トップインタビュー:JTB中国董事長・総経理の吉村久夫氏
JTBグループ、中国市場に本腰
人材育成等を含め総体として拡大を志向
JTBグループが中国事業で、総合力での攻勢をかける。中国では従来、11の事業会社がそれぞれの領域で展開していたが、ついに今月、その統括会社となる「佳天美(中国)企業管理有限公司(英文名:JTB CHINA CORP)」を設立した。JTBは平成19年度決算において、グローバル化する世界の旅行マーケットを見据え、「仕入力の維持、強化」を狙う戦略を明確にする考えを示したところ。今回の展開にはどのような狙いがあるのか。同社の董事長・総経理に就任した吉村久夫氏に、着任直前にその考え、方策を聞いた。(聞き手:弊紙編集長 鈴木次郎)
−JTBグループが中国に持株会社機能を設立する背景は
吉村久夫氏(以下、吉村) 中国は北京オリンピック、上海万博と旅行業にも大きなビジネスチャンスとなるイベントが次々と開催される。振り返ってみると日本も、東京オリンピック、大阪万博を開催したことで経済が大きく成長し、旅行業も発展してきた。中国でのこうしたイベントの開催は世界各国からの期待や投資など経済面で日本以上の早さで成長することが予想され、大きなチャンスだ。マーケティング手法や販売チャネルなど、JTBがこれまで培ってきた経験やノウハウを活かし、中国の旅行産業の発展に寄与する余地がある。
日本の旅行市場がそうであったように、中国の旅行市場はこれからさらに大きく発展していく。この過程で、グループ旅行からFIT化していく過程をわれわれは経験してきており、中国でも近々に市場の成熟化が叫ばれることだろう。その時には、様々なニーズにあわせた商品提供の経験、ノウハウを蓄積しているJTBとして大いに活躍する場がある。
−中国でのJTBグループの事業展開で目指すものは
吉村 中国では、北京に交通公社新紀元国際旅行社有限公司を2000年5月に設立し7年、JTB上海(佳天美(上海)国際旅行社有限公司)が昨年11月に独資として営業を開始。特に新紀元については一定の期間、旅行事業を主体として経営しており、評価が得られていると考えている。今回の持株会社ではこうした旅行会社をはじめ、上海錦江国際JTB会展有限公司などイベント・コンベンション会社などを含む各事業会社がより機能を強化し、拡大していくために設立したもの。傘下に置く事業会社11社はこれまでの事業を継続していくことに変わりはない。
持株会社は事業会社の地域性、領域を超え、中国市場全体で「JTBグループ」として展開することに取り組む。例えば、中国国内で「JTB」というコーポレートブランドを作る必要があり、これは持株会社が意思を持って取り組むもの。あるいは、人材育成の観点では幹部候補生、研修プログラムの開発などで人材確保、育成などやるべきことは多い。
−出資者が傘下にあるJTB香港だが
吉村 JTB香港から資金を拠出した理由は、法律上で投資機能を持つ企業は3000万ドル超の資本金を必要としており、投資は香港から行うこととした。持株会社と投資・財務基盤を持つJTB香港の董事長・総経理を兼任し、両社の意思を統一することで、中国でスムーズに事業展開を図ることができる。特に、中国で展開する11社が得た収益を、最適な形で再び中国での事業展開に投資できることが重要なポイントだ。
−中国での旅行ビジネスはどのような方向性を志向していくか
吉村 中国発のアウトバウンド事業は、中国政府の外資に対する規制緩和が必要であり、現在のところ特に予定はしていない。インバウンドはこれまでの日本からの送客の拡大に加え、北京オリンピック、上海万博を目的に訪中する各国の人々を受け入れる体制作りを強化していく。さらに、中国での国内旅行の需要にも対応していきたい。売上構成としては、インバウンドが5割から6割を占めるというイメージだ。
中国の国内旅行では、中国インバウンド事業と相乗効果が期待できる地域を中心に力を入れて行きたい。具体的には、北京、上海をはじめ、雲南省、貴州省、海南島になるだろう。商品展開は、現在市場にある旅行商品と正面からぶつかるものではなく、その差別化を明確に出していくことが重要だ。
−中国インバウンド市場の取組みで重視するポイント、そして最も大きな効果は何か
