ベストシーズン再発見(2)一生に一度は見たい、世界の祭りやイベント(前編)
世界には、一生に一度は見たい祭りやイベントが数多くある。本書でも、ドイツ・ミュンヘンで催される世界最大のビール祭り「オクトーバーフェスト」や、カナダ・カルガリーの世界最大の屋外ショー「カルガリー・スタンピード」などの世界的にその名を知られたものから、アイルランド西部の町ゴールウェイの「オイスター・フェスティバル」といった知る人ぞ知るものまで、さまざまな世界の祭りやイベントを紹介している。人混みや喧騒が苦手な一部の人を除けば、こうした祭りやイベントの開催時期はその地を訪れるベストシーズンであり、これらについて幅広い知識と最新の情報を持っていることが旅行のプロには不可欠だ。そこで今回は、本書に掲載されている祭り、イベントのなかから、筆者が特に注目した2つを紹介したい。
〜顧客が希望する出発月から、最適なデスティネーションを提案〜
この連載では、世界的なビジュアル誌「ナショナルジオグラフィック」の書籍「世界のベストシーズン&プラン」の記事をもとに、様々な視点から世界の旅行先の「ベストシーズン」を考えていく。
スペインのバレンシアに行くなら、「火祭り」が見られる3月
まずはスペインの地中海に臨む都、バレンシアの「火祭り」。「セビリヤの春祭り」「パンプローナの牛追い祭り」と並んで「スペインの三大祭」と称されるほどの知名度を誇る。開催期間中、「ファヤ」と呼ばれる大小さまざまな600ほどの張り子人形で街々の広場や通りを飾り付け、最終日にはそれらを焼き払ってしまうという祭り。連夜連夜に大規模な仕掛け花火も打ち上げられ、町は異常なほどの熱気に包まれる。
「マスクレター」と呼ばれる爆竹ショーを皮切りに、祭りそのものは3週間ほど続くが、主なイベントが集中するのは毎年3月17日から19日。クライマックスの19日の夜には、ファヤを燃やし、最後の花火が打ち上げられる。本書では、この圧巻の最後の晩の様子を次のように紹介している。「見物人たちの熱狂的な声援を受けながら、『火祭りの女王』に選ばれた伝統衣装姿の地元の少女たちが、爆竹を巻きつけたファヤに点火する。炎が容赦なくファヤを燃やし、陶然とした見物人たちが熱さのあまり後ずさりしはじめたころ、消防士たちがホースで水をかける。近くのアパートの窓にかかるのも、見物人がずぶぬれになるのもおかまいなしだ。半年かけて作られてきた人形たちは、こうしてわずか数分のうちに、熱狂と煙の中で燃え尽きてしまう」──。
バレンシアは首都マドリッドや人気のバルセロナからの交通の便の悪さから、これまでは必ずしもスペインの旅行商品に組み込みやすい都市ではなかったが、今後はマドリッドからのアクセスが改善される。「12月19日、スペイン新幹線(AVE)のマドリッド/バレンシア間が開通する予定で、両都市は最短1時間35分で結ばれる」(スペイン政府観光局の重貴子氏)。
また、世界中から観光客が殺到する祭りだけに、期間中のホテル事情についても顧客に適切な助言ができるようにしておきたい。重氏は「祭りの中心となる市庁舎広場に近いホテルは予約が難しい上に、深夜の爆竹などの音が気になって寝られない人も多い。そうかといって、19日の夜はタクシーを拾うのはほぼ無理なので、歩いて帰れないホテルは避けるべき。歩いて20分ほどの旧市街地を取り巻く緑地帯(旧トゥリア川)周辺のホテルをおすすめしたい」と助言する。
ウランバートルを訪れるなら、「ナーダム」が開催される7月
もう1つは、横綱白鵬や大関日馬富士などの大相撲での活躍で注目を集める国、モンゴルの首都ウランバートルで開催される「ナーダム」。毎年7月11日から13日まで、3日間にわたって行なわれる国をあげての祭典で、国内の最も優れた競技者たちが、3つの伝統的な競技である競馬、弓射とモンゴル相撲で競いあう。「ナーダム」という競技会自体はモンゴル各地で開催されるが、観客数や規模などで、ウランバートルの「ナーダム」が群を抜く。
