ベストシーズン再発見(最終回)世界屈指の美食の国で秋の味覚を堪能する
海外旅行の大きな楽しみの1つに「食」がある。伝統の郷土料理を味わったり、異国の珍しい料理を体験したり、採れたての旬の食材を使った料理に舌鼓を打ったり──。こうしたグルメを目的とする旅のベストシーズンを考える場合、やはりお目当ての食材が最もおいしく食べられる時期ということになるだろう。そこで、最終回は世界にその名を知られたヨーロッパのグルメ大国、イタリアのトスカーナ地方とフランスのブルゴーニュ地方にスポットを当て、「旬の味覚を堪能する」をテーマに、ベストシーズンを考えてみたい。
〜顧客が希望する出発月から、最適なデスティネーションを提案〜
この連載では、世界的なビジュアル誌「ナショナルジオグラフィック」の書籍「世界のベストシーズン&プラン」の記事をもとに、様々な視点から世界の旅行先の「ベストシーズン」を考えていく。
イタリアのトスカーナでキノコ類やジビエ料理を堪能するなら、10月
イタリアといえば、その土地と密着した食材から郷土色豊かなおいしい料理が生まれるところ。なかでも、ルネサンスの町フィレンツェとレンガ造りのゴシックの町シエナという2大都市を持つトスカーナ地方は、芸術と並んでグルメもたっぷりと楽しめる地域だ。本書では、この地で過ごす美食三昧の旅の魅力を、次のように紹介している。
「トスカーナには、どの地方、どの町にも名物がある。ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナは分厚いステーキで、極上のオリーブオイルを振りかけ、栗の薪の熾火(おきび)で焼く。プラート村のカントゥッチは甘口ワインのビン・サントに浸して食べるビスケット、ピチはシエナ周辺の丘の村のパスタ。スパイスやクルミ、砂糖漬けのフルーツを混ぜて焼くかみごたえのあるケーキ、パンフォルテもシエナ名物だ」
このように、数多くの名物料理を誇るトスカーナ地方だが、特産のポルチーニ茸やジビエ(鳥獣)料理などを思う存分味わいたいなら、それらが旬の10月がベストシーズンとなる。「10月はキノコ類がとてもおいしい時期。とりわけ、トリノ南東のグルメの町アルバ周辺で採れる、珍味中の珍味といわれる白トリュフは世界的に有名で、アルバでは、毎年10月から11月にかけて『白トリュフ市』が開催されるほか、白トリュフのオークションも行なわれる」(イタリア政府観光局プレス・オフィサーの三浦真樹子氏)。とても高価な食材なので、普段はなかなかお目にかかることのない白トリュフだが、この時期にアルバを訪れると、路上の露店でもお目にかかることができるという。
10月のトスカーナは、ブドウの収穫の季節でもある。フィレンツェからシエナまでの国道は通称「キアンティ街道」と呼ばれ、あの「キアンティ・クラッシコ」を生産する醸造業者などのワイナリーが沿道に点在している。本書では、「壮大なルネサンスの館や中世の城がホテルとして開放され、ブドウ畑では豪華なグリーンツーリズムを堪能できる」と、ワイナリー巡りの魅力も紹介している。
イタリアの食といえば、スローフード運動が話題となって久しい。これは、その土地やその町でしか味わえない伝統的な食材や食文化を見直し、作り手を保護するというもので、1986年、ピエモンテ州のブラの町ではじまった。ツアーを企画する際にも、この精神に則って、イタリアならではの料理を積極的に取り入れていきたい。
フランスのブルゴーニュで秋の味覚を楽しむなら、11月
イタリアと並んで、世界的な美食の国フランス。とりわけ、ボルドーと並ぶ世界的なワイン銘醸地のブルゴーニュ地方は、フランスで最も豊穣な美食エリアとして知られる。イタリア・トスカーナ地方と同様に、代表的な秋の味覚にはキノコ類やジビエ料理などがあるが、そのベストシーズンについて、本書では次のように紹介している。
「11月は狩猟解禁期の真っ最中で、ジビエ料理がおいしい季節。キノコ類も豊富に採れ、世界に名高いコートドールのブドウ畑も収穫の時期を迎えている。旅をするにはもってこいの季節だ」
グルメの旅の基点となるのが主府のディジョンだ。かつてはブルゴーニュ公国の首都だったところで、ノートルダム教会やディジョン大聖堂など見どころにも事欠かない美しい街として知られる。本書では、この街の名物料理についても詳しく紹介している。
「(ディジョン名物の)有名なマスタードは、発酵前のブドウ果汁を使って作られている。ほかにテーブルに上がるのはブッフ・ブルギニョン(牛肉の赤ワイン煮)や、コッコ・バン(鶏肉のワイン煮)、エスカルゴのブルゴーニュ風、野生キノコなど豊かな料理の数々だ」
