インタビュー:近畿日本ツーリスト スポーツ事業部 課長 香川晴美氏
スポーツ観光は時流にあった事業
グローバル展開から地域振興まで幅広い市場の取り組みへ
近畿日本ツーリスト(KNT)は今年度からスポーツ事業部を新設し、スポーツイベント全般にかかわる旅行の取扱いを強化した。それ以前からもスポーツ関連の旅行に力を入れており、2008年には今年のFIFAワールドカップ南アフリカ大会の「FIFAホスピタリティプログラム」日本独占公式代理店、韓国と中国での公式代理店を契約するなど、その動向に注目が集まっている。おりしも今年から観光庁がインバウンド拡大と国内観光振興の「起爆剤」としてスポーツ観光を推進し、業界としてもスポーツと旅行の関連性への関心が高まっているなか、KNTスポーツ事業部課長の香川晴美氏に、スポーツ事業に取り組む同社のねらいと商機を聞いた。
−御社はスポーツ関連の旅行に強いイメージがありますが、いつごろから取り組みをされていたのですか
香川晴美氏(以下、敬称略) スポーツ関連旅行の取り扱いは以前から取り組んでいましたが、大型の国際的なスポーツイベントの公式代理店を務めたのは、1991年に東京で開催された世界陸上が最初です。この時の独占代理店として宿泊輸送手配をした経験をいかし、脈々とスポーツに取り組んできた経緯があります。
その後、日本でもオリンピックやサッカーワールドカップ(W杯)など大型のスポーツイベントへの注目が高まってきたこともあり、全社的にスポーツイベントの公式代理店を請け負っていくことになりました。そして2009年1月1日に、サッカーW杯南アフリカ大会とバンクーバー冬季オリンピックを控え「スポーツイベント事業部」を開設し、世界的なスポーツイベントに対して確実な仕入れと販売、リスク管理をする体制を整えました。
−今年4月から「スポーツ事業部」を新設されましたが、そのねらいとこれまでとの違いは
香川 これまで主に海外での大型イベントを視野に入れていましたが、現在のスポーツ事業部ではスポーツビジネス全般を対象とし、日本国内の地域のイベントやその関連事業にも範囲を広げていくのが大きな違いです。事業部を利益責任単位として改め、よりいっそう力を入れて取り組みます。これまでのスポーツ関連の取り扱いは各支店や営業部ごとの集計になっているため把握できていませんが、スポーツ事業部では2012年度には売上高24億円を目標としています。
事業部のスタッフ数は13名で、そのうち専任は4名。そのほかは自治体担当や法務、訪日担当、海外事務所などのスタッフが兼務しています。現在は圧倒的に海外での大会の取り扱いが多いので、今後は国内のシェアも広げていく考えです。
−旅行会社の商品・分野として、スポーツはどのような意味がありますか。そのメリットと魅力は
香川 スポーツイベントは、海外で開催される大会への選手や関係者の派遣から、観戦ツアーの送客、さらに日本で開催される大会では市場調査からプロモーション、集客、販売など全般的な管理・運営を含めた取り組みが可能です。旅行会社として携わることができる素地が多くあります。
また、その取り扱いは広範囲におよびます。世界レベルの大型イベントから、国内の地方・地域、さらには少年野球など草の根レベルのイベントまでが対象になります。さらに現在、日本の地方・地域は地域振興の取り組みを強化していますが、スポーツを切り口に国内各地や海外からの誘客などで世界と各地域を結びつけることができます。
特に今後、日本国内でマラソン大会など誘客を目的とするスポーツイベントの立ち上げが予定されており、すでにスポーツによる観光振興の戦略作りを開始した地域は数多くあります。そういう意味で今の時代、旅行会社のスポーツ事業は価値のあるものだと思っています。ちょうど観光庁が今年1月から、スポーツ観光に取り組みはじめており、呼応する形でタイミングもよかったです。
−観光素材としての魅力はどう考えていますか
香川 もちろん、素材そのものにも大きな魅力があります。現在はインターネットでも世界各国の写真や動画を簡単に見ることができ、「行ったつもり」になることもできます。今後は3Dでの動画配信も一般的になってくるでしょう。勿論、映像ならではの素晴らしさもたくさんありますが、いくら伝達技術が発達しても、スポーツにはその場の空気感があり、会場に行かなくては分からないものがあるのです。
私が初めてその感動を体験したのは、世界陸上東京大会で男子100メートル走に出場したカール・ルイス選手を見たときです。スタジアムで見ると躍動感が際立ち、走る姿がまるで飛んでいるように見えました。さらに周囲の観客席の熱気、歓喜は、そのなかにいてこそ感じることができたものです。バーチャルがあふれている現代において、リアルな感動を伝えるのが旅行会社の使命なら、スポーツは私達に最高の感動を与えてくれるもののひとつです。
