ITソリューション特集:消費者の購買行動からみたオンライン旅行市場

  • 2010年10月13日
 第1回では、オンライン旅行市場に展開するサイトを業態の特徴別に、ユーザー数や利用頻度を指標として運営規模から分類した。ただし、オンライン上では、潜在する市場を見極め、ターゲットを絞って新たな需要を創造することも戦略のひとつ。そこで今回は、そのポイントのひとつとして、消費者の購買行動に注目したい。購買行動の各ステージにおいて、どこに商機を見出しているか、各サイトの取り組みを探る。
                               
                               
消費者の購買行動

 消費者の購買行動を着眼点とした際、AIDMA(アイドマ)やAISAS(アイサス)などの購買決定プロセスを耳にしたことは多いだろう。一般に商品の購入に至るまで、注意や喚起、興味を持ち、その商品を手に入れたい欲求、それを確信して具体的な行動を起こし、購買に至るプロセスだ。インターネットでの購買行動については、「注意(Attention)」「関心(Interest)」「検索(Search)」「行動・購入(Action)」「共有(Share)」の頭文字をとり、AISAS(アイサス)と呼ぶモデルを利用することが多い。消費者が主体的な意識を持って「検索」という行動におよび、体験を「共有」する特徴を捉えた説明だ。

 さらに近年では、Facebook(フェイスブック)やmixi(ミクシィ)、Twitter(ツイッター)などソーシャル・メディアの盛隆にともない、AISA(アイサ)といった検索サイトに頼らないモデルも打ち出されている。「A」「I」は「注意」「関心」で、「S」は「ソーシャル・フィルター(Social filter)」「共有」、最後の「A」は「行動・購入」を意味する。インターネットが進化し、フェイスブックへのアクセスがGoogle(グーグル)を抜いたとも報じられるなか、人々のコミュニケーション間に商機を見出す動きが強まっている。今回はこうした消費者の購買行動モデル(図表1)をヒントに、現在の旅行サイトを分類してみた。



1:認知・注意喚起、興味を引き起こす

 オンラインが興隆を極める以前は、テレビ、新聞、雑誌などを活用した企画特集や広告などが、消費者の注意喚起や興味を引き起こしていた。ところが現在は様々な「媒介」としてのメディアが存在し、あらゆるところで消費者との接触をはかろうとしている。

 博報堂が公表したメディア接触時間に関する定点調査によると、2009年はテレビ、新聞、雑誌、ラジオのマス4媒体、携帯・PCを含め、全体で24分増加した。これは巣ごもり消費などで手軽に余暇を過ごせるテレビが増加したほか、ツイッターをはじめソーシャル・メディアへのアクセスが携帯を中心に増えたことが理由としてあげられる。




 しかし、消費者がインターネットとの接触時間を増やしつつあるなか、実は旅行への注意喚起や興味を積極的に駆り立てるサイトはまだ少ない。インターネットで興味・関心を掻き立てられるケースは、ニュース系のサイトの影響が大きいようだ。

 例えば最近では、格安航空会社(LCC)がテレビ、新聞、ネットなどで大きな話題となっている。9月21日にエア・アジアX(D7)が羽田就航の運賃を5000円と設定したニュースは午後1時から配信開始され、18時過ぎから再び記事が数件配信されたが、これに連動するようにブログなどでも多くの「格安航空会社」の話題が発信されていた。

 ただし、ニュース報道は24時間後にはほぼ沈静化してしまった。また、いつどのタイミングでニュースが発信されるのかも定かではない。そのため、現在のオンライン旅行サイトは、ニュースのキーワードと連動するよりも、インタレストマッチなどのような興味関心連動型広告を活用している。

 この状況を示唆するものが、インターネット広告を取り扱うバリューコマースの売上高の内訳だ。同社の売上高は増加基調にあるなか、旅行・ライフスタイルカテゴリの売上高が占めるシェアは高まっている。同社は個人のブログサイトへの広告掲載も取り扱っており、ニュースなどの情報サイトから個人のブログサイトまで、幅広い集客網を旅行業界側に広げていると考えられる。


2:検索・キーワードから絞込み

 検索では、YAHOO!(ヤフー)やグーグルを利用する消費者が多いだろう。一般的にヤフーは60%前後、グーグルが35%以上とされ、この2社の検索結果に敏感に対応しているといっても過言ではない。そのため、多くのユーザーを自社サイトに呼び寄せようと、各社は検索結果の表示で上位になるようにする検索エンジン最適化「SEO」対策に取り組んでいる。

 さらに旅行を絞り込む段階では、多くの場合は内容や価格を比較、検討する。その際に登場するのが、楽天やじゃらんなどのオンライン専業サイトや旅行会社のサイトのほか、旅行情報を提供するトラベルコちゃんやエイビーロード、トラベル・ジェーピーなど、旅行関連の会社から商品情報を集めている、検索比較サイトだ。

 これらのサイトは消費者がイメージしている旅行を、より現実的に考えてもらう役割を担っている。例えば、消費者が希望する旅行が、行き先は「ハワイ」、出発地は「東京」、予算は「8万円から10万円」、旅行日数は「8日間」と具体的な場合、それぞれを検索条件として指定すると、結果が一覧で表示される。

