キーワード:「海外マラソンツアー」−ブームを追い風に商品が多様化
海外マラソンをフックにした誘客プロモーションが増加
観光局、航空会社、旅行会社の連携が最大のパワーに
日本ではいま第2次マラソンブームだという。ランニング人口は350万人に達し、国内では2月に開催される東京マラソンのように、出走希望者殺到で抽選が行なわれるマラソン大会もあるほど。ランニング愛好家は海外大会へも目を向けており、需要が伸び悩む海外旅行業界にとっても期待の旅行素材として注目度が上昇中だ。
メタボ対策効果もあってブームに点火
日本では1970年代末から80年代前半にかけて、ランニングやジョギングの愛好家が目立つようになり、ランニング専門誌なども創刊。第1次マラソンブームが巻き起こった。以来、ランニングやジョギングが日本人のライフスタイルに組み込まれるとブーム的な要素は薄れてきた。ところが、このところ再び急速にランニング人口が増大し、第2次マラソンブームともいえる状況になりつつある。
今年3月に発表された笹川スポーツ財団の「スポーツライフに関する調査2008」によると、週1回以上ランニングやジョギングを楽しむ人口は推計で352万人。2006年調査より55万人も増えており、週2回以上という本格派も33万人増えて248万人に達している。「今後最も行ないたい種目」でもランニングは06年調査の29位から10位へ大幅に上昇し、ブームはまだまだ続きそうだ。背景には日本国民の健康志向があるが、メタボリック対策に国が動き出し、厚生労働省が「健康づくりのための運動基準2006」を発表するなど、間接的にランニングやジョギングを推奨していることも後押ししているようだ。
ブームを受けて国内のマラソン大会は大盛況で、東京マラソンは定員3万2000人に対し27万人が出走を希望。倍率8倍以上の狭き門となった。いまや全国各地に大会ができ、年間で約900大会が開催されている。
実績で先行するハワイとオセアニア
こうしたマラソンブームもあって、海外マラソン大会の日本人誘致効果に注目が集まるようになってきた。日本で最も早くから誘致活動を開始した海外マラソンのひとつ、ホノルルマラソンには毎年1万人以上の日本人ランナーが参加する。1985年に日本航空(JL)が大会スポンサーになってから20年以上にわたりJLや観光局がプロモーションに取り組んでおり、ホノルルマラソン日本事務局によれば、日本からの参加者数が全体の6割。2008年は1万4000人に減少したものの、2005年から3年間は1万7000人台で推移しており、スローシーズンの12月の需要を押し上げる貴重な存在だ。
ホノルルマラソンに次ぐ存在感があるのが「ゴールドコーストマラソン」だ。クイーンズランド州観光公社(TQ)では04年からプロモーションを本格化した。それ以前の03年の日本人参加者数は433人にすぎなかったが、旅行会社対象のセミナーやメディアでの露出増加、元オリンピックメダリストの有森裕子氏の招聘など認知度向上に努めた結果、05年は700人、06年1000人と順調に増加。さらに07年からはTQのほか、ゴールドコースト観光局、オーストラリア政府観光局(TA)、カンタス航空(QF)、日本航空(JL)、大会スポンサーのアシックスを含めた関係者全員参加型のプロモーションにバージョンアップ。08年には1800人と増加し、誘客に繋がっている。
ニュー・サウス・ウェールズ州(NSW州)観光局も、シドニーマラソンを日本人旅行者誘致に積極的に役立てていく方針。今年からTAやQFと共同でプロモーションを本格化し、各種メディアを駆使したプロモーションを展開し、シドニー・オリンピックの金メダリスト、高橋尚子氏を親善大使に起用。これらの結果、昨年は171人だった日本からの参加者は今年の9月大会では550人まで増え、現地在住の320人とあわせて大きな存在感を示す大会となった。この成果を受けてNSW州観光局本局も来年のプロモーション予算を拡大することを決定。日本支局局長の金平京子氏は「今年の1.5倍から2倍の送客をめざしたい」としている。
アジアの動きも活況
