九州応援プロジェクト−熊本国際化センターからの投稿:熊本/シェムリアップのチャーター便

  • 2007年11月26日
民が仕掛けた観光拡大―熊本/シェムリアップのチャーター仕掛け人
〜歴史活かした親睦図り、受け入れ態勢向上にも効果




デスティネーション開発は受け入れ側の現地のほか、日本からは国や業界団体などが主導するケースが多いが、大きな役割を果たした民間団体がある。それはカンボジア支援を主活動とするNGO熊本国際化センター(KIC)で、理事長の谷川政敏氏はカンボジア観光大臣のアドバイザーも務める。KICでは熊本藩主加藤清正時代の朱印船交易による両国の歴史関係を有効活用し、今年の熊本城400年築城を機として8月にはアンコールエアウェイズ(G6)によるシェムリアップへのチャーターを実現した。これは11月以降、G6 が初年度200便から250便の計画で運航するチャーター便の第1便となったものだ。今回から2回に分け、谷川氏の取り組みとチャーター便によるツアーの様子を谷川氏のレポートで紹介する。(文責:谷川政敏氏、編集構成:トラベルビジョン編集部)


▽アンコールワットに刻まれた歴史的関係の証

 1991年に世界遺産として認定され、年間200万人の観光客が訪れるアンコールワット。この中央回廊の石柱に「森本儀太夫」と日本語の落書きがあるのは有名な話だ。これは1632年、同地を訪れた侍の森本右近太夫一房が、肥後加藤藩の家臣だった父の名を記したもので、両国を繋ぐただひとつの歴史的関係でもあった。

 KICでは地雷廃絶が終えた同国の復興策は観光振興とその為の人材育成としており、各種支援策を実施。6年前から、地雷廃絶や義足支援、孤児施設支援などの合間に両国の歴史的関係を調査している。肥後藩主加藤清正は朝鮮出兵などで藩の財政が緊迫したため、築城計画の妙案として利益が高い海外貿易を決心し、幕府からの朱印状を基にカンボジアとの貿易を開始。朱印船交易は1635年の鎖国令(海禁政策)まで活発に展開した。加藤清正が送ったカンボジア王室に交易許可に対する返信文は、加藤清正を祀る本妙寺の寺宝になっている。

 KICでは歴史調査を元に、熊本の行政から熊本城完工ポスターを大量に確保し、カンボジアの行政や学校、ホテル、レストランに配布したほか、熊本の文化を紹介して交流を繰り返した。その結果、落書きについて「日本のサムライの名前です」しか紹介できなかった日本語の観光ガイドたちが、2年前からは「これは日本の江戸時代のもので、モリモトギダユウと書いてあります、熊本のサムライです」と変化が見えてきた。うれしいの一言に尽きる。


▽大臣来日、両国の交流の歴史認識に意欲

 昨年3月、北九州国際空港の開港に合わせ、市内で「大アンコールワット展」が開催された。来場した同国の国立博物館パクトゥーチ館長(当時副館長)は、日本との朱印船交易に関心を示し「日本刀が数本あるが、本当に日本から来たものか判らないので、調査協力願いたい」と話を切りだした。その後もカンボジアを訪れる度に国立博物館を訪問し、意見交換を図っている。

 またKICでは同国政府にも熊本との歴史的関係を説明し、新しい交流のシナリオ作りを進めているところである。そのひとつが九州各地での各種ツアー企画の促進で、多くの人々に郷土とアジアの歴史を学び、体感するため、現地を訪問してもらいたいと考えている。

 8月には熊本城築城400年を記念し、KIC主催で「歴史友情講演会」と「カンボジア経済セミナー」を、熊本市と朱印船の出港地・玉名市で開催した。この取り組みは在京の自治体国際化協会の「地域先導的活動支援事業」にも選定されたもので、郷土の先人たちの偉業からアジアを学ぶ取り組みでもあった。

 今までは、アンコールワットに残された「森本儀太夫」の落書きからしか、我が国との交流関係が見いだせず、近年も大学関係者が訪問調査をしたが、日本人村の痕跡は見つけ出せなかった。それでもカンボジア政府は今回の招聘目的の重要さから、昨年、韓国との関係強化に大きな成果を出したトン・コン観光大臣に、「熊本」への訪問を託したのだ。

 大臣は福岡到着後、太宰府の九州国立博物館を視察し、地元民や議員、行政と交流を果たした。九州国立博物館の集客数を聞き、それを支える地域民の応援ボランティアの役割を学び、自国の観光産業にも役立たないかと思案。九州国立博物館にはカンボジアの文化財が無いと知ると、「カンボジアをもっと知って頂くためのイベントを」と、意欲を見せた。

 この後、阿蘇黒川温泉を訪問。その目的は、(1)この地の旅館の女将たちが、カンボジアの訪問団や留学生達を優しく受け入れていること、(2)カンボジアにはまだ未開発だが、温泉が出るので、観光資源に役立てるための指導を受けたいこと、(3)25軒の旅館が統一したテーマで勝ち取った「日本一」の温泉である黒川温泉に、プロセスを学びたい、である。

 熊本市内に戻った大臣は、加藤清正を祀る加藤神社のほか、県や市を表敬交流。その後、両国間の歴史やその藩主加藤清正の偉業の数々の説明を聞き、「歴史友情講演会」に参加した。登壇した大臣は、これまでの日本の継続支援に対するお礼とともに、カンボジアでは現在、観光が最大の産業となり、今では200万人に迫る勢いで訪問者数が伸びていることを述べた上で、今後の目標を500万人としており、遺跡などを鑑賞する物見遊山的な観光から、エコツーリズムを盛り込んだ滞在型へシフトするなど、観光拡充へ向けた意欲を示した。 


文責:熊本国際化センター(KIC)理事長 谷川 政敏
KICサイト: http://mekon-daisuki.spaces.live.com/
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