羽田特集:旅行会社の戦略(1)羽田便の特性をいかした商品造成に創意工夫

  • 2010年10月19日
 羽田国際化にあわせた旅行会社の動きも活発になってきている。主要旅行会社は8月中旬から新しい羽田の路線を利用した商品の販売を開始。成田とは異なる時間帯の便となるため、各社さまざまな工夫を組み込んだ。首都圏発着の便数が増えることは、旅行業界にとってビジネス拡大の起爆剤になると歓迎する声が多い。羽田国際線の認知度が上がるにつれて、予約件数も増えてきているようだ。羽田国際化は近年最大のビジネスチャンス。旅行会社の挑戦ははじまったばかりだ。
                                               
                                                   
深夜早朝便の商品造成で工夫、選択肢増は消費者にメリット

 10月31日の冬スケジュール開始にあわせて羽田発着を開始する国際線は、昼間時間帯でソウル(金浦)、上海(虹橋)、北京、香港、台北(松山)、深夜早朝帯でバンコク、シンガポール、ホノルル、サンフランシスコ、ロサンゼルス、パリ。このうち、ソウル、上海、北京、香港については定期チャーター便から定期便に変更となる。

 主要旅行会社各社は、ほぼすべての路線で商品を造成し、8月中旬頃から順次販売を開始した。就航地のモノ・デスティネーションコースだけでなく、就航地からの乗り継ぎ商品も設定している。例えば、バンコク経由でアンコールワットやプーケット、シンガポール経由でバリ、ロサンゼルスやサンフランシスコ経由でラスベガスなどの商品も多い。各社とも主力ブランドでの商品展開だ。


 JTBワールドバケーションズ常務取締役の八木澤昌弘氏は羽田便の商品化について、「現行の成田便の時間帯と大きく違うので、それにあわせて商品を造った」と語り、その象徴的な例としてハワイ商品をあげる。現行の成田便は、夜出発して朝ホノルル着だが、羽田便については日本航空(JL)便が午後10時30分発の午前10時45分着、全日空(NH)便が午前0時05分発の午後0時40分着。いずれも、ホテルのチェックインがこれまでよりもスムーズにできる時間帯の到着になる。また、ホノルル発も両社とも成田便と異なり夕方になるので、出発までの現地滞在時間が長くなる。「これは消費者にとって大きなメリット」と八木澤氏。成田商品とは異なる時間軸の商品を提供することができ「消費者にとっては選択肢が増えることになる」(八木澤氏)ため、海外旅行市場の底上げにつながると期待する声は多い。

 これらの特性をいかし、各社ともハワイ商品では午後3時チェックアウト可能なホテルのラインナップをそろえ、顧客に選んでもらえるようにしている。最終日の過ごし方については、自由時間でのオプション対応がメインだ。エイチ・アイ・エス(HIS)東日本ツアー事業部第二旅行事業グループ・グループリーダーの小田孝之介氏は、「午後6時出発だとホノルル空港へ向かう道は混む時間帯。それに巻き込まれない場所を訪れてもらう工夫も必要だろう」と、これまでとは違う顧客対応の必要性にも触れる。

 今回の羽田国際化の大きな特徴となっているのが、深夜早朝枠の国際便だ。バンコク、シンガポールを含めたロングホールのデスティネーションはすべて深夜発。また、11月から2011年2月にかけて順次開始する外国航空会社の羽田便のなかには早朝発もある。到着については夜遅くなる便も多い。

 各旅行会社では、こうした深夜早朝便に対応したサービスを提供している。羽田空港周辺駐車場の無料あるいは優待利用、羽田空港周辺での前後泊プラン、タクシー会社との提携による定額タクシー事業など新たなサービスを提供することで、首都圏はもとより地方の需要も取り組む工夫を考えている。


おおむね順調な予約状況、方面によっては想定以上の結果も

 さて、業界内では活気づく羽田国際化だが、肝心の予約状況はどうなのだろうか。取材時点(9月下旬)では、各社ともおおむね想定の範囲内で推移しているようだ。各社ともメディアでの露出が増えるのに呼応して、予約も増加している。特に、人気の方面はハワイ。近畿日本ツーリスト(KNT)海外仕入商品企画事業部営業管理課長の山内幸樹氏は、「他の方面は想定の範囲内だが、ハワイが思っていた以上に伸びている」と語り、そのマーケットについては「ほぼ首都圏需要。東京と神奈川で7、8割を占めている」と明かす。

 また、ANAセールス海外商品造成部業務推進グループ・グループリーダーの篠塚昌明氏は、「当初、ハワイ需要については、首都圏8割に対して地方は2割と想定していたが、ふたを開けてみると、現時点でほぼ互角の需要になっている」と驚きを隠さない。その地方需要の中心は西日本。「関西マーケットでは機材の小型化や減便などによって生産量が落ちているので、座席が取りにくいと聞いている。そのために結果的に東京に流れてきているのではないか」と篠塚氏は分析する。さらに、バンコクやシンガポールについても、当初首都圏6割に対して地方4割と想定していたものの、地方需要が1割ほど上回っているのが現状だといい(取材日9月29日)、NH国内線をうまく活用できているようだ。

 また、同じ航空系旅行会社であるジャルパックのマーケティング戦略部マーケティンググループ・マネージャーの奈良部貴氏はハワイ商品について、「JL便の供給量が減っているなかでも、成田と羽田の合算で予約数は前年同期比で100%を超えている。そのうち羽田商品が30%を下支えしている」という。同社では、8月中旬からJALパックスペシャルとして羽田商品を別冊パンレットで発売しはじめてから、反応がよくなってきた。ハワイだけではなく、「成田発を含めたヨーロッパ商品全体で見た場合、羽田発のパリ便だけで全体の35%ほどを下支えしている」という好調ぶりだ。


深夜早朝便で新しい需要創出に期待、若年層が動くか

 各航空会社は羽田便についてメイン・ターゲットを首都圏のビジネス客と見込んでいる。しかし、旅行会社のなかには、一日の仕事が終わったあと深夜便を使って出張に出かける需要がどこまであるのか、疑問を呈するところも少なくない。HISの小田氏は「ビジネスよりもレジャーの方が需要は高いのではないか」と予測。また、ジャルパックの奈良部氏はJLの戦略を念頭に置きつつ、「ビジネス需要の動きは通常週頭。航空会社としては、週末はレジャーで埋めることも必要になってくると思う」と述べ、金曜日の深夜便を使えば、月曜日の朝に帰ってくることも可能になり、「わざわざ休暇を取らずとも気軽に海外に行ける機会が増える」と見込む。また、日本旅行営業企画本部海外旅行事業部マーケティングチームマネージャーの七海聡子氏は「仕事を終えたあとに海外旅行に出かける傾向は、成田よりも羽田の方が高い」と語り、深夜便のメリットに期待を寄せる。

 その時間帯から体力的にも「若年層が動くのではないか」(KNT山内氏)という見方がある一方、「会社帰りに海外旅行に行く需要を考えた場合、30代、40代の女性が牽引するのではないか」(ジャルパック奈良部氏)という予想もある。また、阪急交通社東日本営業本部メディア営業三部長の新井富雄氏は「お客様は成田と羽田とを見比べて商品を選んでいるようだ」と語り、首都圏発商品に対する消費者動向に変化が出てきていることを指摘する。いずれにせよ、「羽田便が加わることで、消費者にとっては首都圏からの出発の幅が広がった」(JTB八木澤氏)のは確かで、今までにはなかった新しい需要を生み出す可能性を秘めているといえるだろう。







取材:山田友樹