トップインタビュー:日本旅行・アメリカンエキスプレス代表取締役社長 竹村章美氏
BTMへの関心の高まり実感、包括的な旅行関連サービスを企業に
今年4月、新たに日本旅行・アメリカンエキスプレス(日旅アメックス)の代表取締役社長に就任した竹村章美氏。アメリカンエキスプレス(アメックス)で長年にわたって培ってきた経験をいかしながら、日本におけるBTM事業を拡大させていきたいと意欲的だ。景気低迷が続くなか、より効率的な業務渡航を模索している企業は多く、改めてBTMの存在が注目されている。また、ゼロコミッションなど旅行業界を取り巻く環境の変化も激しい。そうした状況の日本市場で、日本旅行とのシナジー効果、航空会社との関係などを含め、今後どのようなビジネス展開を考えているのか聞いた。(聞き手:弊紙編集長 松本裕一)
−これまでの経歴と、その経歴を日旅アメックスでどう活用していくか教えてください
竹村章美氏(以下、敬称略) アメックスに入社して今年で22年になります。そのうち12年は業務渡航関連の事業に携わり、10年はパリで勤務しました。これまでの仕事の内容は大きく分けて3つです。まず、経営企画部門で、全世界における合弁会社の立ち上げに携わりました。そのときに関わったうちのひとつが日旅アメックスです。ローカルパートナーと協力しながら、戦略を立てていく業務は、今の仕事にもつながっていると思います。
また、欧州のオペレーション担当のチーフファイナンシャルオフィサー(CFO)も務めました。当時は、欧州のビジネストラベルの環境が大きく変化していた時期。いかに効率化を進めていくかが求められていました。今、その変化の波がアジアに押し寄せてきているのではないでしょうか。その点でも、個人的な経験がいかせると思っています。
3つ目が全世界の法人営業を管理・監督する(スーパーバイズ)仕事。営業活動が効率よくおこなわれているかどうかを見ていました。そのなかで、本当の付加価値をどう提供していくか、それをどのように各地のビジネスに落とし込んでいくかを学びました。この経験も日旅アメックスでいかせると考えています。
−日旅アメックスの2009年の業績と、2010年のこれまでの推移、そして今後の見通しについてお聞かせください
竹村 景気低迷が続き、企業が出張経費の削減を進めていくなかで、2009年は大変厳しい年でしたが、逆に企業のニーズが掘り起こされた年でもあったと思います。単純に経費を削減すればいいというわけではなく、いかに賢く経費を使っていくかという点に企業が目を向けはじめました。業務渡航も投資のひとつなのです。BTMへの関心も高まってきており、企業の意識改革という点ではポジティブな1年だったのではないかと思っています。
今年上半期の業績はかなり回復してきています。特に欧米などの長距離方面は昨年大きく落ち込みましたが、今年になって需要が戻っているため、全体の単価も高くなっています。
−確かに、日本でもBTMの関心が高まっているように感じます。BTMビジネスの現在と今後についてお考えをお聞かせください
竹村 BTMの守備範囲は広がっています。例えば、将来的には新しいテクノロジーを利用したミーティング・ソリューションの提供なども手がけていきたいと考えています。バーチャル化すると、BTMの役割が小さくなると思われるかもしれませんが、業務渡航は決してなくなりません。今後は、企業が持つ業務渡航以外のニーズにも応え、ミーティングビジネスなども含めたトータルサービスを提供していきたいと考えています。
つまり、企業の旅行関連業務を包括的に受けるということです。業務渡航以外のノウハウも持つ日本旅行と組むことで、より包括的なBTMの提案が可能になり、守備範囲が広がるのです。アメックスの持っているコンサルティング力やグローバルネットワークと、日本旅行の国内のサプライヤーネットワークやアメックスにはないBTMの強みを最大限活用して、新規の顧客獲得を進めていきたいと考えています。
また、アウトバウンドと同時に、海外の契約企業が来日する場合の受け皿としてインバウンドにも力を入れていきたいと考えています。こうした取り組みには、全国にネットワークを持つ日本旅行というパートナーが欠かせません。それぞれの持っている強みをいかしながら、日本全体でビジネスを展開していきたいと思います。
−日本は独自性の強い市場と見られています。その市場にどのように対応していきますか
竹村 日本は世界でも稀なハイタッチサービスの国です。それが日本の強みだろうと思います。アメックスが培ってきた効率的なサービスやロジカルなサポートと日本の質の高い人間的なサービスを融合することで、日本特有のニーズに応えたいと考えています。
弊社のスタンスは、グローバルスタンダードに市場を適応させていくのではなく、市場ごとの特異性にビジネスを順応させ、進化させるものです。それぞれの市場には異なったニーズがあり、それを無視してしまえば成功はありません。そのニーズに応えていくために、我々のような会社があると思っています。