本書では、「なかでも呼び物はモンゴルの大平原を横断する競馬だ。広大な見渡す限りの草原で行なわれる」と紹介。実際、「ナーダム」の競馬見物は非常に人気が高く、ウランバートル郊外の草原に設けられた30キロメートルほどの直線コースで、馬の年齢に応じてレースが行なわれ、コースの周辺にはたくさんの見物客が集まる。一方、開会式とモンゴル相撲の会場は、ウランバートル市内の5万人を収容できるスタジアム。スタジアムの周辺にはたくさんの屋台が出るので、それを見て回るのも楽しい。
モンゴルの観光ピーアール業務を担うモンゴル旅行業協会日本支部代表の星野則久氏によると、上記の3つの競技のほかに、「第4のナーダム」と呼ばれる種目があるという。その種目とは「シャガイ・ハルワフ」。的当てゲームの一種で、「チームで得点を争う競技で、あまり知られていないが、一般の人も参加できるのが魅力」という。
ウランバートルの7月が、気候的にもベストシーズンであることも見逃せない。本書では「モンゴルの夏は短く、暖かい。7月の平均気温は21度程度」と紹介。星野氏も「ナーダムは夏の到来を告げるイベント。ナーダムが開催される7月中旬は、1年のうちで、最も快適に過ごせる時期の1つ」と指摘する。ジェイティービーや近畿日本ツーリスト、エイチ・アイ・エスなど、「ナーダム」観戦のツアーを企画、販売する大手旅行会社が、近年増えているという。
ツアーを企画する際、ぜひ盛り込みたいのがゲルでの宿泊。遊牧民のテントであるゲルはモンゴルを代表する生活様式で、日本での認知度も高まっている。本書でも、「モンゴルの旅のハイライトは草原を訪れることだ。なかでも、伝統的なゲルでの滞在は欠かせない。広大な国土のほとんどは砂漠と草原に覆われ、人口の大部分は今も依然として何らかの家畜を飼い、遊牧生活を営んでいるのだから」と、その魅力を紹介。ゲルの歴史や構造についても、囲み記事で詳しく解説している。
▽これまでの「ベストシーズン再発見」
◆ベストシーズン再発見(1)限られた時期しか見られない貴重な野生動物の姿(2010/11/20)
〜顧客が希望する出発月から、最適なデスティネーションを提案〜
この連載では、世界的なビジュアル誌「ナショナルジオグラフィック」の書籍「世界のベストシーズン&プラン」の記事をもとに、様々な視点から世界の旅行先の「ベストシーズン」を考えていく。
スペインのバレンシアに行くなら、「火祭り」が見られる3月
まずはスペインの地中海に臨む都、バレンシアの「火祭り」。「セビリヤの春祭り」「パンプローナの牛追い祭り」と並んで「スペインの三大祭」と称されるほどの知名度を誇る。開催期間中、「ファヤ」と呼ばれる大小さまざまな600ほどの張り子人形で街々の広場や通りを飾り付け、最終日にはそれらを焼き払ってしまうという祭り。連夜連夜に大規模な仕掛け花火も打ち上げられ、町は異常なほどの熱気に包まれる。
「マスクレター」と呼ばれる爆竹ショーを皮切りに、祭りそのものは3週間ほど続くが、主なイベントが集中するのは毎年3月17日から19日。クライマックスの19日の夜には、ファヤを燃やし、最後の花火が打ち上げられる。本書では、この圧巻の最後の晩の様子を次のように紹介している。「見物人たちの熱狂的な声援を受けながら、『火祭りの女王』に選ばれた伝統衣装姿の地元の少女たちが、爆竹を巻きつけたファヤに点火する。炎が容赦なくファヤを燃やし、陶然とした見物人たちが熱さのあまり後ずさりしはじめたころ、消防士たちがホースで水をかける。近くのアパートの窓にかかるのも、見物人がずぶぬれになるのもおかまいなしだ。半年かけて作られてきた人形たちは、こうしてわずか数分のうちに、熱狂と煙の中で燃え尽きてしまう」──。
バレンシアは首都マドリッドや人気のバルセロナからの交通の便の悪さから、これまでは必ずしもスペインの旅行商品に組み込みやすい都市ではなかったが、今後はマドリッドからのアクセスが改善される。「12月19日、スペイン新幹線(AVE)のマドリッド/バレンシア間が開通する予定で、両都市は最短1時間35分で結ばれる」(スペイン政府観光局の重貴子氏)。
また、世界中から観光客が殺到する祭りだけに、期間中のホテル事情についても顧客に適切な助言ができるようにしておきたい。重氏は「祭りの中心となる市庁舎広場に近いホテルは予約が難しい上に、深夜の爆竹などの音が気になって寝られない人も多い。そうかといって、19日の夜はタクシーを拾うのはほぼ無理なので、歩いて帰れないホテルは避けるべき。歩いて20分ほどの旧市街地を取り巻く緑地帯(旧トゥリア川)周辺のホテルをおすすめしたい」と助言する。
