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インタビュー:ガルーダ・インドネシア航空、前・新日本支社長と名古屋支店長

  • 2008年8月6日
バリの需要は堅調−プレミア旅行の促進とエコ・ツーリズムを打ち出す


燃油サーチャージの高騰をはじめ、海外旅行市場には強い逆風が吹いている。そのなかで、ガルーダ・インドネシア航空(GA)は6月から、レジャーデスティネーションの中部/デンパサール線を復便、運航開始後のロードファクターは85%以上と順調な滑り出しだ。特に弱含みといわれるレジャー市場に対し、GAは日本市場の現在をどのように捉え、中長期的な施策をどのように打つ考えか。今後の展望について、本社に帰任する前のGA前日本支社長のM・アリフ・ウィボウォ氏、後任で前大阪支店長のファイク・ファーミ氏、名古屋支店長のリザ・プルダナ・クスマ氏に聞いた。(聞き手:本誌編集長 鈴木次郎、構成 松本裕一)


−中部路線の復便で、日本からの送客が増えているという。現状はどのように推移しているのか

M・アリフ・ウィボウォ氏(以下、アリフ): 海外旅行市場の低迷が指摘されているとおり、昨年と比べると、必ずしも市場の環境は良くない。ただし、バリへの訪問者を中心に旅客数は増加しており、特に夏休みの需要に期待している。実は日本市場だけでなく、オーストラリア発、中国発の需要も伸びている。燃油サーチャージを別途、お支払いいただいており、必ずしも価格が安い環境にはないが、日本人の旅客数は前年比で伸びている。

 夏からの動きで注視すべきポイントは、円/ルピーの為替相場もそうだが、今後の予約状況だ。現況からすると、ロードファクターは75%ほどを推移していくと予測しており、厳しい市場環境の中では非常に良い兆候と捉えている。

ファイク・ファーミ氏(以下、ファーミ) 関西発も最低でも75%を維持していけるだろう。

リザ・プルダナ・クスマ氏(以下、リザ) 中部発は65%から70%程度の予約状況だ。市場を刺激していくことで、80%をめざしている。

アリフ 原油価格の高騰は旅行だけでなく、生活にも影響を及ぼしているといわれる。ただし、バリの強みは日本円がインドネシア・ルピアに対して強い為替相場の環境にあり、他のデスティネーションと比べ、金銭的には旅行しやすい状況にある。日本発をみた時に、70%以上の搭乗率を維持していくことが判断の目安だが、この点からすると日本市場については楽観視しているし、市場も「旅行に行く」という気持ちがあると見ている。


−最近はウェディング、シニアなど、レジャーでもビジネスクラスを利用する旅客が増えてきている。GAもプロモーションに力を入れているが、進捗はどうか

アリフ ビジネスクラスだけを見ると、東京発の利用率は60%前後だ。成田/バリ/ジャカルタと運航しているため、競合する日本航空(JL)の成田/ジャカルタ線と比べ、業務渡航を取り込みきれていないのだろう。このためGAはハネムーン、ウェディング、シニアなど、レジャー目的でも特別な旅行にビジネスクラスを利用してもらうようにアピールしている。

ファーミ 大阪発のビジネスクラスは60%。東京と同じような動きをしている。また、名古屋は旅行業界との協力によって、多くの準備期間を費やしてきた。レジャーの需要も強く、パッケージツアーの造成で協力を得ているところ。中部国際空港の支援もあり、GA、空港、旅行会社がウィン=ウィンの関係を築くことができている。

リザ そうした協力があり、名古屋は70%で推移している。トヨタ関連の企業があり、ビジネスクラスの販売は大きなチャンスがあると見ている。

 2年間の運休によって、新しいGAのイメージを良い形で打ち出すことが出来たと思う。復便の6ヶ月以上前からプロモーションを開始し、旅行会社側も準備に十分な時間を取れ、とても歓迎してもらっている。また、商工会議所からも協力が得られている。現在は週3便だが、過去には週4便を飛ばしており、増便が次のステップになる。