一方、日本の旅行業界はまだ、テクノロジーによる効率化が進んでいません。“ガラパゴス”などとよくいわれますが、特有なりにどう進化させていくのかが問題ではないでしょうか。日本特有だから進化できません、では困るのです。この点でも、働きかけを強めていきたいところです。例えば、日本ではさまざまな面でモバイル化が進んでいます。ここにも新しいビジネスニーズがあるのではないかと思います。
−ゼロコミッションや直販など、航空会社と旅行会社との関係が昨今変化してきています。この状況で、日旅アメックスのビジネス展開に変化はあるのでしょうか
竹村 ゼロコミッションについていえば、弊社はずいぶん前からコミッションに影響を受けないビジネスモデルを構築してきました。欧米市場での経験から、ゼロコミッションの時代が来ることを知っていたからです。経済全体の落ち込みによる業績への影響はあるものの、ゼロコミッションによる影響はほとんどありません。
もちろん、ゼロコミッションが旅行市場に与える影響はかなり大きいはずです。旅行代理店というビジネスは、これまでとは異なるモデルを考えなければならない時期に来ています。だからこそ、すでにそうした状況に対応できるビジネスモデルを持っている弊社にとって、ゼロコミッションは追い風だと思っています。
航空会社は我々にとって重要なパートナーで、ギブ・アンド・テイクの関係が大切です。我々は航空会社にとって収益性の高い顧客を抱えています。各航空会社はそれぞれ違うビジネスの方向性を持っていますが、その方向性にあわせて、一緒にビジネスを展開していくことが大切だと考えています。多様な航空会社の戦略にあわせ、コンサルティングをしながら、解決策を見つけ出し、お互いのメリットで合意していくというスタンスです。
−就任初年度の目標、そして在任中に達成したいことがあればお聞かせください
竹村 まずはBTMに関心がある企業を取り込んで、この業界で新風を巻き起こしていきたいと思います。加えて、人材育成が特に大切だと考えています。BTMをきちんと理解して、企業のニーズを把握し、さまざまな提案やコンサルティングができる人材を育成しなければなりません。オペレーションを引っ張っていける人材も必要です。そうしたさまざまな人材を育てていくのも私の大きなミッションだと考えています。
また、弊社は多国籍企業のクライアントに強みがあり、特に金融系が多いですが、金融系は景気に左右されやすいのも事実です。今後は、例えば政府系などもっと安定性の高いクライアントも獲得していく必要があります。日本では日系、外資系、双方にアプローチをかけ、幅広くクライアントを獲得していきたいと思っています。
−ありがとうございました
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今年4月、新たに日本旅行・アメリカンエキスプレス(日旅アメックス)の代表取締役社長に就任した竹村章美氏。アメリカンエキスプレス(アメックス)で長年にわたって培ってきた経験をいかしながら、日本におけるBTM事業を拡大させていきたいと意欲的だ。景気低迷が続くなか、より効率的な業務渡航を模索している企業は多く、改めてBTMの存在が注目されている。また、ゼロコミッションなど旅行業界を取り巻く環境の変化も激しい。そうした状況の日本市場で、日本旅行とのシナジー効果、航空会社との関係などを含め、今後どのようなビジネス展開を考えているのか聞いた。(聞き手:弊紙編集長 松本裕一)
−これまでの経歴と、その経歴を日旅アメックスでどう活用していくか教えてください
竹村章美氏(以下、敬称略) アメックスに入社して今年で22年になります。そのうち12年は業務渡航関連の事業に携わり、10年はパリで勤務しました。これまでの仕事の内容は大きく分けて3つです。まず、経営企画部門で、全世界における合弁会社の立ち上げに携わりました。そのときに関わったうちのひとつが日旅アメックスです。ローカルパートナーと協力しながら、戦略を立てていく業務は、今の仕事にもつながっていると思います。
また、欧州のオペレーション担当のチーフファイナンシャルオフィサー(CFO)も務めました。当時は、欧州のビジネストラベルの環境が大きく変化していた時期。いかに効率化を進めていくかが求められていました。今、その変化の波がアジアに押し寄せてきているのではないでしょうか。その点でも、個人的な経験がいかせると思っています。
3つ目が全世界の法人営業を管理・監督する(スーパーバイズ)仕事。営業活動が効率よくおこなわれているかどうかを見ていました。そのなかで、本当の付加価値をどう提供していくか、それをどのように各地のビジネスに落とし込んでいくかを学びました。この経験も日旅アメックスでいかせると考えています。
−日旅アメックスの2009年の業績と、2010年のこれまでの推移、そして今後の見通しについてお聞かせください
竹村 景気低迷が続き、企業が出張経費の削減を進めていくなかで、2009年は大変厳しい年でしたが、逆に企業のニーズが掘り起こされた年でもあったと思います。単純に経費を削減すればいいというわけではなく、いかに賢く経費を使っていくかという点に企業が目を向けはじめました。業務渡航も投資のひとつなのです。BTMへの関心も高まってきており、企業の意識改革という点ではポジティブな1年だったのではないかと思っています。
