品質重視で拡充へ−オーストラリア旅行の期待と可能性
日豪ツーリズム学会は2月26日、玉川大学で、日本とオーストラリア間の観光交流に関する第6回研究発表会を開催した。基調講演では、ATEC(オーストラリアン・ツーリズム・エクスポート・カウンシル)アドバイザーの米田浩三氏が、「オーストラリア観光業が日本マーケットに求めること」と題した考察を披露。日豪の旅行業者から現場の声をすくいとり、課題点を示した。また研究発表では、日本旅行作家協会オーストラリア・グループ世話人の片山邦夫氏が、オーストラリアへの旅行需要をつかむ鍵を分析した。それぞれの講演から、今後の企画のヒントを紹介する。
日本の旅行会社が求める
請求力ある素材とは
米田氏は、ATECで日豪の架け橋となって活動するなかで、日本の旅行会社と現地サプライヤー双方の立場から改善点を拾い出した。まず日本側からは、「行きたい国では上位を占めるオーストラリアだが、今すぐ行かなければならない理由がない」と、話題不足が示唆されたという。新しい素材を探すと、クイーンズランド州のハミルトン島では2007年に新リゾート「クオリア」が開業したものの、他にはあまり見当たらないと米田氏は指摘。ただし、穴場的印象のある西オーストラリア州は旅行者数を伸ばしているとも触れる。
また家族旅行では、「フライトが7時間を越える」「(最大需要の)7月と8月は冬のため、ビーチで泳げない」「送迎シャトルバスなどの受け入れ体制でハワイにおよばない」といった要因が壁になるが、オーストラリアでの動物との触れ合いは根強い人気がある。日本の旅行業界からは「動物の魅力を再度大きくアピールしていくべき」という意見と、「コアラなど動物のイメージはもう古い。別の新しさを打ち出していくべき」との意見が両方聞かれるという。
オーストラリア政府観光局に対しては、「観光局の人が積極的に旅行会社を訪れて説明することで、販売意欲も上がる」として、旅行会社とのより密接なコンタクトをすすめた。
オーストラリア観光業者の本音
低価格競争の限界
オーストラリア側からは、薄利多売型の問題点を突く意見が寄せられている。米田氏によるとホテルからは、「低価格を求める交渉ばかりでなく、企画を一緒に立てたい」「『他の旅行会社と同じ条件を』という要求が多いが、各社の独自性がほしい」「来年の目標送客数をもとに価格交渉を迫られるが、近年は達成された試しがない。より実現性の高い目標値を」といった希望があげられている。
また、日本のパッケージツアー商品は発売時に、当初決めた内容よりもさらに低い価格を出すことが多く、ホテル側にとっては適正レートで売れなくなってしまうのが悩み。この状況が続けば、中国をはじめとするアジア市場が伸びる今、相対的に日本市場離れが進むとも考えられるという。
バス会社からも、目標値と実際の送客数の乖離、常に前年を下回る価格要求に対し、解決手段が望まれている。近年はオーストラリアの景気好況のため国内のインセンティブツアーが増加傾向にあり、バス会社の経営は好調だという。それだけに、料金の安い日本のパッケージツアーの受注には消極的だ。
品質重視への転換を
発展市場は教育旅行とロングステイ
薄利多売のビジネスモデルの限界は、日本の旅行業者でも感じていることだ。ジェイティービー(JTB)は昨年、顧客満足を重視して16年ぶりにルックJTB商品を革新した。米田氏は「その結果、品質が向上。販売価格は上がったが、利益も増えた」と伝える。「価格競争の反省を踏まえて品質を見直し、全員がウィン−ウィンの関係を構築できた。ここにヒントがある」と強調。今後は業界が一丸となり、内容の充実した商品を打ち出す意欲が大切だと述べる。
片山氏は商品づくりに向けて市場を分析し、まず「教育旅行市場が拡大した」と言及。受け入れ体制を整備したうえでの誘致が成功し、認知が定着したという。「航空座席数が追いつかないほどの人気で、アジア経由便を利用してでも実施されている状況」だ。片山氏は教育旅行でのオーストラリアの高い競争力を認め、「景気による変動がない固定客として注力されてきた。今後も継続的にキャンペーンが実施される見込み」と語る。
一方で、パッケージツアーでは、オーストラリアは日本人が好む歴史的建造物が少ないと話す。また、観光素材として人気の自然も「日本人の心を打つのは、山と緑、水、雪または氷のある風景」であり、エアーズロックのようなオーストラリアの代表的風景は、日本人の感性では「美しい」というより「珍しい」ものだとする。定番である世界遺産や美しい風景を冠した商品づくりは成り立ちにくいとの考えだ。
しかし、治安や環境がよさから「ゴルフや語学など目的を持った旅行者」にとっては最適なデスティネーションであり、リピーターを獲得しやすいという。注目の市場はロングステイ。対象は、日本人出国数の2割におよぶ60代、70代のアクティブシニアだ。
片山氏は「幅広い年代層に向けてプロモーションをしても無意味」とし、「20代、30代の女性はあえて外す」ことを提案。団塊世代に馴染みのあるキャラクターをキャンペーンに使う、PCに不慣れな人もいるのでウェブプロモーションは抑えるなど、的を絞った展開がポイントとする。企画は嗜好や興味を理解できる同年代の人が担当し、ツアー中の歩く速度から 、販促物に記載する字の大きさなどを工夫することが大切だという。
