取材ノート:企業側、大学側の取り組みと課題−人材育成シンポジウム(1)

  • 2009年1月19日
企業側、大学側の取り組みと課題、高度人材育成に向けた産学連携が急務
〜ホスピタリティ・マネジメント人材育成シンポジウム (その1)〜



 一橋大学とNPO法人産学連携推進機構、財団法人日本交通公社(JTBF)の「ホスピタリティ・マネジメント高度経営人材育成プログラムコンソーシアム」は先ごろ、「ホスピタリティ・マネジメント人材育成シンポジウム」を開催、産学官各界の長が観光分野における高度人材育成の重要性を説き、旧国立大学側から産業界連携の取り組み事例も発表された。基調講演で登壇したジェイティービー代表取締役社長の田川博己氏は、「旅はこれまで情緒的なものとして取り扱われてきた。事業論・産業論としての発展がなかった」とし、産業創出にリーディングカンパニーとしての使命をもって取り組むことを強調、人材育成の重要性を説いた。(取材:千葉千枝子)


▽取り組み遅れた観光分野の学部、学科設置−大学側から

 観光ホスピタリティ分野が学問として軽んじられてきたことを指摘し、その最大の原因は「学にある」と語ったのは、北海道大学観光学高等研究センター長の石森秀三氏だ。国立大学が独立行政法人化を迎えた2004年時点で、旧国立大学内に観光分野の学部、学科等の設置は皆無であったが、06年に北大が初めて観光分野の研究機関を創設。しかし、それも観光立国宣言が発布されて3年後のことだ。

 石森氏は現在、さまざまなニューツーリズムが顕在化するなか、マスツーリズムを脱却し「オタクツーリズムの研究にも着手している」と一例をあげる。また、地方における地域経営の人材育成の重要性に言及。「英国のようなソーシャルイノベーションを日本にも取り入れて、次世代ツーリズムを考えていく必要性がある」と続け、「観光創造士」といった国家資格認定プログラムの創設や、世界貢献の一環として観光分野のODA設立などを提唱した。

 このほか、大学側からの事例紹介では、一橋大学大学院商学研究科の山内弘隆教授による大学院商学研究科経営学修士コース(HMBA)でのホスピタリティ・マネジメント科目の新規開設が発表。また、NPO法人産学連携推進機構の妹尾堅一郎理事長は「人財育成の三方法(業務/交流/教育)の観点から旅を教育産業としてとらえ、産業界と連携した『互学互修』を」と、垣根を超えた高度な経営人材の育成を訴えた。


▽キーワードは「地域」と「マネジメント」−企業側から

 産学連携の高度経営人材育成をテーマにしたパネルディスカッションでは、ジェイティービー、東日本旅客鉄道(JR東日本)、日本ホテル協会といった民間の代表者らが、前出の石森氏、妹尾氏とともに登壇し、活発な議論を展開。北海道旅客鉄道(JR北海道)とあわせて年間3000万円の寄附講座を北大観光学高等研究センターに提供するJR東日本常務取締役の見並陽一氏は、「ターミナル(駅)をベースにするばかりでなく、地域とともに事業を展開していくことがJRの使命であり、プロデューサー的な視点をもって経営に臨める人材育成を求めている」と語る一方で、「コンサバティブな事象がベースにあるため、パラダイムを変えることに難しさが残る」と、地域共存や人材の育成がけして平坦な道のりではないことを示唆した。

 また、日本ホテル協会会長の中村裕氏は、「まずは即戦力ありきだが、それはホテルスクールがすでに担ってくれている。即戦力に加え、経営知識やノウハウも重要だが、これはホテリアには弱い部分でもある。その分野を大学側でやってほしい」と、学の役割に言及。さらに中村氏は、「(机上の)産学連携だけではあまりにも希薄。現場に入り、担当者と一緒に考えながら創出し、完成させる手法をとってほしい」と述べ、すでに深化する日本の製造業分野や米国コーネル大学での手法と照らしあわせて、ホスピタリティ分野における産学連携のあり方に意見を投じた。


▽企業側、学校側、双方の課題

 旅行、運輸、宿泊といった垣根を越えて横断的な協力関係を築くことが、高度人材の育成、ひいては次世代ツーリズムの発展にとって欠かせない。そうした意味でも産学連携は重要かつ急務といえる。しかしJTB田川社長の「企業の体制論を再考する必要がある」との言葉通り、幹部候補の育て方もまた、企業にとって過渡期にあるだろう。また、大学側は観光を学んだ新卒の学生が希望する会社に書類審査の時点で落とされてしまうなど、就職活動での門戸の狭さも指摘する。

 私学も含め全国37大学に観光分野の学部やコースなどが設置されているが、実は今回のシンポジウムに出席しなかった大学のなかには、観光学で有名な学校もあったという。少子化によって大学経営が多難な時代においては、公的資金の投入や民間企業からの寄付で金の卵を育てようという取り組みにも、冷静に成り行きを見ようとする学校の考えもわずかにうかがえるようだ。


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