取材ノート:外資系金融のMICEがサプライヤーに求めるもの−MPIセミナー
MPI Japanは昨年12月に開催した創立15周年記念セミナーで、「プロの企業イベント・プランナーが会場/施設に求めるモノ・コト」と題するパネルディスカッションを開催した。パネリストにはメリルリンチ日本証券アジア太平洋地区イベントマネージャーの山本牧子氏、ゴールドマン・サックス・ジャパン・ホールディングス−コーポレートサービス・アンド・リアルエステート・アソシエートの井上美奈子氏、ブルームバーグL.P.イベント・プランナーの本山裕子氏の3名が登壇。MICEイベントが先進している外資系金融業界での経験をもとに、現場での実感を語った。モデレーターは日本コンベンションサービス執行役員の新井立夫氏が務めた。
返事と見積もりはスピード第一
モバイル端末の活用を
冒頭で、新井氏が金融業界のイベント・コーディネーターとして求められることを問うと、井上氏はまずスピードの重要性を強調した。井上氏の業務では、「社内クライアントからイベントの依頼があったら、1時間以内に見積もりまで含めて返事をする」という。この際に大事なのは、見積もりの詳細。担当者はできるだけ早く上司から予算込みで承認を得なければならないので、井上氏は「部屋の料金まで必ず出す」と徹底する。そのためホテル側にも素早い回答を求めており、よく利用するホテルではその点を理解してもらえるという。また、急ぐだけでなく、特に数字に関しては正確さも必須だ。
山本氏もスピードとフットワークを重視。サプライヤーとの打ち合わせ後、「会社に戻った時には打ち合わせで質問した内容の返事が届いている」状態を最良とする。そのため山本氏自身もメールのチェックは欠かさないが、サプライヤーの営業担当者に対しては、「モバイル端末を持つこと」を推奨。「モバイルでの迅速な返答と、それに加えてフェイス・トゥ・フェイスの営業をしてほしい」と成約へのポイントを明かす。
「分かったつもり」は禁物
双方の意向を再確認
井上氏はさらに、金融業界では「クライアントはイベントが本業ではない」ことを念頭に、通訳の要不要、食事、参加人数、スピーカーは外国人か日本人かなど、イベント・コーディネーター側から一つ一つ細かく聞いて確認を取るという。MICE関係者にとっては暗黙の了解があっても、同様の感覚でクライアントと接していると誤解が生じておかしくない。井上氏は、直前で参加人数の倍増を言い渡されて戸惑った経験もあり、相互確認の必要性をあらためて痛感したという。
サプライヤーとの間でも、ニーズの再確認が欠かせない。山本氏は、「『前回と同じ』といわれて分かっているつもりでも、お互いの認識が違うケースがあった」と述懐する。また、同じ文面のメールを送っても、受け取る側の解釈は人によってさまざま。山本氏は、メールだけで済ませず「ちょっとしたことでも電話をして確認することも必要」と説き、営業の秘訣として「質問をたくさんする聞き上手」をあげる。質問をすることで、相手のニーズの把握につながるとの考えだ。
サプライヤーとの信頼構築
困難をともに乗り越える関係に
サプライヤーとのパートナーシップにおいて、本山氏は具体的な情報提供を求める。情報を最も蓄えているのは現場のサプライヤーであり、なかでも「成功事例を打ち合わせの段階で教えてもらうこと」が、記憶に残るイベントを創りあげるのに役立つという。もう一点大切なのは、協力してチャレンジする姿勢。アイディアは実現可能であることが前提条件だが、たとえ未経験の企画であっても、本山氏は「やってみよう」という意欲で、ともに成功を築いていく関係でありたいという。