アジアでもマラソン大会は、香港マラソン(2月)、プーケットマラソン(6月)、バリマラソン(10月)、マカオマラソン(12月)、シンガポールマラソン(12月)など数多く開催されている。各観光局もプロモーションに力を入れはじめており、タイ国政府観光庁(TAT)は06年にプーケットマラソンがスタートすると、07年にプロモーションを本格化。ツアー造成促進のほか、「東京マラソンEXPO」にもブース出展している。この結果、06年の第1回大会では現地在住者含めて115人であった日本人参加者が、07年には日本からの参加者だけで200名、08年は250人、09年は300人と着実に数を増やした。TATマーケティングオフィサーの佐藤緑氏によると「今年のEXPOにはプーケットマラソンの関係者に加え、コーンケーン県のマラソン大会関係者も来日し、現地の関心も高まっている」とのことで、今後はバンコクマラソンやパタヤマラソンを含め、マラソン市場への取り組みを強化する方針だ。
マカオマラソンは今年28回目を迎える歴史ある大会だが、マカオ観光局によるプロモーションははじまったばかり。昨年、キャセイパシフィック航空(CX)とグッドラックツアーの協力で旅行業界関係者50名を集めたモニターツアーを実施した。今後は一般ランナーへのアプローチをする考えで、マカオ観光局の羽成和美氏は「シリアスランナーにはともかく、ファンランとして楽しんで走るニーズにはかなりアピールできる大会のはず」と期待する。
アジアのマラソン大会は、気候条件からみてシリアスランナーが走る舞台には向かない面がある。ただし12月開催のマカオマラソンやシンガポールマラソンはクリスマス・イルミネーションやバーゲンセールなどと組みあわせて、現地でのお楽しみの一つの要素として旅行に組み込めるし、ツアー造成も増えている。またプーケットマラソンやバリマラソンはリゾート滞在の体験素材として割り切り、5キロメートル、10キロメートルランなどを手軽に楽しむ考え方も可能だ。
旅行会社ならではのサービスが成果に
旅行会社にとってもマラソンは注目の的だ。旅行会社は、エアオン利用のFITの増加による旅行会社離れや、価格訴求型のスケルトンツアーに対するニーズに押されて収益性の低下を余儀なくされている。そうしたなかで、大会へのエントリー手続きや前夜祭、カーボンパーティ、レースのサポート、サービスステーションの設置、完走後の交流パーティーなどのサービスを付加価値として提供できるマラソンツアーは、旅行会社ならではの強みを発揮できる。個人旅行で参加するマラソン大会との違いも鮮明に打ち出せる。
このため各旅行会社はマラソンツアーに力を入れつつある。ジェイティービーグループではJTB法人東京が07年夏から世界40大会以上を取り上げてマラソンツアーを企画する「ワールドマラソンツアー」プロジェクトを開始し、JTBワールドバケーションズはルックJTBでゴールドコースト、シドニー、サイパンでのマラソン大会も商品化。また、エイチ・アイ・エス(HIS)もスポーツ・イベント・セクションでマラソンツアーを商品化しており、ホノルル、マウイ、シドニー、バリ、マカオなど多数のマラソン大会をカバーしている。集客実績も着実に上がっており、09年のゴールドコーストマラソンでは日本人参加者1200人の4分の1に相当する316人を扱った。
ホノルルマラソンではジャルパックが毎年1000人以上を取り扱っており、06年1150人、07年1400人と人数を伸ばし、燃油サーチャージが高騰した08年も1400人をキープ。09年は10月中旬の時点で2500人の予約があり、前年同期の予約状況と比較して30%増で推移している。これについて広報宣伝グループ課長の門前敏也氏によると、同社では「マラソン熱の高まりや燃油サーチャージの低下などが追い風になっている」と分析しており、最終的に昨年より30%多い1800人程度の集客を見込んでいる。
一方、マラソンツアーでの誘客が大きな成果を上げつつあるハワイやオーストラリアと比較して、アジアはまだ「これから」の状態だ。アジアのマラソン大会を積極的に取り扱うグッドラックツアーによれば、ビジネスとしてはまだ厳しいのが現状で、同社統括部長の枝川淳氏によると「まずは旅行業界に、大会の存在と魅力を認知してもらう段階」とのこと。このため同社では旅行会社対象のモニターツアーに力を入れており、昨年12月のマカオマラソンでは50人のモニターツアーを実施し、今年も100人規模の参加者をめざす。「旅行会社のスタッフが楽しさを体験することで、アジアでのマラソンの魅力に目覚めてくれる手応えを感じる。これをさらに広げることがビジネスにつながっていくはず」というのがグッドラックツアーの戦略である。
