羽田特集:航空会社の戦略(2)外航、深夜早朝発着で未知のビジネスに挑む

米系2社はビジネス需要に期待

北米路線を開設する3社は、来年1月末から2月にかけて運航を開始する。首都圏発着の路線ながら深夜早朝時間帯ということもあり、成田とは異なる新しい市場が生まれると各社とも期待は大きい。ニューヨーク線に就航するAAの日本地区旅客営業本部長・稲場則夫氏は「大都市間を結ぶポイント・トゥ・ポイント路線はそもそも需要が高い」と語り、ターゲットを「東京、神奈川など首都圏のビジネス需要」と見込む。また、デトロイト便とロサンゼルス便の運航を開始するDLの日本地区営業本部長・伊藤正彰氏も「発着時間やアクセスの面で課題は残るが、羽田便に興味を持っている企業は多い」とビジネス需要に手応えを感じている様子だ。日系企業では、深夜早朝便の利用について労務規定がネックになるという指摘もあるが、DLの伊藤氏は「飛びはじめてから決めるという声も多く聞く」と明かし、今後の動向を注視していく姿勢を示す。
羽田便の機材については、AAは成田便と同様にボーイングB777-200ER型機を投入する。ビジネス需要を見込み、Fクラス16席、Cクラス37席を含む247席。一方、DLは両路線ともCクラス65席を含む407席のB747-400型機を使用する。両社とも、成田便の減便や機材変更はなく、羽田便が純増になるかたちだ。
ACはレジャー需要、乗り継ぎ利用で米系もレジャー取り込みへ

米系2社もレジャー市場を軽視しているわけではなく、成田便とは異なる発着時間のため新しい旅行商品の造成も可能とアピールする。例えば、AAのニューヨーク便、DLのデトロイト便は早朝到着するため中南米・カリブ方面への乗り継ぎがよく、これまでにない需要が創出される可能性がある。AAの稲場氏はレジャー客について、「パッケージとエアオンをあわせて、メインキャビンで65%ほど」と見込む。また、ACもバンクーバー経由での乗り継ぎ需要にもビジネスチャンスを見出しており、ワイス氏は「オーロラで有名なホワイトホースへの便のコネクションがよい。また、ラスベガスからの帰りも同日乗り換えが可能」と、以遠需要の可能性を含めた羽田便のメリットを強調する。
アジア系航空会社−「羽田はまったく新しい市場」

SQ日本支社長のキャンベル・ウィルソン氏も8月に実施した弊紙のインタビューで、「羽田はまったく新しい市場」と位置づけ、「(成田便も含めて)東京発着の便数は増えたが、現地の新しい滞在方法、乗り継ぎ利便性の向上など、増加分を埋めるだけのメリットはある」と供給増にも自信を示した。機材はFクラス8席、Cクラス42席を含む合計278席のB777-300ER型機を投入。ビジネス客の需要にも期待するコンフィギュレーションにしている。
需要動向について、TGの杉岡氏は「ビジネス需要は限られる」と分析。「企業などへのヒアリングによると、夜中の移動は極力しないという声が多い」と明かし、労務規定が絡む深夜早朝発着の問題点を指摘する。タイは日本人に人気の観光デスティネーションでもあることから「ほとんどレジャーになるのではないか」と予測し、「羽田便はバンコク発が午後2時50分で、午前中をゆっくりと過ごせる」とレジャーでのメリットもアピールする。
SQのウィルソン氏も羽田便の特徴について、「早朝便はシンガポールに午前中に着き、半日を観光に使うことができるため、パッケージツアー客にも適したスケジュール。また、深夜便は仕事を終えてから空港に向かい、寝ている間にシンガポールへ飛ぶことができる」と成田便との違いを強調。シンガポールでの東南アジア路線への乗り継ぎのよさに触れ、より幅の広い商品化に期待を寄せる。
成田は大切なハブ、地方需要の取り込みには限界も

羽田国際化後の成田の位置づけについては、各社とも引き続き「大切なハブ空港」という認識だ。DLの伊藤氏は、アジアと成田とアメリカを結ぶ路線の重要性と利便性を指摘。AAの稲場氏も「出発の遅い成田便はアジアからのフィード客を拾える」と成田のメリットに触れる。ACのワイス氏は「スターアライアンス・メンバーとのネットワークは大切」と語り、成田でのアライアンス関係を重視する姿勢を示す。AAにとっては、独占禁止法の適用免除(ATI)によるJLとの本格的なジョイントベンチャーのもとで羽田と成田の戦略も変化しそうだ。
地方需要の取り込みに関しては、日系航空会社に比べて不利な状況にあり、現時点では羽田のメリットをいかしきれないのが現実だ。JL、NHをアライアンス・パートナーに持つ各社は、今後それぞれの国内線での協力関係を築いていきたい考え。また、日系航空会社のパートナーを持たないスカイチームのDL伊藤氏は地方需要の開拓について、既存の関空線と中部線を「私たちの財産」と位置づける一方で、羽田路線を持つ第三の日系航空会社との連携を模索していきたい考えだ。
深夜早朝時間帯という制限がある外航各社にとっては、羽田市場はまだ手探り状態という側面が強く、収益性もはっきりしない。「2013年の増枠に向けて就航実績を残しておく必要がある」(ACワイス氏)という意見があるように、今回の羽田就航は各社とも長期的視野に立ったビジネス判断という側面も見え隠れする。しかし、いずれにせよ、羽田の潜在性を高く評価していることには変わりはない。成田とは異なる新しい市場は生まれるのか。外航各社の今後の展開に注目が集まる。
取材:山田友樹