羽田特集:旅行会社の戦略(2)地方需要の取り込み、課題への模索続く

  • 2010年10月26日
 各旅行会社とも羽田商品化にあたっては初めての試みの部分も多く、手探りという状態にあるのも事実だ。羽田国際線の便数がまだ限定的ななか、どれだけの需要が見込めるのか。首都圏のみならず地方の需要も含めて、羽田国際化が海外旅行市場の活性化にどれほど貢献しうるものなのか。旅行会社の模索が続いている。


                                               
                                                   
発着時間によって地方発羽田商品に限界も

 羽田国際化における大きな目論見のひとつは、羽田の国内線を利用した地方需要の取り込みだ。方面によっては想定以上の地方需要の取り込みに成功しているというANAセールスの実績とは異なる意見も多い。

 阪急交通社東日本営業本部メディア営業三部長の新井富雄氏は「ホノルルなど、羽田到着が夜の10時過ぎになってしまうので、地方の旅行者は後泊しなければならならず、羽田の利便性は薄れてしまうのではないか。現段階での羽田国際化が地方を活性化させるのか疑問だ」と語る。また、日本旅行・営業企画本部海外旅行事業部マーケティングチームマネージャーの七海聡子氏は「羽田商品の申込者は圧倒的には神奈川が多く、想定通りだと思う。地方からすると、成田からの国際線と比較した場合、羽田の利便性をそれほど感じてないのでは」と、現時点での地方需要取り込みには懐疑的だ。

 地方の旅行会社の意見はさらにシビアだ。福岡の西鉄旅行専務取締役・営業企画本部長の横山達夫氏は、9月に開催されたJATA国際観光会議のシンポジウム「地方のアウトバウンド市場を如何に活性化させるか?」のなかで、「ホノルル線は九州からの旅客の場合、後泊が追加になる。募集型企画旅行は羽田発着のツアーに、別の案内として国内企画の宿泊パッケージをつけざるを得ない。残念ながら、勝負できる競争力のある商品ではない」と述べ、地方発羽田商品の限界を示した。

 大手旅行会社ではアドオンの設定、前後泊プラン、JRとの組みあわせなどで地方需要の取り込みをはかるが、手探り状態が続いているのが現状。「成田との比較において、羽田がメリットになるのかどうかもう少し分析する必要がある」(JTBワールドバケーションズ常務取締役の八木澤昌弘氏)というのが旅行会社の本音のようだ。


パリ商品は地方でも有望、ソウル、上海は「勝ち目なし」

 一方で、東京で1泊せざるを得ない状況を逆手にとって、販売店の判断で海外旅行商品にディズニーランドなど人気の東京観光を付加するケースも出てきているという。西鉄旅行の横山氏が指摘したように、羽田発の海外商品として考えた場合は価格として競争力を失うかもしれないが、東京プラス海外という発想は、地方での新たな需要を掘り起こす可能性を秘めている。「海外の空港でもトランジットで、市内へのオプショナルツアーを催行しているところがある。それと似た手法で、乗り継ぎのデメリットをメリットに変える取り組みも必要でないか」と近畿日本ツーリスト(KNT)海外仕入商品企画事業部営業管理課長の山内幸樹氏は付け加える。

 地方需要の取り込みにおいて、最も可能性が高いのがパリ商品。羽田を深夜に発ち、帰りは早朝なので、国内線乗り継ぎに問題は生じない。ジャルパックの奈良部氏は「その点を強く打ち出していきたい」と意気込む。一方、多くの地方空港からダイレクトに飛ぶソウル、上海などについては、「羽田に勝ち目はない」というのが共通した認識だ。

 阪急交通社の新井氏は「地方発の羽田商品で潜在力があるのはロング商品。地方都市で催行可能な人数を集めるのは難しい場合に、羽田で混載して添乗員をつけ、出発日を保証して催行すれば、顧客にとってもメリットは大きい」と語る。

 また、地方空港ではソウルの仁川空港をハブとして、世界各地に飛ぶ需要にも注目が集まるが、例えば新潟/仁川/ホノルルなどの路線では現在、仁川/ホノルル間の座席が確保しにくい状況にあるという。仁川以遠の路線状況によっては、羽田利用の機会が増えてくるかもしれない。


パンフレット戦略で苦慮、今後は選択と集中の可能性も

 羽田商品の販売戦略、特にパンフレット戦略は旅行会社にとっても頭の痛い問題だ。現在、羽田商品単体パンフレット、羽田と成田両方を掲載したパンフレットと各社対応が異なっている。羽田単体でも就航記念商品という意味あいが強い。今後については、「選択肢を提供するという意味で、一冊にまとめて、比較できるようにした方がいいのでは」(ANAセールス海外商品造成部業務推進グループ・グループリーダーの篠塚昌明氏)、「合冊にした場合、例えばアジアの場合、便数が多いのでパンフレットが厚くなりすぎ、販売店のパンフレットケースに入らなくなる恐れがある。一方、分けると冊数が多くなる。答えはまだ出ていない」(JTB八木澤氏)、「成田でできなかった商品造成が羽田ではできるので、それを特徴づけた単体パンフレットが必要」(ジャルパックマーケティング戦略部マーケティンググループ・マネージャーの奈良部貴氏)、「羽田国際線が定着するまでは、単体で展開する方がいいのかもしれない」(KNT山内氏)など、意見はさまざまだ。

 今後、市場動向の分析が進み、羽田商品が売れる地域が特定されてくると、販売やパンフレット戦略もこれまで以上に効率的に進められるようになってくると思われる。例えば、首都圏でも神奈川には羽田商品パンフレットの集中配布、北関東や千葉は成田、といった具合に選択と集中の戦略が可能になってくる。メディア販売の阪急交通社では、新聞展開は首都圏版で出さざるを得ないが、ダイレクトメールなどは顧客の住まいで区切れるので、市場動向が分析できれば、より効率的な発送が可能になるだろうとしている。


羽田商品と成田商品の共存可、選択肢増で相乗効果期待

 成田と同じ東京からの発地となる羽田商品。各社とも新しく造成された羽田商品が既存の成田商品に与える影響は少ないと見る。航空運賃は羽田便の方が若干高く、羽田商品の価格にも反映せざるを得ないが、羽田商品と成田商品は内容も異なるので、同じ東京発地であっても違う商品と捉えている旅行会社は多い。「相乗効果はあっても、どちらかを食いつぶすということはない。例えばハワイ方面の顧客を獲得していくことに変わりはない。旅行会社同士での競争は当然あるが、自社内で羽田と成田が競合することはない」とは、日本旅行の七海氏の意見だ。

 エイチ・アイ・エス(HIS)東日本ツアー事業部第二旅行事業グループ・グループリーダーの小田孝之介氏は「東京発地の選択肢が増えたことを歓迎している。今後は例えば羽田アウト、成田インなどの旅程も出てくるのではないか」と、商品の可能性が広がることに期待感を示す。また、阪急交通社の新井氏は「造成サイドが決め打ちで商品造りをしてはだめだ」と強調。「羽田にしろ、成田にしろ、商品ラインアップをしっかり揃えて、お客様に選んでもらうことが大切。その結果として、羽田と成田の差は出てくるかもしれない」という考えを示す。

 10月31日以降、外航も続々と羽田に就航する。各社はできるだけ多く商品化していきたいと意欲的だ。価格、アクセス、発着時間、商品内容などの違いによって、消費者はどのように動くのか。今後ますます市場の動向から目が離せない。




取材:山田友樹