吉村 JTB香港は2006年、日本人7万人の取り扱いに対して、中国人は9万人に達している。取扱額、単価で見た場合には日本市場の規模が大きいが、中国市場では単価の向上に向けた取組みにこれまで以上に注力していく。市場環境では、行政側からミニマムプライスを設定し、質を上げることも示唆されており、旅行の質と単価の向上は一体的に取り組む課題となっていく。
また、1年ほど前に出資したETモバイルとの提携を強化、法人需要の取り込みを図っていくことを考えている。予約・受注ではインターネットを活用しているが、JTBグループとETモバイルが連携していくことで、大きな成果を得られることを期待している。
これら一連の取組みにより、最も大きい効果として期待できることはホテルの仕入れ力の強化だろう。送客力を高めることで、一定の客室を確保でき、発生ベースで客室を確保する場合と比べ、より効率的で、効果的な動きが可能となる。また、多くの人数を送客していくことで、改善していくこともある。例えばガイドに求める高いスタンダードのサービスが提供できるように、ガイド個々人のレベルアップを図ることもできる。
−最後に事業会社を統括する立場での抱負をお聞かせください
吉村 事業会社としては旅行会社群、イベント会社群などシステマティックに情報を共有化していくほか、JTBグループとして情報発信も一体として展開していくことが求められる。さらに、中国人の経営幹部を育成し、営業面から経理面まで各ポジションに優秀な人材を配置していく。例えば、現在はJTB香港で約3分の1、新紀元では3分の1未満が日本人の占める割合だ。いずれの会社でも中国人を幹部として登用しているが、さらに活躍してもらう必要がある。事業全体としては各企業で伸び率は異なるが、中国インバウンドの取り扱い市場を日本以外にも広げ、イベント・コンベンション、コンサルティングなど、取扱額は少ないものの伸び率の大きいものについても伸ばし、人材育成などと合わせて事業規模の総体を拡大していく。
−ありがとうございました
▽関連記事
JTB、中国での事業統括会社を設立−2011年に550億円を目標(2007.07.31)
JTB、送客力と仕入力の維持・強化をめざしアジアでのM&Aも視野−グローバル化に対応(2007.05.28)
<過去のトップインタビューはこちら>
人材育成等を含め総体として拡大を志向
JTBグループが中国事業で、総合力での攻勢をかける。中国では従来、11の事業会社がそれぞれの領域で展開していたが、ついに今月、その統括会社となる「佳天美(中国)企業管理有限公司(英文名:JTB CHINA CORP)」を設立した。JTBは平成19年度決算において、グローバル化する世界の旅行マーケットを見据え、「仕入力の維持、強化」を狙う戦略を明確にする考えを示したところ。今回の展開にはどのような狙いがあるのか。同社の董事長・総経理に就任した吉村久夫氏に、着任直前にその考え、方策を聞いた。(聞き手:弊紙編集長 鈴木次郎)
−JTBグループが中国に持株会社機能を設立する背景は
吉村久夫氏(以下、吉村) 中国は北京オリンピック、上海万博と旅行業にも大きなビジネスチャンスとなるイベントが次々と開催される。振り返ってみると日本も、東京オリンピック、大阪万博を開催したことで経済が大きく成長し、旅行業も発展してきた。中国でのこうしたイベントの開催は世界各国からの期待や投資など経済面で日本以上の早さで成長することが予想され、大きなチャンスだ。マーケティング手法や販売チャネルなど、JTBがこれまで培ってきた経験やノウハウを活かし、中国の旅行産業の発展に寄与する余地がある。
日本の旅行市場がそうであったように、中国の旅行市場はこれからさらに大きく発展していく。この過程で、グループ旅行からFIT化していく過程をわれわれは経験してきており、中国でも近々に市場の成熟化が叫ばれることだろう。その時には、様々なニーズにあわせた商品提供の経験、ノウハウを蓄積しているJTBとして大いに活躍する場がある。
−中国でのJTBグループの事業展開で目指すものは
吉村 中国では、北京に交通公社新紀元国際旅行社有限公司を2000年5月に設立し7年、JTB上海(佳天美(上海)国際旅行社有限公司)が昨年11月に独資として営業を開始。特に新紀元については一定の期間、旅行事業を主体として経営しており、評価が得られていると考えている。今回の持株会社ではこうした旅行会社をはじめ、上海錦江国際JTB会展有限公司などイベント・コンベンション会社などを含む各事業会社がより機能を強化し、拡大していくために設立したもの。傘下に置く事業会社11社はこれまでの事業を継続していくことに変わりはない。
