現地レポート:カナダBC州、三都市周遊ルートの応用ツアー
基本のツアーから視点を変化
ビクトリア、バンクーバー、ウィスラーの新ツアー
バンクーバー、ビクトリア、ウィスラーはそれぞれ、ブリティッシュ・コロンビア州(BC州)を中心としたツアー商品の「定番」ともいえるポイント。しかし、この3都市を結んで「周遊」するパターンが本格化したのは2006年以降のことだ。距離的には短期間で巡ることができるにもかかわらず、港に面したガーデンシティ、カナダ西部で一番の活気のある街、アウトドアのメッカというそれぞれ違う魅力を持つ。しかも、この周遊ルートを基本として使いながら、さまざまなニーズや客層に向けて容易にカスタマイズできるのも特徴だ。先日、BC州が主催した企画担当者対象の研修旅行でも、幅広い可能性を体感できるように、多彩なプログラムが組まれていた。
「移動」そのものが旅の魅力に
今回の研修参加者全員が口を揃えたのは「定番ルートでも、視点を変えれば変化に富んだツアー商品の造成や特化したニーズへの対応ができることがよく分かった」という感想だ。旅行の手配という面では「定番」の手順をほとんど変えなくても、リピーターやロングステイといった旅行形態の違う客層への対応や、スペシャルな旅の演出など、幅広い「旅」が組み立てられるのが、この三都市周遊ルートの特徴だといえるだろう。
バンクーバー、ビクトリア、ウィスラーのいずれかを日程に組み込んだツアーは以前からたくさんあったが、「三都市」として周遊するというコンセプトは比較的新しい。大きなきっかけになったのは、バンクーバーとウィスラーを結ぶ「ウィスラー・マウンテニア号」の運行。ゴージャスな列車で、美しい海岸線から山頂に氷河が輝く深い山並みへ入って行くという、鉄道の旅の魅力を数時間に凝縮した世界的に見ても非常に付加価値が高い素材だ。
しかも、2010年冬季オリンピックに向けて、バンクーバーとウィスラー間の道路整備が進み、バスの旅行が非常に快適になった。鉄道と道路はほぼ並行しているが、線路は海辺、道路は崖の上を通り、見える景色はかなり違う。片道を列車、片道をバスや車にすれば、同じところを往復しても旅行者を飽きさせることはないだろう。
また、ビクトリアのあるバンクーバー島と本土との間は、約90分のフェリーの旅となる。北米大陸で最も南にあるフィヨルドの海岸線や氷河が通り過ぎた後に残されたたくさんの小島を眺めながら、ミニクルーズ気分が味わえるのも魅力的。マイナスに働き兼ねない「移動」が旅の大きな魅力となることこそ、この「三都市周遊ルート」の見逃せない強みのひとつだろう。
ビクトリア直行も一案
もう一つ、従来と視点を変えた旅程の組み方として、今回の研修旅行ではビクトリアを旅の起点とした。どこから旅行をスタートしても楽しめるのが、「三都市周遊」の大きな利点なのだ。日本からバンクーバーで乗り継ぎ、そのまま国内線でビクトリアへ。ただし、国際線から入国手続きを経て、国内線の最も遠い搭乗口へ移動するのはかなりの余裕が必要。あえて、1便か2便遅いフライトを予約して、旅程にゆとりを持たせるのも客層によってはプラスに働くことになる。バンクーバー空港には先住民の優れた工芸作品がたくさん展示されており、時間に余裕があればその案内をしながら、BC州の歴史や文化などの基本情報を紹介できる。時間を有効に使うことができる上、知識を深めることでその後の旅行も充実するだろう。
ビクトリアからは、ナナイモまで車で約100キロ北上し、ホーシュー・ベイ行きのフェリーに乗って本土へ戻った。参加者からは「大きな荷物を持っていても、飛行機と同じように預けることが簡単にできることに改めて驚いた。これならバスごと乗り込まなくてもフットパッセンジャーで乗船し、本土側でバスに待っていてもらえば良い。かなりコストが抑えられそう」との声があり、旅程の変化には新たなメリットもありそうだ。また、ビクトリア島内の移動中にも、壁画で町おこしに成功したシュメイナスやトーテムポールを集めたダンカンの町など、みどころが適度に点在している。
