取材ノート:バーチャルとリアルつなぐ旅行業の役割−次世代の旅行動機(2)
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◆取材ノート:次世代の旅行動機を掴め−ゲームが仕掛ける移動と市場への効果(2011/01/25)
◆ゲスト講師
冨塚 優氏(リクルート執行役員/旅行カンパニー 飲食情報カンパニー カンパニー長、
ゆこゆこ代表取締役社長、ワールドメディアエージェンシー代表取締役社長)
千葉功太郎氏(コロプラ取締役副社長)
◆コーディネーター
小林英俊氏(JTBF 常務理事)
久保田美穂子氏(JTBF 主任研究員)
必要なのは「きっかけ」
行く「言い訳」をつくる
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ゲームをきっかけとした旅行だが、体験してみると評価は高い。リクルート執行役員/旅行カンパニー 飲食情報カンパニー カンパニー長の冨塚優氏によると、コロプラツアーの参加者の約半分は九州が初めてだったが、「行ってみたらよかった」との感想が聞かれた。コースはメジャーな観光地とマイナーな観光地をあわせて巡り、マイナーな観光地に意外と人気があったという。また、「熱海ラブプラス現象(まつり)キャンペーン」では、参加者が商店で店員とのおしゃべりを楽しんだりするうちに熱海を気に入り、家族や友人を誘って再び旅行に訪れるなど、「その後も想像以上の移動を生んだ」と久保田氏は述べる。
千葉氏は、「若年層へのアプローチでは、エンターテイメントの競争のなかでゲームが旅行を上回ったかもしれないが、実際に行ってみるとやはり現実の方が面白いと分かる」と主張。冨塚氏は、「ゲーム好きも出かけたいし、リアルのコミュニケーションをしたいが、きっかけとモチベーションが足りないだけ」と指摘する。きっかけ作りとは言い換えれば、「出かける『言い訳』をいかに作ってあげるか」ということだという。
余暇の時間の獲得競争
ユーザー目線でニーズ拾う
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冨塚氏によると、現代の旅行のライバルは隣の旅館でも隣の地域でもない。旅行は、ゲームや他の娯楽との間で「余暇の時間の獲得競争」をしている。「ユーザーが何を求めているかは、旅行業界の目線で近づいていってもニーズを拾えない。ユーザーの目線になることが大切」だ。
コロプラでは運営者が日々ツイッターでユーザーと交流し、ユーザーの声をいかに早く組み込んでいくかを重視している。ユーザーは誰でも運営者に対して意見を言うことができ、社長がそれを見てサービスを変更していくこともある。クレームを直接受け止めてフィードバックするので、ユーザー側は手応えを感じることができるという。
ネットとリアルつなぐ翻訳者必要
マスをねらわずターゲッティング
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しかし、コロプラはIT企業のため、旅行業に関しては協力者が必要だ。同社がリクルートと協働した理由は、リクルートにコロプラのユーザー社員がおり、旅行業界とゲームの世界観をどちらも理解できると判断したからだという。インターネット上で起きることを現実の世界に結びつけるには、間に立って仲介する「コーディネーター」の役割が重要となる。千葉氏は「今、旅行業界に求めたいのはバーチャルとリアルをつなげて翻訳する人」だと提起する。
ゲーム好きな人による旅行市場は、マスではない。今回のシンポジウム会場でも、3分の2はコロプラを知らない。しかし冨塚氏は、マス市場をねらう必要はないと述べる。知らない人はまったく知らない一方で、ハマる人はハマり、ゲームを共通項にひとつの集団ができて旅行までするようになる。たとえ少数であっても、その人達にどれだけ請求力があるかが決め手だという。対象を限定した方が成功率は高く、その市場をいくつ持てるかで、販路を確保する戦略だ。冨塚氏は「観光地に2軒の店があるとする。1軒の店には蕎麦一筋100年という看板が立ち、もう1軒にはラーメン、うなぎ、とんかつなどが一緒にある。どちらに入りたいか」と例をあげ、ターゲッティングの重要性を説く。
千葉氏は無料のソフトであってもクオリティを重視し、「エンターテイメントを追求することは、ネットもリアルも関係なく大変なこと」と発言。ネットでもリアルでも、良いものは良い。生まれた時からインターネットがある「ネットネイティブ」世代にとっても、それぞれの地域の良さや本当においしいものの価値は普遍だと述べる。
また小林氏は、コロプラが地域活性を理念としていることを受け、「環境への配慮や社会性も大きな評価要因」とし、地域との連携によるビジネスと社会性の両立にも言及した。IT業界からは、「本気でエンターテイメントに取り組む姿勢を提示されている」とJTBF主任研究員の久保田美穂子氏。ゲームやITだけでなく、業界の枠を超えた広い視点を養い、従来のビジネスモデルを問い直していく姿勢を身につけたい。
取材:福田晴子