現地レポート:ラスベガス、脱・カジノで新たなキーワードが浮上

  • 2010年3月26日
脱・カジノで女性客への訴求力アップ
エンターテイメント・リゾート、ラスベガスの進化


 街をあげて一大エンターテイメント・リゾートを築いてきたラスベガス。カジノのイメージはやはり根強いが、ラスベガス観光局・日本オフィス代表の岡部恭子氏は、「最近、いわゆるラスベガスっぽくないホテルが増えている」と指摘する。筆頭はカジノのないホテルの増加。室内設備を充実させ、コンドミニアム・タイプのホテルの新設も相次いでいる。また、最新スポット「シティセンター」は、環境への優しさを追求したエコ・システムを特徴とする。進化し続けるラスベガスの今を視察した。
        
        
        
テーマホテルからコンドミニアム・ホテルへ
機能性に優れた宿泊施設


 ラスベガスといえば、ストリップに並ぶ派手で巨大なテーマホテル。カジノをメインとするこれらのホテルでは、凝った外観とは裏腹に室内の設備は最小限にとどめられるのが通例だった。客室よりカジノに長居してもらうためだ。ところが昨今は、ラスベガスのホテルに新しい3つの潮流が認められる。「カジノなし」「中規模」、そして長期滞在に向いた「コンドミニアム・タイプ」の登場だ。たとえばシティセンターに2009年12月にオープンしたヴィダラ・ホテル&スパは、客室内にフルキッチン、洗濯機、乾燥機を完備する。館内にカジノはなく、静かなロビーのすぐ隣にエレベータがあり、客室までの動線もスマートだ。

 トランプ・インターナショナル・ホテル&タワーもカジノはなく、全1282室のスイートにコーヒーメーカーや電子レンジ、冷蔵庫を設置。全館禁煙で、ロビーに入ると爽やかな花の香りに迎えられる。ストリップのほぼ中心に立地し、機能性が高く、観光にもビジネスにも使いやすい。

 プラネット・ハリウッド・リゾート&カジノには昨年12月、キチネットが付いた全1250室のオールスイートであるウエストゲート・リゾートタワーが増設された。さらに今年はラスベガスで初めて、バルコニー付きの客室のあるコンドミニアム・ホテルとなるコスモポリタン・リゾート&カジノが開業する。客室の窓が開かないことで知られていたこの街でバルコニー付きはちょっとしたニュースだ。


既存ホテルも居心地を重視

 昨今、オープンしたホテルがこれまでのテーマホテルと一線を画すのは、機能性だけではない。たとえば、ヴィダラ、そして同じくシティセンターにオープンしたアリア・リゾート&カジノは、文字通りシックでスマートなシティ派のムード。おとぎ話の世界を脱した大人の要望に応えるデザインだ。

 また、自然光の入る設計も見られるようになった。カジノホテルはこれまで、客に時間を忘れさせるため、窓は造らなかったものだ。その代わりパリスやニューヨーク・ニューヨークの天井には、青空が描かれている。しかし1998年オープンのベラッジオは、先駆けてロビー奥の大きな天窓から本物の自然光を採り入れた。ウィン・ラスベガスに2008年完成した別館アンコールにも、天窓から明るい光が差し込む。

 こうした流れもあり、既存のホテルでも近年、改装・増設後の客室は、よりモダンでスタイリッシュ、落ち着いたインテリアにまとめられる傾向がある。TI(トレジャーアイランド)は改装後、客室を深みのある茶系に統一。ヴェネチアンの別館パラッツォは、クールな黒とシルバーを基調とした。パリスも客室の調度品を入れ替え、赤と茶がアクセントの斬新なパリスへと順次変身する予定だ。また、室内設備の向上に力を入れており、フラットテレビを導入したり、ヴェネチアンの一部の部屋にはDVDプレイヤーも置かれた。ウィン・ラスベガスでは、エアコンや照明などのコントロールがベッドサイドで可能なタッチパネルが取り入れられた。一連のホテル動向を追うと、大胆な人造物への興奮から五感の心地よさへと舵を切る、今のラスベガスが見えてくる。


女性客にさらなる伸び幅
ショー&ショッピング、パーティも


 「もはやカジノだけで売ろうとしていない」と明言する岡部氏。現在ラスベガスの収益の約50%はショー、ダイニング、ショッピングやオプショナルツアーが占めるという。なかでも新旧のショーの充実ぶりは、カジノをしのぐ魅力的な観光素材。シルク・ドゥ・ソレイユのショーが7つ上演されているのは、世界でここだけだ。

