トップインタビュー:JATA会長・新町光示氏
JATA、IATA、行政の3つのスクラムで市場拡大へ その1
〜旅行業界と航空業界のあるべき姿〜
今年はJATAが掲げた2000万人プロジェクトの集大成の年。この実現のため、さらにはポスト2000万人を見据え、日本旅行業協会(JATA)は今年1月、「海外旅行近未来戦略を中心とした今後の旅行業のあるべき姿の実現に向けて」と題する中間答申「17項目のアクションプラン(提言)」を取りまとめ、実現への具体的な一歩を進めた。一方で、市場拡大には航空会社との協力が欠かせないが、燃油サーチャージや発券手数料の引き下げ、IATA清算ルールの変更などが発生し、今年は旅行会社にとって重要な年になるともいえる。今後、旅行業界と航空業界はどのように共通の利益を求めていくべきか。弊紙の企画で実現した、JATA会長・新町光示氏と国際航空運送協会日本事務局(IATA-Japan)代表・中沢祥行氏との対談から、新町氏の発言をまとめた。 (聞き手:弊紙編集長 鈴木次郎)
◆「積極的な観光マーケットの開発には、航空会社の施策が重要」
―改めて、2000万人プロジェクトの意義と、その後の未来図をお聞かせください
JATA新町光示会長(以下、新町) 2000万人プロジェクトとは、海外旅行市場を9.11事件前の水準に戻すことだ。あの事件がなければ2001年は2000万人になるくらいの勢いがあった。つまり2000万人達成は“市場の拡大”ではなくて本来の姿に戻ること。その後で将来の拡大を考えるべきで、日本の潜在能力から考えると、2000万人は決して多いものではないし、先進国並みに行けば2500万人、3000万人も不可能なものではない。それを実現するための指針が、「17項目のアクションプラン」(中間答申)だ。
―中間答申では、さまざまな提言がなされています。市場拡大に向け、航空会社に望むことはありますか
新町 2000万人の達成、さらなる需要拡大には、航空会社の施策も重要であることは言うまでもないが、少し懸念する点がある。その一つが、本邦航空会社が経営基盤の強化のため、観光路線を縮小していることだ。一時的な傾向だと思うが、数で見ればビジネスよりも観光の方が圧倒的に多い。それに対応できる力を航空会社が作る必要がある。つまり、航空会社としての積極的な観光マーケットの開発が非常に大切になってくる。
また、世界の状況を見ると、需要開発に貢献しているものとしてローコストキャリア(LCC)がある。低価格の運賃で誰でも行けるようになったという点で貢献度が高い。ただ、日本には空港の制約などがあり、なかなかLCCが出てこないし、出てきても中途半端になってしまう。既存の航空会社にはLCCの使命も賄おうという気構えが欲しい。
最後に、これは航空会社だけの問題ではないが、日本の海外旅行市場は地域間格差が大きすぎると思う。われわれは地方マーケットを開発していかなければならない。地方のパスポートの発給率や渡航率が低いのも、日本に本格的なハブ空港がないからだ。地方の人たちも都会の人と同じように便利な手段で海外に行ける基盤を作るためには、羽田の国際化を進めていく必要がある。
速効的な方法としてチャーターに積極的に取り組む案もあり、それには従来の複雑なルールを改善すべきだ。空港問題も含め、地方から自由に海外にいける手段を講ずるべきだと思う。航空会社だけでなく、航空行政としてもわれわれのサポートをしてもらうことが大切だ。
―航空局では羽田の国際化を前提に、2012年の航空旅客数を7000万人と予測していますが、人数を確保できても利益が上がらずに路線を撤退することもありえます。旅行会社や航空会社が利益を確保するためのサポートとして、JATAが果たせる役割はありますか
新町 旅行業界も利益をあげられる産業構造にしなくてはならない。そのためには適正価格を維持する努力をする必要がある。航空会社も適正な経営で利益をあげる努力をする必要がある。
ただ、航空会社の宿命だが、在庫がストックできない。その日のうちに便を満杯にして回さなければいけないので、残席処理という発想で安く売ってしまう。それが市場価格をいびつなものにしている。これまでは航空会社が技術開発し、キャパシティを広げてくれたおかげで渡航者数を稼げたが、その分、残席も出た。それを旅行会社が利用し、安いツアーを出し、お互いの足を引っ張った感がある。
だからこれからは航空会社の需給関係が健全になるような努力が必要になるだろう。これにより、双方にとって好ましいマーケットの秩序ができあがってくると思う。これは旅行業界と航空業界が同じ方向を向くべきところだといえる。
