新春トップインタビュー:国土交通省大臣官房総合観光政策審議官 本保芳明氏

  • 2008年1月7日
インバウンドは70点、アウトバウンドは今後に期待
観光庁設立の機運を捉え、できる限りの方策を打つ


 観光立国推進基本法が2006年12月13日に成立、この法律を推進する基本計画が2007年6月29日に閣議決定、観光庁設立が2007年12月19日に正式決定し、国を挙げた「観光立国」に向け盛り上がってきた。ただし、ビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)効果で、順調に訪問者数増を続けるインバウンドと、出国者数が伸び悩むアウトバウンドと勢いは異なる。観光行政のトップとして観光庁の設立準備を進める、国土交通省大臣官房総合観光政策審議官の本保芳明氏に、観光立国の未来、今年の目標などを聞いた。(聞き手:弊紙編集長 鈴木次郎 構成:松本裕一)
                                                                        
                                                                       
−観光庁の設立が決まりましたが、所感をお聞かせください

本保芳明氏(以下、敬称略) 国が観光政策を推進するための政策的な組織が立ち上がり、非常に有意義だ。政府を挙げて観光立国を推進する中で、この旗振り役として、自治体、諸外国との関係に一元的に対応できるようになる。これほどスムーズに認められるとは思っていなかった。

 こうした大きな仕事をする際、官民を問わず、重要性に応じ仕事をする。観光行政がどのような重みを持つか、今後はどうあるべきかを考え、長官レベルで担務すべき重要性、緊急性があることが認められたのだろう。「行政肥大」というが組織を作った後、見直しの仕組みが機能しないことに起因する。組織の機能が現実に即していない、といった場合は解消すべき。必要とされる目的と機能を果たし、成果が着実に出ているか見直し、健全に進めて行かなければならない。


−観光庁の役割や、活動の方針をお教えください。特に、民間が重要な位置を占める観光分野で行政が発揮できる力は何でしょう

本保 組織運営は、ミッションとビジョンを明確化し、適切な経営資源を投入してマネジメントすることに尽きる。観光庁では、観光立国基本計画の達成すべき目標がミッションで、そのための方法がビジョンだ。

 ビジョンとしては、何をすべきか明確な指針を示し、着実に実行できる体制を作る。自分たちが何を執行し、何に役立っているか理解することが大切で、着任以来、成果、結果を求めてきた。ただし、官庁は事業の成り立ちから効率性を追求しにくく、成果が見えにくい。また、成果に報いるインセンティブもない。しかし、職員は公務員として強い使命感を持つ者が多い。最近では、国際観光振興機構(JNTO)の各事務所所長も、送客数を一番に考えるようになり、本庁も含め、PDCA(計画「Plan」、実行「Do」、評価「Check」、改善「Act」)を着実、かつ全体で実施していきたい。

 JNTOとVJC事務局の統合も迫っているが、VJC事務局は各民間企業から出向する親元の企業とのつながりがこれまでの成果につながることもあり、良い面を取り入れた統合にしたい。また、VJCで各市場別の目標を立て、実施してきたが、国内の各運輸局単位もこうした目標を意識し、地域のニーズを汲み取りながら、連携事業を展開していく。


−これまでの観光立国政策の進捗状況と、今後の見通しをお聞かせください

本保 観光立国基本計画の目標に沿って言えば、インバウンドは70点、アウトバウンドは手付かずに近い。

 インバウンドは、方向性は従来どおりで良いだろう。「数」と「質」を求めているが、特に「数」は効率的に追求している。JNTO事務所の設置国と非設置国を比較すると、訪日客の9割が事務所設置国で占める。また、2003年から2006年の訪日客数の増加率は、非設置国の約4.8%増に対し、設置国は約13.2%増と伸び率が違う。これに慢心することなく、さらに効率化を進め、JNTOとVJC事務局の統合をはじめ、事務所毎に目標値を設定し、各運輸局と連係し、時間的な重複を排除していく。2008年の目標は、前年比10%増程度をめざしたい。

