取材ノート:CITM2010、旅行への熱い意欲−活気が業界のパワーに
2010年度の中国国際トラベルマート(CITM)は、11月18日から21日まで、上海新国際エクスポセンターで開催された。5万7500平方メートルの広大な会場には、2243にのぼる展示ブースが並び、活気にあふれるイベントとなった。アジア最大規模の総合的なトラベルマートに成長したCITMには数多くの注目すべき点がある。開催期間中に発信したニュース記事に盛り込みきれなかったものを、取材ノートからまとめてみた。
国内外の「旅行」への意欲を汲み取る
今回のCITMの会場に入ってまず感じたのは、中国の人々の「旅行」に対する熱い思いだ。一般公開の日に取材できなかったので、市民の関心に直接触れることができなかったのは非常に残念だが、エージェントたちの情報収集への意欲的な姿を見ると、彼らの背を押している消費者の存在を感じないではいられなかった。
会場は5つの建物に分かれており、入口に一番近い2つの建物には中国国内の各地域、都市などの観光局のブースが集められていた。どのブースもそれぞれの特徴を出すように工夫されており、呼び込みにも熱心だ。ヨーロッパや北米のトラベルマートでは、資料はCDかメモリースティックに入れられるのがほとんどだが、CITMでは「その場で見ることができる資料」が重視されているようだった。カラー写真を多用した大型の冊子を用意するところも多く、紙の資料をどっさり抱えて会場を巡っているエージェントが目立った。
旅行業界を支える、中国国家旅游局や開催地の上海市人民政府の姿勢も印象的だった。CITMの開幕式で挨拶に立った中国国家旅遊局局長の邵偉氏は、「世界的な経済危機からの回復には観光が大きな役割を果たしている」と語り、中国政府が経済を支える産業として成長を促すための法改正や行政面のサポートをしていくと強調。2010年の中国人海外渡航者数は前年比20%以上も上昇しており、この傾向は2011年も継続すると予想されている。国内旅行でも延べ人数で15億9000万人と、これも10%以上の成長をみせており、旅行産業がもたらす経済効果は確実に拡大している。
旅行志向、寺院と温泉に注目
中国国内の参加ブースで特に目を引いたのは、寺院など宗教関連の観光ポイントだ。2010年11月19日の中国日報によれば、中国では仏教徒の数が急上昇しており、中国の国内旅行に関連したスピリチュアルビジネスや「宗教ツーリズム」が成長。寺院や仏跡を尋ねる旅行者は今後も増え続けると予測している。中国の代表的仏教聖地のひとつ、山西省の五台山の近くに空港建設が予定されているのも、その傾向を裏付けているといえるだろう。また、北京など主要都市から高速道路で直行できるルートも開通予定だ。宗教ツーリズムは日本ではとりたてていうまでもない観光のポイントだが、今後は観音霊場巡りなどより真摯な「参拝」を重視する中国人観光客も増えてくるのではないだろうか。
また、もう一つの重要なポイントは温泉だ。中国には、長恨歌にも出てくる華清池から、標高4360メートル地点に湧きだすテルドム温泉まで、各地に有名な温泉地がある。各観光局のブースでも、温泉の効能などを強調したり、贅沢な温泉スパ施設を紹介したりしている展示には、多くのエージェントが立ち寄っていた。今回のCITMには、日本からも40以上のブースが参加しており、温泉は日本全体にとって大きなセールスポイントになりそうだ。
今年、初めてCITMに出展した九州観光推進機構の海外誘致推進部長である本重人氏も、中国人の温泉好きに注目している一人。今回は北海道と共同でブースを設置している。「中国人旅行者は旅行先にもブランド志向があって、映画などで名前が知られている場所へ行きたがる方が多い。まず、九州の存在を知ってもらうのが先だ」と、誘致には長期的な取り組みを考えている。有名観光地を体験した後、再度日本を訪れるリピーター客に的を絞り、桜島、耶馬渓の紅葉などの自然の風景に、温泉や食べ物のおいしさをプラスしてアピールしていく予定だという。
日本人観光客への期待は持続
CITM2010の出展者の40%近くが外国からの出展。韓国や台湾が大規模なブースを設置していたのをはじめ、アジアや欧米各国ばかりでなく、アラブ首長国連邦やそのなかのドバイなども出展しており、中国人観光客の誘致に各国が大きな期待を寄せていることが感じられた。カナダのようにビザの規制を緩和したばかりの国では、特に積極的な様子がうかがわれる。このことが日本マーケットへの取り組みにどのような影響を及ぼすのか、気になるところだ。
