取材ノート:利便性を追求する航空会社−旅行会社と共同で新たな価値創造へ
環境の変化にあわせ、航空各社は新たなビジネスの展開に取り組んでいる。そのひとつが旅客のプロセス簡素化「ファストトラベル」であり、環境への対応だ。先日のJATA国際観光会議では「航空会社の数々のチャレンジとその重要性」と題するシンポジウムが開催。モデレーターに日本航空インターナショナル旅客営業本部国際渉外担当部長の亀井繁幸氏、パネリストに国際航空運送協会(IATA)日本代表のジョー・ナカザワ(中沢祥行)氏、ニュージーランド航空(NZ)日本・韓国地区支社長のクリス・マイヤーズ氏、ユナイテッド航空(UA)太平洋地区副社長のジェームス・P・ミュラー氏、ルフトハンザ・ドイツ航空(LH)日本支社長のオットー・F・ベンツ氏を迎え、航空会社の事業進化とそれにともない変化が生じた流通面について、旅行会社との今後の可能性などが語られた。
「ファストトラベル」、各社の連携と顧客の理解を
ディスカッションで主要なテーマのひとつとなったのが、オンライン化が進む現状とその課題だ。中沢氏は「Eチケットの導入は業界にとって革新的な成功だった」と、約60年の航空の歴史を振り返る。「2002年の開始当時はなかなか理解されず18%だった普及率も、今では100%になった」とし、「Eチケットなくして将来はない」(中沢氏)状況だ。そのメリットは予約からチケット発行までの利便性をはじめ、「中間業者が入らないので効率的」、「持って来るのを忘れても身分が証明できれば搭乗可能」、「紙を使わないので環境に優しい」などがあげられる。
Eチケットの普及は、IATAが業務効率化プロジェクトのひとつとして進めている「ファストトラベル」に関連する。オンラインで予約→Eチケット発行→自宅でプリントアウト→自動チェックイン→荷物を預けてゲートへ、というセルフサービスによる手続きの簡略化で、スピーディな搭乗を実現するものだ。「旅客一人あたりのコスト削減につながり、新しいビジネスモデルになった」と中沢氏。マイヤーズ氏によると、日本の国内線での成功例をもとにニュージーランド国内線でも取り入れたところ、順調だという。次は国際線での実現を検討しているが、「どのように各国の航空会社の協力を得ていくかが課題」だ。
では、自動化による弊害はないのだろうか。亀井氏は「ボタンの操作性や言語の問題が生じるのでは」と提起。これに対しミュラー氏は、「たしかにボタン操作がシンプルになるまでは躊躇するかもしれない。しかし、技術が進歩すれば言語面でも機械を使う方がよりよいサービスを提供できる」と応じた。オットー氏は「たとえばチェックインカウンターが減る分、手荷物預けカウンターを増やせば、長い列を作らずにすむ。自動化は顧客の便益になることを伝え、顧客にもファストトラベルに理解を示し、協力してもらいたい」と語る。中沢氏は、「ファストトラベルは、効率を重んじるビジネス旅行がきっかけとなり、一般に広まるのではないか」と予想している。
旅行会社の役割、コンサルティングの比重が拡大
一方、ファストトラベル推進の一環で、オンラインビジネスの進化により大きな影響を受けた流通面の今後は、どう捉えられているのだろうか。オットー氏は「最初、旅行業界にとってオンラインビジネスは脅威と見なされた。しかし顧客主義である航空会社にとって、顧客が自分で情報を得られる透明性と手続きのスピードアップは利点となる」と、オンラインビジネスは意義を強調した上で、「オンラインでの売り上げは伸びているが、既存の旅行会社へのニーズもある」と述べる。ジェームス氏は「進化は重要だ。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)や携帯電話など、次々と出される新しい技術を使いこなしていくことになるだろう」との見解。しかし「すべての人に新技術が歓迎されるわけではなく、『人間と話したい』という顧客も残る」と加える。
日本市場に関してクリス氏は「今やオンラインで、クレジットカードを使って2分でチケットが買える。旅行会社の提供するサービスは手続きの技術面よりもコンサルティングの役割が大きくなってきた」と見ている。同時に日本人旅行者が変化の時期にあるとし、「以前はバスで巡る団体旅行が主流だったが、最近はFITが増えた。フリータイムを尊重し、自分で旅行をコントロールしたいという要望が感じられる。今後2、3年でFITはますます増加し、欧米の旅行者の傾向に近づくのではないか」と予測。オットー氏も「完全な団体ではなく、より自由度の高いツアー」が求められているとして、航空会社と旅行会社との協力により、新しい価値と経験を創造していく必要性を強調した。
燃料の開発は必須、長期的な視野で
もう一点の重要なテーマとして上ったのは、環境に対する取り組みである。中沢氏によると現在、航空業界が排出するCO2(二酸化炭素)は地球全体の2%を占めており、2050年までには3%に上昇する計算だ。しかし一方では、「燃料効率はこの10年間で20%向上した」(マイヤーズ氏)とのデータもある。中沢氏は「最新技術を搭載した航空機は、同じ量の燃料で40年前の3倍の距離を飛ぶ」とし、2050年までにさらに50%改善する見込みだという。CO2排出量を減らす鍵は、「技術力による燃費の改善」といえそうだ。
