通訳案内士のインバウンド考:第4回 インバウンドで必要な国際感覚
いきなり身の上話ですみませんが、私、本当は海外で仕事がしたいと思っていました。若かりし頃は「日本人ばかりで小さくまとまった日本」に自分は収まり切らないと思い込み、外国で仕事をしていました。ところが結婚をきっかけに自分の生まれ故郷に落ち着くことに。そこで思いついたのが通訳案内士の仕事。日本で得意な英語を駆使し、かつ自分の好きな旅行業に携われるなんて最高、というなんとも単純な理由でガイド試験を受けました。ただ、受験中は「なんでこんなに勉強する仕事を選んでしまったのだろう」とその勉強量に辟易し、短絡的な決断を恨みましたが...。でも、私は間違ってはいませんでした。実際にインバウンドのお仕事はとっても国際的。海外志向が強かった私にも大満足です。そこで今回は私が気づいた、インバウンドに必要な国際感覚をお伝えします。
自国を知り、相手を理解する
インバウンド業務の「国際感覚」
いわずもがな、現場で接するお客様は外国人。特に英語ガイドをしているとお客様の国籍は様々で、世界中の人と接し、多くの刺激を受ける機会に恵まれています。また、日本のことを学び、知ることで自国文化の面白さや奥深さに新鮮な感動を覚え、逆に今まで海外で学んだことと対比することで世界のなかで日本とはどのような国か、改めて考えさせられます。
最近では通訳案内士を含めたインバウンド業務はアウトバウンド以上に国際的なのではないかと思うことさえあります。以前、食事に関するコラムでも触れましたが、アウトバウンドであれば自分と同じ日本人の好みに応じたサービスを提供しますが、インバウンドでは様々な地域から来るお客様の趣向をおさえなければなりません。日本にいながらもグローバルな対応を迫られるため、国際感覚が要求されるのです。
とはいえ、最初から世界中の人にうまく対応できる国際感覚が身についた人など、ほんの一握りしかいないでしょう。私自身も海外で仕事をしていた関係でアジア圏には強いのですが、今まであまり接する機会のなかった国や地域出身のお客様をガイドすることもあり、対応の仕方について反省することも間々あります。経験の浅い私がいうのもおこがましいのですが、お客様の国について知り、その国の人が何を求める傾向にあるのかを事前にリサーチすることが、ひいてはインバウンドに役立つ国際感覚を養うのに役立つのではないのでしょうか。
ガイドブックでお客様の抱くイメージを把握
言語ごとではなく地域ごとの情報に着目
実際に訪日旅行客が求めている日本の姿を探る方法として、ガイドブックを活用する方法があります。ガイドブックからの情報でお客様が旅行に求めるイメージを作るケースがよく見受けられるからです。
実際に体験した例としては、「原宿では面白い格好の若者が土日に出没するらしいね」とヨーロッパのお客様にいわれたときのことです。てっきりコスプレのことかと思いきや、ガイドブックの写真を見せてもらったところ1980年代の「タケノコ族」の写真だったことがあります。そういった古いガイドブックを参照しているケースもありつつも、「これが見たいんだよね!」と喜々とした笑顔をみせるお客様を思うと、ガイドブックの影響たるや目を見張るものがあります。
同じ英語のガイドブックでもアジアで発行されているものと欧米で書かれているものとではポイントが異なり、アジアで作られるガイドブックは日本と同じようにグルメに関する情報が満載のようです。一方、欧米のものは歴史や文化の話がびっしり。また、私自身も近々アメリカとイギリスのガイドブックを読み込んで比較しようと思っています。同じ欧米の本でも発行元の国が違えばまた異なるポイントを取り上げているのだろうと想像すると、どんな発見があるかが楽しみです。つまり、ガイドブックを言語別ではなく、国や地域別で研究するのがインバウンドの「お客様のイメージ」を知る手がかりになり得るのです。
