現地レポート:カナダ、「体験する」ツアーの可能性

  • 2010年7月16日
カナディアンロッキー、ウィスラー、バンクーバーで「体験型」の可能性
デスティネーションの魅力をいかし、新しいツアーの取り組みを
〜JATAカナダ・ミッション視察〜


 カナダを訪れる日本人旅行者数は2005年以降、急激に減少し、2009年にはピークの52万人を大幅に下回る20万人となった。しかし、JATAカナダ・ミッションの参加者は現地視察中、異口同音に「カナダの魅力は何も変わっていない」と発する。参加者の多くは10年以上ぶりのカナダ訪問で、現地を視察するごとに「デスティネーションの魅力は相変わらない」との認識を深めていた。今回の行程はエア・カナダ(AC)の成田/カルガリー線を利用し、カナディアンロッキー、ウィスラー、バンクーバーといった西部の見どころが主軸。定番コースの新規の魅力付けやマーケット開発など、さまざまな可能性を感じたようだ。            
        
              
「眺める」から「体験する」へ

 日本人旅行者の志向が、物見遊山的な観光から現地での体験を楽しむ旅行にシフトするなか、カナダ旅行も新たな展開が求められている。定番となっている東部から西部へ横断するツアー、カナディアンロッキーと西部、または東部を組みあわせるツアーなど、駆け足で自然を「眺める」観光から、「体験する」観光に変化する必要がある。今回のミッションも、現地視察を通じてその可能性を探ることが目的のひとつだ。

 そういう視点で現地を見ると、例えばカナディアンロッキーでは、バンフなど拠点となる町にはトレッキングやマウンテンバイク、湖でのボートフィッシングなど、さまざまなアクティビティがある。

 そのひとつ、カルガリーとバンフのほぼ中間にある「ラフター・シックス・ランチ」では、ロッキーの山々を望みながらの乗馬や、ロッキーの雪解け水が流れ込むカナナキス川でのラフティングなどが楽しめる。通常のロッキー観光はコロンビア大氷原やレイクルイーズなどの見どころを1日でまわって終了することが多いが、滞在を延ばし、雄大なカナダの自然のなかで体験する楽しみを提案したい。

 このほか、大自然に囲まれたゴルフもロッキーならではの体験。ロッキーの山々を背景にしたフェアモント・バンフ・スプリングスのコースをはじめ、キャンモアやカナナキスなどバンフ周辺にはゴルフコースが多い。いずれも標高が高く、山々に囲まれて遠近感が掴みにくいなど、日本では味わえない楽しみがあるという。

 ツアーに体験を組み込むには、現地での滞在時間が必要になる。そういう意味で、今春就航したエア・カナダ(AC)のカルガリー直行便は、体験型ツアーを造成しやすくする要素のひとつといえるだろう。アルバータ州観光公社の市場開発担当ディレクターの小西美砂江氏も、「経由便が不要になり、以前よりロッキーを満喫できる」と、体験型のツアーが増えていると話す。特に力を入れるウォーキングは人気で、バンフでの街散策やゲートウェイのカルガリーでもビルをつなぐ歩道「プラス・フィフティーン」などのウォーキングを組み込んだツアーもあるという。


移動手段で旅に変化

 今回の視察では、バンフからアイスフィールドパークウェイを通り、ジャスパーへ。ジャスパーからは、カナダの旅客鉄道「VIA鉄道」のカナディアン号でバンクーバーへ移動。ジャスパー発は14時30分、バンクーバー着が翌9時42分で、1泊の車中泊が体験できる。VIA鉄道を組みこんだツアーは大手各社の期首商品でも設定されており、VIA鉄道インターナショナル・セールス・シニア・マネージャーのジョセフィン・ワッシュ氏によると、日本人のツアーは1泊2日の利用が多いという。

 車内には食事を楽しむダイニングカーのほか、屋根をガラス張りにしたパノラマカー、ゲームを楽しむアクティビティルーム、お茶や軽食などが置いてあるラウンジカーなどがあり、乗車中は車中を自由に行き来できる。移りゆくロッキーの景色を見ながら食事を楽しむのはめったにできない体験で、視察後の感想でVIA鉄道から眺めた景色や体験をあげた参加者も多かった。現在、VIA鉄道ではカナダ政府と全車両の改装を実施するプロジェクトを実施しており、2012年には新装車両が運行する予定だ。

