取材ノート:「2000万人目標は達成できるか」課題と対策−JATA経営フォーラム

  • 2008年3月11日
 JATA経営フォーラムの分科会Hでは、「渡航者2000万人目標は達成できるか?−自由化以来はじめての海外旅行停滞時代を迎えて、業界の知恵は?」と題して、JATAが目標として掲げる2010年2000万人に向けた課題に対し、ビジット・ワールド・キャンペーン(VWC)への提言の意味も含むものとなった。議論の前に、現況についての説明や課題を特定し、グループごとにディスカッションをおこなった。モデレーターは日本旅行業協会参与の石山醇氏、コメンテーターにはJTB首都圏代表取締役社長に石川尅巳氏、マクロミル代表取締役社長の辻本秀幸氏、オブザーバーは国土交通省総合政策局観光事業課長の花角英世氏。

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 オブザーバーの花角氏からは、鹿児島県が実施しているパスポート取得キャンペーンの活用や、在日外国観光局協議会(ANTOR-Japan)が消費者を対象に実施する海外旅行セミナーについて、6月ごろには地方都市での活動が展開される予定であることが紹介された。こうした活動とともに、日本が成熟した市場になったという認識を改めること、戦略的にデスティネーションを開発していくこと、チャーター便の活用、周年事業で海外旅行の雰囲気をもりあげることが、環境づくりとして上げられた。

 その一方、こうした活動をする上で、データとなる日本人の旅行動向について、国交省が独自に調査した資料の一部を公表。人気のデスティネーションはヨーロッパ、オーストラリア、ハワイと続き、直近3年間については20代から40代が海外旅行者を構成する重要な顧客となっていることなどを紹介した。

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 また、石川氏はJATAが「2007年に2000万人をめざす」と2004年に掲げたものの、実際には需要が下がっている事態を再認識し、その原因として燃油サーチャージ額を課題とする。特に、燃油サーチャージ額と出国者数の推移は反比例しており、旅行会社の店頭でも海外を販売するよりも国内の販売をするほうが、顧客対応面でも良いことを指摘。この解決が最も重要な課題という。

 辻本氏は20代の若い人たちの興味・関心の第1位の項目が貯蓄であることを紹介し、特に、将来への不安からこうした行動につながっているという。さらに、「失敗はしたくない」という傾向が強くあり、今は海外旅行にうまく結び付けられていない。ただし、これが大きなヒントで、外国語に自信がない、失敗したくない20代への徹底的なマーケティング、消費者の声を聞き、新しいコンセプトを打ち出すことで、パッケージツアーの良さを打ち出すこともできるなどと話した。

<グループA>若者対策
◆ツーリズム・マーケティング研究所代表取締役 西山恒夫氏
 これまで若者にどれだけメッセージを送ってきたのか?個別に若い女性にあったが、黙っていてもついてくるという認識がなかったか?旅行会社、業界全体で若い女性、男性に向けた商品、チャネルでメッセージを送ることが大切だ。特に、パッケージ旅行は「プロテクトされている商品」であり、海外でも守られていることをアピールしていく必要がある。また、旅行が「楽しい」こともアピールし、調査も実施しなければならない。

<グループB>航空会社
◆ユナイテッドツアーズ常務取締役 浅田豊氏
 旅行業務の中で、航空会社の紙のタリフから改めて自社タリフにするなど、無駄が多い。IT技術を本当に導入しているか疑問なところもあり、データでやり取りができるものは、積極的にそうしていくべき。
 2000万人は中国、韓国、台湾をはじめ、伝統的なデスティネーションの底上げが必要だ。このためには、旅行会社の役割、航空会社との関係を改めて考え直す必要がある。例えば、今年のブラジル移民100周年は旅行会社1社で販売することは難しい。ファンドを業界としてつくり、リスクヘッジをとることも必要ではないか。

<グループC>日本型海外旅行ビジネスモデル
◆TIA日本代表 井上嘉世子氏
 旧来のビジネスは簡単に変更できないが、サプライヤーと旅行会社の歩み寄りが必要で、これからはグローバルスタンダードにあわせていく必要がある。(ホテル客室の)アロットを戻すことは(大手には)デメリットだが、小さな会社にはビジネスチャンスを生むことである。ただし、旅行会社が流通業ではなく、利益を生む体制に変化する必要がある。

 今後は、人数だけ追いかけるという「数の優先」より、魅力ある旅行商品をつくることが先決。これにより、結果的に市場が大きくなり、こうした成功事例を積み上げていく必要がある。その旅行商品の課題は、市場で販売されている商品と買う人のニーズがあっていないのでは。例えば、若い人を対象とする商品は若い人が企画・造成をするのが良い。熟年層が対象であれば、熟年がつくるということもあるだろう。こうしていくためには、旅行業界が魅力あるものでなければならず、デスティネーションを知る人を育成すべきだろう。

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<グループD>燃油サーチャージ
◆JTB旅行事業本部国際部長 古澤徹氏
 燃油サーチャージは、消費者、旅行会社、制度の3つの問題がある。今は、消費者が不信感を持つ要因となっており、2000万人推進には大きな足かせになっている。また、旅行会社はサーチャージ額の収受で問題を抱えていることも多い。例えば修学旅行では、契約時から実際の発券に至るまでの期間にサーチャージ額が値上がりし、これに対応するための手数、時間、対価がなく、現場は困っている。制度上では、統一性がなく、運賃の一種類であるということが分かりにくい。

 金額的には「サー」(追徴金)に留まらない高いもので、「行かない」という結論になりがち。旅行業界と航空業界が対立すべきではないが、燃油サーチャージ額の改定を半期ごとにする方法もあるだろう。航空自由化で運賃についても弾力的な運用があり、制度の改定、廃止など本音で話を深める必要がある。

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<グループE>MICE
◆東芝ツーリスト代表取締役社長 山田勝臣氏
 法人旅行、MICE市場、あるいは海外が初めての人をどのようにとらえるか。「海外に行ってみると良かった」という反応は多いが、どうやって行ってもらうかが重要だ。例えば、修学旅行では規制緩和を進めることで初めて海外に行くケースがある。JATAで「規制緩和対策委員会」など、はっきりとした姿勢を見せることも良い。法人やMICEは2000万人の活動では「むずかしい」という意見が多いが、企業は海外に源泉を求めており、大きな仕掛けを考える必要がある。例えば、経済産業省や各種の経済団体、大学などグローバル化を支える活動と位置づけることもできるだろう。

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<グループF>パスポート
◆観光進化研究所代表 小林天心氏
 パスポート取得の前に、日本国内にある内向きな気分を解決しなければいけない。例えば、国際交流の重要性を国交省、国会議員と連携し、説いていく必要がある。実際には、「身分証明としてのパスポート」という位置づけも重要になる。ただし、旅券取得代の1万6000円は高すぎる。これは、窓口の簡略化、利便性の向上などにつなげながら活動する必要がある。消費者に利便性のあるというポイントを重視する必要がある。

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