「リスクをとってやってくれるかどうか」は、山本氏も言及する点だ。いいかえれば「問題解決を一緒にしてくれる人」であり、困難を共有して乗り越えたとき、「満足を超えて感動になる。感動になったとき、リピーターになる」という。山本氏は実例として、「参加者におみやげを渡したい」という突然のクライアントの要望に対し、サプライヤーが奔走してくれたおかげで、時間までに予算どおりの品を用意することができて感謝したというエピソードを語った。
井上氏も、リーマンショックなどの苦難の時に支えてくれたサプライヤーとはあつい信頼が生まれると述べ、今後も長期的な関係を保っていきたいとする。また、担当者が有能であることも信用につながる要素。あるホテルで10年以上バンケットに携わる担当者は、主催者側までよく把握しており、「3年前のクライアントでも覚えていて、前回を踏まえた提案をしてくれた」という。
成功を左右する「食」と
現場でのサービス
MICEでは、会食も期待の集まるシーンだ。新井氏が食事の手配について訊ねると、山本氏は「食によって満足度が高まる」と明言。「シェフがフレンドリーで社交的だと、気軽にメニューの要望を伝えられる」として、積極的なコミュニケーションに価値を置く。そのために、時にはホテルの営業マンを通さず、直接シェフと連絡を取ることも。コーディネーターとして過去の事例からその主催者に最適なメニューを選び出す場合もあり、「参加者の好みを聞いてくれるシェフだと助かる」という。
食事において、旅行会社の奮闘が成功を導いたケースもある。北海道で開催したMICEで、山本氏はウニやカニなど特産物のお料理を参加者に楽しんでもらいたいと提案。ホテル側では前例がなかったが、旅行会社の交渉により、寿司職人を呼んでの握り寿司からジンギスカンまで、持ち込みが実現した。その結果、「メリルリンチでのイベントで初めて、ドアを開けたとたん参加者が走った」ほど大好評だったという。食へのこだわりと、課題に直面した時にあきらめず協力してくれたパートナーシップが成果に表れたといえる。
また、本山氏は現場でのサービスが参加者の印象に残ることに触れ、「海外の人から日本人のサービス担当者を連れて帰りたいといわれ、クオリティの高さを再認識した」と日本のサービスに信頼を寄せる。現場スタッフの裁量が大きいのも日本の仕事の特徴とし、「誰であっても一人に頼むと全員に伝わって動いてくれる」と評価する。
最後に新井氏は、総括して「やはり人が大事」と結び、思い出深いイベントを連携意識によって創出することを呼びかけた。
返事と見積もりはスピード第一
モバイル端末の活用を
冒頭で、新井氏が金融業界のイベント・コーディネーターとして求められることを問うと、井上氏はまずスピードの重要性を強調した。井上氏の業務では、「社内クライアントからイベントの依頼があったら、1時間以内に見積もりまで含めて返事をする」という。この際に大事なのは、見積もりの詳細。担当者はできるだけ早く上司から予算込みで承認を得なければならないので、井上氏は「部屋の料金まで必ず出す」と徹底する。そのためホテル側にも素早い回答を求めており、よく利用するホテルではその点を理解してもらえるという。また、急ぐだけでなく、特に数字に関しては正確さも必須だ。
山本氏もスピードとフットワークを重視。サプライヤーとの打ち合わせ後、「会社に戻った時には打ち合わせで質問した内容の返事が届いている」状態を最良とする。そのため山本氏自身もメールのチェックは欠かさないが、サプライヤーの営業担当者に対しては、「モバイル端末を持つこと」を推奨。「モバイルでの迅速な返答と、それに加えてフェイス・トゥ・フェイスの営業をしてほしい」と成約へのポイントを明かす。
「分かったつもり」は禁物
双方の意向を再確認
井上氏はさらに、金融業界では「クライアントはイベントが本業ではない」ことを念頭に、通訳の要不要、食事、参加人数、スピーカーは外国人か日本人かなど、イベント・コーディネーター側から一つ一つ細かく聞いて確認を取るという。MICE関係者にとっては暗黙の了解があっても、同様の感覚でクライアントと接していると誤解が生じておかしくない。井上氏は、直前で参加人数の倍増を言い渡されて戸惑った経験もあり、相互確認の必要性をあらためて痛感したという。
