新春トップインタビュー:トップツアー代表取締役社長の石川邦大氏
厳しい競争時代、顧客満足度を上げて選ばれる旅行会社に
昨年7月に公示運賃国際航空券発券・仕入れの新会社「ビジネス・トラベル・ネットワーク」を共同で立ち上げるなど、攻めのビジネス展開を見せているトップツアー。旅行業界のグローバル化やIT化が進み、航空業界の環境変化も著しいなか、効率化を向上させる一方で、顧客満足度を上げる取り組みを押し進めている。変化する環境のもと、今後どのようにビジネスを展開していくのか、2010年の振り返りとともに、代表取締役社長の石川邦大氏に話を聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)
−2010年の振り返りと、2011年の見通しをお聞かせください
石川邦大氏(以下、敬称略) 海外と訪日が伸びて、国内が若干落ちた。また、法人分野が伸びて、一般消費者向け販売が若干落ちた。全体では、ほぼ前年並みといえる。海外旅行市場を見ると、プラス要因としては円高、マイナス要因としては景気が回復しきれていないことがあげられるが、それでも円高要因が少し勝ったという印象だ。
しかし、海外旅行も人数は伸びているものの、それに比例して売上が増えているわけではない。海外旅行市場でも低価格傾向は続いているような気がする。一般的にいえば、個人の収入は伸びず、雇用も増えていない。海外旅行市場が以前、円高で良かった時のトレンドとは少し状況が違うように思う。
2011年の見通しについては、旅行は景気に大きく左右されるので依然として不透明だ。海外旅行は、円高が続けばメリットは出てくるが、海外での販売の比重が高いグローバル企業の業績に悪影響を及ぼす。逆に円安に振れると企業業績はプラスだが、海外旅行にとっては向かい風となる。
−2010年の大きな動きとして、ビジネス・トラベル・ネットワーク(BTN)への参画があります。トップツアーにとってどういった意味があるのでしょうか
石川 インターネットによる直販の拡大、IT企業の旅行業への参入、規制緩和によるグローバル化など、旅行業界を取り巻く環境は大きく変わってきている。一方で、マーケットの規模は横ばいか若干縮小しており、そのなかで戦うプレーヤーが増え、競争が激化しているのが現状といえる。
こうした変化のもと、国際航空券のゼロコミッションが進んだ。将来、コミッションが復活するとは考えにくい。競争を勝ち抜いていくためには、ある程度ボリュームを持っておかないと競争力のある仕入れを続けていくことはできない。それが、BTNに参加した大きな理由だ。あわせて、仕入れ、発券などのコストを圧縮ができるのも大きな利点だ。
−流通構造が変化し、ビジネスモデルも変わってきているなか、旅行業のあり方について、どうお考えになっているでしょうか
石川 社長就任後から考えてきたことだが、大方針は次の時代にもお客様に選んで頂ける会社になること。環境の変化にともなって、お客様の選ぶ基準も変わってきている。それにどう対応していくかが課題だ。ネットが普及しても、営業を介して仕事が決まっていく分野は多い。修学旅行や企業のインセンティブなどがいい例だ。弊社はその分野で強みを持っているので、そこをさらに強くしていきたい。
具体的にはプロとして、より専門性の高い営業を推進していく。専門的な情報を共有し、活用するとともに、プレゼンテーションの質を高めるために、スマートフォンやモバイルパソコンの導入などITインフラを整備してきた。専門性の高い商品はやはり人を介して売っていくべきだろうと思う。
しかし、ネット販売を無視しているというわけではない。ネット販売が単純な組合せ商品の価格競争になりがちななかで、旅行内容が重視されるもの、例えばSIT的な商品などを展開しており、実績が出てきている商品も多い。
−羽田空港の国際化やオープンスカイの推進、LCC誘致など、航空関連の変化についてどのようにお考えでしょうか
石川 羽田の国際化は弊社にとっても業界にとってもありがたいこと。特に、地域発着の国際線が減っていくなかで、地域から羽田を経由して海外に飛べる機会が増えたことは大きい。まだ路線網は限定的だが、今後拡大していくなかで、ますます活性化していくのではないか。また、夜間便については特にデメリットだとは思っていない。成田便とは違う時間帯なので、新たな需要が創出できる可能性が高いと思っている。
規制緩和については、グローバル化のなかで基本的に賛成だ。しかし、規制緩和に対する旅行業界の準備には少し不安が残る。現在の旅行業約款の取消料に関する規定は、IT運賃利用が商品造成の主流であった頃に作られたが、現在では航空券の券種は豊富にあり、予約が成立したと同時に取消料が発生するものもある。
