現地レポート:米国ユタ州(1)ソルトレイク基点グランドサークルツアー
ゲートウェイ増加で旅程のバリエーションが拡充
各スポットの特徴を引き出した魅力あるツアーの演出を
この数年、日本でもその名が知られるようになったグランドサークル。アメリカでも圧倒的な存在感を誇る大自然の国立公園や国立モニュメント、州立公園が30以上も集まるエリアで、「行っておきたい観光地ランキング」で1位にもなったほど、訴求力のあるデスティネーションだ。来年5月14日から予定されるデルタ航空(DL)のソルトレイクシティ線の復便を前に、もう一度ユタ州を中心としたグランドサークルのポイントと旅行会社が扱うメリットを再確認し、送客に向けた準備をしたい。
ダイナミックな地形とアクセスのよさが魅力
グランドサークルとは、ユタ州とアリゾナ州の境にあるレイクパウエルを中心とした半径230キロのエリアを指し、日本で最も知名度のあるグランドキャニオン国立公園(アリゾナ州)もそのひとつ。このほか、コロラド州とニューメキシコ州の一部とインディアン居留地が含まれるが、なかでもユタ州は色彩があざやかで地形のフォーメーションに富んだ5つの国立公園を筆頭に最も多くのスポットを有し、日本でグランドサークルツアーといえばユタ州とその近郊のスポットを結ぶ旅程が多い。
周遊旅行でも移動の疲れを感じることが少なく、旅程が組みやすいのもこのコースの特徴だ。各スポットやそのゲートウェイとなる宿泊地の間は、それぞれ車で所要約1時間から4時間ほど。いずれもそれぞれ特徴が異なり、ツアーで繋いでも飽きないバラエティに富んでいる。今回のメディアツアーではソルトレイクシティを基点にし、アーチーズ国立公園、グースネック州立公園、モニュメントバレー、アンテロープキャニオン、レイクパウエル、ザイオン国立公園、ブライスキャニオン国立公園と、時計周りにめぐるコースを訪れた。
ソルトレイクシティから最も近いアーチーズ
ソルトレイクシティは今夏、DLの直行便が就航し、グランドサークルへの新たなゲートウェイとして注目される場所だ。ポイントは、これまでのラスベガス基点の旅程で最も遠く、日程によってはツアーに組みこめなかったアーチーズへ、最短で到着できること。所要時間は車で約4時間30分。来年5月の復便で予定するスケジュールでは午前11時00分に空港に到着するため、夕方には夕陽に照らされたアーチを鑑賞できる。
アーチーズには、2000以上のアーチ状の岩や岩盤に窓のような穴が開いたウィンドウなどが点在し、バスで園内を進むとユニークな岩が現れる。今回のメインはデリケートアーチ。日本からのツアーにも多く組み込まれており、最近はアーチの間近まで行くハイクを含んだものも多い。片道約2.5キロ。スタート地点の標高は約1300メートルと高く、さらにトレイルを進みながら約140メートルを登っていく。1時間ほど歩きそろそろ息があがるというころ、トレイルを曲がると目の前にアーチが飛び込んできた。完璧なアーチの姿と、高さ約14メートル、幅10.1メートルの巨岩が峡谷の淵に立つバランスが圧巻だ。
デリケートアーチは午前中、逆光になるため、写真撮影は午後が良い。特に夕日の時刻は、赤土のアーチがさらに赤く照らされ、最も美しく見えるといわれる。今回は訪れなかったが、アーチーズから車で20分ほどにある国立公園、キャニオンランズと組みあわせ、各スポットが最も美しく見える時間帯に行き来することも可能だ。また、春から初夏にかけては赤や白、ピンクなどの色とりどりの花が咲き、花を見ながらのハイクが楽しめるという。催行時期によってはこうした季節の差による魅力も打ち出すことができそうだ。
このほか、アーチーズでは4WDによるオフロードドライブが盛んで、観光拠点となる町モアブから、多くのツアーがでている。最大約40度の急勾配を上り下りするまさに大地の起伏を体験できるアトラクションで、このツアーならではの絶景にも出あえる。
インディアン文化圏のグランドサークル
アーチーズから南下すると、ナバホネイション(ナバホ族居留地)に入る。モニュメントバレーとアンテロープキャニオンはこの一部であり、双方ともアメリカの国立公園ではなく、「ナバホ・トライバル・パーク」となっている。このエリアでは大自然の驚異とともに、インディアンの文化や歴史を感じられる。