−今年はバンクーバー冬季オリンピックとサッカーW杯南アフリカ大会という世界的なスポーツイベントがありましたが、それぞれの成果は
香川 バンクーバー冬季オリンピックでは日本オリンピック委員会(JOC)公式代理店として日本代表選手団258名の輸送業務をJOCより受託し、ツアーでは、約1000名を送客しました。また、サッカーW杯ではFIFAホスピタリティプログラムでの送客を含め約5700名を全世界から送客しました。
特にW杯は会社としてグローバル展開を強化しているなか、いいビジネスモデルになったと思っています。取り扱いの大半は日本ではなく世界各国で、スポンサー企業の招待旅行を中心に受注しました。地域への深化とグローバル展開をはかれるスポーツ事業は、今後、旅行会社にとって重要な位置付けになると思います。
−今後の予定と目標をお願いします
香川 大型のスポーツイベントとしては今後、9月に東京で世界柔道、11月には広州でアジア大会が予定されています。このうち、9月9日に開幕した世界柔道はKNTが全日本柔道連盟のスポンサーを務めていることもあり、海外向けにチケット販売の英語サイトを開設しました。柔道はヨーロッパを中心に海外でも人気があり、フランスの旅行会社などがツアーを企画するなど、インバウンドでの手ごたえもあります。
来年はスポーツイベントの“裏年”といわれていますが、韓国で世界陸上、上海で世界水泳が開催される予定ですので、選手団の派遣や観戦ツアーのみならず、日本での事前合宿も取り込んでいきます。ご存知の方も多いと思いますが、世界のスポーツ界では日本の環境の良さが知られており、北京オリンピックの時も各国の約50チームが日本で事前合宿をしていたのです。
このほか、全社的な取り組みとしてウェブ販売も強化していきます。7月にはスポーツ専門サイトをオープンし、これからコンテンツを充実させていくのですが、各イベントと観戦ツアー情報のみならず、スポーツに関連する知識やイベント開催国の観光情報など、一般消費者からコアなスポーツファン、さらにはイベントの誘致などを検討する自治体や企業にも役立つサイトに育てていきたいと考えています。
−ありがとうございました
グローバル展開から地域振興まで幅広い市場の取り組みへ
近畿日本ツーリスト(KNT)は今年度からスポーツ事業部を新設し、スポーツイベント全般にかかわる旅行の取扱いを強化した。それ以前からもスポーツ関連の旅行に力を入れており、2008年には今年のFIFAワールドカップ南アフリカ大会の「FIFAホスピタリティプログラム」日本独占公式代理店、韓国と中国での公式代理店を契約するなど、その動向に注目が集まっている。おりしも今年から観光庁がインバウンド拡大と国内観光振興の「起爆剤」としてスポーツ観光を推進し、業界としてもスポーツと旅行の関連性への関心が高まっているなか、KNTスポーツ事業部課長の香川晴美氏に、スポーツ事業に取り組む同社のねらいと商機を聞いた。
−御社はスポーツ関連の旅行に強いイメージがありますが、いつごろから取り組みをされていたのですか
香川晴美氏(以下、敬称略) スポーツ関連旅行の取り扱いは以前から取り組んでいましたが、大型の国際的なスポーツイベントの公式代理店を務めたのは、1991年に東京で開催された世界陸上が最初です。この時の独占代理店として宿泊輸送手配をした経験をいかし、脈々とスポーツに取り組んできた経緯があります。
その後、日本でもオリンピックやサッカーワールドカップ(W杯)など大型のスポーツイベントへの注目が高まってきたこともあり、全社的にスポーツイベントの公式代理店を請け負っていくことになりました。そして2009年1月1日に、サッカーW杯南アフリカ大会とバンクーバー冬季オリンピックを控え「スポーツイベント事業部」を開設し、世界的なスポーツイベントに対して確実な仕入れと販売、リスク管理をする体制を整えました。
−今年4月から「スポーツ事業部」を新設されましたが、そのねらいとこれまでとの違いは
香川 これまで主に海外での大型イベントを視野に入れていましたが、現在のスポーツ事業部ではスポーツビジネス全般を対象とし、日本国内の地域のイベントやその関連事業にも範囲を広げていくのが大きな違いです。事業部を利益責任単位として改め、よりいっそう力を入れて取り組みます。これまでのスポーツ関連の取り扱いは各支店や営業部ごとの集計になっているため把握できていませんが、スポーツ事業部では2012年度には売上高24億円を目標としています。
