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取材ノート:観光立国実現に向け観光庁が本腰、2010年の施策とは

  • 2010年3月18日
 JATA経営フォーラム2010のスタディセッションBでは、観光庁観光地域振興部長の田端浩氏が「観光庁2010の施策〜新観光成長戦略の展開と観光産業の発展に向けて〜」のタイトルでプレゼンテーションを実施した。田端氏は、新政権における観光戦略について紹介。成長戦略のひとつとしてインバウンドに対する取り組みを強化していくとともに、休暇の分散化など高い経済効果が期待できる施策に積極的に取り組んでいく姿勢を示した。



観光立国による地域活性化と雇用創出に期待

 まず田端氏は、2009年12月30日に閣議決定された新政権による成長戦略に観光立国が含まれたことに触れた。「少子高齢化時代において、国内外の交流拡大は地域活性化、雇用創出の切り札になるはず」と述べ、新政権が観光立国政策を重要視していると強調した。2010年度の観光関連予算は前年比約2倍増の126億5200万円と大幅に増加しており、国土交通省の成長戦略会議でも観光立国は大きなテーマ。2010年6月ごろまでに全体の議論をまとめて、2011年度予算での実現をめざす考えだ。「(観光立国のためには)関係省庁間の連携が大切」と田端氏。政府一体となった政策の実現の必要性を訴えた。


2019年の経済効果は10兆円に−訪日外国人3000万人達成に向けVJC強化

 観光立国に向けた大きな柱がインバウンド市場への取り組みだ。田端氏はまず訪日外国人3000万人に向けたロードマップを説明。2019年の目標2500万人について、「(実現できれば)旅行サービス業における経済効果は2008年の3.2兆円から10兆円に増えるとともに、雇用創出効果は82万人に達する」との試算を紹介した。そのうえで、「この効果を産業界や地域社会に実感してもらい、旅行サービス業に新たな投資を呼び込んでいかなければならない」と強調。ただ、各期の目標については、そのときの経済状況に左右されるため、見直しながら決めていくと付け加えた。

 昨年の訪日外国人の数は世界的経済危機や新型インフルエンザの影響により、前年比18.7%減の679万人に落ち込んだ。しかし田端氏は、「2010年度以降も日本旅行業協会(JATA)と一体となってビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)に取り組んでいく。特に東アジア市場、そしてインド、ロシア、マレーシアなどの新興市場を強化していく」と意欲的だ。一方、インバウンド市場の強化において3つの課題を指摘する。まず、受け入れ環境の整備。極めて重要な事業との認識のもと、観光庁では国際競争力のある魅力的な観光地づくりをサポートし、それを客観的に評価する基準作りを進めていく考えだ。

 次に、人材育成の重要性も強調する。「地域によってばらつきがあるのが現状。どのようなプログラムが必要か議論していかなければならない」と話した。このほか、中国人観光ビザの緩和についても言及。現在のところ、個人観光ビザの発給は北京、上海、広州在住の十分な経済力がある者とその家族に限られているが、今年7月には中国全土に拡大される予定だ。「さらなる緩和については、関係省庁と議論をしているところだ」と田端氏は現状を報告。中国は最大のインバウンド市場だけに、ビザのさらなる緩和の議論は観光立国に向けて大きな影響を持ちそうだ。


休暇分散化による経済効果に期待

 さらに、観光立国に向けた政策のひとつとして、観光圏事業への取り組みも紹介。人口の地域格差を解消するためにも、人的流動を進めていく必要性を説き、「観光業と他業種、地域の産業と自治体、地域と地域、それぞれの連携が大事」と述べた。また、新成長戦略の基本方針のなかに含まれた休暇の分散化について、「閣議決定されたのは重い」ととらえ、産業界とともに何ができるかの議論を進めていく方針を示した。日本人の年次休暇取得率は2008年で47.4%と欧米と比較して圧倒的に低い。ただ、観光庁の調査によると、2009年9月19日から23日の5日間での旅行消費額は7160億円で、2008年9月1ヶ月間の9000億円よりも多いという結果が出た。「シルバーウィークの効果は大きい」として、休暇分散化による経済効果に大きな期待を寄せた。


高い旅行意欲の潜在性、きっかけづくりが大切

 昨年の日本人海外渡航者数は、経済危機や新型インフルエンザなどの影響で前年を下回り、およそ1555万人だった。それでも、田端氏はアウトバウンド市場について、「厳しい環境だと聞くが、今後は回復基調に転じると期待している」と述べ、アウトバウンド振興も強化していく考えを示すとともに「振興策について、民間からもどんどん意見を言ってもらいたい」と要望した。

 具体的には、ビジット・ワールド・キャンペーン(VWC)との連携を深め、若年層対策、ツーウェイ・ツーリズムの発展、クルーズ振興、海外修学旅行などを推し進めていきたい考えだ。また、行政的にはITCルールのさらなる緩和にも言及。「まったくお金がかからない施策」であることから、今後議論を深めていく方針を示した。日本人出国率は13.7%と低いが、この点について田端氏は、「なかなか海外に行かないと思われているが、実は海外旅行に関心があると答える人の割合は高い」と述べ、その潜在性に注目しつつ、きっかけづくりが大切との見解を示した。国内、海外を問わず、現在若年層の旅行離れが顕在化しているが、その若年層でも潜在性は高いとしたうえで、田端氏は「体験型旅行や知識、教養を高める旅など、若年層が魅力を感じるコンテンツづくり大切。また、きっかけづくりのために、例えば学生のグループ活動などに旅行を組み込む働きかけも必要なのではないか」と提案した。


旅行会社の収益構造改善を

 また、日本の旅行業を含めたサービス業の生産性の低さについても指摘。「サービス産業は全体の70%を占め成長エンジンだと言われているが、この業態の生産性を上げていくことが課題」とし、収益構造の見直しをすすめた。第1種旅行業者の収入率は2003年度以降下がり続けている。また、2007年度の売上高営業利益率は0.4%と日本産業全体の3.1%と比較してかなり低くなっている。田端氏は、2002年にJATAが示した約款等見直し検討部会報告書を引き合いに出し、「イールドマネージメント、レベニューマネージメントをしっかりとおこない、効率性を上げていく必要があるのではないか。同時に、リスクをあらかじめ想定し、クライシスコミュニケーションを取り入れていく経営戦略も必要になってくる」と提言した。

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構成:山田友樹