豚インフル対応で機内へマスクなど準備、「正確な情報提供を」

  • 2009年5月1日
 世界保健機関(WHO)が日本時間の4月30日、豚インフルエンザの警戒水準をフェーズ5に引き上げた。政府は新型インフルエンザ対策行動計画に基づいて対処を進めており、大手旅行各社も対策本部の設置など引き続き対応を進めている。メキシコ以外のデスティネーションについても影響が懸念されているが、旅行各社によると、メキシコ方面以外でのキャンセルは多くないとのことで、現在のところ渡航予定者の混乱は少ないようだ。また、日本航空(JL)および、全日空(NH)でも、すでに対策本部を設置しており、メキシコを含む一部路線では取消手数料を免除するなどの方針を決定している。

 また、国土交通省航空局航空安全推進課によると、新型インフルエンザ対策行動計画の第一段階における対策としてあげた、発生地への運航自粛などの指示はしていない、引き続き政府の決定にもとづき対応していくという。

 観光庁長官の本保芳明氏は4月28日の会見で、旅行会社や航空会社から消費者に正確な情報が適切に提供されることが重要と強調していた。アウトバウンド、インバウンドともに需要への影響が懸念されるが、SARSを例に、「動向を見極めなければならないが、一時的な落ち込みはあったとしても、中長期的なトレンドには影響ないのではないか」とコメント。SARSの際の経験を活かしつつ、正確な情報提供により風評被害を避けるべきとの考えを述べた。


▽WHO事務局長、「歴史上最も準備が整っている」−冷静な対応を

 WHO事務局長のマーガレット・チャン氏は29日、インフルエンザのパンデミック(世界的大流行)の脅威を指摘し、正確かつ深刻に受け止めなければならないとしつつ、各国が鳥インフルエンザへの対処を進めていたため「パンデミックに対して歴史上で最も準備が整っている」との声明を発表している。

 日本でも感染の疑い例が報告されるなど状況は変化しているが、冷静な状況把握と対応が最重要だ。観光庁も日本旅行業協会(JATA)などに、旅行会社から旅行者に対するスポット情報の周知を文書で通知しており、旅行会社は消費者への正確な情報提供が第一に求められている。需要への影響を避けることは困難だが、中長期的に見れば、旅行業界の適切な対応が消費者の信頼につながるだろう。WHOや政府機関、現地などからの情報を収集し、消費者に安心感を与えられる体制を整えたい。各社の対応は下記の通り。


▽航空会社の対応

<JL>
JL代表取締役社長の西松遙氏を筆頭に「新型インフルエンザ対策本部」を設置。毎日定例で状況確認や情報共有、適切な対策について検討している。感染者や感染の疑いなどが発生した場合に向けて、4月27日からハワイを除くアメリカ方面の路線全便に通常100個のところ200個のマスクを備えた。このほか、万が一、発熱など発症の疑いがある場合はその乗客に対して1人の客室乗務員がつくほか、トイレを専用で使用させるなどの対策をとる。また、4月27日までに発券し5月11日までにメキシコ、ハワイやグアムを除くアメリカ、カナダ、ブラジル発着便を含む航空券を対象に、取消手数料を免除して払い戻す。現在のところメキシコおよび全路線についての予約状況での大きな減少はないという。

<NH>
新型インフルエンザ対応事務局を設置。情報収集および、NHとしての適切な対応について検討している。4月30日から5月31日まで、ハワイ以外のアメリカ、カナダの航空券を対象に変更、取消手数料を免除し払い戻す。マスクも各便搭乗者のほぼすべてをカバーできる個数を搭載している。現時点では、4月27日頃から北米線を中心にキャンセルが発生しはじめているという。


▽旅行会社の対応

<ジェイティービー>
4月28日に田川博己社長を本部長とする「豚インフルエンザ対策本部」を設置し、情報収集をはじめ、政府やWHOの動きを注視しながら必要な対策を協議している状況。4月30日現在、メキシコを除く各方面への予約状況に大きな影響はないとのこと。消費者からの問合せも多少はあるが、通常レベルといえる。今後の対応については、外務省やWHOの動きを見て冷静に判断する方針。

<日本旅行>
4月27日から役員・部長クラスを中心に「対策会議」を実施、情報収集、ツアー催行の判断、WHOのフェーズ引き上げを想定した対策案の検討などをしている。4月30日現在、取扱商品や支店によっては多少影響を受けているが、詳しい予約状況等については各支店からの情報を集約中。今後の対応について、通常は外務省の危険情報を基準としているが、今回は例外として、各国における非常事態宣言や在外オフィスからの情報、そして顧客の安全を第一に考えた上で総合的に判断する方針。

<近畿日本ツーリスト>
4月28日に吉川勝久社長を本部長とする「新型インフルエンザ対策本部」を設置、情報収集や対策案の策定を中心に、関係省庁や各関係機関との連絡体制、社内およびグループ会社との連絡網など危機管理体制を確認中。4月30日現在、メキシコ以外の方面に関して予約、問合せ状況ともに大きな動きはないとのこと。今後の対応については、外務省スポット情報、現地情報を含め総合的に判断する方針。

<HIS>
経営企画室によると、4月30日現在、今後の状況に応じて速やかに対策がとれる状況にはあるという。現状、メキシコ以外の方面への予約状況に大きな影響はなく、ゴールデンウィーク中や5月中旬の予約キャンセルも特に見られないとのこと。今後の対応については、外務省やWHOの動きと、海外支店からの状況報告等をもとに判断する方針。

<阪急交通社>
4月27日に生井一郎副社長を本部長とする「総合対策本部」を東京に設置したほか、東京、大阪、名古屋、福岡にも各本部を設置し、連携して政府やWHOの動きに応じた対策案を検討している。4月30日現在、メキシコ以外の方面に関して先々の予約がやや減少傾向にあり、また取消料免除の対象とする予約のキャンセルも若干見られるが、大きな影響は出ていないとのこと。今後の対応については、外務省やWHOの動きを見つつ、JATAとの連携もはかりながら判断する方針。

<クラブツーリズム>
4月30日現在、対策本部は設置していないが、今後の政府やWHOの動きを見て検討する。メキシコ以外の方面への予約状況については、現状大きな影響はないようだ。渡航に不安を感じる顧客からの相談や問合せに対しては適切に対応する。

<ジャルパック>
6月30日予約分まで、メキシコシティおよび、カンクンに滞在するツアーの催行中止を決定。6月に予約していた顧客は約30名。7月以降のメキシコツアーに関しては、5月29日までに催行の可否を決定する方針。なお、4月30日現在、北米、欧州、アジア、韓国などメキシコ以外へのツアーは通常通り催行している。


※内容はすべて4月30日現在のもの


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