 もし、イメージが具体的でない場合でも、目的地や価格帯でツアーが表示されるようになっており、気に入ったものがあれば旅行会社のサイトへ遷移する、メールや電話で問いあわせをする、といった予約への行動を起こすことになる。ツアー、航空券、ホテルや旅館などそれぞれの商品別に各サイトを訪れることなく内容や価格を比較・検索できるため利便性が高い。旅行会社をはじめサプライヤー側からすると、旅行を購入する確率の高い人を誘導してもらえるという利点があり、消費者と旅行業者の双方にとって重要なサイトとなっている。


3:購買

 この段階で対象となるのは、単品販売をするサプライヤーを除き、旅行業登録を持つ旅行サイトだ。実際の購買に結びつけるよう、顧客の購買決定プロセスの広範囲の部分をおさえようとしているサイトが多い。さらに、この2、3年は国内宿泊を中心にモバイルでの予約購入にも、積極的に対応が進められている。

 消費者が旅行商品を購買するサイトへの導線は、楽天トラベルやじゃらんなど知名度が高く、ポイント制を導入して複数回の利用を促すサイト以外は、検索サイトや旅行検索に特化したアグリゲーターを経由して旅行商品を知り、購入に至るケースが多い。この場合、消費者は旅行会社が信用できるか否か、過去に同じ旅行会社を利用した人の口コミを参照する場合があるため、消費者が他のサイトへ離脱する場合も少なくない。このため、消費者とのオンライン上の接触で、常にベストの対応ができるような体制を整えることを重要視している。

 さらに、一度購入したユーザーに対し、リピートを促すためにメールマガジンの登録や各種キャンペーンなど、注意喚起や興味を引く機会の創出にも対応を進めている。たとえば、楽天トラベルは楽天グループのキャンペーンと連動し、「30時間限定!お買い物マラソン」イベントを展開し、交通機関やホテルを格安で販売。旅行への注意喚起を含め、様々な商品ラインアップを閲覧して購入の欲求を高めることに取り組んでいる。最近では、ツイッターという140字のミニブログを活用し、発信者の他愛もない日常生活を織り交ぜながら旅行地の情報を発信するなど、消費者に寄り添う姿を映し出しながら旅行商品の販売につなげる手法も活用されている。


4:共有

 インターネットは情報発信が格段に便利になったといわれる。なかでも、顔をあわせた人同士のコミュニケーションだけでなく、興味や関心が同じ人たちなどがインターネットを通じて仲間になることができる点は大きい。そして、自らの体験を共有することで、コミュニティを形成したり、コミュニケーションを深めたりしている。

 旅行でも同様のことがあり、フォートラベルやトリップアドバイザーがその代表例だ。旅行先のほか、旅館やホテル、航空会社に対する口コミを集めたサイトは多く、先に述べた通り、予約する過程でサービスの質や対応、同様の旅行体験を経験済みの消費者を探し、参照、あるいは質問するといった行為で、形のない商品の内容の精査がされている。

 また、ミクシィでも海外、国内、デスティネーション、航空、ホテルなど旅行関連をテーマにしたコミュニティが形成されている。ミクシィで特筆しておくことは、旅行と関係ない音楽のテーマが実際に旅行につながる場合もあることだ。たとえば、ギターを好きな大学生とすでに会社をリタイヤした悠々自適の人とがある場所に集まって演奏会を開く、と盛り上がって旅行が発生している事例も見受けられる。

 購買行動別に旅行サイトを見返ると、ユーザーを多数集めるサイトがいまだ優勢に見える。だが、自社の強みを際立たせて集客を伸ばしつつあるサイトも少なくはない。今後はいかにユーザーに際立った強みを見せていくかをスタートアップのときに打ち出していく必要があるだろう。その強みは価格でも商品内容でもかまわないだろうが、現在のユーザー動向からすると「誰かに教えたくなる商品」という共有の要素が重要だ。その理由は、購買行動の決定は主体的に検索するだけでなく、情報交換が簡便なブログやツイッターなどのソーシャル・メディアに重心が移りつつあるからだ。いかにユーザーの日常に入り込むかが、今後の旅行需要拡大や潜在化では重要なポイントになってくるだろう。


格段に早いオンライン販売の時間の流れ

 性別、年代別、年収別といった顧客の購買性向や、その前段にあたるサイトへのアクセス
ログは膨大な量になる。それを解析し、どのような課題や問題があるかをしっかり把握して
対策を打つか否かで、大きな差が生まれてくる。これらを分析するには、様々なソリューシ
ョンが提供されており、効果的に使いこなしリードタイムを短くすることが、今後のビジネ
スを拡大する上で命運を握る要素になりつつある。

 さらに分析を踏まえ、次の展開の仮説と試験的マーケティングを短時間で繰り返し実践し
ていくには、自社にあうソリューションを取捨選択し、かつ一定期間で見直しをするサイク
ルを定着しておきたい。特に、オンラインを利用して売り上げを伸ばしたいと考える場合は、
様々な施策の効果を多面的に分析し、有効か否かをすばやく判断し、PDCAサイクル(Plan/
計画、Do/実行、Check/評価、Act/改善)をすばやく繰り返すしか成功に導く方法はない。