DS応援プロジェクト:インタビュー、JATA研修・試験部長 住吉清氏
DS資格の魅力付け検討、人材育成のひとつとしてJATA全体で取り組む
トラベル・カウンセラー(T/C)制度でデスティネーション・スペシャリスト(DS)がスタートして5年。2009年度の認定見込み者をあわせると約4800人のDSを生み出す同制度について、このほど旅行会社に実施したアンケートでは、DSを社内の研修制度に取り入れたり、スタッフの知識習得に役立てたりする旅行会社がある一方で、制度に対する手厳しい意見もあがった。こうした声を受け、日本旅行業協会(JATA)研修・試験部部長の住吉清氏に話を聞いた。DSの進化はこれからという、前向きな考えに注目したい。
▽関連記事
◆DS応援プロジェクト:資格制度の利用状況(2010/03/29)
Q.T/C制度立ち上げの趣旨を改めて教えてください
背景には、旅行者のニーズが複雑化し、旅行会社に求めるサービスレベルも高くなったという市場の変化があります。これを受け、旅行業界の高度な業務知識をもち、コンサルティングができる従事者の育成をしていくことが、良質で多様な海外旅行商品を造成、提供できる人材育成につながるとして立ち上げました。旅のプロフェッショナルの育成が顧客満足(CS)のアップにつながり、海外旅行マーケットの拡大へと発展していくという考えです。これは、立ち上げ当初も現在も変わっていません。
Q.T/C制度のなかでも、旅行先の知識を養うDSは中核となる資格だと思います。この5年間の実績をどのように捉えていますか
T/C制度においては、今後もDSを定着させていきたいと思っています。DSの受講者数は2006年に約1000名、以後毎年2000名近い数字を記録しており、この5年間で順調に伸びてきました。年間約2000名の受講者数を5年間維持できた時点で、DSの定着を評価できると思っています。現在は3年目なので、定着しつつあるといったところでしょうか。ちなみに、2009年度のDS受講者数は前年実績を下回りましたが、この原因としては、どの会社も厳しい状況のなか、経費節減という面が影響していると思われます。
一方、トラベル・コーディネーター(TC)の受講者数は減少してきていますが、内容よりも受講料金がネックになっているようです。これまでも料金は下げているのですが、人数が増えないことにはさらに値下げするのは難しいのが現状ですね。
Q.業界からはDSの対象方面をもっと広げてほしいという要望を聞きます
5年間で19ヶ国・地域(12講座)から34ヶ国・地域(22講座)に拡大してきましたが、これまではどこを追加していくかという基準がありませんでした。今後はひとつの基準としてビジット・ワールド・キャンペーン(VWC)の重点デスティネーションとなっている国や地域を取り込んでいきたいと考えています。例えば、フランスやドナウ流域各国(オーストリア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、クロアチア、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ)です。VWCとの連携はもちろん、海外旅行を推進する海外旅行業務部にも協力してもらっています。
Q.観光局によってDSの対応に違いがあるとの声もありました
観光局によってDS認定者への対応の違いがあるという声は聞いています。これまでは受講者数を集めることに集中し、観光局と一定の取り決めをしてきませんでした。これまでも年に1度は観光局との意見交換会などをしてきましたが、今後はより各観光局との連携をはかっていきたいと考えています。今年からは、JATAの担当者を各観光局に定期的に派遣して情報交換をしていきます。
また、独自にスペシャリスト制度を設けている観光局もあります。これは、業界内の学習プログラムが多彩という意味で悪いことではないと思っています。ただ、独自のプログラムをもっているためにDSに参加しないという観光局もありますが、こうしたところにはVWCなど観光局とつながりの濃い部署に協力を仰いでいます。長いスパンで考え、足並みが揃うのが理想です。
また、DSと独自のスペシャリスト制度を平行して実施している観光局もありますが、受講者の立場になって考えれば、DSと観光局独自のプログラムが分かりやすく区別されているのが望ましいでしょう。
Q.DS制度において現在、何が1番の問題点だと認識されていますか
DSの肉付けが弱いと思っています。業界内でDSを持っている人にしか与えられない魅力付けが必要です。例えば、一定の基準をクリアした認定者にJATA会長表彰をするとか、認定者のランクによってバッチの色を分けるとか。あるいは認定者しか参加できないFAMツアーを実施したり、セミナーで認定者に資格の活用法を語ってもらうというアイディアもあります。観光局との連動では、認定者のみ応募できるコンテストを実施したり、旅行博の各国ブースで認定者がその国の魅力を語るといったこともできると思います。
しかし、何でもやればいいというものではないと思います。今年度は検討する年、2011年度に具体化しながら、2012年度に制度化というテンポで、旅行会社や観光局の協力を得て、内外の声を聞きながら進めていきたいと思います。
Q.具体的に着手している課題はありますか
認定試験の問題に関しては、毎年新しい情報を盛り込んでアップデートしていますが、国によって問題数に違いがありました。それを2009年度からは100問を基本としています。講座の修了テストも、今年度から問題数を統一していく予定です。
また、今年度は初年度にDSを取得した人の、5年間の有効期限が切れる年です。更新を希望する場合は更新講習テストを受けていただくことになりますが、テスト受講料2500円、カード更新手数料3500円と最初の取得時より割安に設定しました。
今後の課題として研修・試験部では、新しい研修も検討していく予定です。例えばDSではカバーされない研修などです。それをT/C制度に盛り込むかどうかは未定ですが、消費者にトラブルなく、よりよいサービスを提供し、満足できる旅行に行っていただくことを旅行業界の使命とするなかで、人材育成は不可欠です。JATAの今年度の事業計画の骨子にも観光の柱のひとつに人材育成があるように、JATA全体で考えていく課題だと思っています。