ディジョン周辺では、食をテーマとしたさまざまなイベントも秋に開催される。なかでも有名なのが「ディジョン国際グルメフェア」。毎年11月の最初の2週間にわたって行なわれ、20万人の来場者を集めるという。ワイン好きには、ボーヌで11月に開催されるチャリティーワインオークションも見逃せない。
ブルゴーニュの旅の楽しみは、「食」以外にもたくさんある。例えば、全長242キロのブルゴーニュ運河を、運河船や遊覧船でのんびりと巡る旅。本書でも、運河クルーズの魅力について詳しく紹介しているが、クルーズを満喫する旅と秋の味覚を楽しむ旅のベストシーズンは少し異なるようだ。フランス観光開発機構広報担当の佐藤由紀子氏は「ワインと秋の食材を使った料理を旅のメインの目的とするなら11月がベストだが、運河クルーズに限っていえば、11月はやや肌寒い。運河沿いの木々の紅葉を楽しみたいなら9月がベストだし、日が長くて気候が最も快適なのは6月」と、指摘する。
佐藤氏によると、パリから列車で1時間30分ほどというアクセスの良さも手伝って、ブルゴーニュ地方を訪れる日本人観光客は年々増えているという。ブルゴーニュ地方に限らず、多様な観光資源を持つデスティネーションを顧客に案内する際には、旅の目的を明確に聞き出した上で、それに基づいてベストシーズンを提案できるようにしたいものだ。
▽これまでの「ベストシーズン再発見」
◆ベストシーズン再発見(5)世界の山岳リゾートでウィンタースポーツを満喫(2010//02/05)
◆ベストシーズン再発見(4)オーロラ、白夜─―北極圏の自然現象を体験(2010//01/15)
◆ベストシーズン再発見(3)一生に一度は見たい、世界の祭りやイベント(後編)(2010/12/25)
◆ベストシーズン再発見(2)一生に一度は見たい、世界の祭りやイベント(前編)(2010/12/04)
◆ベストシーズン再発見(1)限られた時期しか見られない貴重な野生動物の姿(2010/11/20)
〜顧客が希望する出発月から、最適なデスティネーションを提案〜
この連載では、世界的なビジュアル誌「ナショナルジオグラフィック」の書籍「世界のベストシーズン&プラン」の記事をもとに、様々な視点から世界の旅行先の「ベストシーズン」を考えていく。
イタリアのトスカーナでキノコ類やジビエ料理を堪能するなら、10月
イタリアといえば、その土地と密着した食材から郷土色豊かなおいしい料理が生まれるところ。なかでも、ルネサンスの町フィレンツェとレンガ造りのゴシックの町シエナという2大都市を持つトスカーナ地方は、芸術と並んでグルメもたっぷりと楽しめる地域だ。本書では、この地で過ごす美食三昧の旅の魅力を、次のように紹介している。
「トスカーナには、どの地方、どの町にも名物がある。ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナは分厚いステーキで、極上のオリーブオイルを振りかけ、栗の薪の熾火(おきび)で焼く。プラート村のカントゥッチは甘口ワインのビン・サントに浸して食べるビスケット、ピチはシエナ周辺の丘の村のパスタ。スパイスやクルミ、砂糖漬けのフルーツを混ぜて焼くかみごたえのあるケーキ、パンフォルテもシエナ名物だ」
このように、数多くの名物料理を誇るトスカーナ地方だが、特産のポルチーニ茸やジビエ(鳥獣)料理などを思う存分味わいたいなら、それらが旬の10月がベストシーズンとなる。「10月はキノコ類がとてもおいしい時期。とりわけ、トリノ南東のグルメの町アルバ周辺で採れる、珍味中の珍味といわれる白トリュフは世界的に有名で、アルバでは、毎年10月から11月にかけて『白トリュフ市』が開催されるほか、白トリュフのオークションも行なわれる」(イタリア政府観光局プレス・オフィサーの三浦真樹子氏)。とても高価な食材なので、普段はなかなかお目にかかることのない白トリュフだが、この時期にアルバを訪れると、路上の露店でもお目にかかることができるという。
10月のトスカーナは、ブドウの収穫の季節でもある。フィレンツェからシエナまでの国道は通称「キアンティ街道」と呼ばれ、あの「キアンティ・クラッシコ」を生産する醸造業者などのワイナリーが沿道に点在している。本書では、「壮大なルネサンスの館や中世の城がホテルとして開放され、ブドウ畑では豪華なグリーンツーリズムを堪能できる」と、ワイナリー巡りの魅力も紹介している。
イタリアの食といえば、スローフード運動が話題となって久しい。これは、その土地やその町でしか味わえない伝統的な食材や食文化を見直し、作り手を保護するというもので、1986年、ピエモンテ州のブラの町ではじまった。ツアーを企画する際にも、この精神に則って、イタリアならではの料理を積極的に取り入れていきたい。
