取材ノート:カナダ、業界重視の施策にシフト−いかに「期待」に応えるか

旅行会社への期待とその具体策
観光局やサプライヤーなど受け入れ側の投資配分は、いうまでもなく送客への期待によって決まる。旅行会社に頼らずともやっていけると思えば別の場所に注力する。この数年、日本人訪問者が減少していた中で、試行錯誤の結果として、従来の旅行会社経由以外の集客に期待する場合もあっただろう。

もちろん、2009年の前後に旅行会社経由の送客が突然増えたわけではなく、CTC日本事務所の体制の変化とともに「旅行業界への対応の重要性を認識した」という。カナダは種々の調査で「いつか行ってみたい国」で常に上位にありながら、それがそのまま「今、行く」需要にならないジレンマを抱えており、この解決も期待されている。現在では、業界向けの教育制度であるカナダ・スペシャリスト・プログラム(CSP)をはじめとする業界向けの施策を強化しており、CTCと各州観光局からなる「チーム・カナダ」も2010年1月に発足している。
チーム・カナダは、CTCと各州観光局が包括的にカナダ旅行を促進しようとするもので、それぞれの垣根を超えて需要喚起に取り組んでいる。チーム・カナダへの評価はショーケースの会場でも聞かれ、周遊コースの増加などに繋がっているという。また、CSPも2011年は現行より上級の「レベル2」も開始する計画だ。
サプライヤーの変わらぬ「期待」

ショーケースに参加したセラーからも、日本市場の復調と今後への期待の声が多く聞かれた。日本の旅行会社との商談を目的に集まったセラーなので当然であるが、「日本人は理想的な旅行者」「日本市場が好調であった頃のイメージが根づいている」などのほか、創業10年で日本市場に参入したばかりというサプライヤーからは、「日本市場は“ベンチマーク”であり、日本市場で受け入れられれば他のどの市場でも問題ない。ようやく参入する自信がついた」とのコメントもあった。

一方で、旅行会社への注文として聞かれたのは、「目先の儲けばかり」「10年以上アイテナリーに変化がない」など。共通するのは、安定して売れる定番コースばかりで代わり映えせず、新しいカナダの魅力を伝えようとする意欲が感じられない、といった意見だ。ただし、そうした声を発するセラーの多くが、同時に「カナダファンの旅行会社が減ってしまった」と嘆き、あるいは「もっと自信を持つべき」とエールを送っており、「愛」のある諫言と感じられた。この「愛」をないがしろにすれば、いつか期待もついえてしまうかもしれないことは肝に銘じておきたいところだ。
日本市場の存在感アピールを

しかし、こうした変化は避けられないものだ。日本は成熟市場とよくいわれ、相応の期待がかかってはいるものの、日本以外のアジア市場が急成長していれば、そちらにも目が向くのが自然だろう。事実、ショーケースの1セラーあたりの平均アポイント数は、参加バイヤー数の差異もあるが、日本が42件であるのに対し、韓国とインドは52件、中国は65件となり、勢いの差を見せつけている。
ただし、こうした変化を好機と捉えることも可能だ。もともと日中韓で別々に開催していたものを統合してインドを加えたことで、セラーにとっての出展費用が軽減された。これは、セラーにとって、これまで目を向けていなかった市場にも取り組んでみようと考えるきっかけになり得る。2010年は、日本向けセラーが結果として84社となり、前年よりも増加した。また、セラーにとっては、異なる市場を取り扱うことで、ある市場での成功事例を他市場で生かせるメリットもある。
さらに、日本の旅行業界にとって、こうした場は日本市場の存在感が表れる場でもある。CTCでも「質の高いバイヤーを集められた」とし、北京での開催にもかかわらず日本から参加したバイヤーの意欲がセラーに伝わったことを評価している。バイヤーとしての参加は、日本市場と日本の旅行会社の「送客する」意思を示すに手段にもなるのだ。

取材:本誌 松本裕一