サプライヤーとの間でも、ニーズの再確認が欠かせない。山本氏は、「『前回と同じ』といわれて分かっているつもりでも、お互いの認識が違うケースがあった」と述懐する。また、同じ文面のメールを送っても、受け取る側の解釈は人によってさまざま。山本氏は、メールだけで済ませず「ちょっとしたことでも電話をして確認することも必要」と説き、営業の秘訣として「質問をたくさんする聞き上手」をあげる。質問をすることで、相手のニーズの把握につながるとの考えだ。
サプライヤーとの信頼構築
困難をともに乗り越える関係に
サプライヤーとのパートナーシップにおいて、本山氏は具体的な情報提供を求める。情報を最も蓄えているのは現場のサプライヤーであり、なかでも「成功事例を打ち合わせの段階で教えてもらうこと」が、記憶に残るイベントを創りあげるのに役立つという。もう一点大切なのは、協力してチャレンジする姿勢。アイディアは実現可能であることが前提条件だが、たとえ未経験の企画であっても、本山氏は「やってみよう」という意欲で、ともに成功を築いていく関係でありたいという。
「リスクをとってやってくれるかどうか」は、山本氏も言及する点だ。いいかえれば「問題解決を一緒にしてくれる人」であり、困難を共有して乗り越えたとき、「満足を超えて感動になる。感動になったとき、リピーターになる」という。山本氏は実例として、「参加者におみやげを渡したい」という突然のクライアントの要望に対し、サプライヤーが奔走してくれたおかげで、時間までに予算どおりの品を用意することができて感謝したというエピソードを語った。
井上氏も、リーマンショックなどの苦難の時に支えてくれたサプライヤーとはあつい信頼が生まれると述べ、今後も長期的な関係を保っていきたいとする。また、担当者が有能であることも信用につながる要素。あるホテルで10年以上バンケットに携わる担当者は、主催者側までよく把握しており、「3年前のクライアントでも覚えていて、前回を踏まえた提案をしてくれた」という。
成功を左右する「食」と
現場でのサービス
MICEでは、会食も期待の集まるシーンだ。新井氏が食事の手配について訊ねると、山本氏は「食によって満足度が高まる」と明言。「シェフがフレンドリーで社交的だと、気軽にメニューの要望を伝えられる」として、積極的なコミュニケーションに価値を置く。そのために、時にはホテルの営業マンを通さず、直接シェフと連絡を取ることも。コーディネーターとして過去の事例からその主催者に最適なメニューを選び出す場合もあり、「参加者の好みを聞いてくれるシェフだと助かる」という。
食事において、旅行会社の奮闘が成功を導いたケースもある。北海道で開催したMICEで、山本氏はウニやカニなど特産物のお料理を参加者に楽しんでもらいたいと提案。ホテル側では前例がなかったが、旅行会社の交渉により、寿司職人を呼んでの握り寿司からジンギスカンまで、持ち込みが実現した。その結果、「メリルリンチでのイベントで初めて、ドアを開けたとたん参加者が走った」ほど大好評だったという。食へのこだわりと、課題に直面した時にあきらめず協力してくれたパートナーシップが成果に表れたといえる。
また、本山氏は現場でのサービスが参加者の印象に残ることに触れ、「海外の人から日本人のサービス担当者を連れて帰りたいといわれ、クオリティの高さを再認識した」と日本のサービスに信頼を寄せる。現場スタッフの裁量が大きいのも日本の仕事の特徴とし、「誰であっても一人に頼むと全員に伝わって動いてくれる」と評価する。
最後に新井氏は、総括して「やはり人が大事」と結び、思い出深いイベントを連携意識によって創出することを呼びかけた。
取材:福田晴子