ニューミドルマンへの転換を−他業界の意見から旅行業の価値を探る
日本旅行業協会(JATA)は2月24日の経営フォーラムで「エージェントの存在価値を探る〜旅行業の役割とは?〜」と題した分科会を開催。モデレーターを務めたジェイティービー(JTB)常務取締役の志賀典人氏は、IT化やコミッションカットなどの変化により、欧米では1990年代後半から2006年頃までに旅行会社が40%減少し淘汰されたこと、さらに現在の経済危機をあげ、このなかで日本の旅行業が利益を確保していくためには「消費者の意識や価値観が変化することに着目しなければならないのではないか」との問題提起をした。コメンテーターに日本アクセス取締役副社長の秋光実氏、マッキャンエリクソン代表取締役の中澤純一氏、シーナッツ代表取締役社長の成田聖氏が登壇し、「ミドルマン(中間業者)がニューミドルマンにどう変われるか」について、他業界の中間業者の立場からその役割や今後の展開について話された。
広告代理業のケース
中澤氏、消費者のニーズ創出で中間業者の需要向上へ
外資系大手広告代理店であるマッキャンエリクソンの中澤氏は、「日本には“モノ”が溢れていて、ないものはない」と大量に速く商品を作ればビジネスできる時代から変化していることを語る。これまで日本の広告代理店ではメディアの広告スペースを販売することで手数料をもらうコミッションビジネスを展開してきた会社が多い。しかし、「モノが売れなければ広告にまわすお金もない」として、その商品の需要を生み出すため、消費者のニーズや動向をクライアントにコンサルティングをする必要があるといい、それが「広告代理店の需要を生みだすことにもつながる」とする。これまでも、広告スペースの提案とともに、アイディアや消費者動向なども伝えていたが、こうした“サービス”と思われていた部分が本当は大切なのだという。
また、「1億円の広告スペースでも、10億円の広告スペースでも広告代理店の手間は変わらない。それでも支払われるコミッション率は同じ割合であったが、率による画一的な料金の支払いはクライアントにとってももったいないこと」という。1億円の広告スペースでも、商品や掲出場所などの特性を踏まえたコンサルティングを通して活用することで、従来よりも高い効果が得られることもあるし、逆に手間を少なくしてもクライアントが求める効果が見込める場合もある。そうした内容にあわせた対価を払うことで、顧客満足度が高まるという。
既に欧米の広告業界ではこの手法が主流になっているといい、「バブル崩壊やIT革命、昨年から続く経済不安など時代の変化とともにコミッションビジネスは終わる」との見解を示す。「今後は戦略、マーケティングなどへの対価をもらうフィービジネスへ変化する」とし、日本の広告代理業もフィービジネスへの転換がはじまりつつあるという。
食品販売、流通、卸業のケース
秋光氏、消費者の心に届く付加価値ある商品造成を
日本アクセスは食品の販売や流通、卸業社の業界大手。最近のトレンドとして小売業者によるプライベートブランド化(PB化)が進むことについて、すべてPB商品になることはないと予測しながらも、「中間業者の中抜きにつながる」と危機感を示す。PBは、売れている商品を定番化し、大量生産することで安価に販売する場合が多い。しかし、新しい商品が店頭に並ぶことで消費者の目に付くことから「新商品を展開させないと市場が活性化しない」と述べ、消費者の購買意欲をそそる新商品の開発の必要性を訴えた。
さらに商品開発の際は、「消費者のニーズをどう商品に結びつけるか」が必要だと話す。日本アクセスでは食糧自給率39%の日本で、食の安全性が問われていることに注目。特に最近では健康志向が強いことから、「健康によい、というブランド価値はくずれない」とし、食と健康を組みあわせることで商品価値向上の可能性を見出している。医薬品卸業者や薬品会社と提携して「もっとからだよろこぶ」をキャッチフレーズに自己活性を高めるブランド「motto」を立ち上げた。今年3月には定期健診を気にする30代、40代や団塊世代などを意識したこんにゃく麺などの低カロリーの商品を販売する予定だ。
データ送受信サービス業の見解
成田氏、在庫のオープン化で商品の自由度高めマーケットを刺激
旅行業界の各種データ送受信サービスを展開するシーナッツの成田氏は、業界関連会社の立場から提案。さらに、現在の主要な予約経路であるGDSやCRSの利用について、「サプライヤーの在庫を旅行会社がブロックしている状態」と例える。これに対し、インターネット系旅行会社も販売店舗を持つ旅行会社も同じデータに変換してサーバを介することで、在庫がオープンになり、マーケットの活性化につながる」との考えを主張。完全なオープン化は難しいと捉えているが、オープン化が進むことで商品設定の自由度が高まり、新商品や販売方法が展開され、市場が活性化とともに旅行会社のビジネスが活発になるという考えだ。
その際、素材をただ組みあわせるだけでなく付加価値ある商品の提案が必要だとの考えを示す。成田氏は、「大ヒットしたテディベアがある。結婚する花嫁が自分の生まれたときの体重と同じ重さのテディベアを両親に送るというもので、テディベアに大きな付加価値をつけたことで成功した」とヒット商品を例に紹介。「何にお金を支払うのか」を追求するとともに「モノに対してどのような価値をつければ売れるのかを追求することが重要」と訴えた。