ウランバートルを訪れるなら、「ナーダム」が開催される7月
もう1つは、横綱白鵬や大関日馬富士などの大相撲での活躍で注目を集める国、モンゴルの首都ウランバートルで開催される「ナーダム」。毎年7月11日から13日まで、3日間にわたって行なわれる国をあげての祭典で、国内の最も優れた競技者たちが、3つの伝統的な競技である競馬、弓射とモンゴル相撲で競いあう。「ナーダム」という競技会自体はモンゴル各地で開催されるが、観客数や規模などで、ウランバートルの「ナーダム」が群を抜く。
本書では、「なかでも呼び物はモンゴルの大平原を横断する競馬だ。広大な見渡す限りの草原で行なわれる」と紹介。実際、「ナーダム」の競馬見物は非常に人気が高く、ウランバートル郊外の草原に設けられた30キロメートルほどの直線コースで、馬の年齢に応じてレースが行なわれ、コースの周辺にはたくさんの見物客が集まる。一方、開会式とモンゴル相撲の会場は、ウランバートル市内の5万人を収容できるスタジアム。スタジアムの周辺にはたくさんの屋台が出るので、それを見て回るのも楽しい。
モンゴルの観光ピーアール業務を担うモンゴル旅行業協会日本支部代表の星野則久氏によると、上記の3つの競技のほかに、「第4のナーダム」と呼ばれる種目があるという。その種目とは「シャガイ・ハルワフ」。的当てゲームの一種で、「チームで得点を争う競技で、あまり知られていないが、一般の人も参加できるのが魅力」という。
ウランバートルの7月が、気候的にもベストシーズンであることも見逃せない。本書では「モンゴルの夏は短く、暖かい。7月の平均気温は21度程度」と紹介。星野氏も「ナーダムは夏の到来を告げるイベント。ナーダムが開催される7月中旬は、1年のうちで、最も快適に過ごせる時期の1つ」と指摘する。ジェイティービーや近畿日本ツーリスト、エイチ・アイ・エスなど、「ナーダム」観戦のツアーを企画、販売する大手旅行会社が、近年増えているという。
ツアーを企画する際、ぜひ盛り込みたいのがゲルでの宿泊。遊牧民のテントであるゲルはモンゴルを代表する生活様式で、日本での認知度も高まっている。本書でも、「モンゴルの旅のハイライトは草原を訪れることだ。なかでも、伝統的なゲルでの滞在は欠かせない。広大な国土のほとんどは砂漠と草原に覆われ、人口の大部分は今も依然として何らかの家畜を飼い、遊牧生活を営んでいるのだから」と、その魅力を紹介。ゲルの歴史や構造についても、囲み記事で詳しく解説している。
執筆:浅山真
立教大学観光学科卒業後、東急観光入社。1990年日経BP社入社。「旅名人」副編集長などを経て、2009年1月に日経ナショナルジオグラフィック社の企画編集ディレクターに就任。
http://www.nationalgeographic.jp/
出典:「世界のベストシーズン&プラン」 2010年10月発行
英BBC放送の旅番組のプロデューサーなどを務める著名な旅行ライターが、世界の人気観光地について「ベストシーズン」をキーワードに厳選した海外旅行の指南書。旅のタイプを6つに分類し、各月ごとにおすすめの場所をモデルプラン付きで紹介している。
立教大学観光学科卒業後、東急観光入社。1990年日経BP社入社。「旅名人」副編集長などを経て、2009年1月に日経ナショナルジオグラフィック社の企画編集ディレクターに就任。
http://www.nationalgeographic.jp/
出典:「世界のベストシーズン&プラン」 2010年10月発行
英BBC放送の旅番組のプロデューサーなどを務める著名な旅行ライターが、世界の人気観光地について「ベストシーズン」をキーワードに厳選した海外旅行の指南書。旅のタイプを6つに分類し、各月ごとにおすすめの場所をモデルプラン付きで紹介している。
▽これまでの「ベストシーズン再発見」
◆ベストシーズン再発見(1)限られた時期しか見られない貴重な野生動物の姿(2010/11/20)