−成田と羽田の再拡張を控えた中長期的な計画は

アリフ 空港の容量が増えることは、一般論だが航空会社には大きなチャンスとなる。燃油高騰の影響は大きいものの、需要と可能性が見込める限り、可能な施策を展開していく。中期的には、東京/ジャカルタ線への直行便の就航の機会を検討していきたい。あるいは大きな機材、新しい機材など、旅客の快適性に応えるプロダクトを提供することも考えていく。さらに、日本、中国・上海、韓国・ソウルを経由した北米線の運航も視野に入れている。これに向けて、最適な経由地を検討しており、常にどの地点が最適であるかを検討している。

 また、次回の日本とインドネシアの航空当局間協議は注目だ。政府間で経済連携協定(EPA)が締結され、貨物も含めた航空需要の増加が見込まれているなか、規制緩和に期待している。特に、2年前の交渉で継続検討となった第三国輸送の自由化(いわゆる以遠権に関する第五の自由)は、インドネシアでは既に他国と始めており、実現してほしいポイントだ。実現すれば、例えば日系航空会社が日本/オーストラリア線でインドネシアを経由することができるようになるメリットも日本側にある。こうした政府間の交渉次第で、旅客にも刺激を与えられる。貨物需要が増えるとビジネス需要も増え、レジャー目的の旅行者にとっては訪れる機会が増えていく。


−需要喚起やデスティネーション開発の方策は

アリフ 今年を含め、これから数年間は継続してウェディング、ハネムーンのプロモーションをしていく。より具体的にいうと、プレミア・マーケットと位置づけている旅行行動をさらに喚起していきたい。これに加え、新しい試みとしてエコ・ツーリズムもあげられるだろう。エコ・ツーリズムは以前から取り組んでいたが、市場に定着するまでに時間が必要だし、ニッチなマーケットで、ボリュームをめざすものではない。ただし、世界的にも関心が高まっているように、インドネシアには多くの熱帯雨林があり、そこに多くの動植物が生息している。インドネシアの多様な「島」、「自然」をアピールでき、かつ単に「観光」するのではなく、活動を通じて「自然」を楽しむことができることから、他のプロモーションと比べても積極的に打ち出し、長期的に取り組む課題といえるだろう。

ファーミ 具体的には「フォレスト&ヘリテイジ」や「フォレスト&オランウータン」など、自然とあわせて楽しんでもらう旅行の切り口がある。例えば、これまでも多くの日本人が訪れ、ボロブドゥール寺院、プランバナン寺院などの文化歴史のイメージが強いジョグジャカルタは、エコ・ヘリテイジ・デスティネーションとして打ち出せる。すでに世界自然保護基金(WWF)と共同で「One Passenger One Tree」の植林プログラムを開始し、5万本を植林する計画になっている。この計画は、植林した木を活用して世界でも珍しい金色の絹を生産し、地元の農家を支援することも含んでいる。また、日本ウォーキング協会とタイアップし、年内に3日間で10キロメートルを歩くイベントも開催する。WWFとはカリマンタンのセバンガウ国立公園で植林をしており、オランウータンの保護施設やリバークルーズとの組みあわせも、大衆的ではないが旅行商品となる可能性がある。

 さらに、スラウェシ島のトラジャでは、キーコーヒーが35年前からコーヒーを栽培しているプランテーションがあり、これもパッケージ化できる。トラジャは高地のため素晴らしい景色を眺めることができる。文化も独特で、キリスト教徒でありながら土着信仰のアニミズムが残るところだ。ただ課題は、現在は車で7時間から8時間の移動となり、旅行商品でもマーケットは限定される。また、ガイドやホテルなど解決すべき点は多いが、地元の自治体と共同で改善に向けた努力を続けている。ガイドについては、日本エコツーリズム協会の協力も得て、エキスパートを育成する計画を立てている。時流をとらえた効果的なデスティネーション開発も、積極的に取り組んでいきたい。



−ありがとうございました。