現地レポート:グアム、リブランディング進行−南部の魅力をアピール
「常夏のビーチ」「安・近・短」以外のアピール力、向上へ
独自の文化、歴史打ち出すブランディングを進行、ウェディングも進化
グアム政府観光局(GVB)は6月上旬、「ハファディ・スタディツアー2009」を開催した。国内で新型インフルエンザが騒動化しているなか、全国から約80名もの参加を集め、グアムが健在であることをアピールした。グアムでは競争力を強化するため、主力のビーチ以外の魅力発掘に取り組んでいる。現地ではホテルの視察や観光施設とのワークショップが開催されたほか、島内観光でまだ訪れる人が少ない南部を訪問。グアムの歴史や伝統文化を体験した。
イメージ再構築のカギのひとつ、南部エリア
グアム政府観光局(GVB)副局長のアーニー・A・ガリトー氏は、ハファディ・スタディツアーについて「特にカウンターのスタッフがグアムの魅力を旅行者に伝え、安心して旅行先として選べるようにしていきたい」と述べ、販売における旅行会社の重要性を強調する。
グアムは「常夏のビーチデスティネーション」「安・近・短」というイメージが強い。アーニー氏は今後のマーケティング戦略について、消費者が「安いし、時間がないからグアムでいい」といった妥協的な理由で選ぶのではなく、グアムだからこそできる体験やチャモロ人の歴史、文化、生活様式、食事といった独自の魅力で選ばれるよう、イメージの再構築をしていく考えだ。沖縄を含め、近距離のビーチデスティネーションが台頭するなか、独自性を打ち出して多様な客層の確保をはかる。グアムの19の村々にもそれぞれの特徴をいかした観光業を意識してもらう働きかけをしており、予算を設けてイベントやスポットの整備を促進。例えば島の南部にあるアガット村では6月下旬にマンゴーをテーマにした「マンゴーフェスティバル」を2年前から開始。今では現地のツアーオペレーターがイベント当日の送迎バスを有料で運行するほどで、成果がでているものもある。
今回のスタディツアーでは南部をアピール。グアム歴史村・イナラハン・ゲフパゴ公園やソレダット砦、ウマタック湾などの観光スポットを見学コースに組み込み、タモン地区以外の魅力を紹介した。南部では文化体験に加え、緑が多くさまざまな植物が楽しめる。参加者からは「ビーチの印象が強いが、南部は一味違ったグアムが楽しめる」「恋人岬に負けない美しい景色がある」と好評だった。
特に、グアム歴史村・イナラハン・ゲフパゴ公園は、先住民のチャモロ人たちの伝統的な生活を体験できる施設。ココナッツキャンディやココナッツオイルの精製、チャモロ伝統の製塩などを目の前で実演し、解説してくれる。なかでも「マスター」と呼ばれる古老たちが、パンダナスの葉やパグの木、ココナッツを使った食器や籠といった日用雑貨の製作を実演する姿は堂にいったもので雰囲気がある。このほか、参加者がチャモロ料理や籠を作る体験プログラムもある。今回、初めて訪問した旅行会社のスタッフが多く、「グアムの文化を実際に体験でき、歴史に関心のある旅行者には興味を引く素材」「修学旅行の学習素材としてよい」と好評だった。
ただし、シャトルバスのルートに組み込まれていないため、現在の訪問客はレンタカーを利用するFITが中心。タモン地区から車で40分と気軽に行ける距離ではない点が、日程の短いグアムのツアーに組み込む際の課題として残る。島内一周ツアーの一部に組み込む旅行会社があるものの、今後はさらに認知を高め、送客を増やしていく必要があるだろう。
夏に向け、航空各社が座席数増加、需要回復に期待