長年、日本マーケットの開拓に積極的に取り組んできた、カナダ・アルバータ州のブリュースターのラリー・ゲール氏は「中国マーケットへの期待はあるが、過剰にならないように気を付けている」と語る。ブリュースターは、カナディアンロッキー観光の目玉ともいえるコロンビア大氷原の雪上車ツアーなどをはじめ、多彩な観光サービスを提供する会社。「日本からの旅行者数は再び上昇傾向にあり、質の高いサービスに対してならコストへの理解もある。今後もJATAの旅行博への出展は続けるし、日本の旅行会社の方々とも良い関係を続けていきたい」と、日本マーケットへの努力をしていくことを強調した。
同じような声は、米国オレゴン州観光局のロバート・トーマス氏からも聞こえてきた。オレゴン州はポートランド市の観光局と共同で4年前からCITMに出展しているが、中国での地名度はまだ低い。中国からの訪問者数は観光、ビジネス合わせて2万5000人から3万人程度だが、今後5年間で倍増させるのが目標だ。その一方で、日本を重視する姿勢に変わりはないことも強調。「日本は、英国、ドイツに次いで3番目に大きなマーケット」といい、「団塊の世代の人たちは旅の目的がはっきりしており、歴史やハイキングなどのアクティビティにも注目してくれる。オレゴン州の魅力をこの世代の人たちにアピールしていく。今後もJATAの旅行博に出展するつもり」と語る。
CITM2011は昆明で開催
今年のCITMは、10月27日から30日までの4日間、昆明で開催される。毎年、開催規模は拡大しており、今年も積極的な出展誘致がされるだろう。規模拡大の努力は、開催期間の決定などの工夫にも表れている。昨年までCITMは、毎年11月下旬の開催であったが、その時期の昆明周辺は気温がかなり下がり、雨の日も多い。このため、気候の良い10月に繰り上げることが決定した。
また、商談形式にも変化が見られる。CITMは見本市的な意味合いが強く、会場での直接商談はしにくいとの声に応え、2010年には「ゴー・チャイナ・サミット」と呼ばれる関連イベントが別会場で開催された。これはCITMの開催に先立ち、蘇州の国際エクスポセンターで外国からのバイヤーと中国のセラーがアポイントを取って商談する場を設定したもの。この新イベントは今まであまり知られていなかったデスティネーションのセラーにも、大きなビジネスチャンスと受け取られたようだ。また、特にサイクリングなど目的が特化したツアーを企画するバイヤーに好評で、50社以上のセラーと話をしたと語る人もいた。
2010年のCITMを振り返って、最初に思い浮かぶのは会場の熱気だ。「旅行」というものがいかに魅力的なものであり、経済の活性化にも役立つものであるかということを改めて思い出させてくれた。旅行業界全体の活気を示すことで、この業界に関わる人々の意欲をかきたて、新しいアイディアを生みだす力になるのが本来のトラベルマートのありかただろう。CITMは、この「原点」のパワーを十分に発揮していた。
国内外の「旅行」への意欲を汲み取る
今回のCITMの会場に入ってまず感じたのは、中国の人々の「旅行」に対する熱い思いだ。一般公開の日に取材できなかったので、市民の関心に直接触れることができなかったのは非常に残念だが、エージェントたちの情報収集への意欲的な姿を見ると、彼らの背を押している消費者の存在を感じないではいられなかった。
会場は5つの建物に分かれており、入口に一番近い2つの建物には中国国内の各地域、都市などの観光局のブースが集められていた。どのブースもそれぞれの特徴を出すように工夫されており、呼び込みにも熱心だ。ヨーロッパや北米のトラベルマートでは、資料はCDかメモリースティックに入れられるのがほとんどだが、CITMでは「その場で見ることができる資料」が重視されているようだった。カラー写真を多用した大型の冊子を用意するところも多く、紙の資料をどっさり抱えて会場を巡っているエージェントが目立った。
旅行業界を支える、中国国家旅游局や開催地の上海市人民政府の姿勢も印象的だった。CITMの開幕式で挨拶に立った中国国家旅遊局局長の邵偉氏は、「世界的な経済危機からの回復には観光が大きな役割を果たしている」と語り、中国政府が経済を支える産業として成長を促すための法改正や行政面のサポートをしていくと強調。2010年の中国人海外渡航者数は前年比20%以上も上昇しており、この傾向は2011年も継続すると予想されている。国内旅行でも延べ人数で15億9000万人と、これも10%以上の成長をみせており、旅行産業がもたらす経済効果は確実に拡大している。
旅行志向、寺院と温泉に注目
中国国内の参加ブースで特に目を引いたのは、寺院など宗教関連の観光ポイントだ。2010年11月19日の中国日報によれば、中国では仏教徒の数が急上昇しており、中国の国内旅行に関連したスピリチュアルビジネスや「宗教ツーリズム」が成長。寺院や仏跡を尋ねる旅行者は今後も増え続けると予測している。中国の代表的仏教聖地のひとつ、山西省の五台山の近くに空港建設が予定されているのも、その傾向を裏付けているといえるだろう。また、北京など主要都市から高速道路で直行できるルートも開通予定だ。宗教ツーリズムは日本ではとりたてていうまでもない観光のポイントだが、今後は観音霊場巡りなどより真摯な「参拝」を重視する中国人観光客も増えてくるのではないだろうか。