ちなみに、インターネットが発達している今、ガイドブックではなくインターネットで情報収集するお客様も非常に多い状態です。基本的には国境のないインターネットの世界ですが、ドメインを見ればどの国から発信されている情報かわかる場合があります。また、検索エンジンもその国ごとにあったりするので、例えば同じ検索ワードを入力してもイギリス版とアメリカ版のYahoo!では検索結果が少し異なるので、この方法で国ごとのリサーチをすることもできます。
世界を知りたいという好奇心
国際派にこそおすすめのインバウンドの世界
インバウンドは日本観光のエキスパートであることが求められますが、先述したように、主要マーケットである「世界」のことを広く深く知ることも重要なポイントです。逆に、場合によっては受け入れ側として「知らなかったではすまされない」こともあり、大きなクレームにつながってしまうこともあります。
極端な例で言うと、イスラム教徒は宗教的な教えから犬嫌いの場合が多いのですが、それを知らずに犬の話をしても全く喜ばれない、それどこか気分を害してしまう危険性があります。日本人にとってはほんの些細なことでも、お客様にとっては大問題。そのような事態を避けるためにもインバウンド従事者には多くの国の歴史的、文化的背景を理解をするための努力や工夫が常に求められています。
とはいえ、そう難しく考える必要はありません。視点を変えて、「世界を知りたい」という好奇心をインバウンド業務に持ち込めばいいのです。テレビや新聞、インターネット、現場でのお客様の声。見識を広げるための海外旅行も自主研修になります。知れば知るほど深く面白い世界がそこには広がっているのですから、楽しまなければ損です!そういった意味では、インバウンドはどちらかというと海外に興味関心の強い人ほど向いているかもしれません。本気でインバウンドに取り組む場合、海外で仕事や生活をする以上に多くの国の文化、国民性を研究し、お客様を受け入れていくわけですから。
大変な準備や作業が必要ですが、インバウンドの仕事は日本にいながらにして「世界市民」の一員として活動できる魅力的な仕事です。かつて日本からの脱出をはかっていた私が求めていたものは、実は日本の中にあったと気づかされる今日この頃です。
▽これまでの通訳案内士のインバウンド考
◆通訳案内士のインバウンド考:第3回 下見はガイドの大事なお仕事(2010/10/15)
◆通訳案内士のインバウンド考:第2回 質問・疑問はヒントの宝庫(2010/09/07)
◆通訳案内士のインバウンド考:第1回 旅行者の胃袋をつかめ(2010/08/03)
自国を知り、相手を理解する
インバウンド業務の「国際感覚」
いわずもがな、現場で接するお客様は外国人。特に英語ガイドをしているとお客様の国籍は様々で、世界中の人と接し、多くの刺激を受ける機会に恵まれています。また、日本のことを学び、知ることで自国文化の面白さや奥深さに新鮮な感動を覚え、逆に今まで海外で学んだことと対比することで世界のなかで日本とはどのような国か、改めて考えさせられます。
最近では通訳案内士を含めたインバウンド業務はアウトバウンド以上に国際的なのではないかと思うことさえあります。以前、食事に関するコラムでも触れましたが、アウトバウンドであれば自分と同じ日本人の好みに応じたサービスを提供しますが、インバウンドでは様々な地域から来るお客様の趣向をおさえなければなりません。日本にいながらもグローバルな対応を迫られるため、国際感覚が要求されるのです。
とはいえ、最初から世界中の人にうまく対応できる国際感覚が身についた人など、ほんの一握りしかいないでしょう。私自身も海外で仕事をしていた関係でアジア圏には強いのですが、今まであまり接する機会のなかった国や地域出身のお客様をガイドすることもあり、対応の仕方について反省することも間々あります。経験の浅い私がいうのもおこがましいのですが、お客様の国について知り、その国の人が何を求める傾向にあるのかを事前にリサーチすることが、ひいてはインバウンドに役立つ国際感覚を養うのに役立つのではないのでしょうか。
ガイドブックでお客様の抱くイメージを把握
言語ごとではなく地域ごとの情報に着目