フランスのブルゴーニュで秋の味覚を楽しむなら、11月
イタリアと並んで、世界的な美食の国フランス。とりわけ、ボルドーと並ぶ世界的なワイン銘醸地のブルゴーニュ地方は、フランスで最も豊穣な美食エリアとして知られる。イタリア・トスカーナ地方と同様に、代表的な秋の味覚にはキノコ類やジビエ料理などがあるが、そのベストシーズンについて、本書では次のように紹介している。
「11月は狩猟解禁期の真っ最中で、ジビエ料理がおいしい季節。キノコ類も豊富に採れ、世界に名高いコートドールのブドウ畑も収穫の時期を迎えている。旅をするにはもってこいの季節だ」
グルメの旅の基点となるのが主府のディジョンだ。かつてはブルゴーニュ公国の首都だったところで、ノートルダム教会やディジョン大聖堂など見どころにも事欠かない美しい街として知られる。本書では、この街の名物料理についても詳しく紹介している。
「(ディジョン名物の)有名なマスタードは、発酵前のブドウ果汁を使って作られている。ほかにテーブルに上がるのはブッフ・ブルギニョン(牛肉の赤ワイン煮)や、コッコ・バン(鶏肉のワイン煮)、エスカルゴのブルゴーニュ風、野生キノコなど豊かな料理の数々だ」
ディジョン周辺では、食をテーマとしたさまざまなイベントも秋に開催される。なかでも有名なのが「ディジョン国際グルメフェア」。毎年11月の最初の2週間にわたって行なわれ、20万人の来場者を集めるという。ワイン好きには、ボーヌで11月に開催されるチャリティーワインオークションも見逃せない。
ブルゴーニュの旅の楽しみは、「食」以外にもたくさんある。例えば、全長242キロのブルゴーニュ運河を、運河船や遊覧船でのんびりと巡る旅。本書でも、運河クルーズの魅力について詳しく紹介しているが、クルーズを満喫する旅と秋の味覚を楽しむ旅のベストシーズンは少し異なるようだ。フランス観光開発機構広報担当の佐藤由紀子氏は「ワインと秋の食材を使った料理を旅のメインの目的とするなら11月がベストだが、運河クルーズに限っていえば、11月はやや肌寒い。運河沿いの木々の紅葉を楽しみたいなら9月がベストだし、日が長くて気候が最も快適なのは6月」と、指摘する。
佐藤氏によると、パリから列車で1時間30分ほどというアクセスの良さも手伝って、ブルゴーニュ地方を訪れる日本人観光客は年々増えているという。ブルゴーニュ地方に限らず、多様な観光資源を持つデスティネーションを顧客に案内する際には、旅の目的を明確に聞き出した上で、それに基づいてベストシーズンを提案できるようにしたいものだ。
執筆:浅山真
立教大学観光学科卒業後、東急観光入社。1990年日経BP社入社。「旅名人」副編集長などを経て、2009年1月に日経ナショナルジオグラフィック社の企画編集ディレクターに就任。
http://www.nationalgeographic.jp/
出典:「世界のベストシーズン&プラン」 2010年10月発行
英BBC放送の旅番組のプロデューサーなどを務める著名な旅行ライターが、世界の人気観光地について「ベストシーズン」をキーワードに厳選した海外旅行の指南書。旅のタイプを6つに分類し、各月ごとにおすすめの場所をモデルプラン付きで紹介している。
立教大学観光学科卒業後、東急観光入社。1990年日経BP社入社。「旅名人」副編集長などを経て、2009年1月に日経ナショナルジオグラフィック社の企画編集ディレクターに就任。
http://www.nationalgeographic.jp/
出典:「世界のベストシーズン&プラン」 2010年10月発行
英BBC放送の旅番組のプロデューサーなどを務める著名な旅行ライターが、世界の人気観光地について「ベストシーズン」をキーワードに厳選した海外旅行の指南書。旅のタイプを6つに分類し、各月ごとにおすすめの場所をモデルプラン付きで紹介している。
▽これまでの「ベストシーズン再発見」
◆ベストシーズン再発見(5)世界の山岳リゾートでウィンタースポーツを満喫(2010//02/05)
◆ベストシーズン再発見(4)オーロラ、白夜─―北極圏の自然現象を体験(2010//01/15)
◆ベストシーズン再発見(3)一生に一度は見たい、世界の祭りやイベント(後編)(2010/12/25)
◆ベストシーズン再発見(2)一生に一度は見たい、世界の祭りやイベント(前編)(2010/12/04)
◆ベストシーズン再発見(1)限られた時期しか見られない貴重な野生動物の姿(2010/11/20)