持株会社は事業会社の地域性、領域を超え、中国市場全体で「JTBグループ」として展開することに取り組む。例えば、中国国内で「JTB」というコーポレートブランドを作る必要があり、これは持株会社が意思を持って取り組むもの。あるいは、人材育成の観点では幹部候補生、研修プログラムの開発などで人材確保、育成などやるべきことは多い。
−出資者が傘下にあるJTB香港だが
吉村 JTB香港から資金を拠出した理由は、法律上で投資機能を持つ企業は3000万ドル超の資本金を必要としており、投資は香港から行うこととした。持株会社と投資・財務基盤を持つJTB香港の董事長・総経理を兼任し、両社の意思を統一することで、中国でスムーズに事業展開を図ることができる。特に、中国で展開する11社が得た収益を、最適な形で再び中国での事業展開に投資できることが重要なポイントだ。
−中国での旅行ビジネスはどのような方向性を志向していくか
吉村 中国発のアウトバウンド事業は、中国政府の外資に対する規制緩和が必要であり、現在のところ特に予定はしていない。インバウンドはこれまでの日本からの送客の拡大に加え、北京オリンピック、上海万博を目的に訪中する各国の人々を受け入れる体制作りを強化していく。さらに、中国での国内旅行の需要にも対応していきたい。売上構成としては、インバウンドが5割から6割を占めるというイメージだ。
中国の国内旅行では、中国インバウンド事業と相乗効果が期待できる地域を中心に力を入れて行きたい。具体的には、北京、上海をはじめ、雲南省、貴州省、海南島になるだろう。商品展開は、現在市場にある旅行商品と正面からぶつかるものではなく、その差別化を明確に出していくことが重要だ。
−中国インバウンド市場の取組みで重視するポイント、そして最も大きな効果は何か
吉村 JTB香港は2006年、日本人7万人の取り扱いに対して、中国人は9万人に達している。取扱額、単価で見た場合には日本市場の規模が大きいが、中国市場では単価の向上に向けた取組みにこれまで以上に注力していく。市場環境では、行政側からミニマムプライスを設定し、質を上げることも示唆されており、旅行の質と単価の向上は一体的に取り組む課題となっていく。
また、1年ほど前に出資したETモバイルとの提携を強化、法人需要の取り込みを図っていくことを考えている。予約・受注ではインターネットを活用しているが、JTBグループとETモバイルが連携していくことで、大きな成果を得られることを期待している。
これら一連の取組みにより、最も大きい効果として期待できることはホテルの仕入れ力の強化だろう。送客力を高めることで、一定の客室を確保でき、発生ベースで客室を確保する場合と比べ、より効率的で、効果的な動きが可能となる。また、多くの人数を送客していくことで、改善していくこともある。例えばガイドに求める高いスタンダードのサービスが提供できるように、ガイド個々人のレベルアップを図ることもできる。
−最後に事業会社を統括する立場での抱負をお聞かせください
吉村 事業会社としては旅行会社群、イベント会社群などシステマティックに情報を共有化していくほか、JTBグループとして情報発信も一体として展開していくことが求められる。さらに、中国人の経営幹部を育成し、営業面から経理面まで各ポジションに優秀な人材を配置していく。例えば、現在はJTB香港で約3分の1、新紀元では3分の1未満が日本人の占める割合だ。いずれの会社でも中国人を幹部として登用しているが、さらに活躍してもらう必要がある。事業全体としては各企業で伸び率は異なるが、中国インバウンドの取り扱い市場を日本以外にも広げ、イベント・コンベンション、コンサルティングなど、取扱額は少ないものの伸び率の大きいものについても伸ばし、人材育成などと合わせて事業規模の総体を拡大していく。
−ありがとうございました
▽関連記事
JTB、中国での事業統括会社を設立−2011年に550億円を目標(2007.07.31)
JTB、送客力と仕入力の維持・強化をめざしアジアでのM&Aも視野−グローバル化に対応(2007.05.28)
<過去のトップインタビューはこちら>