 なお、ミッション中に開催された日本カナダ観光協議会では、冬のオーロラ観光のバンクーバー/イエローナイフ線の供給量が少ないことが課題としてあげられたが、これに対しワッシュ氏は、バンクーバーからイエローナイフへの路線が多いエドモントンまでのVIA鉄道の利用を提案。エドモントンには北米最大のショッピングモールがあり、鉄道の旅とショッピングを楽しみながらオーロラ観光もできると、新しい旅程の魅力をアピールした。




夏のウィスラーにファミリー、バンクーバー滞在も増加

 ブリティッシュ・コロンビア(BC)州観光局日本地区マネージャーの菊地友子氏によると、夏はウィスラーのローシーズンで客室が安くなる。このメリットに加え、2008年にオープンした世界最長のゴンドラ「ピークtoピーク」や、トレッキングやマウンテンバイクなどのアクティビティがあり、夏は高原リゾートとして利用客は冬のスキー客よりも多いという。

 日本市場ではスキー旅行が流行した頃の旅行者は多かったが、日本国内でのスキー需要の落ち込みとともに減退した。そこでBC州ではこの数年、日本市場に対して夏のウィスラー観光を推進。バンクーバー、ビクトリアとあわせた3都市周遊を打ち出している。

 当初からリゾートとして開発されているため、ウィスラーはエリア内のレストランやショッピング、アトラクションへのアクセスが簡易。特に夏場には家族向けにポニー乗馬やクライミングなどのアクティビティゾーンもオープンする。ジェイティービー(JTB)は今年、「わいわいファミリー」で、カナダのページを昨年の1ページから8ページに拡大し、家族をターゲットにした取り組みを強化した。また、修学旅行の利用も増えているといい、新しいマーケットへのアプローチも考えられる。

 新マーケットといえば、バンクーバーでFITのリピーターが増えているという。正確には把握しきれていないものの、菊地氏は「語学研修や留学で暮らす学生の関係者が遊びに来るケースが多いのではないか」と分析。バンクーバーは今年の冬季オリンピックにあわせて市内交通の便がさらに向上したほか、30分程度で行ける「グラウス・マウンテン」など、周辺のアトラクションが豊富で、FITが旅行を楽しむ要素が充実している。リピーターを取り込むための滞在型商品も、今後は考えていきたい。



いかにアピールしていくか

 今回のミッションは、ビジット・ワールド・キャンペーン(VWC)の一環として実施したもの。VWC2000万人推進室の澤邊宏氏はカナダが重点国となる以前、バンフのサルファー山頂上から見た山並みや眼下に広がる風景の素晴らしさを目のあたりにして「日本人旅行者の減少が常態化して、年間50万人が訪れたせっかくのデスティネーションが日本の旅行市場から消えてしまうのは怖いと感じた」。このときの思いがVWCの重点国入りを考えるきっかけのインパクトになったという。

 ミッションの参加者も、視察を通してカナダの素晴らしさを認識。「『見に来る』から『体験する』カナダに変えていかなくては。キーワードのひとつはスポーツ」(JTB国際部長の古澤徹氏)、「心に訴えるキーワードが必要。今回の視察で感じたのは『緑の魅力』。それをどう表現していくか」(阪急交通社東日本営業本部メディア営業三部部長の新井富雄氏)など、それぞれ新たな可能性を見出している。そして「いかにカナダを知らない人にアピールしていくか。ムーブメントをどう起こすか考えていく」(近畿日本ツーリスト海外旅行部長の稲田正彦氏)と、意気込む。

 ミッション副団長を努めたANAセールス顧問の北林克比古氏は「定番の観光地は十分に魅力があり、この素材でまだまだ売れる」とした上で、「ただ、その魅力を十分にコミュニケートできていないだろう。例えば、バンクーバーやカルガリーへのフライトは、西側ヨーロッパより早く到着することも知られていない」と、カナダの魅力や情報の周知の必要性を指摘する。カナダの特徴を把握し、素材の良さをいかしながらどのように新しい魅力付けをしていくか。各社の取り組みに期待したい。








取材協力:日本旅行業協会(JATA)、チーム・カナダ(カナダ観光局(CTC)、
ブリティッシュ・コロンビア州観光局、アルバータ州観光公社、オンタリオ州観光局、
プリンス・エドワード島州観光局、ユーコン準州観光局、エア・カナダ(AC))
取材:山田紀子



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