Page1 /Page2
<過去のトップインタビューはこちら>
〜旅行業界と航空業界のあるべき姿〜
今年はJATAが掲げた2000万人プロジェクトの集大成の年。この実現のため、さらにはポスト2000万人を見据え、日本旅行業協会(JATA)は今年1月、「海外旅行近未来戦略を中心とした今後の旅行業のあるべき姿の実現に向けて」と題する中間答申「17項目のアクションプラン(提言)」を取りまとめ、実現への具体的な一歩を進めた。一方で、市場拡大には航空会社との協力が欠かせないが、燃油サーチャージや発券手数料の引き下げ、IATA清算ルールの変更などが発生し、今年は旅行会社にとって重要な年になるともいえる。今後、旅行業界と航空業界はどのように共通の利益を求めていくべきか。弊紙の企画で実現した、JATA会長・新町光示氏と国際航空運送協会日本事務局(IATA-Japan)代表・中沢祥行氏との対談から、新町氏の発言をまとめた。 (聞き手:弊紙編集長 鈴木次郎)
◆「積極的な観光マーケットの開発には、航空会社の施策が重要」
―改めて、2000万人プロジェクトの意義と、その後の未来図をお聞かせください
JATA新町光示会長(以下、新町) 2000万人プロジェクトとは、海外旅行市場を9.11事件前の水準に戻すことだ。あの事件がなければ2001年は2000万人になるくらいの勢いがあった。つまり2000万人達成は“市場の拡大”ではなくて本来の姿に戻ること。その後で将来の拡大を考えるべきで、日本の潜在能力から考えると、2000万人は決して多いものではないし、先進国並みに行けば2500万人、3000万人も不可能なものではない。それを実現するための指針が、「17項目のアクションプラン」(中間答申)だ。
―中間答申では、さまざまな提言がなされています。市場拡大に向け、航空会社に望むことはありますか
新町 2000万人の達成、さらなる需要拡大には、航空会社の施策も重要であることは言うまでもないが、少し懸念する点がある。その一つが、本邦航空会社が経営基盤の強化のため、観光路線を縮小していることだ。一時的な傾向だと思うが、数で見ればビジネスよりも観光の方が圧倒的に多い。それに対応できる力を航空会社が作る必要がある。つまり、航空会社としての積極的な観光マーケットの開発が非常に大切になってくる。
また、世界の状況を見ると、需要開発に貢献しているものとしてローコストキャリア(LCC)がある。低価格の運賃で誰でも行けるようになったという点で貢献度が高い。ただ、日本には空港の制約などがあり、なかなかLCCが出てこないし、出てきても中途半端になってしまう。既存の航空会社にはLCCの使命も賄おうという気構えが欲しい。
最後に、これは航空会社だけの問題ではないが、日本の海外旅行市場は地域間格差が大きすぎると思う。われわれは地方マーケットを開発していかなければならない。地方のパスポートの発給率や渡航率が低いのも、日本に本格的なハブ空港がないからだ。地方の人たちも都会の人と同じように便利な手段で海外に行ける基盤を作るためには、羽田の国際化を進めていく必要がある。
速効的な方法としてチャーターに積極的に取り組む案もあり、それには従来の複雑なルールを改善すべきだ。空港問題も含め、地方から自由に海外にいける手段を講ずるべきだと思う。航空会社だけでなく、航空行政としてもわれわれのサポートをしてもらうことが大切だ。
―航空局では羽田の国際化を前提に、2012年の航空旅客数を7000万人と予測していますが、人数を確保できても利益が上がらずに路線を撤退することもありえます。旅行会社や航空会社が利益を確保するためのサポートとして、JATAが果たせる役割はありますか
新町 旅行業界も利益をあげられる産業構造にしなくてはならない。そのためには適正価格を維持する努力をする必要がある。航空会社も適正な経営で利益をあげる努力をする必要がある。
ただ、航空会社の宿命だが、在庫がストックできない。その日のうちに便を満杯にして回さなければいけないので、残席処理という発想で安く売ってしまう。それが市場価格をいびつなものにしている。これまでは航空会社が技術開発し、キャパシティを広げてくれたおかげで渡航者数を稼げたが、その分、残席も出た。それを旅行会社が利用し、安いツアーを出し、お互いの足を引っ張った感がある。
だからこれからは航空会社の需給関係が健全になるような努力が必要になるだろう。これにより、双方にとって好ましいマーケットの秩序ができあがってくると思う。これは旅行業界と航空業界が同じ方向を向くべきところだといえる。
Page1 /Page2
<過去のトップインタビューはこちら>