事業部のスタッフ数は13名で、そのうち専任は4名。そのほかは自治体担当や法務、訪日担当、海外事務所などのスタッフが兼務しています。現在は圧倒的に海外での大会の取り扱いが多いので、今後は国内のシェアも広げていく考えです。
−旅行会社の商品・分野として、スポーツはどのような意味がありますか。そのメリットと魅力は
香川 スポーツイベントは、海外で開催される大会への選手や関係者の派遣から、観戦ツアーの送客、さらに日本で開催される大会では市場調査からプロモーション、集客、販売など全般的な管理・運営を含めた取り組みが可能です。旅行会社として携わることができる素地が多くあります。
また、その取り扱いは広範囲におよびます。世界レベルの大型イベントから、国内の地方・地域、さらには少年野球など草の根レベルのイベントまでが対象になります。さらに現在、日本の地方・地域は地域振興の取り組みを強化していますが、スポーツを切り口に国内各地や海外からの誘客などで世界と各地域を結びつけることができます。
特に今後、日本国内でマラソン大会など誘客を目的とするスポーツイベントの立ち上げが予定されており、すでにスポーツによる観光振興の戦略作りを開始した地域は数多くあります。そういう意味で今の時代、旅行会社のスポーツ事業は価値のあるものだと思っています。ちょうど観光庁が今年1月から、スポーツ観光に取り組みはじめており、呼応する形でタイミングもよかったです。
−観光素材としての魅力はどう考えていますか
香川 もちろん、素材そのものにも大きな魅力があります。現在はインターネットでも世界各国の写真や動画を簡単に見ることができ、「行ったつもり」になることもできます。今後は3Dでの動画配信も一般的になってくるでしょう。勿論、映像ならではの素晴らしさもたくさんありますが、いくら伝達技術が発達しても、スポーツにはその場の空気感があり、会場に行かなくては分からないものがあるのです。
私が初めてその感動を体験したのは、世界陸上東京大会で男子100メートル走に出場したカール・ルイス選手を見たときです。スタジアムで見ると躍動感が際立ち、走る姿がまるで飛んでいるように見えました。さらに周囲の観客席の熱気、歓喜は、そのなかにいてこそ感じることができたものです。バーチャルがあふれている現代において、リアルな感動を伝えるのが旅行会社の使命なら、スポーツは私達に最高の感動を与えてくれるもののひとつです。
−今年はバンクーバー冬季オリンピックとサッカーW杯南アフリカ大会という世界的なスポーツイベントがありましたが、それぞれの成果は
香川 バンクーバー冬季オリンピックでは日本オリンピック委員会(JOC)公式代理店として日本代表選手団258名の輸送業務をJOCより受託し、ツアーでは、約1000名を送客しました。また、サッカーW杯ではFIFAホスピタリティプログラムでの送客を含め約5700名を全世界から送客しました。
特にW杯は会社としてグローバル展開を強化しているなか、いいビジネスモデルになったと思っています。取り扱いの大半は日本ではなく世界各国で、スポンサー企業の招待旅行を中心に受注しました。地域への深化とグローバル展開をはかれるスポーツ事業は、今後、旅行会社にとって重要な位置付けになると思います。
−今後の予定と目標をお願いします
香川 大型のスポーツイベントとしては今後、9月に東京で世界柔道、11月には広州でアジア大会が予定されています。このうち、9月9日に開幕した世界柔道はKNTが全日本柔道連盟のスポンサーを務めていることもあり、海外向けにチケット販売の英語サイトを開設しました。柔道はヨーロッパを中心に海外でも人気があり、フランスの旅行会社などがツアーを企画するなど、インバウンドでの手ごたえもあります。
来年はスポーツイベントの“裏年”といわれていますが、韓国で世界陸上、上海で世界水泳が開催される予定ですので、選手団の派遣や観戦ツアーのみならず、日本での事前合宿も取り込んでいきます。ご存知の方も多いと思いますが、世界のスポーツ界では日本の環境の良さが知られており、北京オリンピックの時も各国の約50チームが日本で事前合宿をしていたのです。
このほか、全社的な取り組みとしてウェブ販売も強化していきます。7月にはスポーツ専門サイトをオープンし、これからコンテンツを充実させていくのですが、各イベントと観戦ツアー情報のみならず、スポーツに関連する知識やイベント開催国の観光情報など、一般消費者からコアなスポーツファン、さらにはイベントの誘致などを検討する自治体や企業にも役立つサイトに育てていきたいと考えています。
−ありがとうございました