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取材ノート:研修旅行制度の効果−近畿日本ツーリストのドバイ研修に同行

  • 2010年2月9日
若手社員にフォーカスした研修旅行に注力
視察で終わらず、販売に直結させる工夫


 近畿日本ツーリスト(KNT)では、現場で必要な知識を身につけるため、カンパニー単位で研修や勉強会を実施している。社会情勢の影響で、旅行会社が海外研修旅行を実施する機会は減少しているが、KNTの中核事業であるイベント・コンベンション・コングレス事業本部カンパニー(ECC事業本部カンパニー)では2009年11月、若手社員を中心とするドバイ研修旅行を実施した。この研修旅行に同行し、実際に現地を見る研修の効果を参加者の視線で探った。


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貴重な機会を有意義なものにするために

 KNTではここ数年、若手社員の構成比が高くなっている。そのため、この世代にフォーカスした研修や勉強会に注力しており、入社1年目の社員には毎月の研修、2年目の社員には3ヶ月に一度の研修を実施。このほか若手社員を中心とした勉強会を開催している。交通や宿泊の手配といった実務から販売素材の学習まで、旅行に関する基礎知識を取得させることがねらいだ。今回の研修旅行には入社1年目の社員も参加した。

 以前は現地研修と報告書を提出して終了することも多かったが、貴重な機会を成果に結びつけるため、昨今は研修前セミナー、現地研修、研修報告を経て販売テーマ、販売仮説の立案、ターゲットの選定まで、一連の流れを構築した研修をするケースが増えている。今回の研修旅行は、MICE旅行商品の造成と新規顧客開拓を主眼に実施したものだ。


提案時をイメージしながら視察

 MICE旅行では、滞在先のホテルの提案にはその設備、サービスのみならず、ロケーションや周辺情報も重要な要素となる。ドバイのホテルの立地は、大きく分けるとシティ・ビジネスエリアとビーチエリアに分けられ、両エリア間の移動は車で約20分。シティ・ビジネスエリアのホテルは、ビジネス需要に対応したビジネスセンターや小会議室、フィットネス施設などを備え、ビーチエリアには大型コンベンションルームやボールルーム、大人数を収容できるレストラン、ショッピングセンターを兼ね備えたホテルが建ち並ぶ。ジュメイラビーチ沖に建つアラビア帆船をかたどったホテル「バージュ・アル・アラブ」がランドマークだ。

 実際の様子を目の当たりにし、「ビジネストリップならシティ・ビジネスエリア、インセンティブならビーチエリアとエリアを絞り込めるので手配がしやすい。自分の担当顧客にあわせてホテルを絞って関係を築ける」と、参加者。特に、ビーチエリアにある巨大なリゾート「マディナ・ジュメイラ」は、コンセプトの違う3軒の5ツ星ホテルと75店のショッピングアーケードが並ぶスーク(市場)、独立したスパ施設、複数のレストランなどがあり、各々の施設の間を流れるクリークをアブラ(アラブスタイルの水上タクシー)でつなぐという、まるでテーマパークのような施設だ。その規模と造りを見ながら「大人数の送客で3軒のホテルに分散して宿泊する場合でも集合しやすい」「施設内で自由時間を設定できるし、外に出られる心配もない」と、参加者は実際の送客をイメージしながら視察していた。


ジェトロ・ドバイ事務所と協力関係を構築、新展開のヒントに

 ホテルの視察のほか、ドバイ政府が外国企業の誘致を強化する経済特区(フリーゾーン)や日本貿易振興機構(ジェトロ)・ドバイ事務所を訪問。フリーゾーンでは、特に注目されるヘルスケア・シティについての理念や今後の展望など、ジェトロではアラブ首長国連邦(UAE)の政治・経済を中心とした概況、世界的金融危機後のドバイ経済の見通し、日本企業の活動状況などについてレクチャーが行なわれた。

 このうち、ジェトロで話されたドバイの概況は、UAEならではの規律や規制、伝統、文化を踏まえた投資環境などが中心。湾岸地域で唯一の政治的安定性や中東のビジネスセンターとしての地理的条件といった優位性から、土地不動産取得の困難や地元のパートナー探しの苦労といったUAE特有の劣位制まで率直に語られた。これらはドバイに関係のある顧客企業や取引先が直面する状況でもありうる。こうした顧客企業の置かれる状況を推し量れる情報を知ることは、ニーズの重要性を理解し、商品やサービスの提案の際に有意義なものになるだろう。

 また、金融危機後の経済について、底は脱したと説明がされた。日本人の出張者数は2009年9月ごろから回復傾向にあり、11月の時点で2008年夏のピークの8、9割まで持ち直して、2010年には2008年以上に増える見通しだという。「ただし、数は増えてもコストを落とす傾向はこれからも強まるだろう。消費者の志向はいかに安くドバイに来られるかに向かっている。そこに旅行会社のビジネスチャンスがあると見る」と、説明を担当したジェトロ・ドバイ事務局の児玉高太朗氏。

 さらに、日本でのドバイ・ショック報道については、「日本の報道は不安をあおるものが多い。我々は今後、ドバイ経済に大きな混乱は起きないと予測している。報道に振り回され過ぎず、ドバイが世界中から金や人が集まるエリアであることを冷静に捉え、いまこそ積極的なビジネスを展開してほしい」と話した。


報奨旅行に加え、新商品の提案や新規顧客拡大に意欲

 今回の研修旅行には、インセンティブツアーをはじめMICE旅行の需要の喚起につながる素材を視察するために参加したという社員が多かった。しかし研修旅行に参加したことで、新しいビジネスチャンスへの手応えをつかんだという。

 新規顧客を積極的に開拓したいという若手社員は「業務渡航をきっかけに、いずれは国際会議などMICE需要を喚起して旅行を造成したい」という。国内で化粧品や医薬品メーカーの中規模インセンティブ旅行を手がけたこともあるという社員は「現地を視察したことで、さらに大規模なインセンティブ旅行を提案できそう。今後はヘルスケア・シティの視察など新しい旅行を提案していきたい」と話す。

 頻繁にドバイへビジネストリップをする顧客を持つ社員は「会議室の使い勝手から飲み物のサービスまで、資料だけではわからない細かいところを確認したり、周辺の店まで下見できたので、今後はより自信を持ってお客様のニーズにあわせた手配ができる。日本人スタッフがいるホテルを希望されることが多いので、研修中に顔あわせができたのもよかった」と研修の成果を実感していた。

 研修旅行を主催したECC事業本部カンパニー販売部課長の村上晋一氏は、「海外研修をした若手社員が、すぐ販売につながる商品を造成し、販売できたら素晴らしいが、なかなか難しいだろう」としながらも、「他社との合同研修旅行では各社から1名程度しか参加できないので、若手社員にはなかなか機会が与えられない。若手社員が現地をしっかり視察するのはいい経験だ」と話す。今回の研修旅行に若手社員が集まったのは、即戦力として活躍するベテラン社員が現場を離れることができなかった事情もあるが、「若手社員を育成する意味も含めて、チームを牽引できる中堅にも研修に来てもらいたい」と村上氏。今後も政府観光局や航空会社、ホテルなどと協力して海外研修旅行の機会を増やしていきたい考えだ。


取材協力:近畿日本ツーリスト(KNT)、エミレーツ航空(EK)、ジュメイラ・グループ、
     ドバイ政府観光・商務局、オリエント・ツアーズ
取材:江藤詩文