取材ノート:若者が望む海外旅行−目的や学びの要素を、玉川大シンポジウム
玉川大学経営学部が3月に観光庁の「若年層アウトバウンド促進事業」との連携で実施したシンポジウム「若者が望む海外旅行を考える」では、旅行業のプロと若い世代が直接意見を交し、若者の求める海外旅行の姿を垣間見る機会となった。積極的な意見が多く、従来の旅行にとらわれない発想があり、新たな可能性も見受けられた。パネリストにはダイヤモンド・ビッグ取締役会長の西川敏晴氏、ハワイ州観光局(HTJ)代表の一倉隆氏、ジャルパック代表取締役副社長の木島茂雄氏と、同大学観光経営学科の学生3人が登壇。同学科教授の折戸晴雄氏がコーディネーターを務めた。
▽関連記事
◆学生海外旅行は「学び」重要、玉川大学が公開シンポジウム開催(2010/03/08)
旅に「学び」の価値
テーマのある商品造成を
シンポジウムでは学生側、旅行業者側ともに一貫して、旅の「学び」の側面に焦点があてられた。西川氏は「旅は教育」との認識に基づき、「若い時の旅は特別。必須科目とし、そのための体制を整えてもらいたい」と挨拶。「旅では予定通りに進まないさまざまなプロセスを通じて、すべての体験が知識として身に付く」と語る。ジャルパックの木島氏も、「アウトバウンドの促進は国内に受益者が少ないと考えられがち。しかし教育として捉えると、旅が育てる人材は国力につながる。国としてサポートしてほしい」と同調。旅による教育と成長をめざす、「旅育(たびいく)」を紹介した。
学生側も、「旅行には遊びだけでなく学びもほしい」(川合環さん)、「海外へ行く理由は、自分にとって得るものがあるから。目的や学びがあると両親にも理解されやすい」(宮崎恵さん)と発言。ボランティア旅行やテーマのある研修旅行に興味を感じるという。学生が企画した研修旅行プログラムとして、タイの子どもたちに日本語を教えるボランティア旅行が提案された。「大切なのは事前研修。受け入れ側の期待に応えられるよう、現地との連絡も密に取る」(笠谷奈津子さん)と、成功のポイントを話す。
このような、旅に物見遊山以上の価値を求める市場に対する業界の取り組みもはじまっている。ジャルパックでは「旅育」をコンセプトとした国内新商品「家族修学旅行」を発売したほか、HTJ一倉氏も「フラやショッピングは当たり前。エコ、オーガニック、パワースポット、ランニングといった意外性のあるハワイの認知をはかる」ことで、若者の関心に沿う商品造成を促したいという。
教育機関と連携
旅をカリキュラムの一環に
しかし興味のある旅行があっても、行けない事情もある。学生側の報告によると、阻害要因のトップは「お金がない」と「時間がない」。長期休暇の時期は旅行代金や航空運賃が高騰し、学生には負担が大きい。普段は講義で多忙だ。木島氏は、「経済面は学生旅行の大きな要因。だがあまり安い料金だと旅行会社は立ち行かない」というジレンマに触れる。
これを解決する手段として学生側からは、「ボランティアや海外研修を単位として認めて」という意見があがった。木島氏は「海外研修が授業に組み込まれ、そのための費用積み立て計画ができれば、学生の旅行が成り立つのではないか」と進言。「それにはボランティアや社会貢献としての意味など、ツアーの内容が大事」と話す。「仕組み作りには時間がかかるし、安全を重視した旅程管理責任を考えると困難な面もある」ものの、「単位取得につながる海外研修」には期待を寄せた。
また、学校教育に関しては会場から「危険回避能力を高める教育やマップスキル、ナビゲーションスキル、外国人とのコミュニケーション・トレーニングといったプログラムはあるか」とも問われた。旅の技術の修得も「旅育」として必要との指摘である。玉川大学でいえば、旅行や生活全般におけるリスクマネージメントの科目、世界のマナーや海外旅行の準備・危険性を学ぶ国際観光論などの科目がこれに該当するようだ。
情報過多の時代
若者の海外への心境とは
