取材ノート:日本/インド間の交流拡大へ−ビザ施策、新観光素材も提案
日本発のインドツアーは仏跡の参拝や、デリー、アグラ、ジャイプールのいわゆる「ゴールデントライアングル」を巡る旅程が中心で、なかなか他の地域への展開に結びついていないのが現状だ。しかし、2月22日にデリーで開催された日本インド観光交流促進シンポジウムでは、インド旅行の多様さと可能性が強調され、新しいツアー素材が数多く紹介された。また日本側からはインドの旅行関係者に向け、インフラの整備や販促ツールなどの提案がされ、今後の日印間の観光交流の拡大に向け、双方にとって実りの多いものとなった。
「Visa on arrival」で日本からの観光客促進へ
今回のシンポジウムは、世界観光機関(UNWTO)、インド観光省、日本国観光庁、アジア太平洋観光交流センター(APTEC)の主催でおこなわれたもの。日本旅行業協会(JATA)の海外旅行委員会が呼び掛け、日本側からは約50名が参加した。インド側からは、インド観光省事務次官のスジット・バネルジー氏をはじめ、インドツアーオペレーター協会のメンバーなど70名ほどが参加した。
開会式の冒頭に挨拶に立ったインド観光省局長のデベッシュ・チャルトベディ氏は、インドが日本人観光客を非常に重要視していることを強調。「2010年1月から試験的にはじめた「Visa on arrival」(VOA)の対象国5ヶ国に、日本が含まれているのもそのため」と述べ、日本マーケットの拡大に意欲を見せた。
VOAとは、デリーやムンバイなどの主要国際空港において、国際空港 到着時に対象国のパスポート保持者のビザ申請を受け付けるシステム。当初は日本、フィンランド、ルクセンブルグ、ニュージーランド、シンガポールの5ヶ国を対象とし、さらに13ヶ国の追加を検討している。今年、デリーで開催されるコモンウェルスゲームを見据えての設置といわれているが、最初の5ヶ国に日本が含まれたことはインドが日本マーケットを重視していることの表れといえるだろう。ビザの簡素化は日本観光客増加へのはずみとなるものと思われる。
日本側から最初に挨拶に立った観光庁観光地域振興部長の田端浩氏は、「インドはアジアの大国であり、旅行先としての可能性は大きい」としながらも、「日本人にとってはまだあまり知られていない国」という現状も指摘した。今後は、「日本人にとってインドが訪れやすい国になるように、社会的なインフラや安全性向上などの問題を解決することがポイントになるだろう」と述べた。
ホームステイやスキーなど新素材も紹介
インド観光省は、“Incredible !ndia”をキャッチフレーズとした、新キャンペーンを開始した。このキャンペーンでは、従来のインド観光のイメージを広げる試みがされており、世界各地で放送されるコマーシャルから冊子まで、洗練されたデザインで情報の質が高く、訴求力のあるものが用意されている。しかし残念ながら、日本語に訳されたものはなく、日本マーケット向けにどのような展開がされるのか期待される。
キャンペーンでは、アーユルベーダやヨガを中心にしたウェルネス・ツーリズムや、インドの伝統文化に触れるカルチャー体験、都市部から遠く離れた村などでのホームステイなどのルーラル・ツーリズム、エコロジーを意識した野生動物との出会いなど、新たな体験型の旅が提案されている。インドには、実は「雪質が世界一」といわれるスキー場もあり、日本ではあまり知られていない名所も紹介された。
インフラ整備推進、安全や清潔さの改善も求む
日本からインドへの観光の場合、釈迦の生涯に関連した仏跡巡りが大きな比重を占めてきた。しかし、インド側のオペレーターからは「最近、客足が落ちてきている」との声も上がっており、シンポジウムでも従来の仏跡めぐりだけでなく、ビハール州、アンドラ・プラデシュ州などにある仏教関連の遺跡にも目を向けてほしいとのアピールがあった。これに対しVWC2000万人推進室室長の澤邊宏氏は「釈迦に関連した遺跡巡りには、釈迦の生涯というストーリーがある。仏教関連の遺跡だからと脈絡なく訪れるとのは訴求力が弱い。中心となるストーリーの組み立てが必要では」と指摘する。例えば、仏跡というよりも、パワースポットやスピリチュアルスポットとして紹介していくのも一案だろう。