また、近年の原油価格高騰が追い風となり、航空会社は持続可能な燃料開発という課題に直面している。マイヤーズ氏は「食料に使われる穀物や水は今後不足する資源なので、燃料に使うわけにはいかない。そこで昨年12月から、バイオ燃料の研究を開始した」とNZのチャレンジを紹介。「安全性の保証には何年も必要。高度がある上空では凍結の心配もある。実用はまだ先になるだろう」と報告する。ミュラー氏は「待機中の無駄を省くなど、最小限の燃料だけで運航するべき」と航空機のアイドリング・ストップを提言した。
なお、今後については金融危機、新型インフルエンザなど困難な時期が続くものの、会場のパネリストは一様に回復の兆しに注目し、今後について楽観的な展望を示した。
「ファストトラベル」、各社の連携と顧客の理解を
ディスカッションで主要なテーマのひとつとなったのが、オンライン化が進む現状とその課題だ。中沢氏は「Eチケットの導入は業界にとって革新的な成功だった」と、約60年の航空の歴史を振り返る。「2002年の開始当時はなかなか理解されず18%だった普及率も、今では100%になった」とし、「Eチケットなくして将来はない」(中沢氏)状況だ。そのメリットは予約からチケット発行までの利便性をはじめ、「中間業者が入らないので効率的」、「持って来るのを忘れても身分が証明できれば搭乗可能」、「紙を使わないので環境に優しい」などがあげられる。
Eチケットの普及は、IATAが業務効率化プロジェクトのひとつとして進めている「ファストトラベル」に関連する。オンラインで予約→Eチケット発行→自宅でプリントアウト→自動チェックイン→荷物を預けてゲートへ、というセルフサービスによる手続きの簡略化で、スピーディな搭乗を実現するものだ。「旅客一人あたりのコスト削減につながり、新しいビジネスモデルになった」と中沢氏。マイヤーズ氏によると、日本の国内線での成功例をもとにニュージーランド国内線でも取り入れたところ、順調だという。次は国際線での実現を検討しているが、「どのように各国の航空会社の協力を得ていくかが課題」だ。
では、自動化による弊害はないのだろうか。亀井氏は「ボタンの操作性や言語の問題が生じるのでは」と提起。これに対しミュラー氏は、「たしかにボタン操作がシンプルになるまでは躊躇するかもしれない。しかし、技術が進歩すれば言語面でも機械を使う方がよりよいサービスを提供できる」と応じた。オットー氏は「たとえばチェックインカウンターが減る分、手荷物預けカウンターを増やせば、長い列を作らずにすむ。自動化は顧客の便益になることを伝え、顧客にもファストトラベルに理解を示し、協力してもらいたい」と語る。中沢氏は、「ファストトラベルは、効率を重んじるビジネス旅行がきっかけとなり、一般に広まるのではないか」と予想している。
旅行会社の役割、コンサルティングの比重が拡大
一方、ファストトラベル推進の一環で、オンラインビジネスの進化により大きな影響を受けた流通面の今後は、どう捉えられているのだろうか。オットー氏は「最初、旅行業界にとってオンラインビジネスは脅威と見なされた。しかし顧客主義である航空会社にとって、顧客が自分で情報を得られる透明性と手続きのスピードアップは利点となる」と、オンラインビジネスは意義を強調した上で、「オンラインでの売り上げは伸びているが、既存の旅行会社へのニーズもある」と述べる。ジェームス氏は「進化は重要だ。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)や携帯電話など、次々と出される新しい技術を使いこなしていくことになるだろう」との見解。しかし「すべての人に新技術が歓迎されるわけではなく、『人間と話したい』という顧客も残る」と加える。
日本市場に関してクリス氏は「今やオンラインで、クレジットカードを使って2分でチケットが買える。旅行会社の提供するサービスは手続きの技術面よりもコンサルティングの役割が大きくなってきた」と見ている。同時に日本人旅行者が変化の時期にあるとし、「以前はバスで巡る団体旅行が主流だったが、最近はFITが増えた。フリータイムを尊重し、自分で旅行をコントロールしたいという要望が感じられる。今後2、3年でFITはますます増加し、欧米の旅行者の傾向に近づくのではないか」と予測。オットー氏も「完全な団体ではなく、より自由度の高いツアー」が求められているとして、航空会社と旅行会社との協力により、新しい価値と経験を創造していく必要性を強調した。
燃料の開発は必須、長期的な視野で
もう一点の重要なテーマとして上ったのは、環境に対する取り組みである。中沢氏によると現在、航空業界が排出するCO2(二酸化炭素)は地球全体の2%を占めており、2050年までには3%に上昇する計算だ。しかし一方では、「燃料効率はこの10年間で20%向上した」(マイヤーズ氏)とのデータもある。中沢氏は「最新技術を搭載した航空機は、同じ量の燃料で40年前の3倍の距離を飛ぶ」とし、2050年までにさらに50%改善する見込みだという。CO2排出量を減らす鍵は、「技術力による燃費の改善」といえそうだ。
また、近年の原油価格高騰が追い風となり、航空会社は持続可能な燃料開発という課題に直面している。マイヤーズ氏は「食料に使われる穀物や水は今後不足する資源なので、燃料に使うわけにはいかない。そこで昨年12月から、バイオ燃料の研究を開始した」とNZのチャレンジを紹介。「安全性の保証には何年も必要。高度がある上空では凍結の心配もある。実用はまだ先になるだろう」と報告する。ミュラー氏は「待機中の無駄を省くなど、最小限の燃料だけで運航するべき」と航空機のアイドリング・ストップを提言した。
なお、今後については金融危機、新型インフルエンザなど困難な時期が続くものの、会場のパネリストは一様に回復の兆しに注目し、今後について楽観的な展望を示した。