 一方、今後は「質」が課題だ。これは「満足度の向上」などがあるが、例えば海外で信頼されるガイドブックの利用も有効だろう。ミシュランによる日本のガイドブックが昨年4月に刊行されたが、今年は中国語簡体字での発行が予定されており、これによる知識層、高所得層への促進につながるだろう。

 行政としては「受け」の充実、旅行者の満足度向上に向けた戦略、執行も重要だ。例えば、案内所はこれまで数量主義であったが、今後は必要な場所に必要なレベルのものを設置したい。日本全体が向上する必要性もあり、受入体制が整う地域で献身的に努力されている方々を国として評価、認定し、その活動内容を広めていく仕組みも準備している。オペレーターの「質」についても観光事業課で調査を進めており、その結果を受けて対応を考える。ただし、受地側での対応だけでなく、発地側が送客数と共に満足度を意識してもらう必要がある。ガイドの問題でも、通訳案内士制度の見直しを進めているところだ。


−アウトバウンドは日本旅行業協会(JATA)がアクションプランを策定しており、国の役割を明示する段階ではないでしょうか

本保 国の役割は、早急に明確にしたい。個人的には、大きく分けて2つあると思う。第一点は、純粋にビジネスとして旅行業を営みやすい環境の整備だ。例えば、航空運賃やチャーターの規制などだが、これらは必要に応じて対応していく。

 第二点として、海外旅行が持つ社会的、国民的な意義を示すこと。例えば、若年層の海外離れは単に個人消費の問題だけではなく、日本社会と世界の関わり、あるいは個人の世界への関心が薄れていることにも起因する。日本全体の出国率が他国に比べて低いことも同様で、教育上の問題とも捉えられるのではないだろうか。日本国内で各都道府県別の出国率の地域間格差も、国際線路線網の格差を「機会均等」の観点から考える必要がある。

 日本が目指す観光立国の「ツーウェイ」という視点から、相互にバランスを考えなければならない。ただ、「日本と韓国の訪問者数が逆転したから、韓国に行きましょう」という話ではない。相手側のインバウンドに協力し、結果的に双方向の交流人口の拡大に結びつく長期的な視座に立った関係を考えることが行政の役割だ。

 課題はあるが、いずれの項目でも官民の役割を決め、連携して仕事することがいっそう重要になってくる。JATAの2000万人プロジェクトは、出発点として非常に期待をしている。アウトバウンドではODA関連で「観光開発促進協力事業」として予算があり、知的好奇心を刺激するという点でも活用ができるのではないか。


−観光消費30兆円など、その他の目標はいかがですか

本保 30兆円は種々な取組みの積み上げが結果に反映すると考えている。国内観光旅行4泊は、極めてハードルが高い目標だ。民間の役割が大きい目標だが、国としては観光地作りが重要だと考えている。仮称だが「観光圏整備法」という新法で、観光地、観光圏の整備を進めていきたい。国際会議の5割増は、関係省庁会議で企画、立案は既に済んでいる。ただし、各省庁で明らかに意識が高まり、誘致支援や会議後の支援などの予算が概算要求で認められ、これらどのように活用するか、が試される。誘致を進めて行く「営業」段階にあり、誘致するターゲットを明確にし、全員が一体となり誘致していきたい。


−2008年の意気込みをお聞かせください

本保 今年は、当然ながら観光庁が大きなファクターだ。設立が決定した背景には、産業界、行政問わず、観光に対する大きな期待の高まりがある。こうした機運は長続きしないが、非常に大事な要素だ。1年から2年にできる限りのことを実行し、後につなげることが問われている時期だろう。産業界と連携し、この機運を最大限に利用して取り組んでいく。まずはミッションを達成するために、観光庁を適切な組織として立ち上げたい。


−ありがとうございました