観光局、航空会社、旅行会社の連携が最大のパワーに
日本ではいま第2次マラソンブームだという。ランニング人口は350万人に達し、国内では2月に開催される東京マラソンのように、出走希望者殺到で抽選が行なわれるマラソン大会もあるほど。ランニング愛好家は海外大会へも目を向けており、需要が伸び悩む海外旅行業界にとっても期待の旅行素材として注目度が上昇中だ。
メタボ対策効果もあってブームに点火
日本では1970年代末から80年代前半にかけて、ランニングやジョギングの愛好家が目立つようになり、ランニング専門誌なども創刊。第1次マラソンブームが巻き起こった。以来、ランニングやジョギングが日本人のライフスタイルに組み込まれるとブーム的な要素は薄れてきた。ところが、このところ再び急速にランニング人口が増大し、第2次マラソンブームともいえる状況になりつつある。
今年3月に発表された笹川スポーツ財団の「スポーツライフに関する調査2008」によると、週1回以上ランニングやジョギングを楽しむ人口は推計で352万人。2006年調査より55万人も増えており、週2回以上という本格派も33万人増えて248万人に達している。「今後最も行ないたい種目」でもランニングは06年調査の29位から10位へ大幅に上昇し、ブームはまだまだ続きそうだ。背景には日本国民の健康志向があるが、メタボリック対策に国が動き出し、厚生労働省が「健康づくりのための運動基準2006」を発表するなど、間接的にランニングやジョギングを推奨していることも後押ししているようだ。
ブームを受けて国内のマラソン大会は大盛況で、東京マラソンは定員3万2000人に対し27万人が出走を希望。倍率8倍以上の狭き門となった。いまや全国各地に大会ができ、年間で約900大会が開催されている。
実績で先行するハワイとオセアニア
こうしたマラソンブームもあって、海外マラソン大会の日本人誘致効果に注目が集まるようになってきた。日本で最も早くから誘致活動を開始した海外マラソンのひとつ、ホノルルマラソンには毎年1万人以上の日本人ランナーが参加する。1985年に日本航空(JL)が大会スポンサーになってから20年以上にわたりJLや観光局がプロモーションに取り組んでおり、ホノルルマラソン日本事務局によれば、日本からの参加者数が全体の6割。2008年は1万4000人に減少したものの、2005年から3年間は1万7000人台で推移しており、スローシーズンの12月の需要を押し上げる貴重な存在だ。
ホノルルマラソンに次ぐ存在感があるのが「ゴールドコーストマラソン」だ。クイーンズランド州観光公社(TQ)では04年からプロモーションを本格化した。それ以前の03年の日本人参加者数は433人にすぎなかったが、旅行会社対象のセミナーやメディアでの露出増加、元オリンピックメダリストの有森裕子氏の招聘など認知度向上に努めた結果、05年は700人、06年1000人と順調に増加。さらに07年からはTQのほか、ゴールドコースト観光局、オーストラリア政府観光局(TA)、カンタス航空(QF)、日本航空(JL)、大会スポンサーのアシックスを含めた関係者全員参加型のプロモーションにバージョンアップ。08年には1800人と増加し、誘客に繋がっている。
ニュー・サウス・ウェールズ州(NSW州)観光局も、シドニーマラソンを日本人旅行者誘致に積極的に役立てていく方針。今年からTAやQFと共同でプロモーションを本格化し、各種メディアを駆使したプロモーションを展開し、シドニー・オリンピックの金メダリスト、高橋尚子氏を親善大使に起用。これらの結果、昨年は171人だった日本からの参加者は今年の9月大会では550人まで増え、現地在住の320人とあわせて大きな存在感を示す大会となった。この成果を受けてNSW州観光局本局も来年のプロモーション予算を拡大することを決定。日本支局局長の金平京子氏は「今年の1.5倍から2倍の送客をめざしたい」としている。
アジアの動きも活況