ありがとうございました
トラベル・カウンセラー(T/C)制度でデスティネーション・スペシャリスト(DS)がスタートして5年。2009年度の認定見込み者をあわせると約4800人のDSを生み出す同制度について、このほど旅行会社に実施したアンケートでは、DSを社内の研修制度に取り入れたり、スタッフの知識習得に役立てたりする旅行会社がある一方で、制度に対する手厳しい意見もあがった。こうした声を受け、日本旅行業協会(JATA)研修・試験部部長の住吉清氏に話を聞いた。DSの進化はこれからという、前向きな考えに注目したい。
▽関連記事
◆DS応援プロジェクト:資格制度の利用状況(2010/03/29)
Q.T/C制度立ち上げの趣旨を改めて教えてください
背景には、旅行者のニーズが複雑化し、旅行会社に求めるサービスレベルも高くなったという市場の変化があります。これを受け、旅行業界の高度な業務知識をもち、コンサルティングができる従事者の育成をしていくことが、良質で多様な海外旅行商品を造成、提供できる人材育成につながるとして立ち上げました。旅のプロフェッショナルの育成が顧客満足(CS)のアップにつながり、海外旅行マーケットの拡大へと発展していくという考えです。これは、立ち上げ当初も現在も変わっていません。
Q.T/C制度のなかでも、旅行先の知識を養うDSは中核となる資格だと思います。この5年間の実績をどのように捉えていますか
T/C制度においては、今後もDSを定着させていきたいと思っています。DSの受講者数は2006年に約1000名、以後毎年2000名近い数字を記録しており、この5年間で順調に伸びてきました。年間約2000名の受講者数を5年間維持できた時点で、DSの定着を評価できると思っています。現在は3年目なので、定着しつつあるといったところでしょうか。ちなみに、2009年度のDS受講者数は前年実績を下回りましたが、この原因としては、どの会社も厳しい状況のなか、経費節減という面が影響していると思われます。
一方、トラベル・コーディネーター(TC)の受講者数は減少してきていますが、内容よりも受講料金がネックになっているようです。これまでも料金は下げているのですが、人数が増えないことにはさらに値下げするのは難しいのが現状ですね。
Q.業界からはDSの対象方面をもっと広げてほしいという要望を聞きます
5年間で19ヶ国・地域(12講座)から34ヶ国・地域(22講座)に拡大してきましたが、これまではどこを追加していくかという基準がありませんでした。今後はひとつの基準としてビジット・ワールド・キャンペーン(VWC)の重点デスティネーションとなっている国や地域を取り込んでいきたいと考えています。例えば、フランスやドナウ流域各国(オーストリア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、クロアチア、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ)です。VWCとの連携はもちろん、海外旅行を推進する海外旅行業務部にも協力してもらっています。
Q.観光局によってDSの対応に違いがあるとの声もありました
観光局によってDS認定者への対応の違いがあるという声は聞いています。これまでは受講者数を集めることに集中し、観光局と一定の取り決めをしてきませんでした。これまでも年に1度は観光局との意見交換会などをしてきましたが、今後はより各観光局との連携をはかっていきたいと考えています。今年からは、JATAの担当者を各観光局に定期的に派遣して情報交換をしていきます。
また、独自にスペシャリスト制度を設けている観光局もあります。これは、業界内の学習プログラムが多彩という意味で悪いことではないと思っています。ただ、独自のプログラムをもっているためにDSに参加しないという観光局もありますが、こうしたところにはVWCなど観光局とつながりの濃い部署に協力を仰いでいます。長いスパンで考え、足並みが揃うのが理想です。
また、DSと独自のスペシャリスト制度を平行して実施している観光局もありますが、受講者の立場になって考えれば、DSと観光局独自のプログラムが分かりやすく区別されているのが望ましいでしょう。
Q.DS制度において現在、何が1番の問題点だと認識されていますか
DSの肉付けが弱いと思っています。業界内でDSを持っている人にしか与えられない魅力付けが必要です。例えば、一定の基準をクリアした認定者にJATA会長表彰をするとか、認定者のランクによってバッチの色を分けるとか。あるいは認定者しか参加できないFAMツアーを実施したり、セミナーで認定者に資格の活用法を語ってもらうというアイディアもあります。観光局との連動では、認定者のみ応募できるコンテストを実施したり、旅行博の各国ブースで認定者がその国の魅力を語るといったこともできると思います。
しかし、何でもやればいいというものではないと思います。今年度は検討する年、2011年度に具体化しながら、2012年度に制度化というテンポで、旅行会社や観光局の協力を得て、内外の声を聞きながら進めていきたいと思います。
Q.具体的に着手している課題はありますか
認定試験の問題に関しては、毎年新しい情報を盛り込んでアップデートしていますが、国によって問題数に違いがありました。それを2009年度からは100問を基本としています。講座の修了テストも、今年度から問題数を統一していく予定です。
また、今年度は初年度にDSを取得した人の、5年間の有効期限が切れる年です。更新を希望する場合は更新講習テストを受けていただくことになりますが、テスト受講料2500円、カード更新手数料3500円と最初の取得時より割安に設定しました。
今後の課題として研修・試験部では、新しい研修も検討していく予定です。例えばDSではカバーされない研修などです。それをT/C制度に盛り込むかどうかは未定ですが、消費者にトラブルなく、よりよいサービスを提供し、満足できる旅行に行っていただくことを旅行業界の使命とするなかで、人材育成は不可欠です。JATAの今年度の事業計画の骨子にも観光の柱のひとつに人材育成があるように、JATA全体で考えていく課題だと思っています。
ありがとうございました