また、もう一つの重要なポイントは温泉だ。中国には、長恨歌にも出てくる華清池から、標高4360メートル地点に湧きだすテルドム温泉まで、各地に有名な温泉地がある。各観光局のブースでも、温泉の効能などを強調したり、贅沢な温泉スパ施設を紹介したりしている展示には、多くのエージェントが立ち寄っていた。今回のCITMには、日本からも40以上のブースが参加しており、温泉は日本全体にとって大きなセールスポイントになりそうだ。
今年、初めてCITMに出展した九州観光推進機構の海外誘致推進部長である本重人氏も、中国人の温泉好きに注目している一人。今回は北海道と共同でブースを設置している。「中国人旅行者は旅行先にもブランド志向があって、映画などで名前が知られている場所へ行きたがる方が多い。まず、九州の存在を知ってもらうのが先だ」と、誘致には長期的な取り組みを考えている。有名観光地を体験した後、再度日本を訪れるリピーター客に的を絞り、桜島、耶馬渓の紅葉などの自然の風景に、温泉や食べ物のおいしさをプラスしてアピールしていく予定だという。
日本人観光客への期待は持続
CITM2010の出展者の40%近くが外国からの出展。韓国や台湾が大規模なブースを設置していたのをはじめ、アジアや欧米各国ばかりでなく、アラブ首長国連邦やそのなかのドバイなども出展しており、中国人観光客の誘致に各国が大きな期待を寄せていることが感じられた。カナダのようにビザの規制を緩和したばかりの国では、特に積極的な様子がうかがわれる。このことが日本マーケットへの取り組みにどのような影響を及ぼすのか、気になるところだ。
長年、日本マーケットの開拓に積極的に取り組んできた、カナダ・アルバータ州のブリュースターのラリー・ゲール氏は「中国マーケットへの期待はあるが、過剰にならないように気を付けている」と語る。ブリュースターは、カナディアンロッキー観光の目玉ともいえるコロンビア大氷原の雪上車ツアーなどをはじめ、多彩な観光サービスを提供する会社。「日本からの旅行者数は再び上昇傾向にあり、質の高いサービスに対してならコストへの理解もある。今後もJATAの旅行博への出展は続けるし、日本の旅行会社の方々とも良い関係を続けていきたい」と、日本マーケットへの努力をしていくことを強調した。
同じような声は、米国オレゴン州観光局のロバート・トーマス氏からも聞こえてきた。オレゴン州はポートランド市の観光局と共同で4年前からCITMに出展しているが、中国での地名度はまだ低い。中国からの訪問者数は観光、ビジネス合わせて2万5000人から3万人程度だが、今後5年間で倍増させるのが目標だ。その一方で、日本を重視する姿勢に変わりはないことも強調。「日本は、英国、ドイツに次いで3番目に大きなマーケット」といい、「団塊の世代の人たちは旅の目的がはっきりしており、歴史やハイキングなどのアクティビティにも注目してくれる。オレゴン州の魅力をこの世代の人たちにアピールしていく。今後もJATAの旅行博に出展するつもり」と語る。
CITM2011は昆明で開催
今年のCITMは、10月27日から30日までの4日間、昆明で開催される。毎年、開催規模は拡大しており、今年も積極的な出展誘致がされるだろう。規模拡大の努力は、開催期間の決定などの工夫にも表れている。昨年までCITMは、毎年11月下旬の開催であったが、その時期の昆明周辺は気温がかなり下がり、雨の日も多い。このため、気候の良い10月に繰り上げることが決定した。
また、商談形式にも変化が見られる。CITMは見本市的な意味合いが強く、会場での直接商談はしにくいとの声に応え、2010年には「ゴー・チャイナ・サミット」と呼ばれる関連イベントが別会場で開催された。これはCITMの開催に先立ち、蘇州の国際エクスポセンターで外国からのバイヤーと中国のセラーがアポイントを取って商談する場を設定したもの。この新イベントは今まであまり知られていなかったデスティネーションのセラーにも、大きなビジネスチャンスと受け取られたようだ。また、特にサイクリングなど目的が特化したツアーを企画するバイヤーに好評で、50社以上のセラーと話をしたと語る人もいた。
2010年のCITMを振り返って、最初に思い浮かぶのは会場の熱気だ。「旅行」というものがいかに魅力的なものであり、経済の活性化にも役立つものであるかということを改めて思い出させてくれた。旅行業界全体の活気を示すことで、この業界に関わる人々の意欲をかきたて、新しいアイディアを生みだす力になるのが本来のトラベルマートのありかただろう。CITMは、この「原点」のパワーを十分に発揮していた。
取材協力:中国国家観光局
取材:宮田麻未、 写真:神尾明朗