アジアでもマラソン大会は、香港マラソン(2月)、プーケットマラソン(6月)、バリマラソン(10月)、マカオマラソン(12月)、シンガポールマラソン(12月)など数多く開催されている。各観光局もプロモーションに力を入れはじめており、タイ国政府観光庁(TAT)は06年にプーケットマラソンがスタートすると、07年にプロモーションを本格化。ツアー造成促進のほか、「東京マラソンEXPO」にもブース出展している。この結果、06年の第1回大会では現地在住者含めて115人であった日本人参加者が、07年には日本からの参加者だけで200名、08年は250人、09年は300人と着実に数を増やした。TATマーケティングオフィサーの佐藤緑氏によると「今年のEXPOにはプーケットマラソンの関係者に加え、コーンケーン県のマラソン大会関係者も来日し、現地の関心も高まっている」とのことで、今後はバンコクマラソンやパタヤマラソンを含め、マラソン市場への取り組みを強化する方針だ。
マカオマラソンは今年28回目を迎える歴史ある大会だが、マカオ観光局によるプロモーションははじまったばかり。昨年、キャセイパシフィック航空(CX)とグッドラックツアーの協力で旅行業界関係者50名を集めたモニターツアーを実施した。今後は一般ランナーへのアプローチをする考えで、マカオ観光局の羽成和美氏は「シリアスランナーにはともかく、ファンランとして楽しんで走るニーズにはかなりアピールできる大会のはず」と期待する。
アジアのマラソン大会は、気候条件からみてシリアスランナーが走る舞台には向かない面がある。ただし12月開催のマカオマラソンやシンガポールマラソンはクリスマス・イルミネーションやバーゲンセールなどと組みあわせて、現地でのお楽しみの一つの要素として旅行に組み込めるし、ツアー造成も増えている。またプーケットマラソンやバリマラソンはリゾート滞在の体験素材として割り切り、5キロメートル、10キロメートルランなどを手軽に楽しむ考え方も可能だ。
旅行会社ならではのサービスが成果に
旅行会社にとってもマラソンは注目の的だ。旅行会社は、エアオン利用のFITの増加による旅行会社離れや、価格訴求型のスケルトンツアーに対するニーズに押されて収益性の低下を余儀なくされている。そうしたなかで、大会へのエントリー手続きや前夜祭、カーボンパーティ、レースのサポート、サービスステーションの設置、完走後の交流パーティーなどのサービスを付加価値として提供できるマラソンツアーは、旅行会社ならではの強みを発揮できる。個人旅行で参加するマラソン大会との違いも鮮明に打ち出せる。
このため各旅行会社はマラソンツアーに力を入れつつある。ジェイティービーグループではJTB法人東京が07年夏から世界40大会以上を取り上げてマラソンツアーを企画する「ワールドマラソンツアー」プロジェクトを開始し、JTBワールドバケーションズはルックJTBでゴールドコースト、シドニー、サイパンでのマラソン大会も商品化。また、エイチ・アイ・エス(HIS)もスポーツ・イベント・セクションでマラソンツアーを商品化しており、ホノルル、マウイ、シドニー、バリ、マカオなど多数のマラソン大会をカバーしている。集客実績も着実に上がっており、09年のゴールドコーストマラソンでは日本人参加者1200人の4分の1に相当する316人を扱った。
ホノルルマラソンではジャルパックが毎年1000人以上を取り扱っており、06年1150人、07年1400人と人数を伸ばし、燃油サーチャージが高騰した08年も1400人をキープ。09年は10月中旬の時点で2500人の予約があり、前年同期の予約状況と比較して30%増で推移している。これについて広報宣伝グループ課長の門前敏也氏によると、同社では「マラソン熱の高まりや燃油サーチャージの低下などが追い風になっている」と分析しており、最終的に昨年より30%多い1800人程度の集客を見込んでいる。
一方、マラソンツアーでの誘客が大きな成果を上げつつあるハワイやオーストラリアと比較して、アジアはまだ「これから」の状態だ。アジアのマラソン大会を積極的に取り扱うグッドラックツアーによれば、ビジネスとしてはまだ厳しいのが現状で、同社統括部長の枝川淳氏によると「まずは旅行業界に、大会の存在と魅力を認知してもらう段階」とのこと。このため同社では旅行会社対象のモニターツアーに力を入れており、昨年12月のマカオマラソンでは50人のモニターツアーを実施し、今年も100人規模の参加者をめざす。「旅行会社のスタッフが楽しさを体験することで、アジアでのマラソンの魅力に目覚めてくれる手応えを感じる。これをさらに広げることがビジネスにつながっていくはず」というのがグッドラックツアーの戦略である。
取材:高岸洋行