ちなみに、本土ではホーシュー・ベイからバンクーバーに向かい、バンクーバー観光後、朝の列車でウィスラーへ移動。日本へ帰国する日の朝にバスでウィスラーから空港へ直行することになった。帰国日にバスでの移動が約3時間と長いのは不安ではあったが、道路事情が数年前に較べて格段に良くなっているので、スムーズに空港に到着できた。
同じルートでも多彩な可能性
「三都市周遊」の最も大きな特徴は、その応用範囲の広さだ。単に3つの違う場所を巡るというだけではなく、テーマ性の高いツアーを構築することが容易にできる。
例えば「花」や「ガーデニング」。ガーデンシティとして世界的に知られるビクトリアでは、ブッチャートガーデンをはじめとする有名な庭園だけではなく、高級住宅街に建つ個人宅のガーデンを見学することも可能。バンクーバーでも、ラバーナムの小径で知られるバン・ドゥーセン植物園をはじめ、3月から10月まで次々と開花する花々を楽しむことができる。また、案外知られていないことだが、カナダで最初に「街の紅葉」を見ることができるのはバンクーバー。メープル街道よりも1ヶ月以上前にピークを迎える。ウィスラーでは温帯雨林の深い森の中や、高山地帯に咲く野草との出会いも楽しめる。
潜在的なニーズの高い「癒し」をテーマにするなら、カナダ西海岸の先住民の深い知恵に触れる旅として、三都市周遊を仕立てることができる。ビクトリアやバンクーバーには北米の先住民の歴史遺産を展示した州立博物館、先住民アートの芸術性を世界に知らせたビル・リード氏の作品を集めた美術館などがあり、先住民の人々と直接出会えるカルチャー・センターを訪れることもできる。また、2010年のバンクーバー冬季オリンピックは、組織委員会の段階から先住民が参加している初めてのオリンピックという側面もある。それを記念してウィスラーに設立された「スコーミッシュ・リルワット・カルチュラルセンター」では、先住民の人々が病気やけがの治療、心の癒しや健康の維持などに用いてきた伝統的なハーブ類を実際に森の中を歩いて探す「メディスン・ウォーク」など、今までにないプロダクトも生み出されている。
さらに、「野生動物」にテーマを絞ることも可能だ。ビクトリアではホエールウォッチング、ウィスラーではクマや山ヤギなどの野生観察、バンクーバーでは水族館で野生動物や鯨たちの保護について学んだり、大自然と調和した都市生活のあり方を学ぶプログラムを仕立てたりすることもできる。
このほか、オリンピック後に開催されるパラリンピックを見据え、「車いすを利用している人や目の不自由な人がいかに快適に暮らしていけるか」といった視点で、都市計画や人々の暮らしぶりに触れるといった視察や教育的な旅行も、この三都市周遊なら比較がしやすく、収穫の多い旅行日程を組むことができるだろう。
数多い「ニュープロダクト」
今回の研修旅行では、付加価値の高い新しいプロダクトがたくさん紹介された。なかでもウィスラー山とブラッコム山の頂上付近を結んだ新しいゴンドラ「Peak−2−Peak」は、参加者全員から「使える」と好評だった。このゴンドラは全長4.4キロメートルのうち、3キロメートルは支柱がない。深い谷の底から400メートル以上もある空中に、文字通り「宙吊り」になって動いていく。そのスリルとダイナミックな景色は他では体験できないだろう。
また既存のプロダクトでも応用次第で新たな使い方ができることも多い。ビクトリアのインナーハーバーのあちこちを小さな船で巡回しているビクトリア・ハーバー・フェリーは以前から人気があるが、これを夕食の送迎に使ってみる。ホテルの前から乗り込み、5分ほどの「船旅」で海辺のパブへ。帰りに、ビクトリアの地ビールでほんのり染まった頬に海風を感じながらホテルに戻るというのは、予想以上に楽しい思い出になった。
なお、今回の研修日程ではシドニー・ピア・ホテルなどの比較的新しいホテルや、フェアモント系など日本人旅行客へ対応に熱心に取り組んでいるホテルのインスペクションが数多く含まれていた。その結果、「旅行日程でホテルの果たす役割や、旅の魅力の演出に宿泊の心地よさが重要であることを改めて認識した」との声が、参加者の中から何度もあがっていたのが印象的だった。
