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ベルギー:ユネスコ無形文化遺産「モンスの守護聖人祭」を訪れる新ツアー

  • 2008年9月30日
ユネスコ無形文化遺産「モンスの守護聖人祭」を訪れる新ツアー
ワロンの村々と組み合わせで、リピーターにも対応


2007年のベルギー全体の日本人宿泊者数は、前年比0.6%増の20万5174泊。このうち、ブリュッセルは2.0%増の10万2304泊でワロン地方は0.9%増の1万2168泊であり、この組み合わせには伸びしろがあるといえるだろう。この状況下でワロン・ブリュッセル観光促進局は今後、ワロン地方とブリュッセルを組み合わせた旅行を提案していく。今後、増加するリピーターを意識した商品として、「祭り」とワロン地方を核にしたベルギー旅行の可能性を考えてみたい。(取材:戸谷美津子、取材協力:ベルギー観光局ワロン・ブリュッセル)


ユネスコ無形文化遺産、モンスの守護聖人祭「ル・ドゥドゥ」

 ワロン地方の祭りといえば、「アトの巨人祭り」や「バンシュのカーニバル」が有名。これらはユネスコの世界無形遺産に登録され、日本でも祭りを目的にしたツアーが販売されている。今回訪れた「ル・ドゥドゥ」として知られる「モンスの守護聖人祭」も2005年に登録されており、その熱気と迫力で多くの観光客が訪れるお祭りだ。

 ル・ドゥドゥの開催地は、エノー州の州都であるモンス。大聖堂と鐘楼、石畳の道が中世の面影を色濃く残す静かな街だ。特に、祭りの日は中世の衣装をまとった人々が練り歩き、街中がまるで中世にタイムスリップしたかのような旅情を誘う。鼓笛隊や聖歌隊に混じり、張子の馬にまたがる男性、水平やコックなど、さまざまな職業に扮した人も混じり、祭りの華やかさが旅にスパイスを与えてくれる。

 この祭りは1349年、ペストに襲われた町を救うため、聖ウォードリューを称えて町の繁栄と不滅を願って行列を作ったのがはじまり。聖ウォードリューの聖遺物箱を載せた黄金の馬車を筆頭に1500人もの人々が2時間かけて街を練り歩き、最後の教会へ続く坂道は聖遺物箱の荷車を手で押し上げ、一気に駆け上がる。ハイライトは「リュムソンの戦い」と呼ばれる、聖ジョージとドラゴンの戦い。会場の市庁舎前の広場に足を運ぶと、すでに数千人もの人々が屈強なガーディアンに囲まれながら、熱戦を待ち受けている。

 観客のめあては、聖ジョージと戦うドラゴンの尻尾。ドラゴンの尻尾の毛は幸福をもたらすといわれ、戦い中に群集に突っ込まれる長い尻尾をむしり取ろうと波立つように群がり、興奮の渦に。楽隊のラッパとシンバルの単純なメロディが場を盛り上げ、驚くほどの熱気を感じる。実際に参加すれば、よりいっそう醍醐味を味わえるだろうが、観覧席でも十分に迫力が肌に伝わってくる。モンス観光局によると観覧席は人気があるため、グループ席の確保は遅くとも1月までに申し込む必要があるとのこと。ちなみに今年の開催日は5月18日。復活祭の50日目に当たる降臨祭の翌日に開催されるので開催期間は年によって異なるが、およそ5月から6月上旬ごろになる。

 なお、モンスの近くにはゴッホが1年間過ごした「ゴッホの家」があり、組み合わせの見学に最適だ。また、フランスの国境まで10キロメートルという距離であり、フランスへ足を伸ばす周遊コースの組み立てや、ブリュッセルを拠点にしたモンスへの1泊旅行などが考えられるだろう。


ワロン地方の小さな町や村で“心のエコ”を体験

 今回の研修旅行は「森、水、アート、自然〜心のエコな旅〜」がテーマ。ゆったりとした優雅さがあるけれど気取りのない、この地域の魅力を盛り込んだ商品造成につなげることが目的だ。ワロン地方には非営利団体「ワロン地方で最も美しい村々」が指定した22の村があり、村の景観を保ちながら観光整備に力を入れている。こうした小さな村々や町のゆっくり流れる時間の中で心と体を癒す“心のエコ”をワロンの魅力として提案していくというのだ。実際に訪れて見ると、起伏のある緑の大地に点々とする森、草を食む牛や羊、季節の花々などの景色が広がり、ワロン地方にぴったりのプロモーションだと思える。