また、従来の仏跡巡りのツアーは、道路などインフラが十分に整っていないというイメージがあったが、インド観光省のスジット・バネルジー氏は「道路の整備は迅速に進んでいる。また、道路沿いの休憩所やトイレの設置も優先的に進めている」と強調。これを受けて、JATA副会長の佐々木隆氏は「インドの経済発展によってインドの国内旅行が活発化し、それがインフラの整備にもつながっていると思われる。今後の展開に期待している」と述べ、さらに「日本はインドに非常に興味を持っているし、刺激的で魅力的な国というイメージがある」と話した。
その一方で佐々木氏は、日本人の中でインドの「安全さや清潔さ」のイメージはあまり改善がされていないとの現状を指摘。今後は「ものめずらしく、特殊な興味のある人だけが行くデスティネーション」から、「安全で魅力的で、誰でもが行きたくなるデスティネーション」への転換が望まれると語り、会場から大きな拍手を受けていた。イメージ向上はやはり、今後の大きな課題となるだろう。
豪華列車やクルーズなど、新たなプロダクトを
今回のシンポジウムでは、インド側から積極的に新しいプロダクトが提案されたのが印象的だった。日本語に訳されたものはなかったが、パンフレットやビジュアルイメージなども用意され、インド側の期待の大きさがうかがえた。日本側の参加者から特に注目されたのは、マハラジャ・エクスプレスなどの豪華列車と、仏跡を巡る比較的価格の安い鉄道の旅。また癒しをテーマにした長期滞在、スピリチュアリズムなどに興味のある層をターゲットにできるガンジス川のクルーズなど、今後の展開に注目したいものも多かった。このような消費者の興味に対応するためには、洗練されたデザインで内容の濃い日本語のパンフレットや、知識が豊富な日本語ガイド、専門家の説明を受ける際にきちんと通訳できる人材の確保や養成が必要となってくるだろう。
シンポジウムの参加人数はやや少なめだったが、非常に充実していた。佐々木氏が語った「後から振り返って、今回のシンポジウムが日本とインドの観光交流促進のターニングポイントだったといわれるような成果を出したい」という言葉が、参加者の気持ちを代表しているように思われた。
「Visa on arrival」で日本からの観光客促進へ
今回のシンポジウムは、世界観光機関(UNWTO)、インド観光省、日本国観光庁、アジア太平洋観光交流センター(APTEC)の主催でおこなわれたもの。日本旅行業協会(JATA)の海外旅行委員会が呼び掛け、日本側からは約50名が参加した。インド側からは、インド観光省事務次官のスジット・バネルジー氏をはじめ、インドツアーオペレーター協会のメンバーなど70名ほどが参加した。
開会式の冒頭に挨拶に立ったインド観光省局長のデベッシュ・チャルトベディ氏は、インドが日本人観光客を非常に重要視していることを強調。「2010年1月から試験的にはじめた「Visa on arrival」(VOA)の対象国5ヶ国に、日本が含まれているのもそのため」と述べ、日本マーケットの拡大に意欲を見せた。
VOAとは、デリーやムンバイなどの主要国際空港において、国際空港 到着時に対象国のパスポート保持者のビザ申請を受け付けるシステム。当初は日本、フィンランド、ルクセンブルグ、ニュージーランド、シンガポールの5ヶ国を対象とし、さらに13ヶ国の追加を検討している。今年、デリーで開催されるコモンウェルスゲームを見据えての設置といわれているが、最初の5ヶ国に日本が含まれたことはインドが日本マーケットを重視していることの表れといえるだろう。ビザの簡素化は日本観光客増加へのはずみとなるものと思われる。
日本側から最初に挨拶に立った観光庁観光地域振興部長の田端浩氏は、「インドはアジアの大国であり、旅行先としての可能性は大きい」としながらも、「日本人にとってはまだあまり知られていない国」という現状も指摘した。今後は、「日本人にとってインドが訪れやすい国になるように、社会的なインフラや安全性向上などの問題を解決することがポイントになるだろう」と述べた。
