取材ノート:訪日新市場−マレーシア、インド、ロシアの動向

  • 2010年3月3日
 ビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)の重点市場といえば、韓国、台湾、中国、香港、タイ、シンガポール、オーストラリア、米国、カナダ、英国、ドイツ、フランスの12ヶ国・地域で、全訪日客の85%超を占める。次に有望なのが、有望新興市場のマレーシアとインド、そしてロシアだ。3ヶ国合計で2.8%程度の市場だが、その潜在力に注目が集まる。また、客層別に注目するべき市場もある。今後、取り込むべきインバウンドの新市場について、先月開催された日本政府観光局(JNTO)のインバウンド旅行振興フォーラムで探った。
 
 
 
マレーシア−中華系富裕層多く、ショッピングが人気

 海外プロモーション部アジアグループの大上敦史氏のプレゼンテーションでは、マレーシア、インドについて「多大な潜在力を持っている」と説明。例えばマレーシアでは、隣国のタイやシンガポールへの渡航者が圧倒的に多く、東アジアでは台湾が人気だ。訪日客は研修生が多く、男女ともに若年層の割合が大きい。とはいえ、年々個人旅行で観光目的に訪れる人が増える傾向にあり、訪問地も東京や大阪といった商業地から京都や北海道などの観光地を訪れる人が増えている。訪日マレーシア人の滞在日数が短くなっていることからも、滞在期間の長い研修ではなく短期の観光旅行需要が高まっていることがうかがえるという。

 多民族国家であるマレーシアだが、日本への渡航者は中華系の富裕層が中心で、需要はシンガポールと似通っているのが特徴。パンフレットも英語と中国語(簡体字)のものがほとんどだ。ただし、昨年はムスリム系の旅行会社が訪日旅行の販売を開始しており、日本にあるモスクへ案内したり、ハラル食を提供したりと、受け入れには宗教に対する理解が必要になってきている。

 京都や箱根といったゴールデンルートや北海道が圧倒的人気で、クアラルンプールやペナン、ジョホールバルなどで開催される旅行フェア(旅行即売会MATTA)を中心にツアーが造成されている。なかでもニーズが高いのはショッピングで、「十分な買い物時間を設けることがポイント」とのこと。また、マレーシアでは「LCCを利用するのが当たり前」ともいい、未就航の日本は旅行代金が高価になり躊躇する人も多いが、シンガポールと同じ旅行商品を共同販売するといった方法で催行率を上げることが可能だろう。


インド−知識層の男性多い、韓国や中国との周遊も

 将来的に中国をしのぎ人口世界一となることが目されているインドでは、従来の富裕層に加えIT企業などで財を成した新たな富裕層が出現している。それに伴い外国への渡航者が増えており、国民の半数以上が菜食主義者というインド人にあわせ、食事に配慮したパッケージ旅行商品が開発されている。そのためさらに旅行がしやすくなり、旅行者数増加につながっているという。

 インド人の訪日客の特徴は、まず圧倒的に男性が多いこと、そして滞在日数が長いことがあげられる。2008年度の実績では、団体旅行が12.5%であるのに対し個人旅行は87.5%と圧倒的に個人旅行者が多い。とはいえ、インド人は家族で行動することが多く、その人数も多いのでときには1家族で10人以上と小グループ程度の大きさになることもある。

 募集媒体は新聞広告が主だが、海外旅行をするのは知識層であり、英語を主言語とする人も多いため、広告やパンフレットなども英語のみで問題ない。旅行代金にはシビアだが、日本での消費額はインド人が最も多いというデータもあり、節約旅行ではないようだ。強力な競争相手である韓国や中国を周遊するパターンも多く、日本の情報を伝え独自の魅力をもっと宣伝する必要がありそうだ。


ロシア−成田以外の入国が57%、極東から地方都市へ

 ロシアについては、海外プロモーション部のシェスタク・ワレンティン氏が現状を説明。ロシアから日本への渡航者は2008年実績で6万6270人と、隣国であるのに少ない。アジア諸国でロシア人の旅行先に選ばれるのは陸続きの中国が主だが、アンケート結果では日本への興味は大きいという。

 人口が集中しているのはウラル山脈以西で、モスクワやサンクトペテルブルクなどヨーロッパに近い。経済状態もよく、富裕層が多いのもこのエリアである。日本への渡航手段はモスクワからの航空機利用が72%と大半だが、注目すべきは極東エリアのユジノサハリンスクやウラジオストクと札幌や富山など地方都市を結ぶ定期便、そして海路で来る人々だ。日本への入国者数を港別に見ると、実は成田空港以外の港(海港と空港)が57%を占める。つまり極東エリアからは日本は近く、気軽に旅行できるというメリットがあるのだ。

 ロシア人は旅行前にしっかり情報をチェックする傾向にあるが、ウラル以西では情報自体が少ない。反面、極東エリアでは日本のBSが受信できる地域もあり、日本の認知度が高いという。だがこのエリアからの航空運賃は高く、全体的に日本の物価は高いというイメージがあるので、それを払拭しなくてはならないという。さらに、ロシア語の通訳案内士も不足しており、訪日旅行へのモチベーションアップには、それらの改善が課題となるだろう。


目先の違うターゲットの提案、LGBT市場

 対象国であるアメリカからも目先の違うターゲット層の提案があった。ニューヨーク事
務所長の亀山秀一氏は、「LGBTマーケット」と称して、レズビアン、ゲイ、バイセクシャ
ル、トランスジェンダー(性同一性障害を持つ人)の市場に注目。この層は、子どもがい
ないことが多く可処分所得が高い、海外旅行に対し積極的であり、景気にあまり左右され
ない、そして多くの場合パートナーと一緒に旅をする、という特徴がある。市場規模は
1200万人、700億ドルにも上るという。

 LGBTマーケットでは建築、ダイニングを特に高く評価する傾向にあり、それらを強化し
たプランや情報が訪日旅行の訴求につながるとみられる。情報ツールとして現地のLGBT向
け新聞や雑誌、サイトが有効だが、口コミを信頼する人が多いという。そのため、日本に
来た人が差別的や無理解といった不愉快な扱いをされてしまうと、いくら情報を多く提供
しても意味がなくなってしまう。現地の受け入れ態勢が大切で、彼らに対する理解と自然
な対応が望まれる。


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