取材ノート:ATEレポート、各観光局の動向と今後の方針

  • 2010年6月23日
 5月下旬から6月上旬にかけてオーストラリアの旅行見本市「オーストラリア・ツーリズム・エクスチェンジ」(ATE)が開催された。アジアを中心に東半球のバイヤーが招かれたATEの日程前半では、日本からは30名のバイヤーが参加。各ブースに積極的に足を運ぶ姿が見られ、なかには会期中に100社とのアポイントを入れたという旅行会社担当者もいた。日本人のほかは、活発に商談をする中国人バイヤーの姿が多く見られた。

 今年は10月に予定される日本航空(JL)のブリスベン線運休などのマイナス要因があるが、1月に就任したオーストラリア政府観光局(TA)局長のアンドリュー・マケボイ氏は、第1四半期の日本人訪問者数が前年比3%増とプラスに転じたことや、カンタス航空(QF)やジェットスター航空(JQ)の座席数増加も奏功し、今年の訪問者数は横ばい、もしくは微増すると期待している。TAをはじめ、ATEに参加した各州観光局の現地担当者に現在の動向や今後の方針を聞いた。
          
          
オーストラリア政府観光局
平均単価、滞在日数に伸び、デジタルメディア活用の新キャンペーンに期待


 オーストラリア全体では、2009年は航空座席数の減少や新型インフルエンザの影響で厳しい状況となったが、一人あたりの平均旅行単価は3672豪ドルと前年より230豪ドル増加した。また、留学などの長期滞在も含めた平均滞在日数も2008年より2日延びて22日間となった。リピーター率も7ポイント増の46%と上昇している。近年は訪問者数が伸び悩んでいる日本市場だが、ハイ・イールド・マーケットであることから「引き続き重要なマーケット」とTA局長のマケボイ氏は語る。

 今年、TAは新キャンペーン「There’s Nothing Like Australia」を通じて消費者にオーストラリアの魅力を訴求するとともにパートナーとの連携を強化していく。また、ウェブサイトを活用したキャンペーンであることから、マケボイ氏は「デジタルメディアを活用している若年層にもアピールできるのではないか」と期待を寄せる。また、旅行業界向けには9月6日から8日にジャパン・オーストラリア・ミッション(JAM)を初めて日本国外で開催。旅行会社50社をゴールドコーストに招く予定だという。


クイーンズランド州
JLのブリスベン線撤退後の航空座席数確保を画策


 2009年のクイーンズランド州への日本人訪問者数は、24%減の20万5000人となった。関空/ケアンズ線の運休で苦戦を強いられ、特にケアンズは46%減と厳しい状況に見舞われた。しかし、2010年第1四半期は若干回復傾向にあり、ゴールドコーストは8%上昇したという。また、4月から関空/ケアンズ線も復便した。

 しかし、JLのブリスベン線運休の影響は甚大で、8万6000席が減少する。これに対してクイーンズランド州政府観光局日本代表の西澤利明氏は、QFの成田/シドニー便の機材大型化による座席数増加とともに、シンガポール航空(SQ)のシンガポール経由やチャイナエアライン(CI)の台北経由のブリスベン線の活用で、年間4万5000席を確保する算段をたてているという。

 2009年は観光キャンペーン「ザ・ベスト・ジョブ・イン・ザ・ワールド」が奏効。同年のハミルトン島への日本人観光客数は40%増加したという。今後、クイーンズランド州政府観光局ではセグメント別に対応し、ハネムーンマーケットにはウェディングセミナー、OL層にはJQでのオンラインプロモーション、家族マーケットにはテーマパーク、シニアにはロングステイセミナーを通じて、魅力的で安全なデスティネーションであることをアピールしていく。


ニュー・サウス・ウェールズ州
日本人にあった体験型アクティビティやイベントで送客増へ


 2009年のニュー・サウス・ウェールズ州(NSW州)の日本人訪問者数は、航空座席数の減少や新型インフルエンザの影響で23.4%減の12万9900人となった。ただし、JLの成田/ブリスベン線の運休にあたり、NSW州政府観光局日本局長の金平京子氏は「シドニーの重要度はますます上がってきている」として、TAや航空会社、さらに他の州との協力を重要視する姿勢を示した。

 現在、NSW州では熟年マーケットやOL層をターゲットとするシドニーマラソンを中心に、シドニーの美しい海岸線を歩くコーストウォークなど体験型のアクティビティの人気が高まっており「自ら関わりを持つことを好むタイプの旅行者には最適なデスティネーション」と金平氏はいう。また、数多く開催されているイベントを活用して、観光客を呼び込む考え。例えば、5月から6月に実施される光と音の祭典『ビビット・シドニー』や10月の食の祭典『クレイブ・シドニー』など、日本人の志向にあうイベントをプロモーションしていきたい意向を示した。

 また、NSW州政府観光局は「What Makes Sydney So Sydney」キャンペーンを予定している。今後はスポーツ、イベント、フード&ワインを筆頭に、ショッピング、自然、アウトドアなど、シドニーの多彩な魅力をアピールしていくという。