ホームステイやスキーなど新素材も紹介
インド観光省は、“Incredible !ndia”をキャッチフレーズとした、新キャンペーンを開始した。このキャンペーンでは、従来のインド観光のイメージを広げる試みがされており、世界各地で放送されるコマーシャルから冊子まで、洗練されたデザインで情報の質が高く、訴求力のあるものが用意されている。しかし残念ながら、日本語に訳されたものはなく、日本マーケット向けにどのような展開がされるのか期待される。
キャンペーンでは、アーユルベーダやヨガを中心にしたウェルネス・ツーリズムや、インドの伝統文化に触れるカルチャー体験、都市部から遠く離れた村などでのホームステイなどのルーラル・ツーリズム、エコロジーを意識した野生動物との出会いなど、新たな体験型の旅が提案されている。インドには、実は「雪質が世界一」といわれるスキー場もあり、日本ではあまり知られていない名所も紹介された。
インフラ整備推進、安全や清潔さの改善も求む
日本からインドへの観光の場合、釈迦の生涯に関連した仏跡巡りが大きな比重を占めてきた。しかし、インド側のオペレーターからは「最近、客足が落ちてきている」との声も上がっており、シンポジウムでも従来の仏跡めぐりだけでなく、ビハール州、アンドラ・プラデシュ州などにある仏教関連の遺跡にも目を向けてほしいとのアピールがあった。これに対しVWC2000万人推進室室長の澤邊宏氏は「釈迦に関連した遺跡巡りには、釈迦の生涯というストーリーがある。仏教関連の遺跡だからと脈絡なく訪れるとのは訴求力が弱い。中心となるストーリーの組み立てが必要では」と指摘する。例えば、仏跡というよりも、パワースポットやスピリチュアルスポットとして紹介していくのも一案だろう。
また、従来の仏跡巡りのツアーは、道路などインフラが十分に整っていないというイメージがあったが、インド観光省のスジット・バネルジー氏は「道路の整備は迅速に進んでいる。また、道路沿いの休憩所やトイレの設置も優先的に進めている」と強調。これを受けて、JATA副会長の佐々木隆氏は「インドの経済発展によってインドの国内旅行が活発化し、それがインフラの整備にもつながっていると思われる。今後の展開に期待している」と述べ、さらに「日本はインドに非常に興味を持っているし、刺激的で魅力的な国というイメージがある」と話した。
その一方で佐々木氏は、日本人の中でインドの「安全さや清潔さ」のイメージはあまり改善がされていないとの現状を指摘。今後は「ものめずらしく、特殊な興味のある人だけが行くデスティネーション」から、「安全で魅力的で、誰でもが行きたくなるデスティネーション」への転換が望まれると語り、会場から大きな拍手を受けていた。イメージ向上はやはり、今後の大きな課題となるだろう。
豪華列車やクルーズなど、新たなプロダクトを
今回のシンポジウムでは、インド側から積極的に新しいプロダクトが提案されたのが印象的だった。日本語に訳されたものはなかったが、パンフレットやビジュアルイメージなども用意され、インド側の期待の大きさがうかがえた。日本側の参加者から特に注目されたのは、マハラジャ・エクスプレスなどの豪華列車と、仏跡を巡る比較的価格の安い鉄道の旅。また癒しをテーマにした長期滞在、スピリチュアリズムなどに興味のある層をターゲットにできるガンジス川のクルーズなど、今後の展開に注目したいものも多かった。このような消費者の興味に対応するためには、洗練されたデザインで内容の濃い日本語のパンフレットや、知識が豊富な日本語ガイド、専門家の説明を受ける際にきちんと通訳できる人材の確保や養成が必要となってくるだろう。
シンポジウムの参加人数はやや少なめだったが、非常に充実していた。佐々木氏が語った「後から振り返って、今回のシンポジウムが日本とインドの観光交流促進のターニングポイントだったといわれるような成果を出したい」という言葉が、参加者の気持ちを代表しているように思われた。
取材:宮田麻未、写真:神尾明朗