最後に、志賀氏は「旅行業は消費者に近い存在であるはずなのに、心理をとらえた付加価値が考えられていないのではないか」と課題をあげ、ITやシステムではカバーできない部分である、企画力やアレンジ、コンサルティングなどで価値を作り出すことが、旅行業の役割として必要であるとまとめた。
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◆需要の創出と付加価値の追求が必要−JATA経営フォーラム(2009/02/25)
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外資系大手広告代理店であるマッキャンエリクソンの中澤氏は、「日本には“モノ”が溢れていて、ないものはない」と大量に速く商品を作ればビジネスできる時代から変化していることを語る。これまで日本の広告代理店ではメディアの広告スペースを販売することで手数料をもらうコミッションビジネスを展開してきた会社が多い。しかし、「モノが売れなければ広告にまわすお金もない」として、その商品の需要を生み出すため、消費者のニーズや動向をクライアントにコンサルティングをする必要があるといい、それが「広告代理店の需要を生みだすことにもつながる」とする。これまでも、広告スペースの提案とともに、アイディアや消費者動向なども伝えていたが、こうした“サービス”と思われていた部分が本当は大切なのだという。
また、「1億円の広告スペースでも、10億円の広告スペースでも広告代理店の手間は変わらない。それでも支払われるコミッション率は同じ割合であったが、率による画一的な料金の支払いはクライアントにとってももったいないこと」という。1億円の広告スペースでも、商品や掲出場所などの特性を踏まえたコンサルティングを通して活用することで、従来よりも高い効果が得られることもあるし、逆に手間を少なくしてもクライアントが求める効果が見込める場合もある。そうした内容にあわせた対価を払うことで、顧客満足度が高まるという。
既に欧米の広告業界ではこの手法が主流になっているといい、「バブル崩壊やIT革命、昨年から続く経済不安など時代の変化とともにコミッションビジネスは終わる」との見解を示す。「今後は戦略、マーケティングなどへの対価をもらうフィービジネスへ変化する」とし、日本の広告代理業もフィービジネスへの転換がはじまりつつあるという。
食品販売、流通、卸業のケース
秋光氏、消費者の心に届く付加価値ある商品造成を
日本アクセスは食品の販売や流通、卸業社の業界大手。最近のトレンドとして小売業者によるプライベートブランド化(PB化)が進むことについて、すべてPB商品になることはないと予測しながらも、「中間業者の中抜きにつながる」と危機感を示す。PBは、売れている商品を定番化し、大量生産することで安価に販売する場合が多い。しかし、新しい商品が店頭に並ぶことで消費者の目に付くことから「新商品を展開させないと市場が活性化しない」と述べ、消費者の購買意欲をそそる新商品の開発の必要性を訴えた。
さらに商品開発の際は、「消費者のニーズをどう商品に結びつけるか」が必要だと話す。日本アクセスでは食糧自給率39%の日本で、食の安全性が問われていることに注目。特に最近では健康志向が強いことから、「健康によい、というブランド価値はくずれない」とし、食と健康を組みあわせることで商品価値向上の可能性を見出している。医薬品卸業者や薬品会社と提携して「もっとからだよろこぶ」をキャッチフレーズに自己活性を高めるブランド「motto」を立ち上げた。今年3月には定期健診を気にする30代、40代や団塊世代などを意識したこんにゃく麺などの低カロリーの商品を販売する予定だ。
データ送受信サービス業の見解
成田氏、在庫のオープン化で商品の自由度高めマーケットを刺激
旅行業界の各種データ送受信サービスを展開するシーナッツの成田氏は、業界関連会社の立場から提案。さらに、現在の主要な予約経路であるGDSやCRSの利用について、「サプライヤーの在庫を旅行会社がブロックしている状態」と例える。これに対し、インターネット系旅行会社も販売店舗を持つ旅行会社も同じデータに変換してサーバを介することで、在庫がオープンになり、マーケットの活性化につながる」との考えを主張。完全なオープン化は難しいと捉えているが、オープン化が進むことで商品設定の自由度が高まり、新商品や販売方法が展開され、市場が活性化とともに旅行会社のビジネスが活発になるという考えだ。
その際、素材をただ組みあわせるだけでなく付加価値ある商品の提案が必要だとの考えを示す。成田氏は、「大ヒットしたテディベアがある。結婚する花嫁が自分の生まれたときの体重と同じ重さのテディベアを両親に送るというもので、テディベアに大きな付加価値をつけたことで成功した」とヒット商品を例に紹介。「何にお金を支払うのか」を追求するとともに「モノに対してどのような価値をつければ売れるのかを追求することが重要」と訴えた。
最後に、志賀氏は「旅行業は消費者に近い存在であるはずなのに、心理をとらえた付加価値が考えられていないのではないか」と課題をあげ、ITやシステムではカバーできない部分である、企画力やアレンジ、コンサルティングなどで価値を作り出すことが、旅行業の役割として必要であるとまとめた。
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◆需要の創出と付加価値の追求が必要−JATA経営フォーラム(2009/02/25)
取材:本誌 秦野絵里香