取材ノート:北京、中日韓教育旅行シンポから−新しい「訪問」など工夫を

  • 2010年3月5日
海外教育旅行の復活へ、国際交流にあうイベント多い2010年に期待
〜第四回中日韓教育旅行シンポジウム・北京〜


 「第四回中日韓教育旅行シンポジウム」が2009年12月27日から30日まで、北京で開催。年の瀬の日程だったにもかかわらず、中国、日本、韓国の3国からそれぞれ100人を超える参加者があり、東アジア地域での教育関連の交流に対する関心の高さがうかがわれた。シンポジウムやその後の視察などを通して、教育旅行に関する活発な意見交換や交流が行なわれ、日本からの参加者からは「実際に現地を訪れることで、海外での修学旅行への関心が深まった」との意見が目立った。
       
       
     

海外教育旅行への具体的提言

 海外教育旅行は2009年、新型インフルエンザなどの影響で、前年比約15%減少という厳しい局面となった。修学旅行も2008年は約16万6000人だったが、2009年は約14万人台まで後退したとされる。今回のシンポジウムではこうした状況をふまえ、3国間の青少年交流を促進させるための具体的な提案が数多く出された。2010年は上海万博、広州アジア大会、そして日本では平城遷都1300年など、国際交流にふさわしいイベントも多く、昨年修学旅行を延期した学校の再企画など、現状打開のきっかけとしたいところだ。

 中国旅行游協会旅遊協会分会の副秘書長である歴新建氏は、「日本を修学旅行の目的地とする学生の数は2009年現在1200人を超え、前年の3倍に増加している」とし、大きな将来性があると述べた。中国から海外へ修学旅行に出る場合、最も重視されるのは「目的地の安全面」と歴氏は指摘する。中国では学生が“一人っ子化”しており、学校側も家族も安全面に慎重な態度で臨んでいるとのことだ。

 一方、日本からの海外修学旅行の場合は、「安全より、まず費用に目がいくというのが現実」のようだ。福岡県から参加した高校の校長は、「費用の面で父兄を説得するのが難しくなっている。『自分たちも海外旅行に行かないのに、なぜ子どもが?』という反応も耳にするようになった。また、格安ツアーの情報が行き渡っているので、価格の差を説明するのがむずかしい」と困惑顔で語る。日本旅行業協会(JATA)理事・事務局長の米谷寛美氏も、教育旅行や修学旅行は「旅行の質を高め、内容を重視した旅にしていかなければならない」と強調し、価格のみにとらわれがちな傾向に言及して警鐘を鳴らした。

 歴氏や米谷氏をはじめ、シンポジウムの講演者が口を揃えるようにして指摘したのは、教育旅行の振興には旅行内容の充実が求められているという点。「学び」よりも「観光」「遊覧」の面が先行し、歴史や文化の相互理解を促進するところにはまだ十分に至っていないのが現状だ。一般の旅行商品との内容の違いを明確に示すことができれば、価格への疑問にも応えやすくなるだろう。韓国旅行業協会の崔彰祐氏は「政府と旅行協会が協力して、(文化や歴史などで)深い内容を伝達できる専門的なガイド」を養成することが急務と指摘した。ガイドの質の向上は、今後の団体旅行全体の成長にも深く関わってくる問題で、各国とも具体的な対策が必要であろう。


学校訪問こそ海外教育旅行の原点

 日本からの参加者は今回のシンポジウムで、北京で唯一、日本語を第一外国語としている公立学校、北京月壇中学を視察。北京月壇中学では、日本からの視察や交流団体を20年以上前から受け入れている。長崎県から参加した教師は「シンポジウムで一番印象的だったのが学校訪問」という。日本の高校2年生に相当する日本語の授業で「私の将来の夢」をテーマにした会話実習を視察し、「将来の夢をテーマに、自分の考えをしっかり日本語で表現できているのに驚いた。その夢を持った理由や、実現に向けて何をするつもりかというところまで、教師がつっこんで質問したのも印象的。こういう授業を参観すれば、日本の学生たちの刺激になるばかりでなく、教師にとっても意義深いものになると思う」と話してくれた。学生達が非常に明るい表情で、訪問団に積極的に話しかけてくるのも印象的。日本の学生達とも充実した交流ができそうだ。