これらの見解を参考にして独自の企画力を磨き、日豪を結ぶ「ウィン−ウィン」の商品をつくりあげていきたい。
日本の旅行会社が求める
請求力ある素材とは
米田氏は、ATECで日豪の架け橋となって活動するなかで、日本の旅行会社と現地サプライヤー双方の立場から改善点を拾い出した。まず日本側からは、「行きたい国では上位を占めるオーストラリアだが、今すぐ行かなければならない理由がない」と、話題不足が示唆されたという。新しい素材を探すと、クイーンズランド州のハミルトン島では2007年に新リゾート「クオリア」が開業したものの、他にはあまり見当たらないと米田氏は指摘。ただし、穴場的印象のある西オーストラリア州は旅行者数を伸ばしているとも触れる。
また家族旅行では、「フライトが7時間を越える」「(最大需要の)7月と8月は冬のため、ビーチで泳げない」「送迎シャトルバスなどの受け入れ体制でハワイにおよばない」といった要因が壁になるが、オーストラリアでの動物との触れ合いは根強い人気がある。日本の旅行業界からは「動物の魅力を再度大きくアピールしていくべき」という意見と、「コアラなど動物のイメージはもう古い。別の新しさを打ち出していくべき」との意見が両方聞かれるという。
オーストラリア政府観光局に対しては、「観光局の人が積極的に旅行会社を訪れて説明することで、販売意欲も上がる」として、旅行会社とのより密接なコンタクトをすすめた。
オーストラリア観光業者の本音
低価格競争の限界
オーストラリア側からは、薄利多売型の問題点を突く意見が寄せられている。米田氏によるとホテルからは、「低価格を求める交渉ばかりでなく、企画を一緒に立てたい」「『他の旅行会社と同じ条件を』という要求が多いが、各社の独自性がほしい」「来年の目標送客数をもとに価格交渉を迫られるが、近年は達成された試しがない。より実現性の高い目標値を」といった希望があげられている。
また、日本のパッケージツアー商品は発売時に、当初決めた内容よりもさらに低い価格を出すことが多く、ホテル側にとっては適正レートで売れなくなってしまうのが悩み。この状況が続けば、中国をはじめとするアジア市場が伸びる今、相対的に日本市場離れが進むとも考えられるという。
バス会社からも、目標値と実際の送客数の乖離、常に前年を下回る価格要求に対し、解決手段が望まれている。近年はオーストラリアの景気好況のため国内のインセンティブツアーが増加傾向にあり、バス会社の経営は好調だという。それだけに、料金の安い日本のパッケージツアーの受注には消極的だ。
品質重視への転換を
発展市場は教育旅行とロングステイ
薄利多売のビジネスモデルの限界は、日本の旅行業者でも感じていることだ。ジェイティービー(JTB)は昨年、顧客満足を重視して16年ぶりにルックJTB商品を革新した。米田氏は「その結果、品質が向上。販売価格は上がったが、利益も増えた」と伝える。「価格競争の反省を踏まえて品質を見直し、全員がウィン−ウィンの関係を構築できた。ここにヒントがある」と強調。今後は業界が一丸となり、内容の充実した商品を打ち出す意欲が大切だと述べる。
片山氏は商品づくりに向けて市場を分析し、まず「教育旅行市場が拡大した」と言及。受け入れ体制を整備したうえでの誘致が成功し、認知が定着したという。「航空座席数が追いつかないほどの人気で、アジア経由便を利用してでも実施されている状況」だ。片山氏は教育旅行でのオーストラリアの高い競争力を認め、「景気による変動がない固定客として注力されてきた。今後も継続的にキャンペーンが実施される見込み」と語る。
一方で、パッケージツアーでは、オーストラリアは日本人が好む歴史的建造物が少ないと話す。また、観光素材として人気の自然も「日本人の心を打つのは、山と緑、水、雪または氷のある風景」であり、エアーズロックのようなオーストラリアの代表的風景は、日本人の感性では「美しい」というより「珍しい」ものだとする。定番である世界遺産や美しい風景を冠した商品づくりは成り立ちにくいとの考えだ。
しかし、治安や環境がよさから「ゴルフや語学など目的を持った旅行者」にとっては最適なデスティネーションであり、リピーターを獲得しやすいという。注目の市場はロングステイ。対象は、日本人出国数の2割におよぶ60代、70代のアクティブシニアだ。
片山氏は「幅広い年代層に向けてプロモーションをしても無意味」とし、「20代、30代の女性はあえて外す」ことを提案。団塊世代に馴染みのあるキャラクターをキャンペーンに使う、PCに不慣れな人もいるのでウェブプロモーションは抑えるなど、的を絞った展開がポイントとする。企画は嗜好や興味を理解できる同年代の人が担当し、ツアー中の歩く速度から 、販促物に記載する字の大きさなどを工夫することが大切だという。
これらの見解を参考にして独自の企画力を磨き、日豪を結ぶ「ウィン−ウィン」の商品をつくりあげていきたい。
取材:福田晴子