モニュメントバレーではナバホ族が運営するジープツアーに参加。高さ300メートルもあるという赤茶色の巨大なビュート(残丘)が点在する景観を、土ぼこりをあげて進んでいく。途中、「ジョン・フォード・ポイント」では馬に乗ったカウボーイ風のナバホ族の男性が現れたり、インディアンのクラフト類を売るスタンドがあったりと、一気に西部劇や民族色が強まる。この付近には約300人のナバホ族が暮らしており、バレーに向かう車窓からは粘土で作られた伝統住居「ホーガン」がポツポツと見える。
アンテロープキャニオンも、ナバホ族の伝統が感じられる場所だ。「ナバホ・サンドストーン」という砂岩の岩山を大雨時の鉄砲水が削ってできた峡谷で、通常の峡谷はV字型であるのに対し、ここは上部よりも谷底が広くなっている。隙間から差し込む日の光はわずかで薄暗く静寂で、かつてナバホ族が子供たちにものごとを教えたり、儀式をした場であったというのがうなずける雰囲気だ。今回訪れたアッパーアンテロープキャニオンは、ナバホ族のガイドが付くツアーに参加しないと入れない。英語のガイドになるので、狭い空間のなかでガイド内容を日本人に伝える工夫も考えてみたい。
ちなみに、アーチーズとモニュメントバレー間は車で約4時間。半日かけて移動するか、途中のサンワン郡の町、ブランディングやブラフに宿泊して移動時間を分散させることも可能だ。モニュメントバレーでは客室数が増加しており、計100室の「グールディング・ロッジ」は新しいホテル棟を建設中。昨年にはバレーを見下ろすリム(崖の縁)に新ホテル「ザ・ビュー」もオープンしている。また、アンテロープキャニオンはレイクパウエル湖岸の町ペイジから車で約15分。クルーズツアーも催行する「レイクパウエル・リゾート」があるほか、付近には今夏、アマンリゾーツの「アマン・ギリ」がオープンしており、ラグジュアリーな滞在も可能だ。
ザイオンとブライスキャニオン、脅威の景観とその歴史に触れる
ペイジから西へ約3時間ほどでザイオンへ。ザイオンとブライスキャニオンの間は車で約1時間30分の近い距離にあるにもかかわらず、まったく印象が異なる。まず紹介したいのが、ブライスキャニオン。実際に訪れた人の感想では、グランドキャニオンよりも印象的との声が多いといわれ、今回のメディアツアーで参加者の反応が一番良かったのもここだ。フードゥーといわれる尖塔のようなピンクベージュ色の岩が見渡す限り林立し、それをリムから見下ろすように眺める。日本のツアーではリム沿いの各展望ポイントから眺望を楽しむのが主流だが、岩の間を縫うようなトレイルを歩くハイクつきの旅程も増えている。手頃なのは約1時間のナバホトレイル。標高約2800メートルのリムから、約160メートル下の谷底へ、土ぼこりをあげながら下りていく。
これに対し、ザイオンは木々が豊富でみずみずしい動植物の息吹が感じられる。グランドサークルには多様な野生生物が生息するが、ザイオンでは谷底を走るシャトルバスからミュール鹿やワイルドターキー、リスなどが頻繁に見られた。峡谷を形成する巨岩は高いもので700メートル。その下を流れるバージン川沿いのウォーキングでは、清冽な川辺に立つ広葉樹や岩間から滴る水、そこに生えるシダ、コケ類などが見られる。直前の降雨の影響もあってかマイナスイオンが感じられるような清々しさがある。
この違いを楽しむために、2つの国立公園の地形の成り立ちにも注目したい。実はブライスキャニオンの谷底とザイオンの岩山の標高は同程度で、ブライスキャニオンの地層は約7000万年前の湖底であるピンク・クリフ、ザイオンはその次に新しい約1億年前の海底の土砂や泥が岩になったグレイ・クリフにある。地球の長い歴史とそれを侵食した大自然の威力が形成したもので、それを知った上でブライスキャニオンとザイオンを訪れると、より自然や地形の奥深さを感じられる。遥かな地球の歴史を車でわずか2時間の距離で体感できるのだ。
グランドサークルの景観は写真や映像で一度は見たことがあったが、実際に訪れてみるとその大きさと迫力、バラエティに期待以上の驚きがあり、これまで自分が抱いていたイメージがいかに漠然としたものだったかわかる。期間の限られた旅行中にその魅力を存分に味わうためには、十分な下調べや専門家のアドバイスが必要だ。価格競争からの脱却と他社との差別化を求める旅行会社にとって、介在する価値をアピールできる場所だといえる。ぜひ現地に触れて奥深さを知り、ツアー造成やFIT手配でその手腕を発揮してほしい。
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◆アメリカ西部5州、新素材を含めた旅行を提案−ソルトレイク基点コースも(2009/10/30)
