取材ノート:カナダ、業界重視の施策にシフト−いかに「期待」に応えるか

  • 2011年2月17日
 カナダ観光局(CTC)が、活動の力点を旅行業界にシフトしている。業界環境の変化の中で、一般的に観光局やサプライヤーの目が消費者に向けられがちの感があるが、CTCはそれを切り替えた。こうした方針転換はどのような意味を持つのか。旅行会社に対する「期待」ともいえるこうした方針を、旅行会社はどのように受け取り、それに応えていくべきか。昨年10月に北京でCTCが開催したマーケットプレイス「ショーケース・カナダ(Showcase Canada)」での取材も踏まえて考察する。
                        
                       
旅行会社への期待とその具体策

 観光局やサプライヤーなど受け入れ側の投資配分は、いうまでもなく送客への期待によって決まる。旅行会社に頼らずともやっていけると思えば別の場所に注力する。この数年、日本人訪問者が減少していた中で、試行錯誤の結果として、従来の旅行会社経由以外の集客に期待する場合もあっただろう。

 CTCでも、2009年の業界向け予算は全体の約25%にとどまった。しかし、CTCはそれを2010年に約33%に拡大し、さらに2011年には実に70%超を、マーケティングを含めて業界向けに投じようとしている。この揺り戻しの理由について、CTC前日本代表のアンソニー・リッピンゲール氏は、「カナダへの送客のうち、80%は旅行会社を経由しているため」と説明する。

 もちろん、2009年の前後に旅行会社経由の送客が突然増えたわけではなく、CTC日本事務所の体制の変化とともに「旅行業界への対応の重要性を認識した」という。カナダは種々の調査で「いつか行ってみたい国」で常に上位にありながら、それがそのまま「今、行く」需要にならないジレンマを抱えており、この解決も期待されている。現在では、業界向けの教育制度であるカナダ・スペシャリスト・プログラム(CSP)をはじめとする業界向けの施策を強化しており、CTCと各州観光局からなる「チーム・カナダ」も2010年1月に発足している。

 チーム・カナダは、CTCと各州観光局が包括的にカナダ旅行を促進しようとするもので、それぞれの垣根を超えて需要喚起に取り組んでいる。チーム・カナダへの評価はショーケースの会場でも聞かれ、周遊コースの増加などに繋がっているという。また、CSPも2011年は現行より上級の「レベル2」も開始する計画だ。


サプライヤーの変わらぬ「期待」

 カナダの日本人訪問者数は、1996年の約65万人をピークとしてコンスタントに減少を続け、2009年には約20万人にまで落ち込んだ。その間、CTCや各州観光局、そしてサプライヤーは日本市場に投資をし続け、その効果もあって2010年は23%増の24万人とようやくプラスに転じた。CTC本局の日本・韓国・南米地区代表のシボーン・クレチェン氏は、日本市場がハイイールドであり、「常に重要な市場であった」とし、回復基調を喜ぶ。

 ショーケースに参加したセラーからも、日本市場の復調と今後への期待の声が多く聞かれた。日本の旅行会社との商談を目的に集まったセラーなので当然であるが、「日本人は理想的な旅行者」「日本市場が好調であった頃のイメージが根づいている」などのほか、創業10年で日本市場に参入したばかりというサプライヤーからは、「日本市場は“ベンチマーク”であり、日本市場で受け入れられれば他のどの市場でも問題ない。ようやく参入する自信がついた」とのコメントもあった。

 一方で、旅行会社への注文として聞かれたのは、「目先の儲けばかり」「10年以上アイテナリーに変化がない」など。共通するのは、安定して売れる定番コースばかりで代わり映えせず、新しいカナダの魅力を伝えようとする意欲が感じられない、といった意見だ。ただし、そうした声を発するセラーの多くが、同時に「カナダファンの旅行会社が減ってしまった」と嘆き、あるいは「もっと自信を持つべき」とエールを送っており、「愛」のある諫言と感じられた。この「愛」をないがしろにすれば、いつか期待もついえてしまうかもしれないことは肝に銘じておきたいところだ。



日本市場の存在感アピールを

 CTCにとっては、ショーケースのようなマーケットプレイスも業界向けの活動として重要な位置を占めるが、それ自体のあり方も変化している。ショーケースはもともと、2008年までは日本だけでなく各地でその市場に特化した「KANATA」として実施してきたものであったが、2009年に日中韓の旅行会社を招くショーケースに衣替えして東京で初開催。2010年には対象市場にインドを加えた。こうした変化に伴い開催地が国外となったため、結果として日本人バイヤーの数は54名となり、2009年から減少してしまった。

 しかし、こうした変化は避けられないものだ。日本は成熟市場とよくいわれ、相応の期待がかかってはいるものの、日本以外のアジア市場が急成長していれば、そちらにも目が向くのが自然だろう。事実、ショーケースの1セラーあたりの平均アポイント数は、参加バイヤー数の差異もあるが、日本が42件であるのに対し、韓国とインドは52件、中国は65件となり、勢いの差を見せつけている。

 ただし、こうした変化を好機と捉えることも可能だ。もともと日中韓で別々に開催していたものを統合してインドを加えたことで、セラーにとっての出展費用が軽減された。これは、セラーにとって、これまで目を向けていなかった市場にも取り組んでみようと考えるきっかけになり得る。2010年は、日本向けセラーが結果として84社となり、前年よりも増加した。また、セラーにとっては、異なる市場を取り扱うことで、ある市場での成功事例を他市場で生かせるメリットもある。

 さらに、日本の旅行業界にとって、こうした場は日本市場の存在感が表れる場でもある。CTCでも「質の高いバイヤーを集められた」とし、北京での開催にもかかわらず日本から参加したバイヤーの意欲がセラーに伝わったことを評価している。バイヤーとしての参加は、日本市場と日本の旅行会社の「送客する」意思を示すに手段にもなるのだ。

 今年、CTC日本地区の新代表に就任したモリーン・ライリー氏も、日本市場において業界重視の方針を継続する意向で、2011年度は研修やセミナーなどの旅行業界へのサポートを中心に予算をあてていく考え。メディアピーアールにおいても、ツアーの販促支援ができる形で連動していくという。この期待に対し、業界がどう対応していくかが、今後の送客環境を左右するといえるだろう。





取材:本誌 松本裕一