今年上半期の業績はかなり回復してきています。特に欧米などの長距離方面は昨年大きく落ち込みましたが、今年になって需要が戻っているため、全体の単価も高くなっています。
−確かに、日本でもBTMの関心が高まっているように感じます。BTMビジネスの現在と今後についてお考えをお聞かせください
竹村 BTMの守備範囲は広がっています。例えば、将来的には新しいテクノロジーを利用したミーティング・ソリューションの提供なども手がけていきたいと考えています。バーチャル化すると、BTMの役割が小さくなると思われるかもしれませんが、業務渡航は決してなくなりません。今後は、企業が持つ業務渡航以外のニーズにも応え、ミーティングビジネスなども含めたトータルサービスを提供していきたいと考えています。
つまり、企業の旅行関連業務を包括的に受けるということです。業務渡航以外のノウハウも持つ日本旅行と組むことで、より包括的なBTMの提案が可能になり、守備範囲が広がるのです。アメックスの持っているコンサルティング力やグローバルネットワークと、日本旅行の国内のサプライヤーネットワークやアメックスにはないBTMの強みを最大限活用して、新規の顧客獲得を進めていきたいと考えています。
また、アウトバウンドと同時に、海外の契約企業が来日する場合の受け皿としてインバウンドにも力を入れていきたいと考えています。こうした取り組みには、全国にネットワークを持つ日本旅行というパートナーが欠かせません。それぞれの持っている強みをいかしながら、日本全体でビジネスを展開していきたいと思います。
−日本は独自性の強い市場と見られています。その市場にどのように対応していきますか
竹村 日本は世界でも稀なハイタッチサービスの国です。それが日本の強みだろうと思います。アメックスが培ってきた効率的なサービスやロジカルなサポートと日本の質の高い人間的なサービスを融合することで、日本特有のニーズに応えたいと考えています。
弊社のスタンスは、グローバルスタンダードに市場を適応させていくのではなく、市場ごとの特異性にビジネスを順応させ、進化させるものです。それぞれの市場には異なったニーズがあり、それを無視してしまえば成功はありません。そのニーズに応えていくために、我々のような会社があると思っています。
一方、日本の旅行業界はまだ、テクノロジーによる効率化が進んでいません。“ガラパゴス”などとよくいわれますが、特有なりにどう進化させていくのかが問題ではないでしょうか。日本特有だから進化できません、では困るのです。この点でも、働きかけを強めていきたいところです。例えば、日本ではさまざまな面でモバイル化が進んでいます。ここにも新しいビジネスニーズがあるのではないかと思います。
−ゼロコミッションや直販など、航空会社と旅行会社との関係が昨今変化してきています。この状況で、日旅アメックスのビジネス展開に変化はあるのでしょうか
竹村 ゼロコミッションについていえば、弊社はずいぶん前からコミッションに影響を受けないビジネスモデルを構築してきました。欧米市場での経験から、ゼロコミッションの時代が来ることを知っていたからです。経済全体の落ち込みによる業績への影響はあるものの、ゼロコミッションによる影響はほとんどありません。
もちろん、ゼロコミッションが旅行市場に与える影響はかなり大きいはずです。旅行代理店というビジネスは、これまでとは異なるモデルを考えなければならない時期に来ています。だからこそ、すでにそうした状況に対応できるビジネスモデルを持っている弊社にとって、ゼロコミッションは追い風だと思っています。
航空会社は我々にとって重要なパートナーで、ギブ・アンド・テイクの関係が大切です。我々は航空会社にとって収益性の高い顧客を抱えています。各航空会社はそれぞれ違うビジネスの方向性を持っていますが、その方向性にあわせて、一緒にビジネスを展開していくことが大切だと考えています。多様な航空会社の戦略にあわせ、コンサルティングをしながら、解決策を見つけ出し、お互いのメリットで合意していくというスタンスです。
−就任初年度の目標、そして在任中に達成したいことがあればお聞かせください
竹村 まずはBTMに関心がある企業を取り込んで、この業界で新風を巻き起こしていきたいと思います。加えて、人材育成が特に大切だと考えています。BTMをきちんと理解して、企業のニーズを把握し、さまざまな提案やコンサルティングができる人材を育成しなければなりません。オペレーションを引っ張っていける人材も必要です。そうしたさまざまな人材を育てていくのも私の大きなミッションだと考えています。
また、弊社は多国籍企業のクライアントに強みがあり、特に金融系が多いですが、金融系は景気に左右されやすいのも事実です。今後は、例えば政府系などもっと安定性の高いクライアントも獲得していく必要があります。日本では日系、外資系、双方にアプローチをかけ、幅広くクライアントを獲得していきたいと思っています。
−ありがとうございました
<過去のトップインタビューはこちら>