では、インターネットをはじめとする情報環境の変化は、若者の海外渡航にどう影響しているだろうか。ダイヤモンド・ビックの西川氏やHTJの一倉氏は海外に憧れを抱いていた体験を振り返り、「今は情報があふれ過ぎ、バーチャルに行った気になってしまうのでは」と懸念する。
これに対し学生の宮崎さんは、「インターネットは小さい頃から身近。実際に行かなくても外国が見られると感動したこともあった。しかしそれが旅行の阻害要因とは感じていない」との意見。むしろブログで体験記を読み、自分も行きたいと刺激を受けた経験を語る。笠谷さんは、「初めて海外に行くまでは、テレビやネットで見ていたからそんなに感動しないだろうと思っていた。しかし一度行ってみると報道されていないことがたくさんあると分かった」と述べる。
玉川大学の折戸氏は、携帯電話によるインターネット・アクセスが普及している現状を踏まえ、「情報ツールをどのようにいかすか」と前向きな姿勢。HTJの一倉氏は、ハワイ体験談を掲載するパソコンでのブログや、携帯用モバイルサイトの作成といった取り組みを示した。
ツアーより個人手配
旅行会社にコンサルティング期待
情報ツールの発達は、個人での旅行手配を容易にしている。学生側は、「次回行くならパッケージツアーより自分で手配したい」と希望。「自分で形作る方が得るものが多いから」(川合さん)、「計画することが楽しい」(笠谷さん)というのがその理由だ。また、ツアーだと「最少催行人数があり、申し込んでも必ず行けるわけではない」、「自分がどこにいるのか地理感覚が掴めない」、「あらかじめ決められた行程に従うしかない」といった不満もある。
一方で、計画段階では「旅行会社でカウンターの人と話をしながら決めていきたい」という要望も根強い。「窓口に行って決めるのが好き」という宮崎さんは、「インターネットで事前に比較検討をするが、紙のパンフレットの方が分かりやすいし、店頭に行けばもっと自分の聞きたいことが聞ける」との意見。笠谷さんも「カウンターでは実際に行った話が聞けるし、その担当者しか知らない情報や地域の魅力があると思う」と語る。手配力からコンサルティング力へ、という昨今の流れがここでも裏付けられるようだ。
今回参加したのは、海外旅行への意識が比較的高い学生といえるだろう。しかし海外未経験者でも、「目的を持って行きたいという人は多い」と木島氏は分析。西川氏は「旅への動機、きっかけ作りのためのマーケティングが必要」と課題を述べた。
▽関連記事
◆学生海外旅行は「学び」重要、玉川大学が公開シンポジウム開催(2010/03/08)
旅に「学び」の価値
テーマのある商品造成を
シンポジウムでは学生側、旅行業者側ともに一貫して、旅の「学び」の側面に焦点があてられた。西川氏は「旅は教育」との認識に基づき、「若い時の旅は特別。必須科目とし、そのための体制を整えてもらいたい」と挨拶。「旅では予定通りに進まないさまざまなプロセスを通じて、すべての体験が知識として身に付く」と語る。ジャルパックの木島氏も、「アウトバウンドの促進は国内に受益者が少ないと考えられがち。しかし教育として捉えると、旅が育てる人材は国力につながる。国としてサポートしてほしい」と同調。旅による教育と成長をめざす、「旅育(たびいく)」を紹介した。
学生側も、「旅行には遊びだけでなく学びもほしい」(川合環さん)、「海外へ行く理由は、自分にとって得るものがあるから。目的や学びがあると両親にも理解されやすい」(宮崎恵さん)と発言。ボランティア旅行やテーマのある研修旅行に興味を感じるという。学生が企画した研修旅行プログラムとして、タイの子どもたちに日本語を教えるボランティア旅行が提案された。「大切なのは事前研修。受け入れ側の期待に応えられるよう、現地との連絡も密に取る」(笠谷奈津子さん)と、成功のポイントを話す。
このような、旅に物見遊山以上の価値を求める市場に対する業界の取り組みもはじまっている。ジャルパックでは「旅育」をコンセプトとした国内新商品「家族修学旅行」を発売したほか、HTJ一倉氏も「フラやショッピングは当たり前。エコ、オーガニック、パワースポット、ランニングといった意外性のあるハワイの認知をはかる」ことで、若者の関心に沿う商品造成を促したいという。