GVB日本代表の光森裕二氏によると、景気の悪化、新型インフルエンザの影響により、6月は団体旅行や修学旅行のキャンセルが目立ったという。GVBでは新型インフルエンザの問題がないことをオーガナイザーや学校に手紙で伝えるなどの対策をしている。光森氏は「景気が悪い時こそ、近場が必ず候補地にあげられる」とチャンスがあることを強調した。また、グアムの団体は約7割が100名未満の小規模で、3泊4日の旅行が多いが、セミナーでは2000名程度でも対応できる施設があることを紹介。今後は1000名以上の大型団体の誘致をめざす考えを示したほか、社員のコミュニケーション向上を目的に運動会を開催する企業が増えていることに注目し、さまざまなアクティビティが体験できるグアムが需要に応えられることをアピールした。
6月の現状がおもわしくない一方で、夏の需要への期待は高い。航空各社は需要を見込み、チャーター便の運航や増便を実施する。デルタ航空(DL)は6月から8月までの3ヶ月間、ノースウエスト航空(NW)が運航する関西空港発の朝便の増便を決定、1日2便で運航する。また、ジャルウェイズ(JO)も7月以降、夜便の臨時便を予定。日本航空(JL)大阪支店国際販売部販売グループアシスタントマネージャーの百田寛氏によると、グアム路線は08年度の下期から数が伸び、09年4月は10%増となった。5月以降は落ち込んだものの、「ポテンシャルの高い路線」と考えているという。そのほか、羽田/グアム間でコンチネンタル航空(CO)が8月に3往復、全日空(NH)が7月から9月にかけて計33往復、チャーター便の運航を決定している。
不況に強いウェディング、ブランディング成功例
重要市場のひとつであるウェディングも減少したものの、現在は堅調に推移しているという。グアムの場合、アクセスがよいことから同伴者が多く、平均10名から15名。増加傾向にあり、5月末には45人の同伴者のあるウェディングもあった。昨年は婚姻届を出した73万組のうち45万組しか挙式をしておらず、今後はすぐに挙式をしていないカップルの需要も見込む。
グアムでは新しいチャペルが登場している。昨年11月にオープンしたクチュール・ナオコの「グアムチャペル・オーシャン&シンフォニー」は、ヨーロッパゴシック調の外観とドイツ製のパイプオルガンが特徴。また、今年の4月にはアールイズ・ウェディングがハイアット・リージェンシー・グアム内に「ジュエル・バイ・ザ・シー」をオープン。宝石をテーマにしたチャペルで、富裕層をターゲットに設定している。現在は1日6組までの挙式だが、今後はシャンデリアの輝きが映える夜のウェディングも増やすべく、調整を進めている。不況にもかかわらず吉日や人気の時間帯はすでに1年先まで予約が入っているという。このほか、ホテルから独立したチャペルもある。ワタベウェディングの「ブルーアステール」はタモン湾の中心にありながら、プライベート感が保たれているのが魅力だ。
ウェディング会社だけでなく、ホテルもウェディングに力を入れている。シェラトン・ラグーナ・グアム・リゾートは4月から、「ホワイト・アロウ・チャペル」で挙式するカップルに対する専用チームを発足。滞在中のサポートとしてコーディネーターの連絡先を渡し、参列者を含め細やかなサービスで対応する。利用者からも安心感があると好評だという。ウェスティン・リゾート・グアムでもビーチでのサンセット・ウェディングレセプションを実施。現在は消費者からの直接予約がほとんどだが、素材を整え、来年度のパッケージ用として旅行会社にアプローチをかけていく。今後、グアムのウェディングでは、チャペルや挙式スタイルにこだわるカップルにも対応できる多様な選択肢の提供と、きめ細やかなサービスが期待できそうだ。
10年前、グアムはウェディングに焦点をあてたブランディングをし、現在では日本人の海外挙式の27%を誇るまでに成長した。光森氏は「グアム=ウェディングデスティネーション」というイメージは、リブランディングの成功例だという。時間は要するが、ビーチ以外のグアムならではの体験、歴史・文化もグアム独自の魅力として、ウェディングのような力強いイメージとなることを期待したい。
