経営幹部候補生、地域経営のリーダー育成へ−人材育成シンポジウム(2)

  • 2009年1月21日
産学連携の高度人材育成が本格始動、一橋大学HMBAコースの取り組み
〜ホスピタリティ・マネジメント人材育成シンポジウム (その2)〜


 先ごろ、東京都内で開催された、ホスピタリティ・マネジメント高度経営人材育成プログラム開発コンソーシアム主催の「ホスピタリティ・マネジメント人材育成シンポジウム」は、当日は都心で初雪が観測されるなど厳寒にもかかわらず、大勢の聴講者が集まり、興味の高さを印象づけた。なかでも今年4月、一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース(HMBA)にホスピタリティ・マネジメント科目を新規開設する点に注目が集まった。(取材:千葉千枝子)


▽「イノベーション」と「人財」の育成が目標

 具体的には、「サービス・マネジメント」「ホスピタリティ・マネジメント」の新規2科目を、産業界による寄附講座という形で開設する。同大学商学研究科教授の山内弘隆氏は「米国コーネル大学と異なり、ホスピタリティ分野をビジネススクールのカリキュラムにアドオンさせる方式をとる」と説明。さらに翌年度から研究ゼミも設置する予定だ。両科目とも、講師はNPO法人産学連携推進機構の理事長で、知財にも明るい妹尾堅一郎氏が担当。妹尾氏は「イノベーション」と「人財」の育成を目標に掲げ、「新しい日本モデルを創りだしたい」と意欲を語った。一般入試だけでなく企業派遣も募集し、将来の経営幹部候補生や地域経営を担うリーダー候補生を育成することに主眼を置く。


▽「官」も参画した本格的な取り組み

 本コンソーシアムを共催する経済産業省は、観光分野でのリーダー育成を今年度の「産学連携人材育成事業」のひとつに位置づけており、産学のみならず「官」も参画しての本格的な取り組みであることがうかがえる。経産省商務情報政策局参事官の城福健陽氏は、冒頭の挨拶で「観光サービス産業は経済拡大のための重点分野であり、少子高齢化が進むなか、イノベーションと生産性向上の2つの観点からも、経営人材の育成は急務」と述べた。さらに観光庁観光産業課課長の加藤隆司氏は、「これまでの高等教育機関がはたして産業界のニーズにマッチしてきたか。即戦力となりうる人材を輩出できたか」という従来の問題点を指摘、今回の一橋大学大学院との提携理由を強調した。また、HMBAの新プログラムを指揮する同大学院商学研究科長の小川英治氏は、「昨今の金融危機をふまえ、今後の日本経済全体を考えるに、内需主導型へ変えていくことが重要」とし、「地域の活性化にも大きく貢献できるだろう」と期待を述べた。


▽リーダー候補輩出への度胸を求める

 かつて好況だった90年代半ばには、企業派遣によるMBA取得のための社費留学が脚光を浴びた。しかしながら復職後に不満を感じて職場を離れるものも少なくなく、日本企業の多くが誓約書を書かせたり、一部私費のシステムを取り入れるなどして、先行投資の未回収防止に努めた経緯がある。「その二の舞いにはならないか」とする意見も終盤のパネルディスカッションでは囁かれたが、「経営者、社員の羅針盤となるべき人材である以上、その人の胆力(たんりょく※)が求められる」と妹尾氏は一蹴。しかし、イノベートする「度胸」に加え、論理的な思考力はもちろん、「忍耐力」も求められる時代にあるといえるだろう。ちなみに過去の入学者統計から、HMBA在籍者の男女比はおおむね7:3で、入学時平均年齢は26.9歳(08年入学 9期生)である。はたして20代のMBAホルダーが幹部に育つまでの十数年という歳月に、観光・ホスピタリティ産業界はどう変遷していくだろうか。(取材:千葉千枝子)

※胆力=物事を恐れたり、気おくれしない気力。度胸のこと(岩波国語辞典)


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