確たる「旅行観」が消費者の支持を集める−旅行動向シンポジウム

▽人口2300人の村に50万人以上の観光客が訪問
中道氏は北海道を代表するフレンチシェフで、高校卒業後、札幌グランドホテルに入社。その後23歳で渡仏、リヨン市にある「ル・ピドール」を皮切りに「ルストー・ド・ボーマニエール」などで修行する。帰国後は再び札幌グランドホテルに務め、退社後は札幌市内に「モリエール」を開店する。このレストランで使用する水をくみに、札幌から車で2時間かかる羊蹄山の山麓に広がる真狩村まで通ううち、その自然の素晴らしさに開眼。「自然から受ける生命力を自分の五感で味わいつくし、その感動を、料理を通じて伝えたい。食材の生産者も料理人もお客様も一体となって『美味しさ』を追求してみたい」と感じるようになったという。この想いは過疎からの脱却をはかろうとしていた真狩村の村おこし事業と一体化し、1997年に本格的フレンチ・レストラン「マッカリーナ」としてスタートする。地元の食材を使った料理を提供するだけに留まらず、宿泊もできるオーベルジュとしても北海道での先駆けとなった。
しかし、本人の想いがどんなに強くても、レストランとして受け入れられるかどうかは別の問題だ。中道氏は「マッカリーナ」の事業計画について、「3年間はお客様は来ないだろうと考えていた」と語っていたが、人口2300人の真狩村を訪れる観光客数は、今や50万人を超えるまでに膨れ上がったという。
また、2007年には「JAびえい」と協同で、マーケットとレストランを併設した「美瑛選果・アスペルジュ」をオープン。ここでも料理人を間に挟んで、生産者と旅行者(消費者)との交流を促進している。
▽普遍的な料理は敬遠されつつある

従来、旅行と食事の関係は「旅行に出かけた先で、ついでに美味しいものを食べる」というものだったが、オーベルジュに代表される最近の流れにおいては「まず食事ありき」という考えが見受けられる。その食事についても、地域の景観や文化と一体化した料理、料理人の哲学が込められた料理が求められ、普遍的なものは敬遠されつつあるようだ。
最後に中道氏は、「私は常に窓を美しく保つように指示を出している。それはお客様に美しい自然の中で、食事をしている雰囲気を味わっていただくためだ。レストランは単に食事をする場所ではなく、私はその中で素敵な時間を過ごしていただく空間であるべきだと考えるからだ。これからの料理人は確たる料理観を持っていなければだめだ」と述べ、その料理観が支持され、お客を集めると分析した。
この言葉を受けて小林理事は、「それは旅行業にも当てはまる。お客様をどんな観光地にお連れして、何を見ていただきたいのか、観光観、旅行観が必要だ」と語った。