また、今後LCC路線が拡大すると予想されるが、LCC利用の商品を造成する場合には、我々としては、お客様のニーズに対応するためにも多種多様なパーツを利用した商品造成ができる体制を整えなければならないと思う。しかし、規定を越えて取消料がかかる場合には、旅行会社がリスクをかかえるか、そのパーツだけを手配旅行として切り分けるしかない。現状のように、多様化する運賃体系に対応できないと、商品を造成することが難しくなる。
私も参加している日本旅行業協会(JATA)の約款合同検討委員会も、「今のままではお客様の望むものが提供できない。今の環境に対応した取消料の規定に変えていく必要がある」と認識している。
−訪日旅行やグローバル展開についてはいかがでしょうか
石川 訪日旅行では中国をはじめとする東アジアからのお客様が今後ますます増えると思う。我々はこれまで、主に欧米からの訪日旅行をメインに扱ってきたが、昨年5月に国際旅行事業部を立ち上げ、アジアからの訪日旅行も強化していくことにした。現在は価格訴求型の旅行が主流だが、将来的にはリピーターの増加に伴い、クオリティを重視した商品が注目されるだろう。そうなれば、当社にとっても大きなチャンスとなると思う。
また、グローバル展開についてはビジネストリップの分野では、欧米の旅行会社との提携という形で、各社ですでに進んでいる。しかし、レジャーについてはそう簡単には進まないだろう。旅という価値観は国によってそれぞれ違う。まだまだ分からないところが多いというのが実感だ。
−2011年を生き抜くために必要なことはなんでしょうか
石川 マーケットが大きくなっていないなかで競争が激しくなっているので、厳しさは続くだろう。以前のような代売的要素がネットにシフトしていくなか、旅行会社の役割も変わってきている。大切なのは多様化したニーズにきちんと対応した商品を個々の旅行会社が造っていくことだろう。
海外旅行についていうと、インターネットやハイビジョンテレビなどの普及により、豊富な情報や臨場感のある美しい映像が身近になっている中で、実際に現地に行ってみたいという動機付けを、如何にしてするかが重要だと思う。これは一社ではできないことなので、盛り上げていくためには業界全体で、現地に行かないとできないこと、感じ取れないことを、いろいろな場面で露出していくことが必要だろう。旅の体験番組などで取上げられたデスティネーションは、問いあわせが多い。要するに、行ってみたいと思わせるきっかけ作りが大切だ。特に若者に対しては、一歩踏み出せるようにしてあげることが必要だと思う。
−ありがとうございました
<過去のトップインタビューはこちら>
昨年7月に公示運賃国際航空券発券・仕入れの新会社「ビジネス・トラベル・ネットワーク」を共同で立ち上げるなど、攻めのビジネス展開を見せているトップツアー。旅行業界のグローバル化やIT化が進み、航空業界の環境変化も著しいなか、効率化を向上させる一方で、顧客満足度を上げる取り組みを押し進めている。変化する環境のもと、今後どのようにビジネスを展開していくのか、2010年の振り返りとともに、代表取締役社長の石川邦大氏に話を聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)
−2010年の振り返りと、2011年の見通しをお聞かせください
石川邦大氏(以下、敬称略) 海外と訪日が伸びて、国内が若干落ちた。また、法人分野が伸びて、一般消費者向け販売が若干落ちた。全体では、ほぼ前年並みといえる。海外旅行市場を見ると、プラス要因としては円高、マイナス要因としては景気が回復しきれていないことがあげられるが、それでも円高要因が少し勝ったという印象だ。
しかし、海外旅行も人数は伸びているものの、それに比例して売上が増えているわけではない。海外旅行市場でも低価格傾向は続いているような気がする。一般的にいえば、個人の収入は伸びず、雇用も増えていない。海外旅行市場が以前、円高で良かった時のトレンドとは少し状況が違うように思う。
2011年の見通しについては、旅行は景気に大きく左右されるので依然として不透明だ。海外旅行は、円高が続けばメリットは出てくるが、海外での販売の比重が高いグローバル企業の業績に悪影響を及ぼす。逆に円安に振れると企業業績はプラスだが、海外旅行にとっては向かい風となる。
−2010年の大きな動きとして、ビジネス・トラベル・ネットワーク(BTN)への参画があります。トップツアーにとってどういった意味があるのでしょうか
石川 インターネットによる直販の拡大、IT企業の旅行業への参入、規制緩和によるグローバル化など、旅行業界を取り巻く環境は大きく変わってきている。一方で、マーケットの規模は横ばいか若干縮小しており、そのなかで戦うプレーヤーが増え、競争が激化しているのが現状といえる。
こうした変化のもと、国際航空券のゼロコミッションが進んだ。将来、コミッションが復活するとは考えにくい。競争を勝ち抜いていくためには、ある程度ボリュームを持っておかないと競争力のある仕入れを続けていくことはできない。それが、BTNに参加した大きな理由だ。あわせて、仕入れ、発券などのコストを圧縮ができるのも大きな利点だ。