 現在、北京では英語への関心が高く、日本語を重視している学校は月壇中学だけというのが現状だ。しかし、「私は将来外交官になって、日本へ行きたい!」と希望を語るような学生との交流が両国にとって大きな意味を持つであろうことは予想に難くない。さらに、日本語に興味を持って熱心に取り組む学生との出会いは、日本人学生にとって自分たちの文化に対する再発見のきっかけともなるだろう。それだけに、通りいっぺんの「訪問」ではない交流のありかたを検討する必要があると思われる。

 例えば、訪問の際の「記念品贈呈」にも一考すべき点がある。日本から贈られた日本人形などの記念品は、教師達の会議室に丁寧に飾られている。しかし、学生たちの目に触れる機会は少ないのではないだろうか。それなら、図書室で利用できる日本の書籍やアニメのDVDなどを贈る方が現実的である。日本の「今」を伝えるきっかけになるようなものを贈呈するのも、学生同士の交流にはより効果的と思われる。

 こうした学校訪問で大きな効果を発揮するためには、様々な配慮が必要だ。シンポジウムで講演した釜山外国語大学の李孝仙氏は、現地事情への配慮が不可欠と指摘する。例えば、日本から韓国への修学旅行は10月に設定されることが多い。しかし、韓国では10月は試験シーズン中であり、受け入れ側としては十分な対応がし難いとの事例を示した。


北京の新しい観光スポットを研修

 北京は日本から中国への海外研修旅行の目的地として、大きな役割を果たしてきた。首都としての意味はもちろん、市内と郊外に万里の長城から故宮まで6ヶ所もの世界遺産があることなど、文化交流や学習の目的地として非常に優れた条件を備えている。それに加え、2008年の北京オリンピックなど急速に発展する都市としての面も「見学先」として魅力的だ。

 今回のシンポジウムでは、故宮や天壇公園など定番の歴史遺産の見学だけではなく、“鳥の巣”の愛称で知られる国家体育場や、国立大劇場(オペラハウス)など、新たな見どころも見学。特に参加者から「楽しかった!」と好評だった見どころは北京オリンピックをきっかけに再建された門前大街だ。ここは、明や清朝時代の歴史を物語る建物が残され、850年以上の歴史を持つ目抜き通りだったが、いったん建物を壊してしまい、歴史的な雰囲気を忠実に再現して建て直されたユニークな街だ。表通りはレトロな建築の中にスターバックスやユニクロ、北京ダックの専門店などが並び、観光客のショッピングにはとても魅力的。外観と中に入っている店のミスマッチも楽しい。また、一本裏道に入ると、昔の「老北京」の雰囲気を感じさせる街並みが残っているのも興味深い。

 シンポジウムで、『見る』だけの旅行から『学習する』、『交流する』旅が提案されたことを考えると、オリンピックの競技場やCCTVの本社ビルなど、新しいユニークな建築物を訪れる場合も、北京のめざす都市計画などに関連付けて語れる専門家を呼ぶなどの工夫が必要だろう。また、オペラハウスで実際のコンサートを聴いたり、リハーサルの様子を見学したりするなど、建物を見るだけではない工夫も求められる。



 
東京でのシンポジウム開催へ向けて

 中日韓教育旅行シンポジウムは今回で4回目だが、そ
のうち中国で3回、韓国で1回開催され、日本での開催が
期待されていた。今回、団長として参加した観光庁国際
交流推進課外客誘致室室長の勝又正秀氏は「2010年のシ
ンポジウムは、秋に東京もしくはその周辺都市で開催す
る予定。今までの開催地では、それぞれ特色のある企画
であったから、日本なりに工夫をして内容を充実させた
い」と語り、今年の日本での開催に意欲的な姿勢を示し
た。勝又氏は、今後の旅行業界の発展にはリピーターの
確保が重要であると指摘し、「教育旅行は、未来のリピ
ーターを作る上で有効」と、旅行業界全体への長いスパ
ンでの教育旅行の意義を強調した。



取材協力:中国国家観光局、北京市人民政府、北京市観光局、北京市教育委員会
取材:宮田麻未 写真:神尾明朗