ビクトリア、バンクーバー、ウィスラーの新ツアー
バンクーバー、ビクトリア、ウィスラーはそれぞれ、ブリティッシュ・コロンビア州(BC州)を中心としたツアー商品の「定番」ともいえるポイント。しかし、この3都市を結んで「周遊」するパターンが本格化したのは2006年以降のことだ。距離的には短期間で巡ることができるにもかかわらず、港に面したガーデンシティ、カナダ西部で一番の活気のある街、アウトドアのメッカというそれぞれ違う魅力を持つ。しかも、この周遊ルートを基本として使いながら、さまざまなニーズや客層に向けて容易にカスタマイズできるのも特徴だ。先日、BC州が主催した企画担当者対象の研修旅行でも、幅広い可能性を体感できるように、多彩なプログラムが組まれていた。
「移動」そのものが旅の魅力に
今回の研修参加者全員が口を揃えたのは「定番ルートでも、視点を変えれば変化に富んだツアー商品の造成や特化したニーズへの対応ができることがよく分かった」という感想だ。旅行の手配という面では「定番」の手順をほとんど変えなくても、リピーターやロングステイといった旅行形態の違う客層への対応や、スペシャルな旅の演出など、幅広い「旅」が組み立てられるのが、この三都市周遊ルートの特徴だといえるだろう。
バンクーバー、ビクトリア、ウィスラーのいずれかを日程に組み込んだツアーは以前からたくさんあったが、「三都市」として周遊するというコンセプトは比較的新しい。大きなきっかけになったのは、バンクーバーとウィスラーを結ぶ「ウィスラー・マウンテニア号」の運行。ゴージャスな列車で、美しい海岸線から山頂に氷河が輝く深い山並みへ入って行くという、鉄道の旅の魅力を数時間に凝縮した世界的に見ても非常に付加価値が高い素材だ。
しかも、2010年冬季オリンピックに向けて、バンクーバーとウィスラー間の道路整備が進み、バスの旅行が非常に快適になった。鉄道と道路はほぼ並行しているが、線路は海辺、道路は崖の上を通り、見える景色はかなり違う。片道を列車、片道をバスや車にすれば、同じところを往復しても旅行者を飽きさせることはないだろう。
また、ビクトリアのあるバンクーバー島と本土との間は、約90分のフェリーの旅となる。北米大陸で最も南にあるフィヨルドの海岸線や氷河が通り過ぎた後に残されたたくさんの小島を眺めながら、ミニクルーズ気分が味わえるのも魅力的。マイナスに働き兼ねない「移動」が旅の大きな魅力となることこそ、この「三都市周遊ルート」の見逃せない強みのひとつだろう。
ビクトリア直行も一案
もう一つ、従来と視点を変えた旅程の組み方として、今回の研修旅行ではビクトリアを旅の起点とした。どこから旅行をスタートしても楽しめるのが、「三都市周遊」の大きな利点なのだ。日本からバンクーバーで乗り継ぎ、そのまま国内線でビクトリアへ。ただし、国際線から入国手続きを経て、国内線の最も遠い搭乗口へ移動するのはかなりの余裕が必要。あえて、1便か2便遅いフライトを予約して、旅程にゆとりを持たせるのも客層によってはプラスに働くことになる。バンクーバー空港には先住民の優れた工芸作品がたくさん展示されており、時間に余裕があればその案内をしながら、BC州の歴史や文化などの基本情報を紹介できる。時間を有効に使うことができる上、知識を深めることでその後の旅行も充実するだろう。
ビクトリアからは、ナナイモまで車で約100キロ北上し、ホーシュー・ベイ行きのフェリーに乗って本土へ戻った。参加者からは「大きな荷物を持っていても、飛行機と同じように預けることが簡単にできることに改めて驚いた。これならバスごと乗り込まなくてもフットパッセンジャーで乗船し、本土側でバスに待っていてもらえば良い。かなりコストが抑えられそう」との声があり、旅程の変化には新たなメリットもありそうだ。また、ビクトリア島内の移動中にも、壁画で町おこしに成功したシュメイナスやトーテムポールを集めたダンカンの町など、みどころが適度に点在している。