−流通構造が変化し、ビジネスモデルも変わってきているなか、旅行業のあり方について、どうお考えになっているでしょうか
石川 社長就任後から考えてきたことだが、大方針は次の時代にもお客様に選んで頂ける会社になること。環境の変化にともなって、お客様の選ぶ基準も変わってきている。それにどう対応していくかが課題だ。ネットが普及しても、営業を介して仕事が決まっていく分野は多い。修学旅行や企業のインセンティブなどがいい例だ。弊社はその分野で強みを持っているので、そこをさらに強くしていきたい。
具体的にはプロとして、より専門性の高い営業を推進していく。専門的な情報を共有し、活用するとともに、プレゼンテーションの質を高めるために、スマートフォンやモバイルパソコンの導入などITインフラを整備してきた。専門性の高い商品はやはり人を介して売っていくべきだろうと思う。
しかし、ネット販売を無視しているというわけではない。ネット販売が単純な組合せ商品の価格競争になりがちななかで、旅行内容が重視されるもの、例えばSIT的な商品などを展開しており、実績が出てきている商品も多い。
−羽田空港の国際化やオープンスカイの推進、LCC誘致など、航空関連の変化についてどのようにお考えでしょうか
石川 羽田の国際化は弊社にとっても業界にとってもありがたいこと。特に、地域発着の国際線が減っていくなかで、地域から羽田を経由して海外に飛べる機会が増えたことは大きい。まだ路線網は限定的だが、今後拡大していくなかで、ますます活性化していくのではないか。また、夜間便については特にデメリットだとは思っていない。成田便とは違う時間帯なので、新たな需要が創出できる可能性が高いと思っている。
規制緩和については、グローバル化のなかで基本的に賛成だ。しかし、規制緩和に対する旅行業界の準備には少し不安が残る。現在の旅行業約款の取消料に関する規定は、IT運賃利用が商品造成の主流であった頃に作られたが、現在では航空券の券種は豊富にあり、予約が成立したと同時に取消料が発生するものもある。
また、今後LCC路線が拡大すると予想されるが、LCC利用の商品を造成する場合には、我々としては、お客様のニーズに対応するためにも多種多様なパーツを利用した商品造成ができる体制を整えなければならないと思う。しかし、規定を越えて取消料がかかる場合には、旅行会社がリスクをかかえるか、そのパーツだけを手配旅行として切り分けるしかない。現状のように、多様化する運賃体系に対応できないと、商品を造成することが難しくなる。
私も参加している日本旅行業協会(JATA)の約款合同検討委員会も、「今のままではお客様の望むものが提供できない。今の環境に対応した取消料の規定に変えていく必要がある」と認識している。
−訪日旅行やグローバル展開についてはいかがでしょうか
石川 訪日旅行では中国をはじめとする東アジアからのお客様が今後ますます増えると思う。我々はこれまで、主に欧米からの訪日旅行をメインに扱ってきたが、昨年5月に国際旅行事業部を立ち上げ、アジアからの訪日旅行も強化していくことにした。現在は価格訴求型の旅行が主流だが、将来的にはリピーターの増加に伴い、クオリティを重視した商品が注目されるだろう。そうなれば、当社にとっても大きなチャンスとなると思う。
また、グローバル展開についてはビジネストリップの分野では、欧米の旅行会社との提携という形で、各社ですでに進んでいる。しかし、レジャーについてはそう簡単には進まないだろう。旅という価値観は国によってそれぞれ違う。まだまだ分からないところが多いというのが実感だ。
−2011年を生き抜くために必要なことはなんでしょうか
石川 マーケットが大きくなっていないなかで競争が激しくなっているので、厳しさは続くだろう。以前のような代売的要素がネットにシフトしていくなか、旅行会社の役割も変わってきている。大切なのは多様化したニーズにきちんと対応した商品を個々の旅行会社が造っていくことだろう。
海外旅行についていうと、インターネットやハイビジョンテレビなどの普及により、豊富な情報や臨場感のある美しい映像が身近になっている中で、実際に現地に行ってみたいという動機付けを、如何にしてするかが重要だと思う。これは一社ではできないことなので、盛り上げていくためには業界全体で、現地に行かないとできないこと、感じ取れないことを、いろいろな場面で露出していくことが必要だろう。旅の体験番組などで取上げられたデスティネーションは、問いあわせが多い。要するに、行ってみたいと思わせるきっかけ作りが大切だ。特に若者に対しては、一歩踏み出せるようにしてあげることが必要だと思う。
−ありがとうございました
<過去のトップインタビューはこちら>