に戻ってくるのでは」と見込んでいる。こうしたタイミングを逃さないためにも、数ヶ月の“回復期”がかかると見て現地への情報発信を絶やさないことが重要だ。
台湾でも訪日ツアーのキャンセルが発生している。太陽トラベルによると、3月12日出発だった福島、いわきへの桜ツアーは全てキャンセルになり、さらに、東京の水道水に放射能物質が検出されたとの報道が発生した直後から、首都圏のツアーのキャンセルが発生。5月、6月出発分も影響したという。
また、韓国では渡航自粛勧告は出ていないものの、放射能漏れについて大きく報道されており、日本の食べ物などへの心配が日本への旅行自体への萎縮につながっている状況だ。韓国からのインバウンドを手掛ける富国トラベルによると、「やはり放射能問題の解決が再開の鍵。ただし、東北地方に関しては今後数年間の旅行は難しいという声もある」と、韓国の旅行会社の意見を紹介。西日本については、例年と比べ非常に安い旅行代金で商品を造成しているが、4月、5月いずれもほとんど動きがない。しかし、6月以降はインセンティブの予約が入り始めたという。
タイでは地震発生直後に渡航自粛勧告を発令したが、3月15日には取り下げていた。ただ、タイではマスコミの報道が日本の放射能漏れについて過敏に報道しており、訪日旅行、日本の食品に対する不安感はあるようだ。一方で、航空会社が中心となってタイ国政府観光庁(TAT)に日本への現地視察ツアーを呼びかけている動きもあり、旅行会社とも相談し始めているという。放射能漏れの危険性についての報道が多いが、日本の旅行業界が自ら各地域や施設の対応状況、営業時間などについて正確に情報を発信することが重要だという。
日本各地で広がる旅行キャンセル
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一方、西日本エリアはもともと地場の利用客が多かったため、前年よりは減少したが首都圏ほどの打撃ではないという。3月、4月のインバウンドは全てキャンセルになっており、5月以降に入っている予約については様子見の状況だ。一方で、韓国から1件新規予約が入っているほか、香港のEGLツアーがリザンシーパークホテル谷茶ベイを利用する沖縄ツアーを4本設定。1本あたり15人から20人の予約が入っているという。さらに、「香港の旅行会社から中国地方や九州地方へのツアーについて引き合いがきている」と話しており、震災から1ヶ月が経ち少しずつ動きがでてきたようだ。
また、直接的な被害を受けたとされる北海道の状況について、北海道ツーリストセンターによると、函館市駅前周辺の赤レンガ倉庫や函館朝市、釧路の商業施設などが津波の影響を受けたが、それ以外は直接的な被害はなかった。朝市への被害が道内でもっとも大きかったが、すでに営業を再開している施設もあるという。ただし、函館空港への国際航空便が一時的に運休するなど、インバウンドにとって影響が出ている。実際、3月から5月までキャンセルが相次いでおり、新幹線やフェリーを含め通常運航に戻ることが重要だ。
一方、西日本の状況について、岡山でインバウンド手配を受けるすぎやまクリエイトでは、「地震の影響ではなく、それによる自粛傾向がでている」と指摘する。岡山県は直接的な被害を受けていないものの、岡山後楽園の桜まつりでの夜のライトアップが中止になるなど、自粛ムードになっている。また、地震直後からキャンセルが発生しており、震災よりも原発問題が直接的な理由だという。一方、東北地方のホテルでインターンとしてホテルの実務研修を受ける予定だった韓国の学生団体から、「西日本で振り替えられるか」という問合せも入っており、西日本は安全に旅行できるという情報を発信していく考えだ。
インバウンド復興へ向けた動き
視察ツアーや商品造成も
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AISOでは、臨時総会の中で開催した正会員会議で「AISO災害対策委員会」を立ち上げており、このなかの復興商品企画造成チームでは、旅行会社のほか、運輸業者や宿泊施設、飲食業者といったメンバー構成で、旅行可能な地域の商品造成やアピールなど横断的に取り組んでいく。個々の企業、自治体ではできないことも、各分野のサプライヤーが協力することで実現に結びつける。
また、中部地域では台湾からの現地視察ツアーが予定されており、「日本=今は旅行したら危険」、といったイメージの払拭につながりそうだ。旅行先から日本を削除するのではなく、正確な情報発信によって「日本の○○なら大丈夫」、「日本の△△でこれがしたい」というように選択肢を広げてもらうことがインバウンド復興に向けた第1歩になる。
取材:秦野絵里香