ちなみに、本土ではホーシュー・ベイからバンクーバーに向かい、バンクーバー観光後、朝の列車でウィスラーへ移動。日本へ帰国する日の朝にバスでウィスラーから空港へ直行することになった。帰国日にバスでの移動が約3時間と長いのは不安ではあったが、道路事情が数年前に較べて格段に良くなっているので、スムーズに空港に到着できた。
同じルートでも多彩な可能性
「三都市周遊」の最も大きな特徴は、その応用範囲の広さだ。単に3つの違う場所を巡るというだけではなく、テーマ性の高いツアーを構築することが容易にできる。
例えば「花」や「ガーデニング」。ガーデンシティとして世界的に知られるビクトリアでは、ブッチャートガーデンをはじめとする有名な庭園だけではなく、高級住宅街に建つ個人宅のガーデンを見学することも可能。バンクーバーでも、ラバーナムの小径で知られるバン・ドゥーセン植物園をはじめ、3月から10月まで次々と開花する花々を楽しむことができる。また、案外知られていないことだが、カナダで最初に「街の紅葉」を見ることができるのはバンクーバー。メープル街道よりも1ヶ月以上前にピークを迎える。ウィスラーでは温帯雨林の深い森の中や、高山地帯に咲く野草との出会いも楽しめる。
潜在的なニーズの高い「癒し」をテーマにするなら、カナダ西海岸の先住民の深い知恵に触れる旅として、三都市周遊を仕立てることができる。ビクトリアやバンクーバーには北米の先住民の歴史遺産を展示した州立博物館、先住民アートの芸術性を世界に知らせたビル・リード氏の作品を集めた美術館などがあり、先住民の人々と直接出会えるカルチャー・センターを訪れることもできる。また、2010年のバンクーバー冬季オリンピックは、組織委員会の段階から先住民が参加している初めてのオリンピックという側面もある。それを記念してウィスラーに設立された「スコーミッシュ・リルワット・カルチュラルセンター」では、先住民の人々が病気やけがの治療、心の癒しや健康の維持などに用いてきた伝統的なハーブ類を実際に森の中を歩いて探す「メディスン・ウォーク」など、今までにないプロダクトも生み出されている。
さらに、「野生動物」にテーマを絞ることも可能だ。ビクトリアではホエールウォッチング、ウィスラーではクマや山ヤギなどの野生観察、バンクーバーでは水族館で野生動物や鯨たちの保護について学んだり、大自然と調和した都市生活のあり方を学ぶプログラムを仕立てたりすることもできる。
このほか、オリンピック後に開催されるパラリンピックを見据え、「車いすを利用している人や目の不自由な人がいかに快適に暮らしていけるか」といった視点で、都市計画や人々の暮らしぶりに触れるといった視察や教育的な旅行も、この三都市周遊なら比較がしやすく、収穫の多い旅行日程を組むことができるだろう。
数多い「ニュープロダクト」
今回の研修旅行では、付加価値の高い新しいプロダクトがたくさん紹介された。なかでもウィスラー山とブラッコム山の頂上付近を結んだ新しいゴンドラ「Peak−2−Peak」は、参加者全員から「使える」と好評だった。このゴンドラは全長4.4キロメートルのうち、3キロメートルは支柱がない。深い谷の底から400メートル以上もある空中に、文字通り「宙吊り」になって動いていく。そのスリルとダイナミックな景色は他では体験できないだろう。
また既存のプロダクトでも応用次第で新たな使い方ができることも多い。ビクトリアのインナーハーバーのあちこちを小さな船で巡回しているビクトリア・ハーバー・フェリーは以前から人気があるが、これを夕食の送迎に使ってみる。ホテルの前から乗り込み、5分ほどの「船旅」で海辺のパブへ。帰りに、ビクトリアの地ビールでほんのり染まった頬に海風を感じながらホテルに戻るというのは、予想以上に楽しい思い出になった。
なお、今回の研修日程ではシドニー・ピア・ホテルなどの比較的新しいホテルや、フェアモント系など日本人旅行客へ対応に熱心に取り組んでいるホテルのインスペクションが数多く含まれていた。その結果、「旅行日程でホテルの果たす役割や、旅の魅力の演出に宿泊の心地よさが重要であることを改めて認識した」との声が、参加者の中から何度もあがっていたのが印象的だった。
取材協力:ブリティッシュ・コロンビア州観光局
取材:宮田麻未、写真:神尾明朗