 例えばムーズ川のほとりに広がる街、ディナン。橋を渡って対岸に建つと川が作り出した崖の上に建つ街の姿は、まるで屏風のような崖に守られているようでなんとも美しい。川沿いの道に並ぶおしゃれなカフェをのぞいたり、崖の上からの素晴らしい展望も魅力の一つ。また、アルデンヌの森の中にあるウルト渓谷沿いのデュルブイも必見。端から端まで10分もあれば歩ける“世界でいちばん小さな町”には、石畳の小道がまるで網の目のように入り組み、ジャムやピクルスなどの食料品店、ヨーロッパ風のおしゃれな小物が売られる雑貨店など、小道を曲がるごとに発見がある。

 また、温泉・ヘルスケアの国際的な固有名詞「スパ」の語源になった街、スパにも注目。もともとローマ時代に兵士が傷を癒したことでその効能が知られ、16世紀半ばにはヨーロッパ中の王侯貴族や芸術家の間でスパでの滞在が流行になった街だ。現在でも63もの源泉があり、散歩しながら源泉を飲み比べるのも楽しいし、温泉やエステのある「テルム・ドゥ・スパ」などでまさに本場のスパを楽しんでみたい。

 このほか、石造りの村として有名なウェリス、酪農と農業の村シャルドヌーなどそれぞれに趣が異なり、のんびり散歩するお年寄りや子どもたちの姿に、小さな村らしい日常の幸せが感じられる。日本から遠く離れた非日常の中での触れあいが心の温度を上げ、温かな気持ちになる。




リピーター向けのブリュッセル観光

 新素材を取り入れた旅行はリピーターの参加が多いが、日本人のベルギー旅行ではブリュッセルを訪れるケースが多い。しかし、「グラン・プラス」「チョコレートショップ」「小便小僧」といった定番観光で終わっているケースが多く、そのほかの見どころを組み込むことで満足度が高まるだろう。例えば、街に多く残るアールヌーボー建築、シンプルで機能的なブリュッセルファッション、アンティークショップなど、まだ紹介されていないスポットが多くある。

 既成の概念にとらわれない新しい芸術「アールヌーボー」が盛んになったのは、1890年代ごろ。ブリュッセルでは特にルイーズ通り付近に多く残り、インフォメーションではアールヌーボー様式の建物をマーキングした地図も手に入る。探し当てながら街を散策すると、いつのまにかその時代が蘇ってくるようだ。

 アールヌーボー様式の特徴の一つは、産業革命で大量生産が可能になった鉄と大きなガラスを用い「家の中に光を入れる」こと。代表的な建築家ヴィクトール・オルタが実際に住んでいた「オルタ美術館」では、ガラスと壁の光るタイルを用いて明るさを演出している。また、「家の中に自然を取り入れる」という発想から、イスの背やドアの取っ手などにも草木模様やトンボのモチーフを多く採用。鞭がしなったような優雅な曲線も特徴で、細部にこだわった美しさに、ため息が出るばかりだ。

 また、ブリュッセルで最も人気のあるファッション・ストリート「ダンサール通り」も注目。1970年代、政府はブリュッセルをファッションの中心地にしようと計画し、国立芸術学院のファッション部門の卒業生たちの活躍の場として、ダウンタウンの倉庫をアトリエに提供したエリアだ。店舗はどこも小さいが、ウィンドウに並ぶ服はカラフルでシンプルなものが多い。実用性をもちながらデザイナーの個性が発揮されたデザインが多く、つい入ってみたくなる。店も人も開放的で親しみやすい雰囲気がとても魅力だ。

 そして、究極の街散策としてアンティークショップや蚤の市での掘り出し物探しもお勧め。グラン・サブロン広場の周辺には、ヨーロッパだけでなくアジア、アフリカの品を扱ったアンティークショップもあり、見ているだけでも十分に楽しい。ブラス通りに面したジョドゥバール広場では毎日蚤の市が開かれる。

 ユーロスターが発着する南駅付近は以前、治安の良くない地域とされていたが、近年は街の中心から南の地域も整備されつつあり、駅近辺にはデザインホテルを展開する「Manos」グループなど、新しいホテルが増えてきた。着々と進化する街の今と歴史を取り込み、さらにヨーロッパ各国の足回りの良さを活用する。ベルギーならではの「祭り」とワロン地方に、ブリュッセルを組み入れた幅広い旅行が可能だろう。