ビクトリア州
マラソン、テニス、競馬など伝統あるスポーツイベントでアピール


 教育旅行、シニア、イベントマーケット、FIT、ハイキングなどのSITといった5つのセグメントをターゲットとしているビクトリア州。2009年は新型インフルエンザの影響で教育旅行を中心にキャンセルが多く、日本人訪問者数は16%減の約4万人と振るわなかったが、現在は増加傾向にあり、得意とする教育旅行も回復の兆しをみせているという。また、今年は32年の歴史を誇るメルボルンマラソンのプロモーション活動をジェイティービー(JTB)、エイチ・アイ・エス(HIS)、ランナーズ、TAと協力して実施していくほか、150周年を迎える競馬「メルボルンカップ」や全豪テニスなど、イベントの認知度向上に努めるという。特に、テニスを目的とする日本人観光客は毎年増加しており、今年はWOWOWやテニス雑誌と提携して送客増加をねらっていくという。

 また今年の展望としてビクトリア州政府観光局日本局長のアダム・パイク氏は、QFの座席数増加やSQが予定する羽田便を利用したシンガポール経由のアクセス、教育旅行の需要回復で、訪問者数の微増を期待していると語った。


ノーザンテリトリー州
異業種とのコラボでキャンペーン展開


 2009年のオーストラリア全体の訪問者数が22%減となったのに対して、ノーザンテリトリーへの日本人訪問者数は18%減にとどまった。日本市場の旅行商品にはオーストラリアのアイコンのひとつであるウルル(エアーズロック)が組み込まれることが多いことが奏功した。

 ノーザンテリトリー政府観光局では独自の取り組みとして、アウトバック・ステーキハウス、QF、JTBと「ベストシーズン、ベストNTキャンペーン」を展開。4月から8月のオフシーズンがウルル訪問には涼しくて過ごしやすく、ホテルや航空券も安いベストシーズンであることを紹介するものだ。キャンペーンではウルルツアーの懸賞を出しており、1万件近くのエントリーがあったという。

 ノーザンテリトリー政府観光局マーケティングマネージャーの鎌田亜紀氏は今後の展開について「ウルル以外ではレッド・センター内のキングス・キャニオンからアリス・スプリングスをまわる2、3泊のツアーや、ハイエンドのFIT向けにカカドゥやキャサリンを含めた2、3泊のツアーをすすめていきたい」との考えを示した。


西オーストラリア州
ワイルドフラワー活用したキャンペーンを継続


 西オーストラリア州政府観光局は3年前からQFやTAと組んでワイルドフラワーを活用したキャンペーンを展開。今年も雑誌とのタイアップや新聞でのカラー広告を出しているほか、観光局の認定ツアーでワイルドフラワーにちなんだグッズの特典を提供したり、旅行会社のポスター制作に協力するなど、精力的に活動している。同州政府観光局日本局長の吉澤英樹氏によると、今年の関連商品は2009年の倍の売れゆきで、ワイルドフラワーが市場に定着しつつあることがうかがえる。また、昨年からはワイルドフラワー以外のシーズンのプロモーションも開始。QFのウェブサイトを活用し、10月から3月までマーガレットリバーのキャンペーンを展開したほか、4月から9月は「陸の秘境」「海の秘境」の2つに分け、モンキーマイアやカリジニなどの魅力を紹介しはじめたという。

 ちなみに、西オーストラリア州の2009年の日本人訪問者数は2万4400人だったが、平均滞在日数は35.6日と長い。観光客も平均3泊はするため、経済効果が大きいという。


南オーストラリア州
オーストラリア第4のアイコンとしてカンガルー島をアピール


 南オーストラリア州を訪れる日本人観光客はほかの州に比べるとまだ少ないが、10年前と比べると倍増し、2009年の日本人訪問者数は8600人となった。グループやパッケージなどマス・マーケットは苦戦が強いられているものの、南オーストラリア州政府観光局インターナショナルオペレーションマネジャーのマイケル・シリガー氏が「南オーストラリア州はFITやSITに注力してきた」というように、最近はバロッサやカンガルー島などに関してFITからの問いあわせや予約が増える傾向にあるそうだ。

 今後、南オーストラリア州はQFなど航空会社とのオンラインプロモーションを通じ、カンガルー島をオペラハウス、ウルル、グレートバリアリーフに続く「オーストラリア第4のアイコン」として知名度向上をはかっていくという。主なターゲットは55才以上の熟年層だが、そのほかOL層に対しても人気のスキンケア製品「ジュリーク」などを代表とする南オーストラリア州で盛んなオーガニック製品を通じて、州の魅力を訴求していく方針だ。


タスマニア州
引き続き旅行上級者をターゲットにエコツーリズムを推進


 「世界一空気が澄んでいる」といわれるタスマニア。2009年の日本からの訪問者数は16%減の約5000人となったが、タスマニア州政府観光局日本地区局長のアダム・パイク氏が「オーストラリアの北海道」と表現するように、タスマニアは独自の魅力で消費者を惹きつけている。実際、タスマニアを訪れる日本人観光客はポピュラーなデスティネーションでは飽き足らない旅の上級者が多く、平均45万円のツアーが経験豊富な熟年のアップマーケットに売れているという。タスマニア州では引き続きこの層に注力していくほか、ハイキングなどSITや若年のFITの獲得をねらう。

 観光局の方針は今年も変わらないが、特に大自然を生かしたエコツアーや今年4月にフレシネ国立公園に新しくオープンした5ツ星ホテル「サファイア」に注力していく。また、タスマニア島の3分の1はすでに世界自然遺産に登録されているが、19世紀の流刑植民地であるポートアーサーも暫定リストに入っており、タスマニア初の文化遺産をめざしているという。


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取材協力:オーストラリア政府観光局、カンタス航空、南オーストラリア州政府観光局
取材:安井久美