DS応援プロジェクト:資格制度の利用状況
業界独自の資格への期待と課題〜アンケートから見る活用法と求める効果〜
トラベル・カウンセラー(T/C)制度において、デスティネーション・スペシャリスト(DS)が発足して今年で5年目を迎えた。もともとT/C制度は、高度な専門知識や技能を有する業界従事者を輩出することで、業界の地位向上と旅行市場の拡大をはかることを目的に業界独自の資格制度として立ち上げたもの。なかでも、DSは商品の販売や企画に必要な知識に直結するものであり、2009年度の認定者見込みをあわせると5年間の認定者数は合計約4800名にのぼる。業界内での知名度は除々に高まりつつあるが、実際のところDSはどのように活用され、効果をあげているのか、旅行会社各社の研修担当者にアンケートを実施した。これまでの振り返りの意味を込め、DS受講者や認定者数の推移とともに、アンケート結果からうかがえたDS利用実態を報告しよう。
DSは毎年約2000人が受講
T/C制度は、JATAを中核に全国旅行業協会(ANTA)、日本添乗サービス協会(TCSA)の3協会が共同で推進し、日本海外ツアーオペレーター協会(OTOA)と各国政府観光局の協力を得て進めているもの。接客のプロを養成するトラベル・コーディネーター(TC)の制度は2004年から、DS制度は2005年からスタートし、特定の目的をもった旅行の知識を問うテーマ・スペシャリスト(TS)制度は2007年から開始した。このうち、DSの対象国は12講座(19ヶ国・地域)でスタートしたが、その後数を増やし、2010年度は新たにマレーシアが加わって、22講座(34ヶ国・地域)に拡大している。
DSの受講者数は、2年目の2006年に前年の約10倍という飛躍的な伸びをみせている。これは、2年目からDSの受講条件であったTCの事前取得を外したため。3年目の2007年に1876人に達してからは、3年連続2000人近い数を安定して保っている。認定者数も同様に推移しているが、受講者数より数が低いのは、不合格者がいるのはもちろん、合格者であっても認定条件の1つである就業経験のない学生などが認定待ちをしている場合があるからだ。受講者数の多い人気国は、イタリア・マルタ、ハワイ、中国、韓国、オーストラリアなど。ハワイは年々数を増やし、2007年からは3年連続トップの座についている。また、韓国はじわじわとランクを上げて2009年に3位の座に着いた。2009年には、初めてグアム・サイパンが5位にランクインしている。
なお、TCの認定者数については、2004年から2006年まで3ケタを保っていたが、2007年以降2ケタに落ち込んでいる。
7割以上が資格を「役立てている」
この3月、2009年度のDS合格者が発表された。1287人が合格し、これまでの認定者とあわせると4800名近い認定者が誕生することになる。では、こうした認定者を旅行会社ではどのように活用しているのだろうか。DS認定者の多い旅行会社約20社にアンケートをおこなった。
T/C制度におけるスペシャリストの資格を日常の業務に役立てているかという質問に対し、4択の回答のうち「役立てている」(78%)とポジティブな回答が半数以上を占める結果となった。役立て方としては、社員教育の一環としての利用が多いようだ。多数の会社が社員への資格取得を奨励し、受講にあたって金銭面などの補助をしている。試験に合格した場合は全額を補助するというスタイルが多いが、1人で複数方面を同時に受けても全額補助するという会社もあるほか、社内の研修制度として積極的に活用しているという答えも少なくなかった。一方で、スペシャリストが企画した商品であることをパンフレットなどに明示したり、スペシャリストがいる支店であることをアピールするなど、販促に役立てている会社は多くないのが実情となっている。
自己啓発の目標として評価、販促での活用求める声多く
スペシャリストを活用したことによる効果については、「効果的」が66%。「スキルアップの意識向上、モチベーションアップに役立っている」「知識の確認・整理・復習・新規知識の習得などに役立っている」など、自己啓発という個人レベルでの効果が実感されている回答が目立った。「スタッフ育成の立場からみると、知識習得の目標となる」「コンサルティング力が求められる旅行業にあって、知識の蓄積は格安でない旅行を伸ばしていくことにつなげられる」と、制度に対する期待の高さもうかがえる。