独自の文化、歴史打ち出すブランディングを進行、ウェディングも進化
グアム政府観光局(GVB)は6月上旬、「ハファディ・スタディツアー2009」を開催した。国内で新型インフルエンザが騒動化しているなか、全国から約80名もの参加を集め、グアムが健在であることをアピールした。グアムでは競争力を強化するため、主力のビーチ以外の魅力発掘に取り組んでいる。現地ではホテルの視察や観光施設とのワークショップが開催されたほか、島内観光でまだ訪れる人が少ない南部を訪問。グアムの歴史や伝統文化を体験した。
イメージ再構築のカギのひとつ、南部エリア
グアム政府観光局(GVB)副局長のアーニー・A・ガリトー氏は、ハファディ・スタディツアーについて「特にカウンターのスタッフがグアムの魅力を旅行者に伝え、安心して旅行先として選べるようにしていきたい」と述べ、販売における旅行会社の重要性を強調する。
グアムは「常夏のビーチデスティネーション」「安・近・短」というイメージが強い。アーニー氏は今後のマーケティング戦略について、消費者が「安いし、時間がないからグアムでいい」といった妥協的な理由で選ぶのではなく、グアムだからこそできる体験やチャモロ人の歴史、文化、生活様式、食事といった独自の魅力で選ばれるよう、イメージの再構築をしていく考えだ。沖縄を含め、近距離のビーチデスティネーションが台頭するなか、独自性を打ち出して多様な客層の確保をはかる。グアムの19の村々にもそれぞれの特徴をいかした観光業を意識してもらう働きかけをしており、予算を設けてイベントやスポットの整備を促進。例えば島の南部にあるアガット村では6月下旬にマンゴーをテーマにした「マンゴーフェスティバル」を2年前から開始。今では現地のツアーオペレーターがイベント当日の送迎バスを有料で運行するほどで、成果がでているものもある。
今回のスタディツアーでは南部をアピール。グアム歴史村・イナラハン・ゲフパゴ公園やソレダット砦、ウマタック湾などの観光スポットを見学コースに組み込み、タモン地区以外の魅力を紹介した。南部では文化体験に加え、緑が多くさまざまな植物が楽しめる。参加者からは「ビーチの印象が強いが、南部は一味違ったグアムが楽しめる」「恋人岬に負けない美しい景色がある」と好評だった。
特に、グアム歴史村・イナラハン・ゲフパゴ公園は、先住民のチャモロ人たちの伝統的な生活を体験できる施設。ココナッツキャンディやココナッツオイルの精製、チャモロ伝統の製塩などを目の前で実演し、解説してくれる。なかでも「マスター」と呼ばれる古老たちが、パンダナスの葉やパグの木、ココナッツを使った食器や籠といった日用雑貨の製作を実演する姿は堂にいったもので雰囲気がある。このほか、参加者がチャモロ料理や籠を作る体験プログラムもある。今回、初めて訪問した旅行会社のスタッフが多く、「グアムの文化を実際に体験でき、歴史に関心のある旅行者には興味を引く素材」「修学旅行の学習素材としてよい」と好評だった。
ただし、シャトルバスのルートに組み込まれていないため、現在の訪問客はレンタカーを利用するFITが中心。タモン地区から車で40分と気軽に行ける距離ではない点が、日程の短いグアムのツアーに組み込む際の課題として残る。島内一周ツアーの一部に組み込む旅行会社があるものの、今後はさらに認知を高め、送客を増やしていく必要があるだろう。
夏に向け、航空各社が座席数増加、需要回復に期待