各スポットの特徴を引き出した魅力あるツアーの演出を
この数年、日本でもその名が知られるようになったグランドサークル。アメリカでも圧倒的な存在感を誇る大自然の国立公園や国立モニュメント、州立公園が30以上も集まるエリアで、「行っておきたい観光地ランキング」で1位にもなったほど、訴求力のあるデスティネーションだ。来年5月14日から予定されるデルタ航空(DL)のソルトレイクシティ線の復便を前に、もう一度ユタ州を中心としたグランドサークルのポイントと旅行会社が扱うメリットを再確認し、送客に向けた準備をしたい。
ダイナミックな地形とアクセスのよさが魅力
グランドサークルとは、ユタ州とアリゾナ州の境にあるレイクパウエルを中心とした半径230キロのエリアを指し、日本で最も知名度のあるグランドキャニオン国立公園(アリゾナ州)もそのひとつ。このほか、コロラド州とニューメキシコ州の一部とインディアン居留地が含まれるが、なかでもユタ州は色彩があざやかで地形のフォーメーションに富んだ5つの国立公園を筆頭に最も多くのスポットを有し、日本でグランドサークルツアーといえばユタ州とその近郊のスポットを結ぶ旅程が多い。
周遊旅行でも移動の疲れを感じることが少なく、旅程が組みやすいのもこのコースの特徴だ。各スポットやそのゲートウェイとなる宿泊地の間は、それぞれ車で所要約1時間から4時間ほど。いずれもそれぞれ特徴が異なり、ツアーで繋いでも飽きないバラエティに富んでいる。今回のメディアツアーではソルトレイクシティを基点にし、アーチーズ国立公園、グースネック州立公園、モニュメントバレー、アンテロープキャニオン、レイクパウエル、ザイオン国立公園、ブライスキャニオン国立公園と、時計周りにめぐるコースを訪れた。
ソルトレイクシティから最も近いアーチーズ
ソルトレイクシティは今夏、DLの直行便が就航し、グランドサークルへの新たなゲートウェイとして注目される場所だ。ポイントは、これまでのラスベガス基点の旅程で最も遠く、日程によってはツアーに組みこめなかったアーチーズへ、最短で到着できること。所要時間は車で約4時間30分。来年5月の復便で予定するスケジュールでは午前11時00分に空港に到着するため、夕方には夕陽に照らされたアーチを鑑賞できる。
アーチーズには、2000以上のアーチ状の岩や岩盤に窓のような穴が開いたウィンドウなどが点在し、バスで園内を進むとユニークな岩が現れる。今回のメインはデリケートアーチ。日本からのツアーにも多く組み込まれており、最近はアーチの間近まで行くハイクを含んだものも多い。片道約2.5キロ。スタート地点の標高は約1300メートルと高く、さらにトレイルを進みながら約140メートルを登っていく。1時間ほど歩きそろそろ息があがるというころ、トレイルを曲がると目の前にアーチが飛び込んできた。完璧なアーチの姿と、高さ約14メートル、幅10.1メートルの巨岩が峡谷の淵に立つバランスが圧巻だ。
デリケートアーチは午前中、逆光になるため、写真撮影は午後が良い。特に夕日の時刻は、赤土のアーチがさらに赤く照らされ、最も美しく見えるといわれる。今回は訪れなかったが、アーチーズから車で20分ほどにある国立公園、キャニオンランズと組みあわせ、各スポットが最も美しく見える時間帯に行き来することも可能だ。また、春から初夏にかけては赤や白、ピンクなどの色とりどりの花が咲き、花を見ながらのハイクが楽しめるという。催行時期によってはこうした季節の差による魅力も打ち出すことができそうだ。
このほか、アーチーズでは4WDによるオフロードドライブが盛んで、観光拠点となる町モアブから、多くのツアーがでている。最大約40度の急勾配を上り下りするまさに大地の起伏を体験できるアトラクションで、このツアーならではの絶景にも出あえる。
インディアン文化圏のグランドサークル
アーチーズから南下すると、ナバホネイション(ナバホ族居留地)に入る。モニュメントバレーとアンテロープキャニオンはこの一部であり、双方ともアメリカの国立公園ではなく、「ナバホ・トライバル・パーク」となっている。このエリアでは大自然の驚異とともに、インディアンの文化や歴史を感じられる。