教育機関と連携
旅をカリキュラムの一環に
しかし興味のある旅行があっても、行けない事情もある。学生側の報告によると、阻害要因のトップは「お金がない」と「時間がない」。長期休暇の時期は旅行代金や航空運賃が高騰し、学生には負担が大きい。普段は講義で多忙だ。木島氏は、「経済面は学生旅行の大きな要因。だがあまり安い料金だと旅行会社は立ち行かない」というジレンマに触れる。
これを解決する手段として学生側からは、「ボランティアや海外研修を単位として認めて」という意見があがった。木島氏は「海外研修が授業に組み込まれ、そのための費用積み立て計画ができれば、学生の旅行が成り立つのではないか」と進言。「それにはボランティアや社会貢献としての意味など、ツアーの内容が大事」と話す。「仕組み作りには時間がかかるし、安全を重視した旅程管理責任を考えると困難な面もある」ものの、「単位取得につながる海外研修」には期待を寄せた。
また、学校教育に関しては会場から「危険回避能力を高める教育やマップスキル、ナビゲーションスキル、外国人とのコミュニケーション・トレーニングといったプログラムはあるか」とも問われた。旅の技術の修得も「旅育」として必要との指摘である。玉川大学でいえば、旅行や生活全般におけるリスクマネージメントの科目、世界のマナーや海外旅行の準備・危険性を学ぶ国際観光論などの科目がこれに該当するようだ。
情報過多の時代
若者の海外への心境とは
では、インターネットをはじめとする情報環境の変化は、若者の海外渡航にどう影響しているだろうか。ダイヤモンド・ビックの西川氏やHTJの一倉氏は海外に憧れを抱いていた体験を振り返り、「今は情報があふれ過ぎ、バーチャルに行った気になってしまうのでは」と懸念する。
これに対し学生の宮崎さんは、「インターネットは小さい頃から身近。実際に行かなくても外国が見られると感動したこともあった。しかしそれが旅行の阻害要因とは感じていない」との意見。むしろブログで体験記を読み、自分も行きたいと刺激を受けた経験を語る。笠谷さんは、「初めて海外に行くまでは、テレビやネットで見ていたからそんなに感動しないだろうと思っていた。しかし一度行ってみると報道されていないことがたくさんあると分かった」と述べる。
玉川大学の折戸氏は、携帯電話によるインターネット・アクセスが普及している現状を踏まえ、「情報ツールをどのようにいかすか」と前向きな姿勢。HTJの一倉氏は、ハワイ体験談を掲載するパソコンでのブログや、携帯用モバイルサイトの作成といった取り組みを示した。
ツアーより個人手配
旅行会社にコンサルティング期待
情報ツールの発達は、個人での旅行手配を容易にしている。学生側は、「次回行くならパッケージツアーより自分で手配したい」と希望。「自分で形作る方が得るものが多いから」(川合さん)、「計画することが楽しい」(笠谷さん)というのがその理由だ。また、ツアーだと「最少催行人数があり、申し込んでも必ず行けるわけではない」、「自分がどこにいるのか地理感覚が掴めない」、「あらかじめ決められた行程に従うしかない」といった不満もある。
一方で、計画段階では「旅行会社でカウンターの人と話をしながら決めていきたい」という要望も根強い。「窓口に行って決めるのが好き」という宮崎さんは、「インターネットで事前に比較検討をするが、紙のパンフレットの方が分かりやすいし、店頭に行けばもっと自分の聞きたいことが聞ける」との意見。笠谷さんも「カウンターでは実際に行った話が聞けるし、その担当者しか知らない情報や地域の魅力があると思う」と語る。手配力からコンサルティング力へ、という昨今の流れがここでも裏付けられるようだ。
今回参加したのは、海外旅行への意識が比較的高い学生といえるだろう。しかし海外未経験者でも、「目的を持って行きたいという人は多い」と木島氏は分析。西川氏は「旅への動機、きっかけ作りのためのマーケティングが必要」と課題を述べた。
取材:福田晴子