GVB日本代表の光森裕二氏によると、景気の悪化、新型インフルエンザの影響により、6月は団体旅行や修学旅行のキャンセルが目立ったという。GVBでは新型インフルエンザの問題がないことをオーガナイザーや学校に手紙で伝えるなどの対策をしている。光森氏は「景気が悪い時こそ、近場が必ず候補地にあげられる」とチャンスがあることを強調した。また、グアムの団体は約7割が100名未満の小規模で、3泊4日の旅行が多いが、セミナーでは2000名程度でも対応できる施設があることを紹介。今後は1000名以上の大型団体の誘致をめざす考えを示したほか、社員のコミュニケーション向上を目的に運動会を開催する企業が増えていることに注目し、さまざまなアクティビティが体験できるグアムが需要に応えられることをアピールした。
6月の現状がおもわしくない一方で、夏の需要への期待は高い。航空各社は需要を見込み、チャーター便の運航や増便を実施する。デルタ航空(DL)は6月から8月までの3ヶ月間、ノースウエスト航空(NW)が運航する関西空港発の朝便の増便を決定、1日2便で運航する。また、ジャルウェイズ(JO)も7月以降、夜便の臨時便を予定。日本航空(JL)大阪支店国際販売部販売グループアシスタントマネージャーの百田寛氏によると、グアム路線は08年度の下期から数が伸び、09年4月は10%増となった。5月以降は落ち込んだものの、「ポテンシャルの高い路線」と考えているという。そのほか、羽田/グアム間でコンチネンタル航空(CO)が8月に3往復、全日空(NH)が7月から9月にかけて計33往復、チャーター便の運航を決定している。
不況に強いウェディング、ブランディング成功例
重要市場のひとつであるウェディングも減少したものの、現在は堅調に推移しているという。グアムの場合、アクセスがよいことから同伴者が多く、平均10名から15名。増加傾向にあり、5月末には45人の同伴者のあるウェディングもあった。昨年は婚姻届を出した73万組のうち45万組しか挙式をしておらず、今後はすぐに挙式をしていないカップルの需要も見込む。
グアムでは新しいチャペルが登場している。昨年11月にオープンしたクチュール・ナオコの「グアムチャペル・オーシャン&シンフォニー」は、ヨーロッパゴシック調の外観とドイツ製のパイプオルガンが特徴。また、今年の4月にはアールイズ・ウェディングがハイアット・リージェンシー・グアム内に「ジュエル・バイ・ザ・シー」をオープン。宝石をテーマにしたチャペルで、富裕層をターゲットに設定している。現在は1日6組までの挙式だが、今後はシャンデリアの輝きが映える夜のウェディングも増やすべく、調整を進めている。不況にもかかわらず吉日や人気の時間帯はすでに1年先まで予約が入っているという。このほか、ホテルから独立したチャペルもある。ワタベウェディングの「ブルーアステール」はタモン湾の中心にありながら、プライベート感が保たれているのが魅力だ。
ウェディング会社だけでなく、ホテルもウェディングに力を入れている。シェラトン・ラグーナ・グアム・リゾートは4月から、「ホワイト・アロウ・チャペル」で挙式するカップルに対する専用チームを発足。滞在中のサポートとしてコーディネーターの連絡先を渡し、参列者を含め細やかなサービスで対応する。利用者からも安心感があると好評だという。ウェスティン・リゾート・グアムでもビーチでのサンセット・ウェディングレセプションを実施。現在は消費者からの直接予約がほとんどだが、素材を整え、来年度のパッケージ用として旅行会社にアプローチをかけていく。今後、グアムのウェディングでは、チャペルや挙式スタイルにこだわるカップルにも対応できる多様な選択肢の提供と、きめ細やかなサービスが期待できそうだ。
10年前、グアムはウェディングに焦点をあてたブランディングをし、現在では日本人の海外挙式の27%を誇るまでに成長した。光森氏は「グアム=ウェディングデスティネーション」というイメージは、リブランディングの成功例だという。時間は要するが、ビーチ以外のグアムならではの体験、歴史・文化もグアム独自の魅力として、ウェディングのような力強いイメージとなることを期待したい。
取材協力:グアム政府観光局
取材:本誌 栗本奈央子