モニュメントバレーではナバホ族が運営するジープツアーに参加。高さ300メートルもあるという赤茶色の巨大なビュート(残丘)が点在する景観を、土ぼこりをあげて進んでいく。途中、「ジョン・フォード・ポイント」では馬に乗ったカウボーイ風のナバホ族の男性が現れたり、インディアンのクラフト類を売るスタンドがあったりと、一気に西部劇や民族色が強まる。この付近には約300人のナバホ族が暮らしており、バレーに向かう車窓からは粘土で作られた伝統住居「ホーガン」がポツポツと見える。
アンテロープキャニオンも、ナバホ族の伝統が感じられる場所だ。「ナバホ・サンドストーン」という砂岩の岩山を大雨時の鉄砲水が削ってできた峡谷で、通常の峡谷はV字型であるのに対し、ここは上部よりも谷底が広くなっている。隙間から差し込む日の光はわずかで薄暗く静寂で、かつてナバホ族が子供たちにものごとを教えたり、儀式をした場であったというのがうなずける雰囲気だ。今回訪れたアッパーアンテロープキャニオンは、ナバホ族のガイドが付くツアーに参加しないと入れない。英語のガイドになるので、狭い空間のなかでガイド内容を日本人に伝える工夫も考えてみたい。
ちなみに、アーチーズとモニュメントバレー間は車で約4時間。半日かけて移動するか、途中のサンワン郡の町、ブランディングやブラフに宿泊して移動時間を分散させることも可能だ。モニュメントバレーでは客室数が増加しており、計100室の「グールディング・ロッジ」は新しいホテル棟を建設中。昨年にはバレーを見下ろすリム(崖の縁)に新ホテル「ザ・ビュー」もオープンしている。また、アンテロープキャニオンはレイクパウエル湖岸の町ペイジから車で約15分。クルーズツアーも催行する「レイクパウエル・リゾート」があるほか、付近には今夏、アマンリゾーツの「アマン・ギリ」がオープンしており、ラグジュアリーな滞在も可能だ。
ザイオンとブライスキャニオン、脅威の景観とその歴史に触れる
ペイジから西へ約3時間ほどでザイオンへ。ザイオンとブライスキャニオンの間は車で約1時間30分の近い距離にあるにもかかわらず、まったく印象が異なる。まず紹介したいのが、ブライスキャニオン。実際に訪れた人の感想では、グランドキャニオンよりも印象的との声が多いといわれ、今回のメディアツアーで参加者の反応が一番良かったのもここだ。フードゥーといわれる尖塔のようなピンクベージュ色の岩が見渡す限り林立し、それをリムから見下ろすように眺める。日本のツアーではリム沿いの各展望ポイントから眺望を楽しむのが主流だが、岩の間を縫うようなトレイルを歩くハイクつきの旅程も増えている。手頃なのは約1時間のナバホトレイル。標高約2800メートルのリムから、約160メートル下の谷底へ、土ぼこりをあげながら下りていく。
これに対し、ザイオンは木々が豊富でみずみずしい動植物の息吹が感じられる。グランドサークルには多様な野生生物が生息するが、ザイオンでは谷底を走るシャトルバスからミュール鹿やワイルドターキー、リスなどが頻繁に見られた。峡谷を形成する巨岩は高いもので700メートル。その下を流れるバージン川沿いのウォーキングでは、清冽な川辺に立つ広葉樹や岩間から滴る水、そこに生えるシダ、コケ類などが見られる。直前の降雨の影響もあってかマイナスイオンが感じられるような清々しさがある。
この違いを楽しむために、2つの国立公園の地形の成り立ちにも注目したい。実はブライスキャニオンの谷底とザイオンの岩山の標高は同程度で、ブライスキャニオンの地層は約7000万年前の湖底であるピンク・クリフ、ザイオンはその次に新しい約1億年前の海底の土砂や泥が岩になったグレイ・クリフにある。地球の長い歴史とそれを侵食した大自然の威力が形成したもので、それを知った上でブライスキャニオンとザイオンを訪れると、より自然や地形の奥深さを感じられる。遥かな地球の歴史を車でわずか2時間の距離で体感できるのだ。
グランドサークルの景観は写真や映像で一度は見たことがあったが、実際に訪れてみるとその大きさと迫力、バラエティに期待以上の驚きがあり、これまで自分が抱いていたイメージがいかに漠然としたものだったかわかる。期間の限られた旅行中にその魅力を存分に味わうためには、十分な下調べや専門家のアドバイスが必要だ。価格競争からの脱却と他社との差別化を求める旅行会社にとって、介在する価値をアピールできる場所だといえる。ぜひ現地に触れて奥深さを知り、ツアー造成やFIT手配でその手腕を発揮してほしい。
▽関連記事
◆アメリカ西部5州、新素材を含めた旅行を提案−ソルトレイク基点コースも(2009/10/30)
取材協力:ユタ州政府観光局、アメリカ西部5州観光局、デルタ航空(DL)