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現地レポート:クルーズ、RCIの新造船アリュール・オブ・ザ・シーズ

  • 2011年3月11日
まさに「動くリゾート」の登場
アリュール・オブ・ザ・シーズ


 史上最大の大きさを誇る、ロイヤル・カリビアン・インターナショナル(RCI)の「アリュール・オブ・ザ・シーズ」(アリュール)。昨年12月の就航を前に実施されたプレクルーズに乗船し、ひと足先にその大きさを体験する機会を得た。結論を述べると、その大きさに比例して、これまでにない魅力を秘めたクルーズ客船だと実感できた。よくクルーズは「動くホテル」と例えられるが、アリュールは従来の客船とはまったく異なるスケールを持つ。その大きさをいかし、「動くリゾート」「動くデスティネーション」といっても過言ではない魅力を内包しているのだ。この客船は単に大きさの記録を塗り替えただけでなく、クルーズの可能性をも拡大した。
                            
                               
クルーズ客船の概念を変える巨大さ

 RCIが運航する「アリュール・オブ・ザ・シーズ」は、ちょうど1年前に就航した「オアシス・オブ・ザ・シーズ」(オアシス)の姉妹船で、オアシス・クラスの2隻目にあたる。同クラスの主要目は共通で、総トン数22万5282トン、乗客定員5400人、乗組員数2165人、全長361メートル、全幅63メートル。ただし厳密に比較すると、アリュールの方がオアシスよりも全長が5センチ長いという。文字どおり世界最大の客船というわけだ。

 アリュールのパブリックスペースは基本的にオアシスと同じ仕様になっている。オアシス・クラスの特徴であり、今やRCIの代名詞ともいえる船体中央の6層吹き抜けの空間を利用した洋上公園「セントラル・パーク」、その下に設けられた自然光が差し込む2層吹き抜けのメインストリート「ロイヤル・プロムナード」も引き継がれた。その他、船上でサーフィンが楽しめる「フローライダー」や空中に張られたロープを滑空する「ジップライン」などのスポーツ施設、フィットネス施設、大人専用と子供専用も設けられたプール施設、船尾に設けられた円形劇場など、オアシス登場時に目を見張った各施設も引き継がれている。

 両船の違いは主にレストランの種類で、アリュールでは6デッキ後方のボードウォークと呼ばれるエリアにホットドッグを提供する「ドッグハウス」(オアシスでは「ドーナッツ・ハウス」)が設けられたほか、同じエリア内にあるメキシコ料理レストラン「リタズ・カンティーナ」(オアシスではシーフード・レストランの「シャック」)、15デッキ前方のソラリウムと呼ばれるエリアにあるシュラスコを主体としたブラジル料理レストラン「サンバ・グリル」(オアシスではヘルシー料理を提供するソラリウム・ビストロ)などが異なる。そして5デッキのロイヤル・プロムナード内にはスターバックス・コーヒーが出店し、初の洋上店舗を設けたのもニュースだ。ちなみに、同じく洋上店舗としては、アメリカのファッションブランド「GUESS」も初出店している。

 船内に本物の草木が植えられている点も同じだ。セントラル・パークでは自然の風が吹き抜け、天候や時間に応じて差し込む陽光が変化する。それを眺めていると、洋上ではなくアメリカの大都会のモールにいるかのような気分になってくる。これはとても新鮮だ。


子供も大人も満足のエンターテイメント

 変更点に注目すると、RCIが全社的に提携したドリームワークス・アニメーションの新プログラムを導入したことが挙げられる。映画「シュレック」のシュレックやフィオナ姫、「マダガスカル」のアレックス、マーティ、ペンギンたち、「カンフー・パンダ」のポー、「ヒックとドラゴン」のヒックなどのキャラクターが時には船内をパレードし、イベントや写真撮影などに登場する。また、メイン・ダイニングではこうしたキャラクターをあしらった食事も提供される。今回のクルーズでも、小さな子供たちは大喜びで一緒に写真に収まっていた。家族旅行を考えている顧客にとっては、アリュールを選ぶ格好の動機となるだろう。

 その一方で、大人向きのエンターテイメントも一層充実がはかられた。アリュールの船上でしか観ることのできないプログラムとして、メインシアターの「アンバーシアター」でミュージカル「シカゴ」が上映されるのだ。上映時間がオリジナルよりも多少短縮されるものの、音楽やダンス、ストーリーはオリジナルそのもの。費用対効果の高さがクルーズの売りだが、本場のミュージカルが乗船料だけで楽しめるとなると、大人向きのレジャーとしてますます価値が高まるだろう。さらにRCIオリジナルのショー「ブルー・プラネット」も必見。音楽・ダンス・空中アクロバットを組み合わせて地球の素晴らしさを表現するストーリー仕立てになっており、3層吹き抜けのシアターの構造を上手く利用した迫力ある演出がなされている。



クルーズの魅力を広げるアリュール

 今回のプレクルーズには約4000人の乗客が乗り込んでいた。乗客定員が5400人のアリュールからすれば、4000人という数字は7割強に過ぎないが、アリュールに次ぐ世界第2位の客船「フリーダム・オブ・ザ・シーズ」の乗客定員が3634人だということを考えると、その数の多さ、この船の大きさがよくわかる。しかし、アリュールの船上ではプールサイドもレストランも、ロイヤル・プロムナードでも混雑を感じることはなかった。船体の大きさをいかして、各施設がゆとりあるスペースを確保しているのはもちろんだが、むしろ多様な施設を用意することで、乗客を分散し、1ヶ所に集中しないようにした結果だろう。同じことは下船時にもいえ、決して混雑さを感じさせないオペレーションは見事だ。

 その一方で、超大型船ならではの注意点も確かに存在する。例えば客室の位置だ。アリュールはパブリックスペースと客室をデッキごとに上下に分離したホリゾンタル配置を採用している。そのためダイニングやシアターなどのパブリックスペースへ出かけるにはエレベーターもしくは階段の利用が欠かせないため、船体の前後2ヶ所にあるエレベーターホールに近い客室の方が便利だといえる。特に歩行に配慮が必要な乗客にはひとこと、アドバイスをした方が良いだろう。また、予約制のレストランは早めに予約を入れることをすすめたい。

 客室の種類については、ジャクジーの付いた専用デッキも備わるロフト形式の「ロイヤル・ロフト・スイート」から、もっとも安価な「スタンダード・インサイド」まで、アリュールにはたくさん用意されていて、どれを選べばいいか迷う顧客もいるかもしれない。そんな時は、クルーズが初めての顧客にはアウトサイドの客室を、クルーズのリピーターには、インサイドにありながらセントラル・パークやボードウォークの風景が望める船体内側のバルコニー付き客室を、すすめてみればどうだろうか。初めての顧客には海が見える客室で過ごすことでトータルのクルーズの魅力を実感してもらい、逆にリピーターにはアリュールならではの魅力を示すことで、クルーズの幅広い楽しみを知ってもらうのだ。

 なお、世界最大の客船といっても、アリュールはスタンダード・クラスに属する客船なので、かしこまる必要はまったくない。服装についても男性はチノパンとブレザーがあれば十分だし、女性もそれに準じていれば、何の心配もない。もちろんオシャレに凝るのも自由だ。しかし、日中はTシャツと短パンで何の問題もない。カリブの太陽の下、心を解放して遊ぼう。

 船名のアリュールとは「魅惑」という意味を持つ。新しいクルーズ文化の創造でより多くの人々を、惹き付けることを期待したい。


取材協力:ロイヤル・カリビアン・インターナショナル
取材:竹井智