一方、「あまり効果がない」「効果がない」はあわせて34%。「会社全体のレベルではスペシャリストを活用した配置をしていない」「ホームページに表記しているが、そのページはあまり見られていない」「名刺にスペシャリストと明記することでお客さまの信頼を得られるようになったと思うが、営業においてダイレクトな効果はまだ検証されていない」との回答をみると、各社とも実際の販売につながる組織レベルでの活用による効果を期待していることが見てとれる。T/C制度の目的から考えると、資格を実際に活用する旅行会社のみならず制度の推進側の双方で、活用例の検証・提示や、各社が意見を交換できるような場があってもいいだろう。
知名度の向上と参加方面の拡大を
DS制度に対する意見や希望などを問う回答では、厳しい声も少なくなかった。もっとも多い意見として、「世間一般的な知名度が低く、取得後の活用方法が見出せない」というもの。資格認定が集客に直結する“認定者=集客”という公式が成立しないとし、会社としての活用法を見出せないでいるケースが多いようだ。「資格保持者への優遇措置がない」といった声も、資格の権威が希薄な面を浮き彫りにしているといえるだろう。また、要望として多かったのは、対象方面の拡大だ。この点に関しては、「人気国デスティネーションが参加していないため限界を感じる」、「独自のレベル設定で対象方面を拡大してもいいのではないか」という声もあった。
このほか、「派遣添乗員に対する取得の働きかけ」というアイディアも寄せられた。現状では効果が見出せている部分があるとともに、改善を求める意見もある。多くの課題が見えてきたが、意見の多さは制度に対する受講者側の期待の表れだ。DSを含むT/C制度が業界にとってより有意義な制度となるよう、いっそう整備されるとともに、より多くの業界従事者がT/C制度に挑戦し、認定者が増加することを期待したい。
トラベル・カウンセラー(T/C)制度において、デスティネーション・スペシャリスト(DS)が発足して今年で5年目を迎えた。もともとT/C制度は、高度な専門知識や技能を有する業界従事者を輩出することで、業界の地位向上と旅行市場の拡大をはかることを目的に業界独自の資格制度として立ち上げたもの。なかでも、DSは商品の販売や企画に必要な知識に直結するものであり、2009年度の認定者見込みをあわせると5年間の認定者数は合計約4800名にのぼる。業界内での知名度は除々に高まりつつあるが、実際のところDSはどのように活用され、効果をあげているのか、旅行会社各社の研修担当者にアンケートを実施した。これまでの振り返りの意味を込め、DS受講者や認定者数の推移とともに、アンケート結果からうかがえたDS利用実態を報告しよう。
DSは毎年約2000人が受講
T/C制度は、JATAを中核に全国旅行業協会(ANTA)、日本添乗サービス協会(TCSA)の3協会が共同で推進し、日本海外ツアーオペレーター協会(OTOA)と各国政府観光局の協力を得て進めているもの。接客のプロを養成するトラベル・コーディネーター(TC)の制度は2004年から、DS制度は2005年からスタートし、特定の目的をもった旅行の知識を問うテーマ・スペシャリスト(TS)制度は2007年から開始した。このうち、DSの対象国は12講座(19ヶ国・地域)でスタートしたが、その後数を増やし、2010年度は新たにマレーシアが加わって、22講座(34ヶ国・地域)に拡大している。
DSの受講者数は、2年目の2006年に前年の約10倍という飛躍的な伸びをみせている。これは、2年目からDSの受講条件であったTCの事前取得を外したため。3年目の2007年に1876人に達してからは、3年連続2000人近い数を安定して保っている。認定者数も同様に推移しているが、受講者数より数が低いのは、不合格者がいるのはもちろん、合格者であっても認定条件の1つである就業経験のない学生などが認定待ちをしている場合があるからだ。受講者数の多い人気国は、イタリア・マルタ、ハワイ、中国、韓国、オーストラリアなど。ハワイは年々数を増やし、2007年からは3年連続トップの座についている。また、韓国はじわじわとランクを上げて2009年に3位の座に着いた。2009年には、初めてグアム・サイパンが5位にランクインしている。