 シルク・ドゥ・ソレイユのショーは日本でも興行しているが、ラスベガスでの演目は迫力が違う。第1の理由は大掛かりな舞台装置。各ショー専用に作られたシアターだから、ダイナミックな演出を実現する。第2は座席とステージの距離。どの席でもかなり間近に感じられ、オペラグラスの必要もない。観客と一体になったようなステージが魅力だ。多彩なショー、そしてシティセンターやラスベガス・プレミアム・アウトレット、ファッションショー・モールなどでのショッピングをメインとしたプランは、女性を対象にまだ伸び幅がありそうだ。

 また近頃カジノでは、高級ホテルでも1セント・スロットマシーンの設置が増えてきた。1セントからなら、誰でも気軽にカジノ気分を満喫できる。ギャンブル嗜好の少ない女性参加者達も、これにはトライ。もちろんどのゲームでもプレイしている限りドリンクは無料、チップを渡すだけ。

 さらに注目したいのが、VIPタワー。普段ならハイエンド層が宿泊する最高級スイートも、金融危機後の昨今は通常よりはるかに価格を下げている。モンテカルロの32階に誕生したホテル・イン・ホテルは、専用ラウンジ、専用コンシェルジェ、リムジン付きロフトルームが1室399ドルから、ウィンの5ツ星タワースイートですら、2名で割れば1人あたり200ドル程度からだ。これでもかというVIP待遇でこの価格は今だからこそ。お姫様気分を楽しむガールズ・ナイトや、ウエディング・プラン、グループでのパーティ利用などを提案してみたい。


エコロジーとバリアフリー、幅広い観光都市へ

 ネオン華やぐラスベガスも、今やエコ抜きには語れない。なかでもシティセンターは、米国グリーンビルディング協会のLEED(Leadership Energy and Environmental Design)認定を取得。施設内では低消費電力照明が使用されているほか、従来のビルに比べ33%の水を節約、ダイニングではできる限りオーガニックや地元の食材を使用しているという。アリアでは、ベッドサイドで照明やエアコン、カーテンの設定などがカスタマイズできるタッチパネルを採用。部屋を出ると自動的にカーテンが閉まり、照明も消される省エネ設計だ。

 またラスベガスでは、電動車いすや手押し車いすで旅行を楽しむ人々の姿は、日常の光景。カジノ客に高齢者が多いこともあり、バリアフリーが進んでいる。街もカジノも車いすに対応した造りで、ホテルの部屋番号には点字表示がある。エコは昨今のMICEのキーワードになっているほか、ユニバーサルデザインに配慮した旅行の需要は高まるばかり。視察旅行も含め、ラスベガスの進化にともなって販売の切り口や対象客層の幅が広がった。いかに各人の多様な個性に応じていけるか。コンサルティング力は旅行会社の生き残りの鍵であり、それに対応できる要素がラスベガスには多くある。


経由便がメリットにも
アトラクションとしての仁川空港

 日本発海外へのアクセスとして、外航を利用した近
距離海外経由の需要が高まっている。その筆頭が大韓
航空(KE)。ラスベガスも2006年に日本航空が成田/
ラスベガス/ロサンゼルス線を運休した際、KEのソウ
ル/ラスベガス線の直行便が就航し、同路線を利用し
た商品が誕生した。日本全国16都市に就航しているこ
とから、地方発の需要にも対応する。

 経由便は乗り継ぎ時間の過ごし方が気になるところ
だが、仁川空港には免税店や飲食店が充実。4階には
マッサージ店や無料インターネットが整い、シャワー
も無料。2008年にオープンしたHUBラウンジは、通常
35ドルのところ、乗り継ぎ客は21ドルで利用できる。

 また、空港内2ヶ所にある韓国伝統文化センターでは、
韓国伝統工芸の無料体験を随時実施。貝のブローチ作り
や針刺し作りなど、体験内容は1、2ヶ月ごとにチェンジ
する。伝統音楽の公演も1日に2回開催。ソウル市内への
日帰りトランジット・ツアーは1時間から7時間コース
まで用意している。

 特に女性を対象としたショー&ショッピングのラスベガス旅行は、今後の増加が期待
される。仁川空港をひとつのショッピングスポットやアトラクションのようにとらえる
と、女性への訴求力にマッチするだろう。


取材協力:ラスベガス観光局、大韓航空
取材:福田晴子