実際に訪日旅行客が求めている日本の姿を探る方法として、ガイドブックを活用する方法があります。ガイドブックからの情報でお客様が旅行に求めるイメージを作るケースがよく見受けられるからです。
実際に体験した例としては、「原宿では面白い格好の若者が土日に出没するらしいね」とヨーロッパのお客様にいわれたときのことです。てっきりコスプレのことかと思いきや、ガイドブックの写真を見せてもらったところ1980年代の「タケノコ族」の写真だったことがあります。そういった古いガイドブックを参照しているケースもありつつも、「これが見たいんだよね!」と喜々とした笑顔をみせるお客様を思うと、ガイドブックの影響たるや目を見張るものがあります。
同じ英語のガイドブックでもアジアで発行されているものと欧米で書かれているものとではポイントが異なり、アジアで作られるガイドブックは日本と同じようにグルメに関する情報が満載のようです。一方、欧米のものは歴史や文化の話がびっしり。また、私自身も近々アメリカとイギリスのガイドブックを読み込んで比較しようと思っています。同じ欧米の本でも発行元の国が違えばまた異なるポイントを取り上げているのだろうと想像すると、どんな発見があるかが楽しみです。つまり、ガイドブックを言語別ではなく、国や地域別で研究するのがインバウンドの「お客様のイメージ」を知る手がかりになり得るのです。
ちなみに、インターネットが発達している今、ガイドブックではなくインターネットで情報収集するお客様も非常に多い状態です。基本的には国境のないインターネットの世界ですが、ドメインを見ればどの国から発信されている情報かわかる場合があります。また、検索エンジンもその国ごとにあったりするので、例えば同じ検索ワードを入力してもイギリス版とアメリカ版のYahoo!では検索結果が少し異なるので、この方法で国ごとのリサーチをすることもできます。
世界を知りたいという好奇心
国際派にこそおすすめのインバウンドの世界
インバウンドは日本観光のエキスパートであることが求められますが、先述したように、主要マーケットである「世界」のことを広く深く知ることも重要なポイントです。逆に、場合によっては受け入れ側として「知らなかったではすまされない」こともあり、大きなクレームにつながってしまうこともあります。
極端な例で言うと、イスラム教徒は宗教的な教えから犬嫌いの場合が多いのですが、それを知らずに犬の話をしても全く喜ばれない、それどこか気分を害してしまう危険性があります。日本人にとってはほんの些細なことでも、お客様にとっては大問題。そのような事態を避けるためにもインバウンド従事者には多くの国の歴史的、文化的背景を理解をするための努力や工夫が常に求められています。
とはいえ、そう難しく考える必要はありません。視点を変えて、「世界を知りたい」という好奇心をインバウンド業務に持ち込めばいいのです。テレビや新聞、インターネット、現場でのお客様の声。見識を広げるための海外旅行も自主研修になります。知れば知るほど深く面白い世界がそこには広がっているのですから、楽しまなければ損です!そういった意味では、インバウンドはどちらかというと海外に興味関心の強い人ほど向いているかもしれません。本気でインバウンドに取り組む場合、海外で仕事や生活をする以上に多くの国の文化、国民性を研究し、お客様を受け入れていくわけですから。
大変な準備や作業が必要ですが、インバウンドの仕事は日本にいながらにして「世界市民」の一員として活動できる魅力的な仕事です。かつて日本からの脱出をはかっていた私が求めていたものは、実は日本の中にあったと気づかされる今日この頃です。
▽これまでの通訳案内士のインバウンド考
◆通訳案内士のインバウンド考:第3回 下見はガイドの大事なお仕事(2010/10/15)
◆通訳案内士のインバウンド考:第2回 質問・疑問はヒントの宝庫(2010/09/07)
◆通訳案内士のインバウンド考:第1回 旅行者の胃袋をつかめ(2010/08/03)
文:旅野朋/通訳案内士(英語)