なお、TCの認定者数については、2004年から2006年まで3ケタを保っていたが、2007年以降2ケタに落ち込んでいる。
7割以上が資格を「役立てている」
この3月、2009年度のDS合格者が発表された。1287人が合格し、これまでの認定者とあわせると4800名近い認定者が誕生することになる。では、こうした認定者を旅行会社ではどのように活用しているのだろうか。DS認定者の多い旅行会社約20社にアンケートをおこなった。
T/C制度におけるスペシャリストの資格を日常の業務に役立てているかという質問に対し、4択の回答のうち「役立てている」(78%)とポジティブな回答が半数以上を占める結果となった。役立て方としては、社員教育の一環としての利用が多いようだ。多数の会社が社員への資格取得を奨励し、受講にあたって金銭面などの補助をしている。試験に合格した場合は全額を補助するというスタイルが多いが、1人で複数方面を同時に受けても全額補助するという会社もあるほか、社内の研修制度として積極的に活用しているという答えも少なくなかった。一方で、スペシャリストが企画した商品であることをパンフレットなどに明示したり、スペシャリストがいる支店であることをアピールするなど、販促に役立てている会社は多くないのが実情となっている。
自己啓発の目標として評価、販促での活用求める声多く
スペシャリストを活用したことによる効果については、「効果的」が66%。「スキルアップの意識向上、モチベーションアップに役立っている」「知識の確認・整理・復習・新規知識の習得などに役立っている」など、自己啓発という個人レベルでの効果が実感されている回答が目立った。「スタッフ育成の立場からみると、知識習得の目標となる」「コンサルティング力が求められる旅行業にあって、知識の蓄積は格安でない旅行を伸ばしていくことにつなげられる」と、制度に対する期待の高さもうかがえる。
一方、「あまり効果がない」「効果がない」はあわせて34%。「会社全体のレベルではスペシャリストを活用した配置をしていない」「ホームページに表記しているが、そのページはあまり見られていない」「名刺にスペシャリストと明記することでお客さまの信頼を得られるようになったと思うが、営業においてダイレクトな効果はまだ検証されていない」との回答をみると、各社とも実際の販売につながる組織レベルでの活用による効果を期待していることが見てとれる。T/C制度の目的から考えると、資格を実際に活用する旅行会社のみならず制度の推進側の双方で、活用例の検証・提示や、各社が意見を交換できるような場があってもいいだろう。
知名度の向上と参加方面の拡大を
DS制度に対する意見や希望などを問う回答では、厳しい声も少なくなかった。もっとも多い意見として、「世間一般的な知名度が低く、取得後の活用方法が見出せない」というもの。資格認定が集客に直結する“認定者=集客”という公式が成立しないとし、会社としての活用法を見出せないでいるケースが多いようだ。「資格保持者への優遇措置がない」といった声も、資格の権威が希薄な面を浮き彫りにしているといえるだろう。また、要望として多かったのは、対象方面の拡大だ。この点に関しては、「人気国デスティネーションが参加していないため限界を感じる」、「独自のレベル設定で対象方面を拡大してもいいのではないか」という声もあった。
このほか、「派遣添乗員に対する取得の働きかけ」というアイディアも寄せられた。現状では効果が見出せている部分があるとともに、改善を求める意見もある。多くの課題が見えてきたが、意見の多さは制度に対する受講者側の期待の表れだ。DSを含むT/C制度が業界にとってより有意義な制度となるよう、いっそう整備されるとともに、より多くの業界従事者がT/C制度に挑戦し、認定者が増加することを期待したい。