ネットと実店舗、相互の連携を−JATA経営フォーラム

●モデレーター
サービス・ツーリズム産業労働組合連合会会長 大木哲也氏
●パネリスト
サービス産業生産性協議会主席コンサルタント 向山聡氏
楽天トラベル常務執行役員事業戦略部長 鎌田啓之氏
JTB首都圏個人グループ営業担当部長 出井弘俊氏
(元JTBトラベランド営業企画部販売専任部長)
ネット型と実店舗
それぞれの顧客に適した取り組みを

同氏によると、利用者を職業別に見た場合、店舗型はリタイア層を含む無職や専業主婦など時間の使い方に自由度が高い層が多いが、ネット型は会社員や自営業が多い。また、行き先別では、店舗型は海外旅行32.3%、国内旅行83.8%となった一方、ネット型は海外旅行19.6%、国内旅行88.8%となり、店舗型に比べ国内旅行の割合が多い結果となった。利用形態別では、店舗型ではパッケージツアー45.8%、団体旅行13.7%、個人旅行67.2%となり、パッケージツアーがおよそ半分を占めた一方で、ネット型はパッケージツアー18.8%、団体旅行8.4%、個人旅行90.2%となり、圧倒的に個人旅行が多い結果となった。
また、向山氏によると、店舗型、ネット型それぞれで顧客心理も異なるという。たとえば60歳以上の利用者を比較した場合、店舗型では「魅力的な旅行プラン」「添乗員や現地職員の対応」「トータルの割安さ」「宿泊地の居心地、心遣い」を重視するが、ネット型では「予約サイトとしての信頼性」を重視しているという。また、利用頻度が低い層を比較した場合、店舗型では「案内、提供情報のわかりやすさ」が重視されるが、ネット型では「魅力的な旅行プラン」「メール、電話での問い合わせ対応」が重視され、「予約サイトとしての信頼性」などが軽視されているという。
このように、店舗型、ネット型といった業態別による差だけではなく、利用頻度などによっても顧客が重視する項目が異なることから、向山氏は「1人1人をどれだけケアできているか」と問題点を指摘。店舗型もネット型もそれぞれ、顧客の個々の要望にアプローチする対応の重要性を示唆した。
気軽に予約ができるネット型
顧客サポートが今後の課題

鎌田氏は今後の課題として、充実したサポートによる顧客満足度の向上をあげた。ここ数年、2人以上のレジャー利用や海外旅行の予約が増加しており「旅行先で起きることへの対処については相当な課題と考えている」という。楽天では海外旅行者向けに中国でコールセンターを立ち上げ、24時間365日で旅行者への対応をしている。一方、国内旅行ではコールセンターはあるが予約対応専用で、顧客の質問などへの対応はメールでのみ受け付けているのが現状だ。鎌田氏は将来的には顧客サポート専用のコールセンターを立ち上げるとしながらも、「人員やコスト面を含め、どのようにしていくかが課題」と述べた。
インターネット活用し実店舗へ集客
ネットと実店舗をつなげる試みを

一方、弱みとしては、商品価格などの情報発信のスピード不足や、情報発信の範囲が限られていることをあげる。出井氏は、「インターネットは敵ではなく、インターネットを活用することで広範囲な集客が可能になる」とし、店舗の認知向上や商品情報のピーアールなどにインターネットを活用する必要性を強調。具体的な戦略としては、JTBのウェブサイトで販売している商品の申し込みや相談を実店舗で受け付けるなど、インターネットとのクロスチャネルを強化することで利便性の向上をはかり、集客につなげている。
また、出井氏は「価格のイメージでリアル店舗はネットに負けているのでは」と指摘。「実店舗に置くパンフレットではインターネットのような価格変動型商品に対応できない」ことから、インターネットで販売されている宿泊商品を実店舗で手配旅行として販売したり、ウェブのパンフレットを店舗で印刷し店頭に掲出して宣伝するなど、インターネット商品を実店舗で活用しているという。出井氏によると、安価な商品を購入したいという消費者のニーズに加え、在庫を活用したいというサプライヤーのニーズにも対応した取り組みであり、「宿泊の単品販売がリアル店舗で減っているなか、今年の実績は前年を超えて伸びてきている」という。

取材:本誌 栗本奈央子